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ゴンザレスVS異世界勇者キョウちゃん③

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(は、入ってきやがった!)

 流石は勇者といったところなのだろう。
 少年は迷わず、俺が隠れている部屋に足を踏み入れた。

 油断なく部屋を見回し、慎重に少年は近づいてくる。
 そこに油断は感じられない。

 俺は恐怖を感じながら、隠れていた机の下から飛び出し、机の上にあった小瓶やらペンなどを投げつけた。

 少年はそれにハッとして気づき、ペンはアッサリ躱され、小瓶は聖剣で真っ二つ、中に入っていた液体が少年の顔にかかるがそれだけ。

「……なんのつもりだい? 毒でも投げたのか?

 だが、無駄だったね?
 僕には毒の一切が効かないよ?」

 アレスは毒など持っていない。
 人を殺せるような暗殺用の毒は高いし、伝《つて》もいるのだ。
 当然、アレスにそんな金も伝も無い。
 あるわけ無い!

 だが……。
「ぐ……ぐぐぐ……」
 少年が突然苦しみ出し、身体から白い煙が上がり始める。

「あ、ア、レス。貴様……僕に、何をした、んだ?」
 もちろん、アレスに心当たりなどない。

 無言で少年を見つめるしか出来ない。

「その目……そう、か。
 貴様の、計算、通りというわけ、か。

 やたらと花瓶や壺を、投げ付けたのも、僕を油断させ、この小瓶の、液体を、僕に、かけるための……布石」

 そんなことより少年から、立ち昇る煙が凄いことになっているが大丈夫か!?

「グッ、ぐわーーーーー!!!!!」
 苦しんでいた少年は最期に叫び声をあげ、そのまま倒れ伏した。

 身体から立ち昇っていた煙は、跡形もなく消え失せて。

 勇者殺人事件……。
 いや、ただの事故だったんだ。

 俺は頭の中で、一生懸命言い訳を考える。

 そこに侯爵と女が現れる。
 女はさも当然と言わんばかりに俺に頷く。
「流石は我があるじ」

 ……何が?

 侯爵はやはり殺人現場を見て、茫然としている。
「ば、ばかな」
 今日、何度目かのばかな。

「何故、コレのことが……。
 まさか、最初から……?

 何故、いきなり私のところに来たと思ったら、そういうことだったのか……。

 ……分かった。
 イリス・ウラハラ。
 条件を全て飲もう……」
 侯爵は何故か肩を落とす。

 女は悠然と微笑み、
「ええ、お願いしますわ」

 何言ってるんだ、こいつら?





 エストリア国の国務大臣ケーリー侯爵にはある野望があった。
 アレスが投げつけたTS細胞、通称薬を使い、女になって童貞の美少年を食い漁るという野望が。

 その最初のターゲットに選ばれたのが、勇者キョウ少年であった。
 そのための隷属の首輪を用意して、あの手この手の根回しは済んでいた。
 後は実行あるのみだったのだ。

 その野望は後一歩のところで、この男、No.0により阻止された。

 この男、No.0は分かっていたのだろうと侯爵は考える。

 このTS細胞を手にするために、表に出してはいけない悪いことも沢山した。当然、恨みも沢山買った。

 だから今日、彼らはここに来た。
 しかも自らは勇者を使い物に出来なくするよう動いている間に、イリス・ウラハラに交渉させて。

 タイミングも完璧だった。
 話を聞かされ、何を馬鹿なと一笑に付そうとした直前だった。
 他でもない勇者の叫び声。

 それは戦慄。
 何故ならそれは勇者が敗北し、今この瞬間、No.8疾風のイリス・ウラハラが侯爵自身を切り刻んだとしても、誰も止められないという事実。

 それと同時にあの胡散臭い詐欺師のような銀髪の男が、紛れもない世界最強のNo.0である証拠なのだから。

 蒼白な顔で僅かな希望を持って、事実を確かめに行った。
 事実はもっと遥かに絶望的であった。

 それはTS細胞を勇者にぶつけたことだけではない。

 この男は……No.0はその手に『武器1つ持っていなかった』のだ。

 聖剣持ちの勇者相手に素手で傷1つなく完全に制して見せたのだ。

 世界最強No.0、伝説に偽りなし。

 侯爵は身体の力が抜け足元から崩れ落ちた。
 足元には性転換薬により性転換し、スヤスヤと眠る美少女勇者キョウ・クジョウ。

 とてもカオスな部屋であった。




 この日、世界はまたしても震撼する。
 エストリア国の最強の勇者と目されるキョウ・クジョウというがこの世から消えた。

 やったのは世界最強No.0。
 だが、真実を知るはずのエストリア国の国務大臣ケーリー侯爵はその一切を黙した。

 同時にこの日、国務大臣ケーリー侯爵によりエストリア国の小さな地方の土地が、亡国ウラハラの王女イリス・ウラハラに譲渡された。

 名目上は帝国の拠点を潰し、帝国の野望を大きく後退させたためとされているが、真実は同様に不明である。

 世界ランクを示す世界の叡智の塔。
 そこには未だNo.0という番号は、ない。
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