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第6章 そしてまた、生まれ変わる

エピローグ

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ベルトルスは、今日もダンジョンの中を、探索していた。

彼はこの日、ダンジョンの中で、魔物に襲われ、ピンチとなっている美少女を助けた。

美少女はだいたい、16歳ほどであろうか。

桜色の髪の美少女も、多少魔法は使えるらしい。が、まだ戦闘能力が未熟で、十分敵と相対する力がついていないらしい。


ベルトルスは、魔物を完全に倒すと、彼女の元へ寄っていった。

「大丈夫か!?」

ベルトルスが、彼女の顔を覗き込む。

彼女のその青色の美しい瞳を見つめた瞬間、様々な記憶と想いとその断片が複雑に交錯し合う。

ベルトルスは、胸の奥が強く痛むのを感じた。

「…やっとまた、会えたな!」

ベルトルスは、胸の奥底から湧き上がってくるその情動を、言葉にせずにはいられなかった。


しかし…。

って?私、あなたに会うのは、初めてなんですけど?」

桜色の髪をした美しい少女は、目を見開き、まじまじとベルトルス。と、ベルトルスが左手に抱える赤ん坊を交互に見つめる。

「おい、ベル!ミリファエルの奴は、また俺のことを、忘れてっぜ。」

ベルトルスの胸元の赤ん坊がしゃべる。オヤジの声で。

「そうだな、ジェム。ところでお前、いつまで俺に抱かれてんだよ!早く離れろよっ!」

ベルトルスのうんざりしたかのような言葉に、ジェムは、コウモリのような黒い羽根を生やし、宙に浮きあがる。

彼の背中にはもう、あの清らかな白い羽根が無く、代わりにコウモリのような黒い羽根が生えている。

「あっ……赤ちゃんがしゃべった!!しかも、声がオヤジ!キモっ!!」

目の前の16歳ほどの美しい娘は、小さな赤ん坊がしゃべったのと、コウモリのような黒い羽根が生えて宙に浮いているのを見て、目を大きく見開いている。

「…俺は、堕天使になることで、人間界へ来ることができたんだが、…ミリファエルはまた、完全に人間に生まれ変わってるな。」

ジェムが、物憂げに言葉を吐き出した。

「ちょっと、あなたたち何を言っているんです?私はミリファエルじゃあなく、ミランジェアって言います!」

美少女の言葉で、ジェムとベルトルスの目線が、彼女の美しい顔へ向いた。

「ミランジェアちゃんか。よろしく。俺の名は、ベルトルス。そして、このガキが、天使から、堕天使に落ちたジェム。俺の親友だ。よろしくな。」

ベルトルスは、ミランジェアと名乗った彼女の柔らかい右手を握り、握手を交わす。

彼女の手の温もりに、ベルトルスの繊細に積み重ねられてきた時の重みの深淵に、光がさしてゆく。

その時、ミリアの家事慣れしたゴツゴツした手と、若い少女のスベスベで柔らかい手の像が記憶の中で重なり、思わずベルトルスの目から、涙が流れ落ちた。

「ちょっと、ぼく?私、何か変なことした?何か、ごめんね。」

ミランジェアの言葉で、ベルトルスは、急いで涙を拭う。

「ミランジェアちゃん。俺、小さいけど、子供じゃあないんだ。」

「えっ?」

ミランジェアが、まじまじと、12歳程にしか見えない少年の姿のベルトルスを見つめる。


嬉しかった。
 
また、記憶が飛んでしまっている。が、とにかくまた、ミリファエルの生まれ変わりに出会えた事が、本当に心の底から嬉しくてたまらない。

「おい、ベル!ずっとダンジョン潜りっぱなしで、俺、くたびれたわ。家帰ってビールを、ジョッキで飲みてぇぜ!」

ベルトルスの感動を、ジェムのオヤジの声が打ち破る。

「えっ!?赤ちゃんなのにビールって!?うわっ!赤ちゃんなのに、何で声がオヤジなのっ!!?何だかキモっ!大変だわっ!!」

ミランジェアが、ジェムの言葉を聞き、びっくりして、赤ちゃん姿、声はオヤジのジェムを見る。

「お嬢ちゃん!俺は、こう見えても大人なんだぜ。そして、下半身もな!ちゃんと種付けもできっぜ!」

「いやあっ!!」

ジェムの発言に、ミランジェアが赤面する。

「バカやろ!」

ふざけたおっさん声の赤ん坊の頭を、ベルトルスが殴る。


とても幸せだった。
 
ジェムは堕天使となり、自分がいるこの人間界へとやってきてくれた。

堕天使となり、魔界へ落ちることで、人間界と通じやすくなるのだ。

いつの世も、人の心は邪を含む。ゆえに、人の世界は魔界と太いパイプで繋がっている。

それゆえ、悪魔は実体化して人間界へ来れる。同じく、魔界へ落ちた堕天使も、人間界へは、実体を持って生身の体として来ることができる。

ジェムは堕天使となり、人間界へ来ることで、ベルトルスといる現実をえらんでくれた。
 
永遠を生きる親友が、今は共に時を重ねてくれている。

そして、何よりも大好きな恋人がまた、人間として生まれ変わってきてくれた!

今度こそ、何が何でも彼女の記憶を取り戻させて、この世界で、彼女と永遠を共に生きるぞ!
 
ベルトルスは、深く、心の奥底から誓ったのだった。


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