ヒトの世界にて

ぽぽたむ

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15話 【防空壕—ハカアナ—】

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「ん、んー……! ふぁ……む、もうこんな時間か……流石に起きるかの」

 朝日の眩しさにディータが目を覚ます。
 遺跡の発掘作業のまとめが無ければ早寝早起きも日常的だ。
 少し前まではアイギーナの遺跡を調べてはいたがあれは到底まとめられる物でもない。
 というよりペレウスに公表する事を止められてしまった。
 その分調査代は貰ったが何とももやもやした気分になる。

(まぁ流石にあの状況ではの……ワシが壊したみたいな物じゃし……あーいかんいかんこういう考えは良くない)
「先ずは顔を洗いにいくかの」

 ネガティブな思考はしたくない、自分はいつも自信満々に、ポジティブに生きていきたい。
 それがディータという魔族が生きる理由だから。

「んお? おーおふぁよーさん」
「歯磨きしながら挨拶するでないわ零れるぞ……」

 部屋を出るとちょうど頭を掻きながら、歯磨きをしてるファイスと目が合う。
 すまんすまん、ともごもごと歯ブラシを咥えながらノシノシ歩いていく。
 洗面所に向かうとなるとディータも同じ方向だ、付いていく訳ではないが同じ向きで歩き始める。
 一見すると大人と子供程の身長差がある二人だ。

「今は、7時前か……アイアイエーの島には夕方には到着するかの?」
「おー、ふぉんなにはえーのか? ふねだといっひゅうかんはかかんだお?」
「……あーすまぬ、先に口を濯げ」
「ふぉう」

 無理に答えようとするファイスに喋りかけてしまったディータも苦笑いする。
 なんというか、妙に律儀な男だった。
 洗面台で口を濯ぎようやく喋れるようになるまでの間少し間があったが歩いて体を覚ますのには丁度よかった。

「ふう、んでこの船ってそんなにはえーのか?」
「そうじゃな、陸を走っていた時はもう少し早かったらしいが港町にあった帆船よりは早いじゃろな」
「だな、アイアイエーっていうと無人島だけど船だと一週間だろ? 3日位はえーんだな」

 今の地点はイストモスより4日程船旅をした地点である。
 アイアイエー島には今日の夕方くらいには到着すると昨日アレスが話していたが、今の人類が使っている帆船とは二倍くらい速度が違うようだ。
 なおそれでもタロスがかなり旧型なので速度はそんなに出ていない、とアレスは言っていたがそれでも今の人類にとっては破格のスピードだろう。
 その他にもアルゴナウタイの船旅は驚きが多かった。

「そこはワシも驚いておるよ。それにアルゴナウタイは波で全く揺れぬしの」
「あーそうだな、俺船酔いしやすいのにそんな事もねぇし」
「なんじゃそうじゃったのか。実をいうとな……ワシもじゃ、ふふ」
「お、おぉ」

 ちょっとした仲間ができた事にディータが微笑む。
 その微笑みが、自分の惚れた女性のモノと重なってしまい思わず頬が熱くなる。
 そういうモノを重ねるのはウェヌスにもディータにも礼を欠いている行為だと解ってはいるのだがどうしてもそういう目で見てしまう。
 ファイスとて今まで女性経験が無かった訳ではないのだが本当に二人は瓜二つなのだ。

「ん? 何じゃどうした?」
「い、嫌、何でもねぇよ……おう、何でもねぇ」
「…………ワシをウェヌスと勘違いでもしたか?」
「ブボヘア!?」

 図星だった、完全に図星だった。
 あまりにストレートに言い当てられたので思いっきり咳き込むようになってしまう。
 これ以上油断したら多分炎のブレスを吐き出してしまったかも知れない。

「何じゃ図星か、ははは、面白い奴じゃのぉ主は。似とるのはずっと言われておったんじゃしその位は覚悟しておるわい、気にするな気にするな、何ならワシを抱くか?」
「な、なな、なん……」

 カラカラと笑うディータにドンドンとファイスの顔が赤くなっていく。
 自分が気にしていた事を見透かされた上、しかも自分を抱くか、とまで言われてしまう。
 男というのは悲しいもので、その一言だけでも彼女のあられもない姿を想像してまうものだ。

「だ、だだだ、抱かねぇよ!? いくらなんでも!?」
「ふーむそうか? ここ最近はご無沙汰なんじゃが……まぁええわい。お主のその純情は本人に届けるとよ――」
「皆、起きているか? 起きているなら直ぐに艦橋に着てくれ」

