ヒトの世界にて

ぽぽたむ

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5話 【気—ムジャキ—】

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「はい、では兄さんこれを操作してみて下さい」
「おう、えっと、こうか?」

 ローデに教えてもらった通りに液晶パネルを指先で操作する。
 恐る恐る、といった風に指先を震わせながらタッチする。
 本人とっては緊張感たっぷりの、しかし機械に取っては自身に入力されたプログラムを遂行するだけだ。

「おぉ、すげ、本当に音楽が鳴りやがった」
「やりましたね兄さん!」

 トリトが操作していたのは食堂にある音楽プレイヤーだった。
 アルゴナウタイの内部的にこういった娯楽が可能な場所に食堂も含まれている様だ。

「ふい~……こうやって操作方法が分かれば簡単なんだが……慣れるまでおっかなびっくりだぜ……」
「覚えはいいんですからめんどくさがらずにちゃんと覚えて下さいね? これを覚えないとトイレもお風呂もまともに使えないですし」
「そうだなぁ……」

 この二日間はアルゴナウタイの本当に必要最低限の機能を回復するので手一杯だった。
 トイレやお風呂、キッチン関連の整備はアレスが出発してから24時間フル稼働で直していた。
 これだけは人の生活に関わる、と最優先で直してくれた。
 その間にディータ達三人は自分の部屋を決め自分で部屋を掃除していた。
 一見すると中も綺麗なアルゴナウタイだったがよくよく掃除してみればナノマシンの死体が拭き取れていた。
 吸い込んでも害はないとアレスは言っていたが流石に砂埃の中で寝るような物だったので雑巾や箒で掃除をしていた。

「昨日ようやく生活できるってラインに到達したもんなぁ……流石に500年ほったらかしただけあって掃除も大変だったぜ」
「それは、まぁ……初日は結局一部屋を集中的に掃除して皆んな同じ部屋で寝ましたし……」
「だな……と、これで大体の操作は覚えたぞ、ローデも好きな本でも読んでこいよ」
「本当に大丈夫ですか?」
「とか言いながら早く本が見たくてしょうがないんだろ?」
「……あ、あはは」

 ローデが照れ臭そうにはにかむ。
 アルゴナウタイのデータドライブには音楽や沢山の本がデータに残っている。
 移動中の暇つぶしなのだろう、アレスはなんでこんな物が、と困惑していたがこういった暇つぶしはあるに越したことは無い。

「じ、実は色々読んでみたい資料があるんですよ……えへへ」
「おうおう、見張りはオレがやってるから好きに読んでこいよ」
「は~い」
(ローデが嬉しそうで何より、だな)

 嬉しそうに走り出すローデにトリトも嬉しそうに頬を緩めるのだった。



「Dr.ウェヌスが……生きている?」
「はい、彼女は耐放射線用機械化手術を受けて生きています」
「耐放射線用機械化手術?」
「今の人にある放射線耐性を機械化する事で得る手術です、ですが……」
「……ですが?」
「私みたいなロボットならいざ知らず、500年もの時を人間がまともに生きていけるのでしょうか……」
「……500年、か」

 もしアレスに呼吸をする機能があったのなら大きくため息を吐いていただろう。
 500年という時はロボットであるウェスタにとっても長い長い時間だ。
 AIが熟成し自我の様なものを持つまでウェスタは300年の時が必要だった。
 それでも自我を持ってからの100年でも長いと感じるのにその5倍である。

「最後にDr.ウェヌスに会ったのは?」
「400年前です……私の記憶メモリーを消去したのが彼女でした……マスター登録はされており生命信号を受け取っているので生存は分かるのですが……分かるのは生存だけで彼女が今どこに居て何をしているかは分かりません」
「そうか……嫌、生きているだけでも吉報だ。俺達はこれからも旅を続けるんだから何処かで会える、と思いたい」

