8 / 43
『僕と彼女と互いの想い』
第八話 『久しぶりにミケに会いに行こうか?』
しおりを挟む
「陸、授業なくなっちゃったけど、どうしようか?」
若干嬉しそうな様子の莉子が問い掛けてくる。
先生の体調不良で急遽午後の授業がなくなったところだった。
「うーん、どうしようかな?」
考えながら、莉子につられて僕も嬉しくなっていた。
ここ最近はそれなりに忙しく、莉子と一緒にのんびりできる時間が少なかった。
今日は莉子と一緒にまったり過ごせるかもしれない。
ただ、先程食べた莉子お手製のから揚げ弁当でお腹はいっぱいである。
食事に行くのはちょっと苦しい。
とすると――。
「久しぶりにミケに会いに行こうか?」
「ミケに!? 行きたい!」
僕の提案に元気よく賛同する莉子。
莉子がミケを大好きなのを僕は知っている。
当然僕も大好きではあるが。
なぜなら、僕と莉子とを繋いでくれた張本人だから。
いや……、ミケは猫だから、張本猫かな?
張本猫??
「陸、早く行くよ!」
見ると、莉子は既にバッグを背負って準備万端だった。
莉子に急かされつつ、僕も急ぎ荷物をまとめたのである。
◆ ◆ ◆
「それはちょっと、無理なんじゃないかなぁ……」
三毛猫と格闘する莉子に向かって、気が気でない僕は呟いた。
「だ、大丈夫よ、、、多分……」
いや、多分って……。
当初は自信満々だった莉子も段々と自信を無くしてきたようである。
三毛猫は今にも莉子の腕から落ちそうである。
というより、もう既に右後ろ脚はこぼれ落ちている。
「はーい、そこまでね。ミケ貸して」
見ていられなくなった僕は、莉子から三毛猫を取り上げる。
「あ~……」
恨めしそうな顔となる莉子。
「莉子ではミケを抱っこしながら、チュールをあげるのは無理だって」
「みゃあ~……」
僕の言葉に、三毛猫のミケも完全同意している。
学校を出た僕らは、町の図書館へと足を運んでいた。
図書館の敷地内には、一匹の三毛猫がいる。
図書館の警備員さんが飼っている三毛猫である。
その猫の名前が『ミケ』であった。
「僕がミケを抱っこしているから、その間にチュールをあげてみてよ」
チュールは先ほど警備員さんからもらったものである。
不満そうな顔をしている莉子をなだめながら、僕はそう提案した。
身体の小さい莉子では、さすがに抱っこをしながらチュールをあげるのは難しい。
しぶしぶといった感じでミケにチュールを上げ始める莉子。
しかし、段々と表情が変化してきた。
「なんだか、嬉しそうだね?」
莉子は笑顔になっていたのだ。
「だって、陸がミケを抱っこして、あたしがチュールをあげるって、初めて陸と会ったときと同じじゃない」
嬉しそうに話す莉子を見て、僕は一年前のあの日を思い出していた。
初めて莉子と言葉を交わした、あの日のことを。
莉子が僕を知る前から、僕は莉子を知っていた。
莉子を初めて見掛けて、……でも、莉子に近付くことすらできなくて。
ミケを胸に抱えたまま、何とか莉子に近付いたのである。
そこで警備員さんからもらったチュールを莉子に渡し、莉子がチュールをミケに与えて……。
初めて莉子と話をしたのだ。
それが僕と莉子との出逢いだった。
「ミケがいなければ、あたしと陸は今も言葉を交わすことがなかったかもしれないわ」
愛おしそうにミケを見つめる莉子。
ミケがいなければ、恐らく僕は莉子に話し掛けることはできなかっただろう。
ミケがいたからこそ、今こうやって莉子と一緒にいることができるのである。
「ミケはあたしにとっての恩人ならぬ、『恩猫』ってところね」
――ミケに感謝しているのは、どうやら僕だけではないようだ。
会話している間にミケはチュールを食べ終わっていた。
今は、前足で口の周りを綺麗にしている。
そんなミケの頭を優しく撫でる莉子。
そこからは、包丁を手に殺気を放つ姿は欠片も見受けられなかった。
若干嬉しそうな様子の莉子が問い掛けてくる。
先生の体調不良で急遽午後の授業がなくなったところだった。
「うーん、どうしようかな?」
考えながら、莉子につられて僕も嬉しくなっていた。
ここ最近はそれなりに忙しく、莉子と一緒にのんびりできる時間が少なかった。
今日は莉子と一緒にまったり過ごせるかもしれない。
ただ、先程食べた莉子お手製のから揚げ弁当でお腹はいっぱいである。
食事に行くのはちょっと苦しい。
とすると――。
「久しぶりにミケに会いに行こうか?」
「ミケに!? 行きたい!」
僕の提案に元気よく賛同する莉子。
莉子がミケを大好きなのを僕は知っている。
当然僕も大好きではあるが。
なぜなら、僕と莉子とを繋いでくれた張本人だから。
いや……、ミケは猫だから、張本猫かな?