 突然入ってきたアレスの声、アルゴナウタイ全体に呼びかけている。
 何かあったのか、そう思いつつその場の二人も艦橋に向かって歩き出した。



「救難信号……!?」

 全員が艦橋に揃ってアレスの説明に全員が同じ聞き返しをする。
 救難信号というと今の人類に取っては導火線に火をつけて打ち上げる花火の様な物だが勿論そういった物ではない。

「あぁ、アイアイエーの島から救難信号の電波が出ているんだ。古いタイプの装置を使ってるから詳しくは解らないが信号だけが送られてきている」

 アレスがモニターにアイアイエーの地図を表示する。
 あまり広い島ではなく町と同じくらいの大きさだろう、その島の中央から波紋状に黄色電波が出ているのが解る。

「この島は無人島の筈じゃ……一体誰が?」
「まて、そもそもアルゴナウタイが見れる救難信号は500年前の救難信号じゃないのか?」
「その通りだクラトス、その事からこの救難信号を発しているのは500年前の人か、何らかの理由で救難信号を使った今の人類かも知れない」

 500年前の人だとして今も生きているのかは解らない。
 しかし今の時代でも生きている500年前の生きている人をこの場にいる全員が見たことがあるのだから救難信号を送った人が死んでいるとは断定できない。

「えー、と……そうなるとアイアイエーの島に遺跡があってそこから救難信号が出てるってこと?」
「そうデスねレア、今までアイアイエーの島は誰も人が住めまセンでした、その理由はアイアイエーの島が呪いの島と言われているからデス」
「呪いの島? どういうことだコレー」
「アレスには話して無かったかの? あの島に住んでいると体が不調を起こすんじゃよ、最初は風邪の様な症状なんじゃが段々と、そうじゃな一年以上住んでると例外無く死んでしまうんじゃよ」

 あまりに不可解な話だった。
 今の人類は500年前の人類より基本的に頑丈だ。
 世界中が500年前の核汚染の影響を受けているのでその放射能に対応する改造を受けた人類が祖先を残してきたのだ。
 余程強力なウイルスでもない限り今の人類が病気で死ぬことは先ず無い。
 そんな頑丈な今の人類が一年も住んでいれば死んでしまう島、それがアイアイエーの島だった。

「そんな島になっているのか……」
「なぁアレス、お前の中にある500年前の記憶だとアイアイエーの島はどうなってんだ?」
「私も気になります……アイアイエーの島は昔から誰も近寄れないですし」
「悪いが俺にアイアイエーの島のデータはあまりない、アイアイエーの島は俺の作られた国と戦ってた国の領土だったんだ」

 アレスを作った国と戦っていた国。
 2100年から始まってしまった第三次世界大戦、最初は小国の小競り合いだったのにそれがゆっくり、ゆっくりと5年かけて世界中の国を巻き込み最終的に二つに別れて何十年も戦い続けた。
 国も、人種も、何もかもを二分し人同士は争い続けた。

「なるほど、そうなると相手国……解りにくいの。アレス、お主の時代に相手の国はなんて言われておったのじゃ?」
「この戦争は無数の部族や国家を巻き込んでいたからな……相手の国はアカイアと名乗っていたな、そしてこちらはトロイアという名前が後期に付けられていた」
「聞いたことねぇ名前だな……なんか由来とかあんのか?」

 トリトの質問にアレスも少し唸るように考え込む。
 実は500年前の戦争が激化を始めた頃、世界規模で大きなサイバー攻撃があった。
 結果それまでに世界中のサーバーに保存されていた様々なデータが紛失、そのデータの復旧に関わっていた人間も戦争に巻き込まれて亡くなってしまった。
 それでもデータの復旧を人類は試みたのだが特に歴史に関する部分は大半が失われてしまった。

「過去にあった国の名前、らしいが俺にも良くわからない……同じように大きな戦争していたとも、聞くが……兎も角救難信号の調査をしたい。俺と後二人くらい、誰かついて来てくれないか?」
「それならワシとクラトスが良いじゃろうな、ワシは純粋にアイアイエーの島にある遺跡が気になるしエルフのクラトスなら木々に誰か来たのか聞くことができるはずじゃ」
「なるほど、クラトス、きてくれるか? 恐らく夕方から夜の探索になる」
「あぁ、問題はない」
「よし、後のみんなはアルゴナウタイの事を頼む、コルキスが見えたら旗を上げてくれ。あと自由行動とはいえあんまりアルゴナウタイから離れないでくれ? 何かあった時に島を出られなくなる」



