「刀には竜、花は咲かず」~孤独なおっさん武術家と毒舌アイドルの異世界タッグ~

アサバハヤト

文字の大きさ
13 / 152
第〇章 刀の巻 プロローグ

0-12 UFOマニア

しおりを挟む
 彼の髪は、安っぽい赤い染料で染められたもので、群衆の中で異質な色彩を放っていた。小太りな体型は、しかし、どこか憎めない丸みを帯びており、彼の身につけているもの全てが、彼がアニメオタクであり、熱心なUFOマニアであることを雄弁に物語っていた。彩度の高いアニメキャラクターのプリントされたTシャツの上には、同じアニメのキャラクターを模したフード付きパーカーが、まるで彼のアイデンティティを主張するように羽織られている。ダメージジーンズは、彼の反骨精神の表れか、単なるファッションセンスの欠如か。足元で異彩を放つエイリアン柄のスニーカーは、彼にとっての勲章なのだろう。彼の周囲には、彼独自の、少し浮世離れした世界観が漂っていた。彼の派手な服装は、内なる不安を隠すための鎧のようにも見えた。



 「どういうことだ!窓側を頼んだはずだろうが!通路側じゃないか!高い金を払っているんだぞ!」——彼の声は、まるで癇癪を起こした子供のように跳ね上がり、興奮した唾が周囲に飛び散った。

 「申し訳ございません、山田様。」——若いグランドクルーは、困惑した表情で何度も頭を下げた。代替席がないことを悟った山田は、まるで切り札のようにファーストクラスのチケットを握りしめた。

 「いいか、君たちは分かっていない!僕は、今回のフライトで、空を舞うと噂の黒いドラゴンの姿を捉え、その決定的瞬間を世界に実況する第一記録者となり、一躍、偉大なユーチューバーになるという壮大な計画があるんだ!それが、君たちの些細なミスで台無しになるかもしれないんだぞ!一体どう弁償してくれるんだ!」——彼の声は、自己陶酔的な熱を帯びて膨らみ、大きな腕が意味もなく宙を掻いた。

 グランドクルーは、山田の奇妙なクレームに苦笑いを浮かべながら、事務的な謝罪を繰り返した。周囲の乗客たちは、この騒動をまるで劇場の一幕でも見るかのように、興味津々の視線を送っていた。山田のけばけばしい外見と、常識を逸脱した言動は、彼らを一種のエンターテイメントとして捉えさせているようだった。

 周囲の視線に気づいた山田は、したり顔で待合室の中央に歩み寄り、まるで舞台役者のように周囲を見回しながら、大仰な口調で語り始めた。「皆さん、この世界で起きている異変に気づいていますか?大型船、民間機、そして自衛隊のヘリコプターまでが、次々と消息を絶っているのです!これは、間違いなく、空を舞う黒いドラゴンの仕業なのです!」——彼の声は、自信に満ち溢れ、伸ばされた指先が虚空を鋭く切り裂いた。彼は、壮大な陰謀論に心酔し、言葉の一つ一つに異様な力を込めた。

 「僕はこの半年間、少なくとも百件以上の事件を独自に調査してきました。そして、驚くべきことに、全ての事件現場で、その黒いドラゴンの目撃情報があるのです!今や、それは単なる噂話ではなく、僕たち人類にとって、深刻な脅威なのです!」——彼の語気はますます高まり、興奮した息が熱を帯びて彼の言葉を後押しした。

 「僕の親友も、その犠牲者の一人でした……。美しく、コスプレを愛する彼女は、楽しいパーティーの最中、突如現れた黒いドラゴンに襲われ、無残にも命を落としたのです……!」——彼は、芝居がかった嘆息を漏らし、その悲劇的な語りに、周囲の空気が一瞬、重く沈んだ。

 「だからこそ、僕はこのフライトで、必ずや黒いドラゴンの姿をカメラに収め、その決定的瞬間を世界に配信する第一人者となり、誰もが知る偉大なユーチューバーになるのです!しかし、このような初歩的なミスで、僕の壮大な目標が潰えてしまうかもしれない!一体、どう責任を取ってくれるんだ!」——彼の叫びは、悲痛なほどに高く跳ね上がり、握られた拳が怒りで小刻みに震えた。

 彼の熱弁に、待合室には言いようのない不安が広がり始め、見えない重圧が人々の肩にのしかかった。

 「自衛隊のヘリが宮古島で消えたってニュースで見たな。」

 「まさか、都市伝説だろ?」

 「ただの遭難事故じゃないのか?」

 「ママ、ねえ、私たちもあんなドラゴンに襲われちゃうの?」——幼い子供の震えるような泣き声が響き、乗客たちの不安げな呟きが、ざわめきとなって広がった。

 その時、張り詰めた不安な空気を切り裂くような、凛とした美しい声が、山田の独演会を遮った。華奢なシルエットでありながら、その声には確固たる強さが宿っていた。数時間前に確かに聞いた覚えのある声が、山田に向かって鋭く放たれた。

 「おい、いい加減にしろ!」——振り返ると、そこに立っていたのは、美しい黒髪が風になびき、洗練された服装が目を引く、小槻瑚依だった。何度見ても、彼女の隙のない美しさには感心してしまう。

 ……また、あの女か。腐れ縁とは、まさにこのことだろう。俺は、思わず顔をしかめてしまった。

 小槻は、意志の強そうな細い唇を固く結び、射抜くような黒い瞳を山田に据えていた。



 「その頭、100均のスプレーで染めたみたいな安っぽい赤、ダサすぎて目が痛いんだけど? しかもそのTシャツ、推しキャラの顔が引き伸ばされて悲鳴上げてるよ? パーカーまで重ね着して、アニメ愛アピール必死すぎ! ダメージジーンズもさ、反骨精神じゃなくてただのセンス壊滅宣言じゃん! エイリアン柄のスニーカー? うわ、宇宙人にすら同情されるレベル! んで、黒いドラゴンとかユーチューバーとか、どこの陰謀論沼から這い出てきたの? ファーストクラスのチケット握り潰して喚く前に、自分の人生のバグ直したら? アンタの『壮大な計画』、Xでバズる前に即スルー案件だから!」——小槻は、冷たい光を宿した瞳で山田に一歩近づき、その言葉は、まるで鋭いナイフのように彼の自尊心を抉った。待合室の乗客たちがスマホを構え、#空港ドラゴン男 なるハッシュタグでXに投稿を始めた。若いオタク風の少年は一瞬同情の目を向けたが、隣のスーツ姿のビジネスマンが「うるさい」と舌打ちして目を逸らした。

 「な、何だってんだよ、あんた! まさか、ドラゴンの手下か何かか!? 僕は、真実を明らかにして、人々を守るためにここにいるんだ! UFO連盟の名にかけて、絶対にその姿をカメラに収める!」——山田は、必死に声を張り上げたが、彼の額には脂汗が滲み、握り潰したチケットが震えていた。小槻の射抜くような視線に、徐々に気圧されていく様子が明らかだった。グランドクルーが一歩踏み出し、騒動を収めようとしたが、小槻の勢いに圧され、困惑した笑みを浮かべるしかなかった。

 「おいおい、ちょっと待てよ、アンタのその喚き声、雑魚モンスターの断末魔みたいで耳障りすぎ! 黙れって言ってんの、聞こえてる? ったく、いい加減その陰謀論キメた脳みそログアウトしろよ! コスプレ美女の親友? ハッ、コミケで『一緒に撮ってください!』って土下座して撮った自撮り、フォルダの奥で埃かぶってるだけだろ? 財布に写真入れて『彼女は僕の運命の人!』とか妄想して、夜な夜な枕濡らしてんじゃねえよ、キモすぎ! 親友って設定、Xでさえ誰も信じねえよ! つーか、アンタのその『黒いドラゴン追うぜ!』とかいう底辺ユーチューバーの夢、再生数3桁すら無理なゴミコンテンツ確定だから! 現実見ろよ、哀れなオタクの星も落ちるとこまで落ちてんぞ!」——小槻の声は、まるで容赦ない鞭のように山田を打ち据え、彼女の唇には嘲笑が浮かんだ。乗客の中には動画を撮りながら「これバズるわ」と囁く者もいれば、年配の女性が「可哀想に」と呟く声も聞こえた。