 この広い世界をアレスはただ冒険する事を考えていたが何処かで自分を作った親に会えるかも、と考えると気持ちが弾む様だった。

「と……Dr.ウェヌスの事もいいんだが……目の前の問題はレア、彼女の事だな」
「えぇ、先程の条件と共に彼女を貴方達の船に乗せて連れていって欲しいのです」
「……理由が、あるんだな?」
「はい、詳しくは禁止単語を喋る事になるので厳しいのですが……このままではレアに危険が及ぶ、とだけ理解して貰えれば」
「……俺としては問題無いのだが、他の皆や彼女自身が何と言うか」
「そうですね……少し聞いてみましょうか……レア、レア、話があります」
「ふえ? どうかしたのシスター?」
「話は終わったのかの?」

 少し離れたテーブルで話をしていたディータとレアがトテトテと歩いてくる。
 身長的には姉妹に見えなくもないがこんな露出度の高い姉が居ては妹に悪影響だろう。

(実際の年齢的には祖母と孫、くらい……とトリトなら言いそうだな)
「今ワシの年齢で何か不穏な事を思ったか?」
「い、嫌……」

 にっこりと目の笑ってない笑顔で微笑むディータにアレスが慌てて目線を逸らす。
 完全に考えていた事を当てられてロボットであるにも関わらず目線を泳がせてしまう。

「レア、実は……この人達と共に旅をして欲しいのです」
「え?」
「何じゃと……? どう言う事じゃアレス」
「このままだと、レアに良くない事が起こるらしい……その前にこの街から出ていかなければならない、そうだ」
「な、何それ……シスター? どういう事なの?」
「詳しい事は……言えません……言うことが、出来ないのです……私はどんなに私を自覚しても、プログラムには逆らえません……」

 涙を流す機能があったならきっと涙を流していただろう。
 辛い別れをレアに無理をさせてしまう事が心苦しい。

「……何、それ……分からないよ、シスターアタシ分からないよ」
「……ごめんなさい、でも私はこの選択を正しいものだと信じたいです」
「俺も、その方がいいと思う……この件はかなり根が深そうだ」
「ふ~む……ワシは何とも言えぬな、レアがどう思っておるかじゃ」
「そ、そんな急に言われても……アタシ……」

 12歳の少女に急な決断が迫られていた。
 今まで住んでいた自分の家を出て知らない人達に付いていけ、そう言われて混乱しない子供はいないだろう。
 不安なのか泣きそうな顔でウェスタとアレスやディータを見つめている。

「……ごめん、アタシ、そんな事直ぐには決められないよ」
「じゃろうのぉ……ふ~む、何か事情がある様じゃが……今日一日ワシらに付いてきてワシらを信用して貰うしか無いのぉ」
「……そう、なるのか?」
「お願いします……レア、お願い、できますか?」
「う、うん……えっと、二人はこれから何処に行くんだっけ?」
「ワシらはサイボーグパーツのジャンク品を買いに行く所じゃよ、船の修理に必要なんじゃ、そろそろ行くかの?」
「あぁそうしよう、俺達はそろそろ行く」
「はい……お願いしますね」

 サイボーグのジャンクパーツで船を修理する、というのもアレスやウェスタ以外には信じられないだろう。

「ジャンクパーツで船を? う~ん?」
「ワシもよくは分からんのじゃが……レアは船を見た事ないのかの?」
「うん、この辺には湖もないし海まで遠いもん」
「くく、そうなるとワシらの船を見た時腰を抜かすかも知れんのぉ」
「何それ、どんな船なの?」
「……ふふ」
「どうかしたのか?」

 ディータと楽しそうに話しているレアを見てウェスタが微笑む。
 そんな姿にアレスは首を傾げるしか出来ない。

「レアはどんな人とも仲良くなれる無邪気さがあるんです……子供故の、純粋な心ですね」
「そう、なのか?」
「ふふ、デカイ船じゃよ~初めてがあの船じゃもう他のじゃ満足出来なくなるのぉ!」
「え~何それ」

 ディータがレアに合わせているのか、それともレア本人の性格なのか二人は初対面にも関わらず楽しそうに喋っている。

「あの子は、レアは何処か外の世界に憧れていました……きっと、あの人も同じように外の世界が好きなのでしょう」
「それは、確かにそうかも知れない……外の世界、と言うよりディータは昔の遺跡を発掘して生計を立てているらしいが」
「あぁ、なるほど……発掘者でしたか、それならレアにとってもいいお勉強になるでしょうし……やっぱり貴方達に託して良かった」

 教会から出て行く二人を見つめて安堵の頷きをする。
 アレスはそんなウェスタを見てやっぱり何も理解出来ない。
 アレスのAIは当時のA Iより複雑な思考が出来るとされていたのだが彼には経験が圧倒的に足りない。
 いくら優れたAIでも起きて数日の彼と400年を過ごした旧式のAIでは思考能力に大分差があるのだろう。

「よく、分からないが……」
「ふふ、貴方は第16世代型を授かる筈だった機体、きっと私達とは違った様々な機能があるのでしょう? AIもきっと今までとは違う……そんな貴方なら何時か分かると思いますよ?」
「そう、なのだろうか……」
「お~いアレス~? 何をしておるんじゃ~?」
「あ、あぁ……今行く」
「シスター、街を出るにしてもそうでないにしても、一回帰ってくるからね?」
「えぇ、レア、楽しんで来なさい」

 ウェスタは機械とは思えない、まるで母の様な笑みを浮かべて三人を送り出したのだった。



「えっと、ここがパーツ屋さんだよ。お~いおじさ~ん」
「あぁん? おぉ何じゃレアちゃんか、そっちの二人は?」
「お客さんじゃよ、ジャンクパーツを買い取りたいのじゃが」
「できれば鉄板状になっているのがいい、加工はこちらで行う」
「あぁそれならあっちの倉庫にあるよ、好きに見ていってくれ」
「分かった、ディータ。少し手伝ってくれ」
「む? ワシの手が必要か? よし、レア。少し待っておれ」
「はぁい、ねぇおじさん今何してるの? 粉を混ぜてパンでも作るの?」
「はっはっは、コイツァなぁ——」

 二人が倉庫へ行くのをレアが見守る。
 暇なのかレアはジャンク屋の主人が混ぜている黒い粉を見ている。

「……さて? なんか話があるのかの?」
「……何故分かった?」
「レアを連れて行くならレアに懐いて貰わねばならぬというのに一人にする理由がないじゃろ」
「その通りだな……実はウェスタにここでのパーツ代や食料を約束されているんだ……」
「条件は、レアの事かの?」
「あぁ……」

 説明する前に全てを察せられてしまった。
 こういう時ディータの頭の回転の良さには素直に驚く事が多い。

「ふ~む、それ程までにレアがこの街に居ては危険、と言う事かの……それも他の街人に被害は無くレアにピンポイント、となると……」
「……何故レアにだけ被害があると?」
「それは簡単じゃ、街人全員に被害があるのならレア一人を逃す必要はない、全員に知らせて逃げれば良い」
「成る程……そうなるとレアの何かが狙われている、と考えるべきか?」
「そうじゃな……う~んその原因は、何じゃろうなぁ……その理由も分からぬ……しかしそうなると彼女を放っておくのも気分が悪いのぉ、お主はどうじゃ?」
「俺も同じ意見だ……原因は解らないが彼女は何かに狙われている、ということになるのか?」
「そうじゃろうな……ワシらとしては保護をするのはあり、となると後はレア次第じゃの……いくら危険があるといえど彼女を無理に連れて行くのは忍びないのぉ」

 二人でジャンクパーツを見ながら話を進めていく。
 レアには聞こえない様に少し声を落として喋っていく。

「この時代になって、平和になったと思ったが……何か良くないものがあるのか?」
「ふ~む、ワシはそんな噂は聞いたことがないのぉ……第一怪獣がいるせいで国の偉い奴は何か悪巧みをする暇もない、と言うのが正直な所じゃ。犯罪者でも使わなければならない程怪獣の脅威は逼迫しておるのじゃ」
「……そうだろうな、この前見た怪獣は遠目に見ても一人二人で何とか出来るとは思えない」