「これは……もしかすると、この島で一年以上生きていけない理由が解った」
「なんじゃと?」

 アルゴナウタイを降りて少し歩いた地点でアレスが足を止めた。
 アイアイエーの島は呪いの島で人が一年以上住んでいると例外無く死んでしまうという事だった。

「クラトス、前に話した放射能の事を覚えているか?」
「あぁ、昔の爆弾で大地に根付いた毒だろ?」
「その影響がこの島は大きい、今の人類は放射能の影響を受けないと思っていたが……」
「ふむ? 大陸よりこの島の方が毒の影響が強いのか……となると今の人類は毒の影響を受けないのではなくて、毒の影響を軽減できるのではないか?」
「……いや、恐らく違うな」

 ディータの言葉に何かを閃いたのか、クラトスは少し思考に耽ってから顔を上げる。
 
「毒の影響を軽減、というより毒の影響を治癒できるんじゃないか? その治癒が間に合わないからこの島で住んでいると死んでしまう、実際半年住んでいた人がその後に大陸に戻って半年後も普通に生きていた事例がある」
「なるほど、恐らくそうだろう。今の人類は放射能の影響を受けても治癒が間に合う……しかし問題はその手段だな。ナノマシンでもそんな治癒は不可能な筈だ、俺の時代でも放射能の影響を受けにくいだけで治癒能力は無かった」
「ふーむ、これまた謎が一つ増えたのぉ……そうじゃ、クラトス。エルフの能力で何か解らぬか?」
「やってみよう……しばらく人は来ていない様だな」

 クラトスが木に触れて少ししてから手を離す。
 エルフの能力は木々から情報を得ることができるが木々と会話をしている訳ではない。
 性格には木々が受けた影響を感じる様に見ることができる。
 風が吹いて揺れたことを、人が歩いた振動を、爆発が起きたのなら熱波を、そんな様々な植物に起きた影響を知ることができる能力がエルフの能力だ。

「そうなると……今度は俺が、ふむ……大きな地下の金属反応は、この付近に一つと。島の反対側に一つだな」

 アイアイエーの島はそこまでの大きさは無い。
 辺りに沢山ある島の中では小さな方で、丸1日あれば歩きだけでも全ての場所を回れる程度だろう。
 島で生活していた前例があるならこの島の地下になにか無いかと金属反応のデータを取ったが丁度良いデータが取れた。

「ふむ、ならこちら側にある遺跡を調べてから反対側にも行ってみるかの」
「そうしよう、よし。日が落ちる前に近くの遺跡から調べ始めよう」

 夕日が水平線に沈んでいくのがここからでも解る。
 雲一つ無い空なので雨の心配も無いだろうかなるべく暗くなる前に遺跡に入っておきたい。
 松明やアレスの装備で明かりを灯すこともできるが物資やエネルギーはなるべく節約したい。
 しばらくは他愛の無い会話をしながら遺跡を目指しながら歩く事になるだろう。

「遺跡の規模は解らぬからどの位かかるか……島の規模的にはそこまで大きく無さそうじゃが」
「地下に大きな施設を作っている可能性もある以上、こう。とは言えないが……俺の記憶では500年前のこの辺りにも何かの施設は無かった筈だ」
「船で待たせている者に迷惑がかからない程度の大きさならいいが」

 まずは近くにある遺跡を三人で調べる事になるだろう。
 アレスのデータ内にもこの島に関する相手の国、アカイアのデータは無い。
 戦略的に役立たない島だったのでこの島に何かの施設がある、という情報すらアレスにとっては初耳だったのだ。
 そうして三人が島の捜索をしばらく進めていた時だった。

「ん? 二人とも、これを見てくれないか?」
「どうかしたのか?」
「何じゃ? アレス、何か見つけたのかの?」

 地図やデータが役に立たないので金属探知を主軸に辺りを捜索していたアレスが立ち止まる。
 アレスが立ち止まった場所は一見ただの岩に見える。

「この岩、金属反応がある……もしかすると、やっぱり。この辺りに入り口を隠しているパネルがある」
「おぉ!? 本当じゃ! この岩のこの部分が開くぞ!」
「成る程、こう隠されてはこの島に住んでいる時に見つからなかった訳だ……開けられるか?」
「ああ、この程度ならアビリティコネクターもいらない、暗号は無いようだし何らかの施設、とは思えないが……」