張本猫??
「陸、早く行くよ!」
見ると、莉子は既にバッグを背負って準備万端だった。
莉子に急かされつつ、僕も急ぎ荷物をまとめたのである。
◆ ◆ ◆
「それはちょっと、無理なんじゃないかなぁ……」
三毛猫と格闘する莉子に向かって、気が気でない僕は呟いた。
「だ、大丈夫よ、、、多分……」
いや、多分って……。
当初は自信満々だった莉子も段々と自信を無くしてきたようである。
三毛猫は今にも莉子の腕から落ちそうである。
というより、もう既に右後ろ脚はこぼれ落ちている。
「はーい、そこまでね。ミケ貸して」
見ていられなくなった僕は、莉子から三毛猫を取り上げる。
「あ~……」
恨めしそうな顔となる莉子。
「莉子ではミケを抱っこしながら、チュールをあげるのは無理だって」
「みゃあ~……」
僕の言葉に、三毛猫のミケも完全同意している。
学校を出た僕らは、町の図書館へと足を運んでいた。
図書館の敷地内には、一匹の三毛猫がいる。
図書館の警備員さんが飼っている三毛猫である。
その猫の名前が『ミケ』であった。
「僕がミケを抱っこしているから、その間にチュールをあげてみてよ」
チュールは先ほど警備員さんからもらったものである。
不満そうな顔をしている莉子をなだめながら、僕はそう提案した。
身体の小さい莉子では、さすがに抱っこをしながらチュールをあげるのは難しい。
しぶしぶといった感じでミケにチュールを上げ始める莉子。
しかし、段々と表情が変化してきた。
「なんだか、嬉しそうだね?」
莉子は笑顔になっていたのだ。
「だって、陸がミケを抱っこして、あたしがチュールをあげるって、初めて陸と会ったときと同じじゃない」
嬉しそうに話す莉子を見て、僕は一年前のあの日を思い出していた。
初めて莉子と言葉を交わした、あの日のことを。
莉子が僕を知る前から、僕は莉子を知っていた。
莉子を初めて見掛けて、……でも、莉子に近付くことすらできなくて。
ミケを胸に抱えたまま、何とか莉子に近付いたのである。
そこで警備員さんからもらったチュールを莉子に渡し、莉子がチュールをミケに与えて……。
初めて莉子と話をしたのだ。
それが僕と莉子との出逢いだった。
「ミケがいなければ、あたしと陸は今も言葉を交わすことがなかったかもしれないわ」
愛おしそうにミケを見つめる莉子。
ミケがいなければ、恐らく僕は莉子に話し掛けることはできなかっただろう。
ミケがいたからこそ、今こうやって莉子と一緒にいることができるのである。
「ミケはあたしにとっての恩人ならぬ、『恩猫』ってところね」
――ミケに感謝しているのは、どうやら僕だけではないようだ。
会話している間にミケはチュールを食べ終わっていた。
今は、前足で口の周りを綺麗にしている。
そんなミケの頭を優しく撫でる莉子。
そこからは、包丁を手に殺気を放つ姿は欠片も見受けられなかった。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる