「刀には竜、花は咲かず」~孤独なおっさん武術家と毒舌アイドルの異世界タッグ~

アサバハヤト

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第〇章 刀の巻 プロローグ

0-26 追憶:浅羽隼人

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 東京行きの飛行機を待つ2日前、再開発で周囲を高層ビルに囲まれた街の狭い空き地に、俺は一人佇んでいた。足元には中国武術部の部員たちがバラバラに倒れ、呻き声を上げてやがる。部長が血まみれの顔で膝をつき、俺の前に這いつくばってた。「頼む……もう勘弁してくれ……これ以上俺たちをいじめるな……!」——涙と鼻水で汚れた顔が震え、哀れな声が響いた。

 俺は無言でそいつを見下ろし、右足を振り上げた。次の瞬間、部長の胸に一発叩き込み、仰向けに吹っ飛ばした。倒れたそいつの顔に足を乗せ、踵を鼻にグッと押し込んだ。鼻が潰れる音が小さく響き、部長が「うぎゃっ!」と叫んで顔を歪めた。俺はそいつのジャケットから財布を引っ張り出し、中の札を全部抜き取った。空っぽの財布を顔に叩きつけ、冷たく言い放った。

 「武を習う奴が、自分がいじめられたなんてよく言えたな。」——部長が俺に言った言葉を、そのままそいつに返した。

 血だらけのフードを脱ぎ、近くのゴミ箱に叩き込んだ。生ゴミの臭いが鼻をつき、血の鉄臭が手に残った。俺は手を振って汚れを払い、足音を響かせて居酒屋に向かった。

 俺は独り、Kとよく通った居酒屋へ足を運んだ。彼女のお気に入りの席に腰を下ろし、二杯のウィスキーロックを注文した。

 顔なじみの大将は、俺が失恋したと勘違いして、ため息をつきながら二杯の酒をテーブルに置き、俺の肩を叩いてから厨房へ戻った。

「先輩、私を送るならお酒飲んじゃダメだよ!」——と小さな口を尖らせて抗議するKの声が、まるで目の前にいるかのように感じた。「この二杯は私のだからね!親父、私の彼氏にウーロン茶をお願い!」——Kが笑顔で言っているのが、今も耳に残っている。



 病弱な体に似合わず、酒には強かった彼女。「何だよその顔!今『病弱のくせに』って思ったでしょ!私の目には誤魔化せないよ!先輩!」——と笑いながら言い放つKの面影が脳裏に浮かぶ。

 不思議な女だった。

 酔ったせいか、眠くてかすんだ視界の中、大男の姿が現れた。彼は俺の許可も得ず、椅子を引いて、Kのいた位置に座った。「席、空いてるな。」——松尾真一郎の声が耳に届いた。

 2日後、飛行機が東京に飛び、山岡先生と松尾先輩がそばにいた。「翔龍館」の門が目に映り、修行が始まった。「浅羽隼人」って名前が唇から出て、新しい人生が胸に落ち着いた。

 警察?信用できるのか?法律?法律は信用できるのか?家族?恋愛?友情?神様?

 この世界で、自分以外に何が信用できるのだろうか?

 「自分こそ正義だと自惚れてしまったら、人はどんな悪魔にもなれるのじゃ。いくら強力の力を得ても、その一線だけ、ぐれぐれも越えないよう、気を付けるじゃぞ。」——外祖父の声が耳に響いた。

 「武道家は自分の意志で力の向かう方向や出力をコントロールし、結果を支配することができる。ただ結果に流され、暴力を振るいながら一生の後悔を背負うような人間にはなってほしくない。」——項師父の言葉が胸に突き刺さった。

 「甘ぇな。この世界は子供の漫画じゃねえ。信念なんざ、絶対の力の前じゃ空っぽだ。信念は強さのオマケに過ぎねえ。」——山岡先生の冷たい声が頭に響いた。

 外祖父も、親父も、母ちゃんも、項師父も、みんなくそくらえだ。山岡先生の言う通りだ。こんな事態を引き起こしたのは、全部俺の甘さのせいだ。
 
 「今回は許してやるから、これからは二度と私たちの前に現るな。」——といった台詞は、悪人に続けて自分を虐げることを願っている天真爛漫な馬鹿者だけが言う言葉だ。

 武術とは、究極の暴力技術を追求するものであり、その暴力を繰り出すべき相手は、世界中に散らばり、政府や法律では制裁できず、罪深い人間のクズたちだ。人を傷つけるのは間違いであり、人を殺すのも間違いだが、悪人を野放しにし、彼らにさらなる犠牲者を増やすチャンスを与えることこそ、許しがたい罪だ。

 少なくとも、俺には耐えられない。

 汚物は消毒だ。

 俺は善人になる必要はなく、もはや善人になることを望まない。もし悪人は善人には手が届かないのなら、悪人に立ち向かえる極悪人になろう。

 俺は——。
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