 岩に隠されたパネルを操作するとあっさり地面が開き始める。
 長い間隠されていたのだろう、雑草の根を引き千切り、土をボトボトと落としながら両開きの分厚い鉄板がスライドして地下への階段が現れる。
 しかしこの施設が何であるかはアレスにも解らない、戦術的価値の無いこの島になぜ地下の施設を作っていたのだろう。

「おぉ、この遺跡に何があるか、うむ! 楽しみじゃ、早く行こう!」



 階段を降りて行く度に、心が踊っていた筈のディータの顔が険しいものに変わって行った。
 それはクラトスもアレスも同じで、この階段を降りる度に何か嫌な予感がしていたからだ。
 階段を降り終わると上で地面を封じていた鉄板と同じ物が道を塞いでいた、これもパネルを操作することで簡単に開けられるだろう。

「開けるぞ」
「うむ、何やら変な感じがするの……暗いというか、空気が重い」
「500年は開けられてないからな、空気が重くなっているのかも知れないな……あんな分厚い鉄板を扉にするなんて、この施設は何なんだ?」
「俺も解らんな、こんな戦略的価値の無い島なのにまるで要人向けの防護設備だ……ここはいったい」

 扉を開けるとまずディータとクラトスは差し込んでくる明かりに目を細めた。
 明かり、地下の部屋なのに眩い光が部屋の中を照らしている。
 これはアルゴナウタイでも見た事がある光だった、電気を利用した灯りの一種だろう。
 部屋の中は不気味な程音が無い、白い壁にかけてある時計は音もなく秒針を動かしている。
 全体で見れば部屋の大きさはそんなに広くはない、真四角で縦横4メートル程の部屋にベッドが二つあり——

「ぅ、あ——!?」

 そのベッドに横たわっている、モノを見てディータが悲鳴の様な喘ぎ声の様な吐息を漏らす。
 アレスもクラトスも最初はベッドを見てもその物体を理解できなかった。
 枯れ枝のような茶色の細い物体がそこに置いてあるだけだと思っていた。
 しかしディータの一言でその物体が何であるかをようやく認識する。

「子供じゃ——子供の、死体じゃ。それも、二つ」
「なっ!?」
「……今確認した、二つの子供の、片方は、なんだこれは、枯れた子供の、遺体か?」

 クラトスもアレスも目の前の状況を理解できなかった。
 死体は二つ、片方は白骨化しており骨の大きさで子供だと解る。
 問題はもう片方の方だ、皮膚や髪の毛も残っており一見すると寝ている様にも見えるだろう。
 しかしその体は動くことはなく、呼吸が止まり目を閉じている。
 近くには枯れた観葉植物の枝がありその枝には子供の歯型で齧った後もある。

「……何じゃ、何じゃ……これは!? 何故、何故子供が死んでおる!? こんな、こんな酷い死に方を、なんで!?」
「落ち着け、これは……こんな姿で人が死ぬなんてあり得るのか? 俺のデータベースにもそんな記録はない」
「……奥に部屋がもう一個あるな、そっちも調べてみよう」

 今にも泣き崩れそうなディータの肩にアレスが手を置く。
 子供の事になるとディータは感情が抑えられないのでこうなってしまうとクラトスは驚く暇も無くむしろ冷静になる。
 今ここで何が起きていたのか、それを確かめるのが先だった。
 クラトスはこの部屋の奥にもう一つ小さな部屋があるのを見ており事態を把握するために歩みを進める。

「ディータ、行こう。ここで何が起きたのか調べなくてはならない」
「ぐ、う……解った。すまぬ、ちょっと、手を貸してくれ……一人では、耐えられぬ」
「あぁ、クラトス、そっちはどうだ?」
「……ダメだ、何かのゴミと大人二人の白骨死体があるだけだ」

