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プロローグ
お姫様の物語
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あるところに、ひとつの小さな国がありました。
その国には、一人のお姫様がいました。
そのお姫様は、たいそう美しく聡明で、その事は、他の国々まで広く知れ渡っていました。
王様は、愛するお后様を早くに亡くした為、そのお姫様をそれはそれは大事にしていました。
お姫様は、誰の目に触れることなく、お城の中で幸せな日々を過ごしていたのです。
ある年、王様は新しいお后様を迎えることとなりました。
お后様は、それはそれは美しく、その姿を見た誰もが息を呑む程の美しさでした。
しかし、王様がお姫様を大事に想う気持ちを妬んだお后様は、
ある日、お姫様を森の奥深くにある塔の中に閉じこめてしまったのです。
王様は、突然に姿を消したお姫様を想って、嘆き悲しみました。
そこで王様は、国中に次のような御触書を出しました。
『お姫様を無事に見つけ出し、連れ帰った者をお姫様の婿としよう。』
この御触書を見た若者達は、お姫様を手に入れる為、国中を探して回りました。
それに困ったのは、お姫様を隠してしまったお后様です。
様々な罠を仕掛けて、お姫様を捜す若者達の邪魔をしました。
そのせいで、お姫様を探そうと試む若者たちが次々と脱落していきます。
王様は、また嘆き悲しみました。
もうお姫様を捜し出してきてくれる人は、いないのでしょうか?
しかし、お后様の罠にも負けず、お姫様を捜し続ける一人の若者がいました。
それは、とある国の王子様でした。
そして、王子様は、とうとうお姫様が閉じこめられている塔を発見したのです。
お后様は、居ても立ってもいられず、自らの姿を竜に変えて、その王子様の行く手を阻みます。
それでも王子様は、勇気を振り絞って竜と闘い、ついに竜を倒すことに成功しました。
こうして、お姫様を塔の中から助け出した王子様は、約束通り、お姫様と結婚し、
二人は幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
「……私と少し、境遇が似ているわね。
私のお父様は、未だに独り身だけど」
それは、何度も何度も読み聞かされた物語。
王子様がお姫様を助けてくれる件が特に好きで、
まだ字が読めない頃は何度も読んでくれとせがみ、
侍女を困らせたものだ。
憧れていた、夢見ていた、幼い頃の記憶。
どうして忘れてしまっていたのだろうか。
「でも……」
「〝何故、塔に閉じこめられたお姫様は、
自分から王子様を捜しに行こうとはしなかったのかしら〟」
幼い頃に、そのような疑問を抱いて侍女に聞いた事があった。
しかし、その度に答えはいつも決まっていた。
『そうゆう物語なんですよ』
それでは納得出来ず何度も質問をするアイリスに侍女達は、
やはり曖昧な答えしか返してくれなかった。
お姫様が塔から脱出できなかったから?
自分を助け出してくれる人を試そうとしたのだろうか?
それとも、自分を閉じこめた憎い継母をやっつけて欲しかったから?
物語は物語なのだと、そう理解出来る年齢になった。
しかし、物語のお姫様と自分の境遇が重なる。
(でも……でも、私は違う)
この城から出ようと思えば出る事が出来る。
ここに居るだけでは、誰かを試すことも出来ない。
憎い継母もいない。
「私なら……
待ってるだけのお姫様なんて、退屈すぎて死んでしまうわ」
アイリスの心の中に忘れかけていた何かが込み上げてくる。
そう、これは誰の物語でもない。
『私の物語』なのだ。
「……ええ、そうよ。
私がするべきことは決まっている」
――もう一度、夢を見たい。――
その日の夜が明ける頃、レヴァンヌ城から一人のお姫様の姿が消えた。
その国には、一人のお姫様がいました。
そのお姫様は、たいそう美しく聡明で、その事は、他の国々まで広く知れ渡っていました。
王様は、愛するお后様を早くに亡くした為、そのお姫様をそれはそれは大事にしていました。
お姫様は、誰の目に触れることなく、お城の中で幸せな日々を過ごしていたのです。
ある年、王様は新しいお后様を迎えることとなりました。
お后様は、それはそれは美しく、その姿を見た誰もが息を呑む程の美しさでした。
しかし、王様がお姫様を大事に想う気持ちを妬んだお后様は、
ある日、お姫様を森の奥深くにある塔の中に閉じこめてしまったのです。
王様は、突然に姿を消したお姫様を想って、嘆き悲しみました。
そこで王様は、国中に次のような御触書を出しました。
『お姫様を無事に見つけ出し、連れ帰った者をお姫様の婿としよう。』
この御触書を見た若者達は、お姫様を手に入れる為、国中を探して回りました。
それに困ったのは、お姫様を隠してしまったお后様です。
様々な罠を仕掛けて、お姫様を捜す若者達の邪魔をしました。
そのせいで、お姫様を探そうと試む若者たちが次々と脱落していきます。
王様は、また嘆き悲しみました。
もうお姫様を捜し出してきてくれる人は、いないのでしょうか?
しかし、お后様の罠にも負けず、お姫様を捜し続ける一人の若者がいました。
それは、とある国の王子様でした。
そして、王子様は、とうとうお姫様が閉じこめられている塔を発見したのです。
お后様は、居ても立ってもいられず、自らの姿を竜に変えて、その王子様の行く手を阻みます。
それでも王子様は、勇気を振り絞って竜と闘い、ついに竜を倒すことに成功しました。
こうして、お姫様を塔の中から助け出した王子様は、約束通り、お姫様と結婚し、
二人は幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
「……私と少し、境遇が似ているわね。
私のお父様は、未だに独り身だけど」
それは、何度も何度も読み聞かされた物語。
王子様がお姫様を助けてくれる件が特に好きで、
まだ字が読めない頃は何度も読んでくれとせがみ、
侍女を困らせたものだ。
憧れていた、夢見ていた、幼い頃の記憶。
どうして忘れてしまっていたのだろうか。
「でも……」
「〝何故、塔に閉じこめられたお姫様は、
自分から王子様を捜しに行こうとはしなかったのかしら〟」
幼い頃に、そのような疑問を抱いて侍女に聞いた事があった。
しかし、その度に答えはいつも決まっていた。
『そうゆう物語なんですよ』
それでは納得出来ず何度も質問をするアイリスに侍女達は、
やはり曖昧な答えしか返してくれなかった。
お姫様が塔から脱出できなかったから?
自分を助け出してくれる人を試そうとしたのだろうか?
それとも、自分を閉じこめた憎い継母をやっつけて欲しかったから?
物語は物語なのだと、そう理解出来る年齢になった。
しかし、物語のお姫様と自分の境遇が重なる。
(でも……でも、私は違う)
この城から出ようと思えば出る事が出来る。
ここに居るだけでは、誰かを試すことも出来ない。
憎い継母もいない。
「私なら……
待ってるだけのお姫様なんて、退屈すぎて死んでしまうわ」
アイリスの心の中に忘れかけていた何かが込み上げてくる。
そう、これは誰の物語でもない。
『私の物語』なのだ。
「……ええ、そうよ。
私がするべきことは決まっている」
――もう一度、夢を見たい。――
その日の夜が明ける頃、レヴァンヌ城から一人のお姫様の姿が消えた。
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