聖女の帰還〜聖騎士団と闇の戦い〜

風雅ありす

文字の大きさ
2 / 9
プロローグ

2.巫女の予言

しおりを挟む

「あった……あった! 受かった!!」
「うそ……ない………落ちちゃったみたい……」
「……あ、番号あった」
「あー……やっぱダメだったかー」

皆が自分の番号を確認していくのをドキドキしながら聞いていた私は、
ようやく最後の方に自分の番号を見つけて、心臓が止まるかと思った。

「聖羅は、どうだった?」

由香里が気遣わしげに尋ねてくれる。
私は、答える代わりにVサインをして見せた。

由香里と奈津美と私は、三人で大学の事務室へと向かった。
入学手続きを行うためだ。
由香里は、まだ第一志望の結果を控えているので、手続きはしなかったが、一緒に不動産屋を覗く約束をしていたので、私たちが手続きをするのを待っていてくれた。

残念な結果となった他の二人は、今日、待ち合わせに来なかった子も誘ってカラオケへ行こうと話していた。
私たちも不動産屋に行った後で間に合えば、合流しようかと話をしながら、その場で別れた。

私は、入学手続きの書類に、緊張する手で自分の名前を書いた。

【天野 聖羅】

「おめでとう、聖羅。
 がんばったね」

由香里がぽんぽんと私の頭を撫でてくれた。
じわりと視界が歪むのを慌てて手で抑えた。
由香里だって頑張っていた。
それなのに、他人を思いやれる彼女を私は尊敬する。
奈津美は「私だって頑張ったのにー!」と抗議の声を上げて、由香里に頭を撫でてもらっていた。

私たちは、軽くキャンパス内を見学した後で、最寄り駅にある不動産屋へと向かった。
幾つか良さそうな物件を見せてもらい、大体の検討をつける。
大学が近くにあるためか、学生向けの物件が多くあるようだ。
正式な申し込みは、保護者が居ないと出来ないので、とりあえず資料だけもらって帰った。

「大学生活楽しみだね~♪」

奈津美の笑顔に私も笑顔を返した。
これで受験勉強ともお別れだと思うと、解放感で空も飛べそうな気分だ。
由香里だけがまだ第一志望の結果を待っている身の上なので、私は、奈津美ほど手放しには喜べなかったけど、由香里は、奈津美の態度なんてまるで気にしてないようにも見えた。


「あ、聖羅~こっち、こっち~」

青空の下、私が1人で境内を歩いていると、香織が社務所の中から顔を出して手招きするのが見えた。
私は、ほっとして、香織に案内されるまま社務所の中へと上がる。
香織は、黒のブラウスに黒のスキニーパンツを着ていた。

「ごめんな~今日、母さんが出掛けてて、姉貴が代わりに見てくれるってさ。
 まだ巫女見習いなんだけど、霊感とかそういうのには強いから、そこは安心して」

香織が申し訳なさそうな顔で謝るので、むしろ私の方が申し訳なくなった。

「ううん!
 私の方こそ、急にお願いしちゃって……ごめんね。
 そんな大袈裟にすることもないとは思うんだけど……なんかちょっと気になっちゃって……」

受験結果が判ってからも、私は、あの不思議な夢に悩まされていた。
受験ストレスから解放されて、変な夢もそのうち見なくなるだろうと思っていたのだが、むしろ頻度は増え、リアリティが増していく。
これから楽しい大学生活が待っているというのに、このままでは、気持ち良く新生活を送るのにも不安が残る。
それで、香織に夢相談をお願いしたのだ。

「姉貴、入るよ」

香織が襖を開けると、い草の香りが鼻についた。
中に入ると、白檀か何かの香を焚いているのが分かる。
座敷の真正面にこちらを向いて正座する巫女姿の女性が居た。

「はじめまして。香織の姉で、慧子といいます。
 香織がいつもお世話になっています」

慧子さんが手をついて頭を下げる。
まるで流れるような美しい所作に思わず見惚れてしまい、挨拶をするのが遅れてしまった。

「話は香織から聞いてはいますが、今一度、聖羅さんの言葉でお話を聞かせてもらっても良いでしょうか」

私は、慌てて挨拶もそこそこに、夢の内容を話して聞かせた。
たどたどしい私の説明にも慧子さんは、辛抱強く何度も頷きながら話を聞いてくれた。
その間、香織は、ずっと傍らに座って待っていてくれた。

「夢は、夢主の心を映す鏡でもあるけれど、記憶の整理をしている、とも言われているの。
 一概にこうだという答えを今ここで伝えることは出来ないけれど、こういう見方もあるのだ、とだけ理解してもらえるかしら」

