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『僕と彼女と互いの想い』
第六話 『僕のやるべきことが決まっただけだ』
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「うぐぅ……」
道場の床へと投げ飛ばされた僕は、うめき声を上げた。
体中が痛く、なかなか立ち上がることができない。
寝っ転がったまま、荒い息で呼吸を繰り返すだけだ。
「どうした? まだ続けようぜ、雨宮」
そんな僕ににやけた顔をしながら、見下してくる男がいた。
僕を投げ飛ばした張本人――『飯田剛』である。
「何故、こんなことをするんだ?」
飯田は先月、この高校に転校してきたばかりのクラスメートだ。
転校生ということで、この高校でのことを僕が多少説明することもあった。
僕がしていたのはその程度である。
「何か僕に恨みでもあるのか?」
今日は、学校の道場で柔道の授業がある日だった。
授業の始まる前に飯田から声を掛けられ、ペアを組もうと言われた。
飯田はまだそれほど親しい友人がいるわけではなく、それで僕に声を掛けてきたものと思っていた。
断る理由もなく、僕はそれを了承したわけだが……。
「俺はお前みたいに頭が良く、運動もでき、人当たりが良くて優等生ぶっている奴が大嫌いなのさ!」
飯田は吐き捨てるように言った。
そんな理由か……。
莉子のおかげで、僕は大きく変わった。
成績を上げ、運動もある程度以上にできるようになり、他人とも摩擦が生まれないように人当たりが良くなるようにやってきた。
それはつまり、こいつの言うように優等生ぶっていると言えるのかもしれない。
しかし、他人と上手くやっていくために優等生になったのに、そうなったがために恨まれるとは……。
やはり人付き合いは難しい。
「理由は分かった。僕の負けで良い。今後君には極力近づかない。だから、そろそろ勘弁してくれないか?」
僕はノロノロと立ち上がった。
僕はただ平穏に高校生活を送りたいだけである。
こんな勝ち負けなんかに興味はない。
「そのすました態度が、気に入らねーんだよ!!」
しかし、そんな僕の返答に飯田は再び襲い掛かってきた。
「くっ……」
僕はそれに対し、必死で抵抗を試みる。
しかし、飯田は僕の攻撃を軽くいなして、逆に僕の足を払う。
バランスを崩し、立て直そうと思ったところで投げられる。
何度もくらっている飯田の必勝パターンである。
「う、ぐぅ……」
何度も投げられてはいるが、あくまで飯田は柔道をしていた。
対する僕も柔道で反撃を試みている。
しかし、飯田は柔道の経験者らしい。
多少運動ができるようになったからと言って、勝てる相手ではなかった。
体育を担当する先生は、離れたところで他のクラスメートへの指導を行っている。
あまりこちらには注意を払っていないようだ。
「先生には、俺が柔道経験者であることを伝えてあるぜ」
飯田がニヤリと笑う。
横目で先生を確認するのに気付いたようだ。
僕が何度も投げられていることに、先生は気付いているかもしれない。
ただ、気付いていても柔道指導の一環と思っているのだろう。
確かに殴り合いをしているわけではないし、周りからは柔道であると思われても仕方ない。
それでも、助けを求めれば、この場はしのげるかもしれない。
だが、その後はどうなる?
下手をすると、こいつからの恨みが増しかねない。
付きまとわれるかもしれないし、クラス内でのコイツの立場が危うくなれば逆恨みもありうる。
何とか穏便に済ませるためにはどうすれば良い?
どうするのが正解なんだ?
どうすれば――!?