 アルゴナウタイで走行中に見つけた怪獣はあれでも小さい方だ、とディータに言われたのを思い出す。
 現代で作られている武器をトリトに話してもらった事があるが現代の武器はステンレスを利用した合金が多いと聞いた事がある。
 火薬技術は魔法のせいで開発が進んでないが金属技術においては20世紀から21世紀最初期頃の技術があるようで、金属加工を行うヘパイストスの魔法があるらしく金属の加工は魔法使いの仕事、との事だ。

「そうなるとますます不可解じゃ……それこそ近くで守りたい物じゃな」
「それならその露出の高い服は悪影響じゃないか?」
「何をいうか。サキュバスと言うのは人より平均体温が高いのじゃ。厚手の服などこの時期暑くて着れぬわい」
「……そうだったのか?」
「そうじゃのぉ、平均2、3℃は高いかの? 下手すると風邪と間違えられるレベルじゃ」
「ほう」
「ふぉっ!?」

 ちょっとした好奇心からだった。
 どの程度彼女の体温が高いのか、調べてみる事にした。
 本来人ならば手で何処かを触れれば体温を感じるのに十分だろう。
 しかしアレスの手はアーマーが付いており体温を掴みにくい。
 なので仕方なくおでこを当てて自分との温度差で測ろうとする。
 結果まるでキスをする程顔を近づけてしまう。

「ねーねー、二人ともまだ終わらな——」

 どんなタイミングであろうか、粉を見ているのにも飽きたレアが二人の様子を見に来ていた。
 丁度二人の背後からレアがひょっこり顔を出した途端に見たのは屈んでディータに顔を近づけるアレスとびっくりして固まるディータだった。

「………………ピャヤァ」
「およ? レアちゃんどうしたんだい?」
「ちょ、ちょ~っと小腹が空いたから~……近くの露店で何か食べて、くる~ね~?」

 カクカクでぎこちない動きをしつつ顔を真っ赤にしながら店の外で歩いていく。

「ば、ばっかものーーーーーー!!!!」
「おぉ!? 何だ何だ痴話喧嘩か?」

 こちらも同じくらい顔を赤くしたディータに蹴り飛ばされたアレスがジャンクパーツの山に頭から突っ込んだ。



「……全く、全く」

 ぶつぶつと喋りながらガチャガチャと引っ張り出したジャンクパーツを何個か手に持つ。

(それにしても……何故じゃろうな……こう見えてワシは経験豊富なサキュバスじゃというのに)

 生娘でも無ければ処女でもない、というかサキュバスに処女という身体機能は無い。
 出身地にいた頃は他のサキュバスと同じように誰かを抱く事を当たり前だと思っていたしそれはサキュバスとして当然とも思っていた。
 そんな自分が顔が好みとはいえ今更あんな乙女の様な反応をするなんて。

(全く、調子が狂うのぉ……)
「こんな所だろう、後はナノマイオイ装甲が取り込んで周りの素材と同化しいていく」
「ほう、素材そのものを変えてしまうとはな……よーしとりあえず戻るかの」

 ディータがジャンクパーツを集めて風呂敷に包む、少し重いが持つのはアレスなので問題無いだろう。

「おう、終わったかいお二人さん」
「うむ、お代に関してなんじゃが……」
「あぁさっきウェスタさんから連絡があったよ、お代は後からあっちに請求しておく」
「そうか、と……連絡、どうやってだ?」

