【完結】僕はヤンデレ彼女を愛してやまない。

小鳥鳥子

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『包丁とバッジとチョーカー』

第二十五話 『陸がいたからこそ、アオは気高くあろうとしているのよ』

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「お待たせ、莉子。結構早く来てたんだね?」

 カフェのテラス席で一人佇む莉子へと声を掛ける。
 莉子の前にあるアイスコーヒーは半分以下となっていた。

「ちょっとだけ早く来ちゃった」

 待っている時間さえも楽しんでいたのかもしれない。
 ニコニコとした笑顔を向けてくる莉子。
 いつものデートなら僕が早めに待ち合わせ場所に来ていることが多いのだが……。
 今日は用事があって早くに来ることができなかったのである。

「アオ、今日はお疲れ様。大変だったでしょう?」

 僕は莉子の向かいの席へと腰掛けた。
 腕にはキャリーバッグがある。
 そのキャリーバッグを覗き込み、労いの言葉をかける莉子。

「にゃあ」

 そして、返事をするアオ。
 どうやら気遣ってくれた莉子へと「そんなでもないわよ」と伝えているようだ。

「じゃあ、アオ、出ようか?」

 僕はキャリーバッグを地面へと下ろし、その中からアオをすくい上げた。
 すっかりお気に入りとなった青く輝くチョーカーを身に付けたアオは、腕の中で満足そうに目を細める。

 今日のお出かけは、莉子と二人ではなかった。
 アオも一緒なのである。


 ◆ ◆ ◆


「アオは、大丈夫だった?」

 僕のアイスコーヒーが届けられるのを待ってから、莉子は心配そうに問い掛けてきた。
 なお、アオは現在僕にハンカチで口周りを拭かれている。
 先程まで猫用ミルクを飲んでいたからだ。

「うん、大丈夫だよ。年1回のワクチン接種と、健康診断を軽くしてきただけだし……」

 動物病院に行ってはいたが、別にアオが怪我や病気をしたわけではなかった。

「健康診断の結果も問題なしだったよ」

 アオは今までも大きな怪我や病気をしたことはなかった。
 至って健康だった。
 まあ、賢いアオのことである。
 自身で健康、更にはプロポーションにも気を使ってもいるのだろう。

「ただ、今はやっぱり少し疲れてそうだね……」

 僕は声のトーンを少しだけ下げた。
 アオは基本的に人と接するのが得意ではない。
 病院で注射され、色々な検査をして疲れているのだろう。
 口周りが綺麗になったアオは、僕の膝で丸くなって目を閉じている。

「だから、このカフェに来ているのよね?」
「そうだね」

 このカフェは病院のすぐ近くにある。
 テラスがペット同伴可となっていて、猫用ミルクや猫用おやつ等も販売されていた。
 病院に来た際には、いつも僕は帰りにここへ寄るようにしていた。
 アオを休ませるためだ。
 そのときのアオは僕の膝でゆったりとしばらくくつろぐのである。

「あの……、あたしはやっぱり、邪魔じゃなかったかな?」

 ここへ来るのは僕とアオの二人が良いんじゃないかと、莉子は心配していた。

「そんなことは――」

 莉子の言葉を否定しようとした僕だったが、それよりも早くアオが立ち上がり、地面へと降りた。
 そのまま莉子の元へと行き、ひらりと膝へと飛び乗って丸くなった。

「そんなことは、ないみたいね」

 僕は莉子に優しく微笑みかけた。

「うん!」

 元気な返事をした莉子は、丸くなったアオの背中を優しく撫でていた。


 ◆ ◆ ◆


「ねえ、アオは注射は大丈夫なの?」

 アオの顎を指先で撫でながら、莉子が問い掛ける。

「にゃあ~」

 それに鳴いて答えたのは……アオではなかった。
 莉子の足元にいつの間にか来ていた、一匹の小さな白猫だった。

「あら? どうしたのかしら?」

 自身へと声を掛けられたと思ったのだろう。
 莉子は少し狼狽うろたえた様子だ。

「ああ、莉子は特に何もしないで大丈夫だよ」

 僕がそう声を掛けると――。

「にゃあ」

 今度はアオが鳴いた。
 それを満足そうに聞いた白猫は、鮮やかな赤い首輪に付けられた鈴を鳴らし、莉子から離れていった。

「??」

 首を傾げる莉子。

「今の白猫は、アオに挨拶に来たんだよ」
「アオに挨拶?」
「猫以外の動物もなんだけど……、彼らはアオに会うと挨拶をすることが多いんだ」

 今日の動物病院でもそうだった。
 他の子から挨拶をされ、そして、アオはその挨拶にきちんと応えていた。

「多分、人で言う人徳とかカリスマみたいなものなんじゃないかなぁ……」

 アオの気品はきっと人間だけが感じるものではないのだろう。

「あと、アオの方からも、行動したりするんだよ」
「アオからの行動?」
「例えばね、病院内で動物同士の喧嘩を一喝して鎮めたりとか、心細く鳴いている子を慰めたりとか――」

 僕の説明に目を丸くする莉子。
 何度もそのようなことがあり、現在のアオは病院内でも一目置かれる存在となっていた。

「カッコイイ女王様みたいね」

 莉子が嬉しそうに言った。

「女王様かぁ……」

 アオは僕が家に連れて来なかったら、野良猫の女王様にでもなっていたのかもしれない。
 きっと沢山の動物達に囲まれていたんじゃないだろうか。
 もしかしたら、そっちのほうが幸せだった可能性も……。

「きっと陸のせいね」
「……えっ?」

 考えてもいなかった莉子の言葉に僕は大きく驚いた。
 そんな僕に莉子は笑顔を向けてくる。

「分からない? 陸がいたからこそ、アオは気高くあろうとしているのよ」
「そんなことは……」
「わたしには分かるわよ」

 莉子は胸を張って言った。

「だって、あたしと一緒だもの。――少し方向性は違うけどね」

 そう言った莉子はいたずらっぽく笑った。
 その笑みに、僕はついっと顔を背けた。
 ……直視できなくなってしまったのである。

(全く……莉子は平気でこういうことを言うから……)

 ドキドキする僕が向けた視線の先には、先程の白猫が見えた。
 白猫は小学生くらいの女の子に身体を撫でられていた。
 どうやら道路を渡っているときに、女の子に捕まったらしい。
 二人が現在いるのは横断歩道の端である。

 少し危険かもしれないが、ここは見通しの良い一本道で交通量も少なく、スピードを出す車もほとんどいない。
 特に問題はないだろう。
 そう思っていると早速、一台の高級そうな黒い車が遠くから近付いてきた。

「……ん?」

 そのとき、僕は違和感に気付いた。
 近付く車はゆっくりとしたスピードでこちらへと近付いてきている。
 しかし、その車が左右に蛇行していたのだ。
 運転席をよく見ると、ドライバーは前を向いていなかった。
 うつむいて、視線が下を向いている……。

「……居眠り運転!?」

 僕が慌てて立ち上がったときには、アオが既に駆け出していた。
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