「?? 何だ、いきなりキョロキョロし始めて? 逃げ場でも探しているのか?」
突如辺りをキョロキョロと見渡し始めた僕に、飯田は面食らったようだ。
そして、どうやら気付いていないようである。
自身に向けられた殺気に。
――莉子が発する殺気に。
(マズイ……)
莉子は確かグラウンドで女子サッカーの授業中だったはずだが……。
僕が莉子の殺気を間違えるはずがない。
(どこかで莉子が見ている……)
現在の飯田との会話も聞いているとみて間違いないだろう。
既に包丁を持っている可能性すらある。
この目の前の飯田は、すでに標的となっている。
次に僕が投げ飛ばされれば、きっとコイツの命はない。
どこかから包丁が飛んでくるか、包丁を持った莉子が乱入してくるだろう。
それをヘロヘロとなっている今の僕には止めることはまずできない。
この場から僕が逃げるのもダメだ。
このままでは、既に標的となった飯田が明日登校することはまずあり得ない。
『ごめんなさいノート』を書かされるだけで済むなら良い方だろう。
それ以上もあるかもしれない。
それならば――。
「……お前、どうしたんだ?」
僕の様子がおかしいことに流石に気付いたようだ。
飯田が怪訝そうに声を掛けてくる。
「ああ、もう大丈夫だ。僕のやるべきことが決まっただけだ」
「……は??」
「とてもシンプルなことだ。僕がお前を投げ飛ばせば良いだけだ」
飯田へときっぱりと言い放つ。
コイツに投げられるのも、コイツから逃げるのもダメなら、僕が勝つしか道はない。
そして――。
「莉子!! 聞いてるんだろ??」
どこかで聞いているだろう莉子へと言葉を届ける。
「ちょっとだけ待っていてくれ! 僕が今からこいつを倒す!」
目を見開き、呆然としている飯田を指差す。
「君を愛する僕の、活躍シーンを見ていてくれ!!」
そう言った瞬間、殺気が揺らぐのが分かった。
これで少なくとも、もう少しは待ってくれるだろう。
「はっ!! 何かと思えば、女への誓いか? そんなことで俺に勝てるとでも思っているのか!?」
呆れた様子の飯田。
それに対し、僕は大真面目に言った。
「それが、勝てるんだよ。僕は今までずっとそうしてきた――」
一呼吸おいて、更に続ける。
「――今回もそうするまでだ!!」
そう宣言して突っ込んでいく僕に、慌てて構えを取る飯田。
僕は組み合って左右に揺さぶり、足をかける。
しかし、やはり飯田には通用しない。
軽くいなして、逆に足を取られ、バランスを崩してしまった。
「別に、今までと変わらねーじゃねぇか」
そう、ここまでは変わらない。
だが、ここからが違う。
「うおぉーーーー!!!」
気合の声を発した僕はバランスを崩したまま、上半身の力だけで強引に飯田の襟を引っ張った。
飯田の必勝パターンには隙があった。
僕がバランスを崩した直後に投げ飛ばせば良いものを、僕が立て直そうともがいているのを悠長に観察しているのだ。
きっと僕のことを舐めているのだろう。
バランスを崩した状態では何もできないと高を括っているのだろう。
油断をしている相手ならば、バランスを崩した状態でも投げることはできる!
いや、必ず投げ飛ばしてみせる!!
「うりゃーーーーー!!!!」
更に気合を入れる。
僕は斜め後ろへと倒れ込んでいった。
しかし、掴んた襟を離しはしなかった。
「あぐっ……!?」
床にひっくり返りながら、ゼイゼイと荒い息を繰り返す。
投げ飛ばした方向に目を向けると、飯田が目を回しているところだった。
――僕の勝ちだ。
「お前は、舐めすぎなんだよ…………僕の、莉子への、想いを、な……」
道場の床へと投げ飛ばされた僕は、うめき声を上げた。
体中が痛く、なかなか立ち上がることができない。
寝っ転がったまま、荒い息で呼吸を繰り返すだけだ。
「どうした? まだ続けようぜ、雨宮」
そんな僕ににやけた顔をしながら、見下してくる男がいた。
僕を投げ飛ばした張本人――『飯田剛』である。
「何故、こんなことをするんだ?」
飯田は先月、この高校に転校してきたばかりのクラスメートだ。
転校生ということで、この高校でのことを僕が多少説明することもあった。
僕がしていたのはその程度である。
「何か僕に恨みでもあるのか?」
今日は、学校の道場で柔道の授業がある日だった。
授業の始まる前に飯田から声を掛けられ、ペアを組もうと言われた。
飯田はまだそれほど親しい友人がいるわけではなく、それで僕に声を掛けてきたものと思っていた。
断る理由もなく、僕はそれを了承したわけだが……。
「俺はお前みたいに頭が良く、運動もでき、人当たりが良くて優等生ぶっている奴が大嫌いなのさ!」
飯田は吐き捨てるように言った。
そんな理由か……。
莉子のおかげで、僕は大きく変わった。
成績を上げ、運動もある程度以上にできるようになり、他人とも摩擦が生まれないように人当たりが良くなるようにやってきた。
それはつまり、こいつの言うように優等生ぶっていると言えるのかもしれない。
しかし、他人と上手くやっていくために優等生になったのに、そうなったがために恨まれるとは……。
やはり人付き合いは難しい。
「理由は分かった。僕の負けで良い。今後君には極力近づかない。だから、そろそろ勘弁してくれないか?」
僕はノロノロと立ち上がった。
僕はただ平穏に高校生活を送りたいだけである。
こんな勝ち負けなんかに興味はない。
「そのすました態度が、気に入らねーんだよ!!」
しかし、そんな僕の返答に飯田は再び襲い掛かってきた。
「くっ……」
僕はそれに対し、必死で抵抗を試みる。
しかし、飯田は僕の攻撃を軽くいなして、逆に僕の足を払う。
バランスを崩し、立て直そうと思ったところで投げられる。
何度もくらっている飯田の必勝パターンである。
「う、ぐぅ……」
何度も投げられてはいるが、あくまで飯田は柔道をしていた。
対する僕も柔道で反撃を試みている。
しかし、飯田は柔道の経験者らしい。
多少運動ができるようになったからと言って、勝てる相手ではなかった。
体育を担当する先生は、離れたところで他のクラスメートへの指導を行っている。
あまりこちらには注意を払っていないようだ。
「先生には、俺が柔道経験者であることを伝えてあるぜ」
飯田がニヤリと笑う。
横目で先生を確認するのに気付いたようだ。
僕が何度も投げられていることに、先生は気付いているかもしれない。
ただ、気付いていても柔道指導の一環と思っているのだろう。
確かに殴り合いをしているわけではないし、周りからは柔道であると思われても仕方ない。
それでも、助けを求めれば、この場はしのげるかもしれない。
だが、その後はどうなる?