 通信機の様な物があるとは思えない。
 先日もハーピーが郵便屋として手紙を運んでいるのが解っている。

「ん? どうやってって魔法通信だが? 当たり前だろ?」
「魔法を利用して手紙をコピーするんじゃよ、装置の上に紙を置いておいて魔法による言伝を受け取ると紙に文字が描かれる装置じゃ」
「成る程、そういった物もあるのか」
「使っておるのは主に商人じゃがな、装置は高いし整備に時間が掛かるしで一般人は手紙を使っておるよ」
「そうか……そういえばレアは?」
「あぁレアちゃんなら小腹が空いたからって露店の方へ——」

 そこまで喋った瞬間、少し離れた位置で爆発音がする。
 外に出て音の方角を確認すると人々の悲鳴が聞こえ黒色の煙も立ち上がって来ている。

「な、何だ!? あ、ありゃ露店の方角じゃねぇか……!?」
「何じゃと!? アレス!」
「解っている、俺が直接飛んだほうが早いな……ディータ、掴まれ飛ぶぞ」
「うむ…… ! む? 飛ぶって……何じゃ?」
「話してる時間はない……! 口を閉じておけ、舌を噛むぞ……クロノス、フルドライブ!」

 会話の流れからとりあえずアレスの腕に掴まったのだがディータはキョトンとしている。
 そんなディータにお構いなしにバチバチ、と音が鳴ると共にアレスの足からキュルルル、と何かを巻くような音がする。

「え、何? 何じゃこれ、ワシどうなっちゃうの?」
「しっかり掴まっていろ……!」
「あぎゃあああああああああああ!?」
「お、おぉ……」

 地面が陥没する程大きく蹴り周りの家よりも高く飛び上がる。
 二回目の遠くの爆発と共に一瞬で空中に連れて行かれたディータの悲鳴と共に二人が去ったのをサイボーグパーツ屋の親方は唖然として見ていた。



「はぁ~びっくりしたぁ……やっぱり恋人なのかな、あの二人って……」

 ため息を吐きながらとりあえず露店の側へ歩いている。
 小腹が減った等勿論その場から恥ずかしくて逃げる為の方便である。
 12歳の少女にとってキスでも刺激が強かったようだ。

(あぁいうのって何時か私も誰かとするのかな……? わぁ……全然想像できない……)

 頬に手を当ててもう一度ため息を吐く、考えただけでも頬が熱くなっていくのが指先の感覚で解る。
 性知識については何も勉強してないので年相応の初心な少女である。
 普通の少女と違うのは他の孤児と暮らしていた分異性の裸等は見たことあるしスキンシップも経験はあるのだが所謂愛を確認する行為に耐性が無いのだ。

「お嬢ちゃん、一人かい?」
「え? う、うん……えっと……? おじさん、だれ?」

 鹿の様な有角魔族の男性がレアに話しかけてくる。
 どこか疲れた表情をしている中年の男性だ。

「街の人じゃ、ないよね?」
「あぁそうだね……でも旅人とか、商人って訳でもなくてね……難しい言い方だけど、うん……多分、おじさん死ななくても済むんじゃないかなぁって……少し安心したよ」
「え、それってどうい——」
「エール……プティオー」

 ボキリ、と自分の角を一見力を込めて無いかの様に微動だにせず力任せに片方折ってレアが聞いたことのない言語を喋る。
 その時点で何か嫌な予感がしたのかそれとも彼女が生まれつき持っている生存本能が働いたのか、両腕で顔と胸を庇うようにしてから背後へ全力へ飛ぶ。
 その瞬間、爆発がレアの目の前で起こった。

「く、は——!? ぁ、あぁ……!?」

 爆発の衝撃と熱に体が焼かれどこかの家の壁に打ち付けられた衝撃で肺の酸素を全て吐き出してしまう。
 目の前が一瞬スパークし体が衝動的に酸素を求める。

「ごほ!? ゲホゲホ!? う、ぐぐ……!?」
「あ~……生き残っちゃったかぁ……困るなぁ」
「う、うわああああ!?」
「爆発よ!? 誰か人を呼んで!?」

 辺りから悲鳴が聞こえる中爆煙の向こう側から男の声が聞こえる。
 死んだふりをする余裕も無い、その男の声でまた自分を攻撃してくる。
 理由は分からない、訳も分からない。
 何故か自分の命が狙われている、それだけで十分だ。

(戦わ、ないと……せめて自分の事を守らないと……!)