 クラトスの言うゴミに目を向ける、そのゴミは内側が鏡の様になっている小さな袋だ。
 その袋にアレスは見覚えがある。

「これは、携帯用の食料だな……もしや、ここは防空壕か?」
「防空壕?」
「敵の攻撃に耐えるための洞窟だ……クラトス、あれは?」
「む?」

 アレスが部屋を見渡すとゴミにまみれて一冊の手帳が落ちている。
 中身は文字が書かれており、どうやら日記ようだ。

「日記、か? 古代語で書いてあるな」
「俺が読もう……核戦争の影響で地上が汚染されて地上は我々の住めない場所になった。
遠い島国のここですら核汚染は酷く、最早地上は人間の、否生物の住める場所では無いだろう。
このシェルターは核汚染から我々家族を守り人が生きるには十分な生活設備が残っているが逃げる途中に二人の孤児を助けたのもあって食料だけは多くを用意出来なかった。
我々は子供を残して餓死する事を選んだ、妻と共に悩んだ末決めた事だ。
戦火に巻き込まれて亡くなった我が子らと同じぐらいの年齢の彼らを捨てる選択など出来ない。
外に出れはしないがこの島には使われなかった戦略核兵器が残されている。
アカイアにとって、既にこの島に戦術的価値は無くなったのでこのシェルターに篭って大人しくしていれば攻撃も来ないだろう、だから戦略核兵器誘爆の危険はないと思われる。
しかしこの島にあるナノマシンがいつまで動いてくれるか解らない。
時間が経てば、もしその時間が経っても戦略核兵器が残っていたとして、何かの拍子に信管が起動してしまうかも知れない。
そうすればこの島はあっさり吹き飛んでしまうだろう。
我々は、人類はなぜ核兵器などを発見してしまったのだろう。
最早意味など無いだろうが頼む、私達夫婦の命は捨てた。
だからせめて子供達を、子供達を助けて欲しい。
救助隊さえ来てくれればきっと、きっと子供達は助かる筈だ。
この日記を見てる誰か、子供達を助けて欲しい。
そして、あの忌々しい核兵器を破棄して欲しい。
もうペンを握る力もなくなってきた、ティモルよ。
あの子を、頼む……」

 アレスが読み上げてる内にも、ディータはその瞳から涙を落としていた。
 あの子供二人は餓死したのだろう、外は放射能に汚染され出ることができない。
 救助隊を待って少ない食料で食い繋いでたがそれも限界がきて観葉植物までもを食べて、それでも助けは来ずそのまま餓死したのだ。

「なんじゃ、なんじゃ……こんな、こんな残酷な! 戦争とは、こんなにも酷い結果を生むのか!? 小さな子供までも飢え死にさせて戦っていたのか!?」
「……恐らく戦争末期の核戦争状態の時だな、500年前の人には放射能に耐えられない。外に出ても死んでしまう」
「前に言ってた毒の話か……やりきれんな。これが、500年前の戦争の残酷さか」
「核兵器……あの村一つを消しとばす様な兵器が、ここの子供達を……!」
「嫌な話だが……それが戦争だった、老人も、若者も、男も女も全てが平等に殺されていった……待て、まだ追記がある」

 手帳にまだ文字が書いてあるのを見つけてアレスがページを捲る。
 これ以上何があるのか、そう思わずにはいられなかった。



「…………あれ?」

 アレス達が探索に出て少し後、アルゴナウタイで待っていたファイスが窓の外を見て首を傾げる。
 今、何か見慣れたモノが見えた様な気がする。

(あれ? あの羽は、確か……ハルピュイア、か?)

 アイギーナの街にいた自分の部下の一人、その一人が持っていた羽と似ていた。
 自分と同期で同じ様に騎士団として街を守ると誓った同期の仲間。
 ハルピュイア、性別も種族も違ったがそんな彼女とは確かな友情を育んでいた。

「見間違いか? 嫌、しかし——」

 彼女は騎士団として共に戦い、怪獣との戦いで行方不明になっていた。
 死んだ、とは今でも思っていない。
 死体も見てないし彼女がそんな事で死ぬとは思えなかった。
 だから、その彼女の影が妙に気になった。

「あれ? ファイスさんどこかに行くの?」
「ああレアちゃん、ちょっとその辺まで行ってくる。なぁに直ぐに戻るさ」

 アルゴナウタイの入り口までレアにだけすれ違った、後でアレスには外出を咎められるかも知れないが謝れば十分だろう。
 今は友人のハルピュイアが気になる、この島にも怪獣はいるかも知れないので念の為自分の愛用している武器を持ってファイスはアルゴナウタイから外に出た。
 それが、彼の運命を決定付けるとは、誰にも解らなかっただろう。

「お~い、お~いハル~? お前か~?」

 あだ名で呼び合う仲だったハルピュイアの影を追って森を進んでいく。
 丁度アレス達が探索している場所の反対側になるだろう。

「お~い、お、おぉ!? おおハル! やっぱりハルじゃねぇか! って、あれ!?」

 森の中で彼女の背中をようやく捉える。
 しかしハルピュイアは背中の翼を利用し飛び上がってしまう。
 その速度は正に疾風、風の様に素早い動きは彼女が彼女である証だ。

「聞こえなかったのか? お~いハル~! 待ってくれよ~!」

 そんな彼女を追いかけて、ファイスは奥へ奥へと進んでいく。
 既に夕日が落ち掛ける中ファイスは凄まじい速度で飛ぶハルピュイアを見上げて走り出す。

(はは、なぁんか懐かしいぜ。あの頃もこうやって稽古帰りにアイツやコレーと競争したな……!)