下手をすると、こいつからの恨みが増しかねない。
付きまとわれるかもしれないし、クラス内でのコイツの立場が危うくなれば逆恨みもありうる。
何とか穏便に済ませるためにはどうすれば良い?
どうするのが正解なんだ?
どうすれば――!?
「?? 何だ、いきなりキョロキョロし始めて? 逃げ場でも探しているのか?」
突如辺りをキョロキョロと見渡し始めた僕に、飯田は面食らったようだ。
そして、どうやら気付いていないようである。
自身に向けられた殺気に。
――莉子が発する殺気に。
(マズイ……)
莉子は確かグラウンドで女子サッカーの授業中だったはずだが……。
僕が莉子の殺気を間違えるはずがない。
(どこかで莉子が見ている……)
現在の飯田との会話も聞いているとみて間違いないだろう。
既に包丁を持っている可能性すらある。
この目の前の飯田は、すでに標的となっている。
次に僕が投げ飛ばされれば、きっとコイツの命はない。
どこかから包丁が飛んでくるか、包丁を持った莉子が乱入してくるだろう。
それをヘロヘロとなっている今の僕には止めることはまずできない。
この場から僕が逃げるのもダメだ。
このままでは、既に標的となった飯田が明日登校することはまずあり得ない。
『ごめんなさいノート』を書かされるだけで済むなら良い方だろう。
それ以上もあるかもしれない。
それならば――。
「……お前、どうしたんだ?」
僕の様子がおかしいことに流石に気付いたようだ。
飯田が怪訝そうに声を掛けてくる。
「ああ、もう大丈夫だ。僕のやるべきことが決まっただけだ」
「……は??」
「とてもシンプルなことだ。僕がお前を投げ飛ばせば良いだけだ」
飯田へときっぱりと言い放つ。
コイツに投げられるのも、コイツから逃げるのもダメなら、僕が勝つしか道はない。
そして――。
「莉子!! 聞いてるんだろ??」
どこかで聞いているだろう莉子へと言葉を届ける。
「ちょっとだけ待っていてくれ! 僕が今からこいつを倒す!」
目を見開き、呆然としている飯田を指差す。
「君を愛する僕の、活躍シーンを見ていてくれ!!」
そう言った瞬間、殺気が揺らぐのが分かった。
これで少なくとも、もう少しは待ってくれるだろう。
「はっ!! 何かと思えば、女への誓いか? そんなことで俺に勝てるとでも思っているのか!?」
呆れた様子の飯田。
それに対し、僕は大真面目に言った。
「それが、勝てるんだよ。僕は今までずっとそうしてきた――」
一呼吸おいて、更に続ける。
「――今回もそうするまでだ!!」
そう宣言して突っ込んでいく僕に、慌てて構えを取る飯田。
僕は組み合って左右に揺さぶり、足をかける。
しかし、やはり飯田には通用しない。
軽くいなして、逆に足を取られ、バランスを崩してしまった。
「別に、今までと変わらねーじゃねぇか」
そう、ここまでは変わらない。
だが、ここからが違う。
「うおぉーーーー!!!」
気合の声を発した僕はバランスを崩したまま、上半身の力だけで強引に飯田の襟を引っ張った。
飯田の必勝パターンには隙があった。
僕がバランスを崩した直後に投げ飛ばせば良いものを、僕が立て直そうともがいているのを悠長に観察しているのだ。
きっと僕のことを舐めているのだろう。
バランスを崩した状態では何もできないと高を括っているのだろう。
油断をしている相手ならば、バランスを崩した状態でも投げることはできる!
いや、必ず投げ飛ばしてみせる!!
「うりゃーーーーー!!!!」
更に気合を入れる。
僕は斜め後ろへと倒れ込んでいった。
しかし、掴んた襟を離しはしなかった。
「あぐっ……!?」
床にひっくり返りながら、ゼイゼイと荒い息を繰り返す。
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