 再びボキリ、と角を折る音が聞こえる。
 またあの爆発を使うのだろうか、そういう事ならこちらにも手段がある。

「エール、プティ——」
「——ッ! シーフナステトラ!!」

 一般的に魔法という物はメーデン、モノ、ジ、といった様に数字が関係している。
 上の数字であればある程威力が高まる。
 それでもジ、つまり2までの魔法は一般的に戦闘用では無く日常用の魔法で戦闘向けではない。
 テトラ、つまり4番目の魔法現代確認されている最高ランクより二個下の、それでもレアが使える最高ランクの魔法だ。

「お、おおお!?」

 杖から放たれた竜巻は爆発を起こす寸前の角に当たり男の頭上へ帰っていく。
 帰った瞬間、先程と同じような爆発が起きて男が爆炎に包まれる。

「は、はぁ……はぁ……!」

 殺してはない、筈だ。
 竜巻と爆発は男の頭上へ逸らすように使ったのでこれで反省してくれればいい。
 自分が殺されそうになっているのに甘いことを言っている、と吐き捨てるように自虐するが12歳の少女がそんな覚悟を持てる筈もない。

「あぁ……いけないねぇお嬢ちゃん……殺されそうになってるんだからちゃんと殺す覚悟が出来てないと……」
「何を……ふざけた事言わないで! 急に襲いかかってきて何なのよ!?」
「おじさんは君を殺すように言われただけなんだ……」

 爆炎が晴れると少々焦げた男性がそこに立っている。
 まずその頑丈さにレアが驚いた。
 レア自身も獣人で同年代の並大抵の人より頑丈であるがそれでも腕が火傷をしている。
 レアよりも近くで爆発を食らったこの男性はそれを少し焦げた程度で済ませているのだ。

「こ、殺すって何でそんな……!?」
「それは私には分からないんだよ……でも殺せと頭の中で誰かが四六時中騒いでいるんだ……夜もまともに眠れないし困った事に私は普通の農家だったから殺す手段も思い浮かばなくてね……だからぁ、うん……? それで、どうなったんだっけ、私は……?」
「え……?」

 買い物のど忘れを思い出そうとしているかのように男は考え込んでしまう。
 本にのめり込んでいた人がふと時計を見てそろそろ夕飯の準備をしようか、と想い深けるように。
 あまりにチグハグ、まるで切れた無数の色雑巾を無理やり合わせて一つにした様なあり得なさが不気味だ。

「あぁそうだそうだ……おじさんの体を爆弾に変えたんだ……うん、身体中を爆弾にして体の一部だけ爆発させられるようにして……あれ? なんでそんな事をしたんだっけ?」
「お、おじさん……?」

 1秒前の自分と1秒先の自分が剥離している。
 そんな姿に何時の間にか手足が震えるほど恐怖している。

「本当は、角だけで済ませたかったんだけど……お嬢ちゃんは強いから、うん……腕を爆弾にしないとしょうがないよね?」
「何、を——」

 ビリ、ゴキ、ブチリ、ビチャリ。
 服が、骨が、皮膚が、血が。
 男は表情一つ変えず痛みも感じてないのか、自らの右腕を左手で引きちぎる。
 あまりの光景に震えがむしろ止まる、声も喘ぐような吐息で精一杯で言葉を忘れたかの様に何も出てこない。

「何、して——」
「あぁ痛くはないんだ、痛覚は無くなってお腹も減らない、まるで意思のある爆弾だねおじさん。これはさっきよりも大きな爆発が起こるからそれじゃあそろそろ終わりに——」
「「レアーーーー!!」」