 あの頃を思い出すように走り続ける。
 どの位の時間走っていただろうか、何時の間にかアルゴナウタイから結構離れてしまっていた。
 しかしその事をうっかり忘れてしまうくらい彼女の姿を追いかけていた。
 その関係に恋も愛も無かったが確かな友情があった、だから彼女が行方不明になった時はずっと心配していた。
 親方であるペレウスは彼女が旧人類に拐われたのでは、と言っていたがそんな簡単に彼女が捕まるとはファイスはどうしても思えなかった。

「お! やっと降りた! 前より飛行距離上がったんじゃねぇかあいつ、おーい! ハル! 俺だよファイスだよー!」

 もう日が落ちようとしている中、ハルピュイアは森を出た場所にある少し広い草原に降り立つ。
 本来なら息切れをしてしまいそうな程の距離を走ったがレッドドラゴン族のファイスには丁度いい運動だった。
 ぼんやりと辺りを見渡している彼女の表情は見えないが太陽の様に笑う彼女の笑顔は今でも忘れられない。

「今までどこ行ってたんだよ! 親方もみんなも心配して——」

 グルン、とハルピュイアの首が真後ろに回った。
 勿論この様な動きを魔族であっても彼女ができる筈もない、それに彼女のその表情を見た瞬間、全てが凍りついた。
 彼女の宝石の様に美しかった金色の目は濁って光のない目で顔中に縫い目の様なモノができている。
 明らかに、正気じゃない、その証拠に。

「う、おう!?」

 咄嗟にハンマーの柄の部分を構えた事で何とかその不意打ちを防ぐことができたが体が大きく持ち上がる。
 ハルピュイアの腕が鞭の様にしなりファイスを襲ったのだ。
 ハルピュイアが攻撃をしてきた事も驚いたが防御した感覚にも驚いた。
 腕を叩きつけてきた筈なのにハンマーの金属部分とぶつかった時に高い金属音が鳴り響いた。

「は、ハル!?」

 咄嗟とはいえレッドドラゴン族である自分をこんなに軽々と持ち上げるなど以前の彼女からは考えられない怪力だった。
 何が、何が起きているんだ、と目の前の事態にを理解するより前に、目の間の彼女は口を開いた。

「ニンゲン……殺す……」



「この島に残されている戦略核兵器の種類が解った……戦略核兵器の名前は…………あ? な、なんだと!?」

 手帳に書かれている文字を見たアレスが珍しく狼狽える。
 突然の大声にクラトスもディータも何事かとアレスの方を見る。
 彼が人だったのなら冷や汗を流すような事実がその手帳には書いてあったのだから。

「な、なんじゃ!? これ以上この島に何があるんじゃ!?」
「どうした、お前が狼狽えるなんて珍しいな、何があった?」
「少し待っててくれ……!」

 狼狽えながらも行動は素早く行わなければならない、一手でも間違えれば自分ですら消し炭になるだろう。
 全力でアレスの中にある演算システムを利用し慎重に、しかし迅速に行動しなければならない。

(search、この島の金属反応、そして金属識別はなんだ!?)
『……識別不可能、金属反応はありますが識別は不可能です。そうか分かりました、この島の放射線濃度が高いのはこの戦略核が臨界状態だからです、手帳に書かれている通りなら、この戦略核兵器はもういつ――』
(解っている!! 今まで爆発しなかったのはナノマシンが抑えていたからだ! それすら何時まで持つか解らん!)
「二人とも、直ぐにこの島を離れるぞ……! この島に残されてる核兵器は、GFoR64718この島を根こそぎ破壊するレベルの爆発を引き起こす核爆弾だ!」

 その一言に、クラトスもディータも背筋に冷たいものが突き刺さるような感覚がする。
 GFoR64718、その名前の戦略核兵器はかつてある国の3分の二を焼き尽くした大火になぞらえて名付けられた核兵器だ。
 500年前に作られたその戦略核兵器はかつて大都市の一つを焼き払い、地形をも変えてしまったレベルの破壊力を持っていた。
 そんな人類の残した遺産の一つが、新しい人類に牙を向く時が来てしまった。
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