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『俺の彼女は異世界人。』

第三話

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それから、俺たちは、本の貸し借りをする仲になった。
自分の好きなおすすめの本を貸し合い、返す時に感想を言い合うのだ。
彼女がおすすめしてくれる本は、大抵ミステリーかファンタジーだったが、女主人公が複数のイケメン男性たちから愛を告白される恋愛小説を読まされた時は、何て感想を言おうかと本気で頭を悩ませた。
むしろ、真剣に悩む俺の様子を見て、彼女は楽しんでいる風にも見えた。

俺がおすすめする本は、ライトノベル一本だったが、そこには恋愛ものやミステリー、ファンタジーと実に様々なジャンルが含まれている。
意外なことに彼女は、俺がおすすめした作品の中でも特に異世界ファンタジー系の小説をいたく気に入ってくれた。
異世界ファンタジーとは、現代にいた主人公が何らかの理由で死んでしまい、目が覚めると異世界へ転生していた、という最近主流のジャンルだ。
ファンタジー好きの彼女らしいと言えば、そうとも言えるが、俺が読むのは大抵が男主人公で、異世界で出会ういろんなタイプの女性たちとのラブコメが含まれるため、女性にはあまりウケないかと思っていたのだ。
それでも、彼女は、俺の薦めた本を決して馬鹿にしたり見下したりすることなく、真剣に読んで率直な感想を言ってくれた。
しかも、彼女の意見は、実に的を得ていて、俺がその本を読んで感じたことを明確な言葉として表現してくれるのだ。
それは、決して上辺だけの社交辞令で言ってくれているのではなく、彼女が本当に良いと言うものは俺も面白いと思うし、彼女がダメだという部分は俺にも納得のいくものだった。
俺は口下手だったけど、本を通して彼女と会話していた。
俺たちは対等で、互いの意見を尊重し合えていた。
そんな関係がこんなに居心地がいいなんて、俺は生まれて初めて知った。

俺は、彼女が貸してくれた本を読みながら、自分が読みたくて買った本も読まなければならず、一月の読書量が約二倍に増えた。
通学中の電車の中や、歩きながら本を読んだり、授業中に机の下でこっそりと読んだり、家に帰れば、夜中の2時や3時まで本を読むこともあれば、続きが気になって気が付けば朝日が昇っていた、なんてこともあった。
それだけ俺にとって、彼女の存在が俺の生活圏に及ぼす程大きくなっていったのだ。

ところが、そんな完璧に近い彼女には、少し変わったところがあった。
それは、クラスメイトの他の皆も少しずつ解ってきて、最初は、彼女を狙っていた男子生徒たちも、二学期が終わる頃には、半数以下に減り、三学期半ばになる頃には、彼女の中身をよく知らない上級生たちだけに絞られていった。
というのも、彼女には、少し虚言癖というか、謎の発言をすることが多くあった。

例えば、クラスの女子生徒たちがアイドルの話題で盛り上がっていると、突然、やつらは異世界の醜いオークやゴブリンが転生した姿で、この世界を乗っ取ろうとしているから騙されてはダメだ、と言って皆を引かせた。
他にも、クラスメイトたちが学校帰りにカラオケへ一緒に行かないかと誘った時には、カラオケとは何かと聞き返し、皆がそのことを揶揄すると、誰も聞いたことの無いような長くて難しい小説のタイトルを羅列して皆を黙らせてしまった。
ぽかんとした顔の女子生徒たちに向けて「なんだ、そんなことも知らないのか」と笑顔で言いのけた彼女は、まさに俺の理想とするヒーロー像だった。

そんなことが何度か続いたので、彼女はクラスで “不思議ちゃん”認定されてしまった。
これがイジメに発展しなかったのは、うちのクラスにそこまで影響力の強い子がいなかった事と、頭の良い彼女には誰も口で適わなかったからだ。
女子生徒たちは、他愛のない会話くらいは交わしていたものの、誰も彼女と特別親しくなろうとはしなかった。
男子生徒たちも、彼女は何かヤバい、と本能で察して、直接声を掛けるようなことはなくなったが、それでもやはり彼女の容姿とスタイルの良さは無視できず、遠巻きにただ見つめて目の保養とするだけに留まった。
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