「おあああああ!? と、おぉ!?」
「よし、ここからなら解るだろう」

 露店前比較的に高い家の屋根に降りる。
 ここからなら爆発位置がしっかりと見えるだろう。

「ワシは何も見えぬぞ流石に」
「あぁ、俺が見る」

 内臓式指向性マイクとトライアングルアイの拡大機能を使って爆発地がどうなってるのか一瞬で把握できる。

「レアだ……火傷してる、のか?」
「何じゃと!? なら襲われているのか!?」
「そうだな……あの男に襲われているのか……腕を、爆弾に?」
「細かい事はよいから! レアが襲われているなら助けに行くぞ!!」
「……あぁ、データが欲しいと思ったがそれよりもレアの安全を確保する方が先決だな」

 深く考える事は止める。
 あの男がどうやってか分からないが致死レベルの爆発を起こせる以上ディータの言う通り助けに行くべきだろう。

「よし、それならまた飛ぶぞ、いいか?」
「うむ! ワシもレアの為なら覚悟を決めようぞ!」

 出会ったばかりの少女にここまで入れ込むのか、そう思ったが出会ったばかりでも関係ない。
 理由も無しに明らかに普通じゃない者に襲われている人を見て二人とも助けないという選択肢は誰であろうと無いだけだ。

「行くぞ!」
「おう!」

 阿吽の呼吸の様にディータがアレスに掴まりアレスが飛び出す。
 ここからなら屋根を蹴りながらら落ちれば最短で彼女の元へ飛び込んでいく。

「「レアーーーー!!」」

 二人が叫んだ時、男性がレアに腕を投げようとした瞬間だった。
 アレスとディータが飛び込んできてアレスが男の腕を蹴り上げて蹴り上げた腕に向かって発砲する。
 アレスの発砲で腕が空中で爆発しその爆風の中ディータがレアの前に立ち男性を睨みつける。

「え……アレス、さん? ディータ、おばあちゃん?」
「事情は把握しておる」
「ここは任せておけ」
「あれ……何だよ君たちは……」

 突然降ってきたアレスとディータにレアも男性も困惑している。
 周りの人は誰もが露店の商品すら捨てて逃げているのにその中に二人が飛び込んできたのだから。


「な、何で二人とも……! この人はアタシを狙って……!」
「知っている、だが納得はいかん」
「そうじゃの、誰の差し金じゃ? こんな年端もいかない幼な子を襲うなど……」
「誰のってそりゃ……あぁ~誰だっけ? 私を改造した奴が……改造、何で? あれ? 何で私腕が無いんだ?」

 チグハグな会話により一層警戒心を高める。
 明らかに普通の状態じゃないのに見た目はどこにでも居そうな痩躯の男性なのがより不気味だ。
 そんな男性にアレスは銃口を向ける。

「このまま去るなら追撃はしない、しかし来るなら容赦はしない」
「ダメなんだよ……私はその子を殺さないといけないんだ……何でかは解らないけど……殺せ殺せと命令されるんだ」
「理不尽極まりないのぉ……レア、離れるぞ」
「で、でもアレスさんは!?」
「アレス、いけるか?」
「俺なら大丈夫だ、なるべく周りへの被害も考える」

 傷を受けたレアを抱えてディータが走り出す。
 男性は勿論レアを追おうとするのだがその前にアレスが立ち塞がる。

「あぁ待ってよ……私は一人分を殺せる力が限界なんだ……」
「そちらの事情など配慮する気はない、コードW02……メリアスセイバー!」
《了解しました、メリアスセイバーを転送します》
「ん~?」

 システム音声の声と共に少し長めのステックの様な物を転送する
 男性はそれが何かを理解できず首を傾げるが。

「メリアスセイバー、起動(アクティブ)!」

 その掛け声と共に緑色に輝くΛ型の光が形成される。
 アレスのエネルギーを刃に変換する光学兵器、超熱量で切り裂く兵器だ。

「な、なんだそれ……剣、なのか?」
「お前が知る必要は、ない……!」

 地面を蹴って急接近、そして反転し勢いをつけて斬りつける。
 時間にして刹那の時間だがそれでも光である以上目で追うのは容易かったのか男性は反射的に腕で刃を受けようとしたが。