私が頷くと、慧子さんは、一般的な夢占いの内容を私に教えてくれた。
それは、以前、私が夢のことを香織に相談した時に教えてもらったものとほぼ同じ内容だった。

「…………というのが一般的な夢判定ね。
 これくらいの内容ならネットで調べても出てくるわ。
 でも、私個人の所感から言わせてもらうと……聖羅さんの見た夢は、これらの一般論には当てはまらない気がするの」

それは、つまりどういう意味だろうか、と私が眉を寄せると、慧子さんは、私を安心させるように笑みを見せた。

「大丈夫。
 あくまで一つの仮説として、聞いていてもらえればいいわ。
 聖羅さんは、〝ツインレイ〟という言葉を知っているかしら?」

私が首を横に振ると、慧子さんは、穏やかな口調で丁寧に説明会をしてくれた。

「人はね、元々一つの魂を二つに分けて、この世に生まれてくると言われているの。
 その魂の伴侶とも呼べる相手のことを〝ツインレイ〟と呼ぶのよ。
 初めて会ったのに、何故かその人のことをよく知っているような気がする相手。
 その相手と出会ったら、元々が一つの魂だったのだから、離れたくないと思ってしまうの。
 運命の相手だとか、一目惚れというのがそれに近いわね。
 でも、ツインレイは、この世にただ一人だけしかいない」

なんとなく分かる気がする。
そう思って、私が相槌をうつと、慧子さんがにっこりと笑ってくれた。

「もしかしたら、だけど……聖羅さんのツインレイがあなたを呼んでいるのかもしれないわね。
 それは、近い将来に出会うという予兆かもしれないし、もしくは、前世の魂の記憶なのかもしれない。
 だから、ハッキリとしたことは言えないのだけれど……例えば、前世の聖羅さんは、ツインレイと悲しい結末を迎えて別れることになってしまった……そのことをあなたの魂が覚えていて、夢として見させているのかもしれない……そう、私は感じたわ」

「前世の記憶……ですか…………」

香織にも以前似たようなことを言われたのを思い出す。
あの時は、厨二病じゃあるまいし、と笑い飛ばしたが、巫女見習いとは言え、こんなに綺麗な巫女さんに神妙な面持ちで言われると、なんだかそんな気がしてくるから不思議だ。

「私は、一体どうすれば……」

「特に何もすることはないわ。
 ツインレイは、あなたが心のままに過ごしていれば、いつか必ず出逢える。
 その時まで、自分自身を磨き、心の目を研ぎ澄ましていればいいの。
 その為には……」

慧子さんが袂に手を入れて何かを取り出す。
私は、身を乗り出してそれを見つめた。

「この……御守りがあなたを導いてくれるはずよ」

慧子さんが私に差し出した手には、紫色の御守りが乗せられていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】私は聖女の代用品だったらしい

雨雲レーダー
恋愛
異世界に聖女として召喚された紗月。 元の世界に帰る方法を探してくれるというリュミナス王国の王であるアレクの言葉を信じて、聖女として頑張ろうと決意するが、ある日大学の後輩でもあった天音が真の聖女として召喚されてから全てが変わりはじめ、ついには身に覚えのない罪で荒野に置き去りにされてしまう。 絶望の中で手を差し伸べたのは、隣国グランツ帝国の冷酷な皇帝マティアスだった。 「俺のものになれ」 突然の言葉に唖然とするものの、行く場所も帰る場所もない紗月はしぶしぶ着いて行くことに。 だけど帝国での生活は意外と楽しくて、マティアスもそんなにイヤなやつじゃないのかも? 捨てられた聖女と孤高の皇帝が絆を深めていく一方で、リュミナス王国では次々と異変がおこっていた。 ・完結まで予約投稿済みです。 ・1日3回更新(7時・12時・18時)

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

王家の血を引いていないと判明した私は、何故か変わらず愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女であるスレリアは、自身が王家の血筋ではないことを知った。 それによって彼女は、家族との関係が終わると思っていた。父や母、兄弟の面々に事実をどう受け止められるのか、彼女は不安だったのだ。 しかしそれは、杞憂に終わった。 スレリアの家族は、彼女を家族として愛しており、排斥するつもりなどはなかったのだ。 ただその愛し方は、それぞれであった。 今まで通りの距離を保つ者、溺愛してくる者、さらには求婚してくる者、そんな家族の様々な対応に、スレリアは少々困惑するのだった。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

処理中です...