 どうやら、小槻の毒舌は、山田の最も触れられたくない核心に触れてしまったようだ。山田の顔はみるみる歪み、額からは冷たい汗が噴き出した。彼の唇はわななき、声は喉の奥で詰まって出てこない。

 「ねえ、勝手に黒いドラゴンとかいうオタク脳の幻覚追いかけてろよ、別に誰も止めねえから。ただし、そのダサいエイリアン足で周りに迷惑かけんなよ? このまま喚き散らしたら、Xで『痛い陰謀論おじさん』として晒されて一発アウトだぞ? ファーストクラスのチケット振り回す前にさ、鏡見てその100均ヘアと推しが泣くTシャツどうにかしろ。警察沙汰になる前に、アンタのバグった人生、せめてログアウトしときな!」——小槻の冷たい瞳が山田を射抜き、その声は、まるでネットの辛辣なリプライのように彼の自尊心を完膚なきまでに叩き潰した。

 その時、心配そうな表情を浮かべた宮崎真理絵が、慌てて小槻の手を掴み、騒ぎの中心からそっと引き離した。

 「……くっ、でも……ドラゴンは……僕のカメラが……世界に真実を……」——山田は、まるで抜け殻のように肩を落とし、蚊の鳴くような声で呟きながら、エイリアン柄のスニーカーを引きずって後ずさった。グランドクルーがようやく前に出て、「山田様、席の件は改めて調整いたしますので……」と事務的にフォローしたが、その声はどこか気の抜けたものだった。

 張り詰めていた空気がようやく緩み、乗客たちの間からは、呆れと笑いが混じったざわめきが広がった。ある女子高生は「マジでXに上げちゃおうかな」と友人に囁き、ビジネスマンは「こんなのにファーストクラス乗られるなんて」とぼやいた。
 
 ……全く、やれやれだ。

 その時、スピーカーから、落ち着いたアナウンスが流れてきた。「お待たせいたしました。只今より、17時20分発、フォルモサエアウェイズ221便と龍神航空5043便、タイペイ行き共同運航便の搭乗を開始いたします。まずはお子様連れのお客様、お手伝いの必要なお客様、ファーストクラス、ビジネスクラスのお客様から、右側の搭乗口へお進みください。スタッフがご案内いたします。機内持ち込み手荷物は、サイズ制限にご協力をお願いいたします。パスポートと搭乗券をご用意の上、搭乗口までお越しください。皆様の空の旅が、思い出深いものとなりますよう、心よりお祈り申し上げます。」——その声は、騒がしかった待合室に、静かに響き渡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~

厳座励主(ごんざれす)
ファンタジー
「英雄なんて、もう二度とごめんだ」 ダンジョン出現から10年。 攻略が『配信』という娯楽に形を変えた現代。 かつて日本を救った伝説の英雄は、ある事情から表舞台を去り、ダンジョン攻略支援用AI『アリス』の開発に没頭する裏方へと転身していた。 ダンジョンも、配信も、そして英雄と呼ばれることも。 すべてを忌み嫌う彼は、裏方に徹してその生涯を終える……はずだった。 アリスの試験運用中に遭遇した、迷惑系配信者の暴挙。 少女を救うために放った一撃が、あろうことか世界中にライブ配信されてしまう。 その結果―― 「――ダンジョン嫌いニキ、強すぎるだろ!!」 意図せず爆増するファン、殺到するスポンサー。 静寂を望む願いをよそに、世界は彼を再び『英雄』の座へと引きずり戻していく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

おっさん冒険者のおいしいダンジョン攻略

神崎あら
ファンタジー
冒険者歴20年以上のおっさんは、若い冒険者達のように地位や権威を得るためにダンジョンには行かない。 そう、おっさんは生活のためにダンジョンに行く。 これはそんなおっさんの冒険者ライフを描いた生活記である。

処理中です...