「ぐ、あ!?」
「だぁ!」

 腕は一瞬で切れた、しかし男性の切断部からは一滴の血も流れない。
 あまりの高温に一瞬にして切断面が焼けて傷口が閉じたのだ。
 アレスはそのまま切れた腕を真上へ蹴り飛ばす。
 先程の経験から何か熱や衝撃を与えれば爆発するのだと思ったが。

「何!?」
「く……! エールプティオー……!」
《未知の材質による熱源接近、脅威度、データに無いため不明》
「ぐ!?」

 落ちてきた腕がそのままアレスの上で爆発を起こす。
 衝撃では無く呪文による爆発、まるで魔法の様だ。

(データ解析……! 活動に支障は!?)
《ボディの損傷は0、戦闘活動に支障はありません》
「……む、無傷だと……? く、こうなったら……!」
「はっ!!」
「うご……!? か、が——ッ!?」

 喉元を、正確には声帯部分を一閃、声が出せない様にしてしまう。
 腕をなくした相手が次はどこを使って爆発を起こすなど関係ない、魔法であるのなら声を出させなくすればいい。
 しかし喉元を潰した以上相手はもう呼吸も出来ないだろう。
 アレスはそのまま何も言わずに男性の頭に銃口を向けて引き金を引く。
 声が出せない以上情報も聞き出せないし無駄に苦しめるのも良くない。
 銃撃の一瞬で名も無き男性は力尽きた。

「……ふぅ」
「おーい! こっちだ! 爆発があったんだー!」

 少し遠くの方から数人の足音が聞こえる。
 アレスは武器を転送しこの状況をどう説明したものか、と考えていたが。

「何をやっておるか! 早くこっちへ来るんじゃ!」
「む? 何故だ、この状況を説明しなければ……」
「こんな状況どうやって説明するんじゃ!? いいからこっちこい! 教会まで戻ってレアの手当をするぞ!」
「わ、わかった」

 ディータの勢いに押された感じもあるが確かにこの状況を説明するのも難しくレアの怪我もあるので流石に言う通りにする。

「レア、体は大丈夫か?」
「う、うん……ちょっと火傷しただけ……」
「後が残らぬ様にせねばな……全くこんな幼な子を狙うとはロリコンか?」
「「ろりこんって何(何だ)?」」

 聞いたことの無いディータの言葉に二人が首を傾げる。
 アレスの方は検索すれば出てきそうなワードだっただ何故かコスモAIが検索しない方がいい、と勝手に判断した。

「おほん、とりあえず。レアが謎の敵に襲われたのは事実じゃ……レア、お主の安全の為にも街の外に出て旅をする事で所在地を解りにくくしておくのが良いと思うのじゃが……本当はこんな形で連れ出すよりちゃんとした納得をさせたいのじゃが……」
「うぅん……そんな事ないよ……アタシ、二人についていく」
「「何(何じゃ)?」」
「ちゃんと自分で決めたよ? 襲われて誰かを巻き込むのは嫌だって言うのもあるけど……その、二人が……助けに、きてぇ、くれたしぃ……信用、してるぅ、よ?」
(何だ、何だこの……思考のざわつきは)
「ふふ、ふふふふふ……何じゃもうレアは愛いの~!」
「あいったたた!? ちょ、ちょっと角当たってる!?」

 顔を真っ赤にしながら、照れ臭いのか目線を泳がせるレアに緩みきった頬でディータが頬擦りする。

「のぉアレス! お主も可愛らしいと思うじゃろ!? じゃろ!?」
「……よく解らないが、レアが船に乗るのは悪いことではないと思う」
「これからも、よろしくね? と……一回帰って荷物とか取りに行かないと」
「それに、ウェスタ殿に挨拶も、じゃな……大事な娘を預かるのじゃから」

 三人ともが頬を緩ませながら新しい船員が増えた事に喜ぶのだった。
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