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第〇章 刀の巻 プロローグ
0-32 流れ者
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「皆様、こちらは機長の王泰陽(おう・たいよう)です。まず、先ほどの緊急事態でご心配と混乱をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。皆様の安全が最優先であり、そのために全力を尽くしてまいりました。幸い、事態は収束しました。機内の松尾警部の素晴らしい対応と皆様のご協力により、ハイジャック犯は無力化され、大きな怪我人も出ませんでした。現在、最寄りの空港へ向けて飛行中です。到着後、専門家が機内に入り、詳しい調査を行います。それまで、現在の座席でお待ちいただき、何も触れないようお願いします。この非常事態へのご協力に心から感謝申し上げます。そして何より、皆様の安全が確保できたことに安堵しております。今後も安全なフライトを提供できるよう尽力します。ご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。」
ハイジャックが収まったと知らされ、乗客から安堵の息が漏れた。その中で、松尾警部が後始末を引き受けてた。手錠を取り出し、佐藤の手首に素早くかけると、客室乗務員の協力で毛毯、ロープ、テープを使ってガッチリ縛り上げ、必要な応急処置を施した。
次に松尾が向かったのは、共犯のCA、楊雅喬の遺体だった。彼女の体は機体の壁際に崩れ落ち、血溜まりが床に広がってた。松尾が無線で指示を仰ぎ、客室乗務員数人と毛毯を持ってきて遺体を覆った。血の臭いが立ち込める中、遺体をそっとギャレーの一角に移し、乗客の視線から隠した。「これ以上混乱させねえようにな。」——松尾が呟き、額の汗を拭った。
続けて、松尾がノズミちゃんに近づいた。佐藤に弄ばれた彼女の痛みを和らげるように頭を軽く撫で、避難時に落ちたウルトラマンの人形を手に戻した。「大丈夫だよ、もう心配いらねえよ。」——安心させるように笑顔で言った。
その後、松尾は乗客一人ひとりに冷静に声をかけた。「皆さん、落ち着いてください。怪我した人は手を上げてください。」——客室乗務員と一緒に、安全確認と怪我人のチェックを進めた。
松尾が俺の前に来た時、右腕のナイフ傷に目が留まった。「浅羽、その腕、大丈夫か?」——俺が頷くと、松尾が客室乗務員に指示を出した。榊原さんが救急キットを持ってきて、傷口を消毒液で洗い、ガーゼを当てて包帯を巻いた。包帯がきつく締まり、傷口がズキズキしたが、血は止まった。「これでしばらくは持つよ。」——榊原さんが小さく微笑んだ。俺は無言で頷き、腕を軽く動かして確かめた。
松尾は無線機を何度も手に取り、地上の警察や航空局に状況を報告し、指示を仰いだ。専門家と情報をやり取りして、適切な対応を確保してた。
最後に、証拠保全のため乗客に指示を出した。「皆さん、今の席から動かねえでください。何も触らねえでください。現場を保つためです。」——客室乗務員と協力し、犯罪現場となった機内の状況を記録し、写真を撮った。
この騒動で一番の功績を上げたのは、ペット専用キャビンから逃げ出したカピバラの「ナルト」君だった。ファーストクラスの飼い主の男に高く抱き上げられ、乗客全員の前で誇らしげに称えられた。「よくやった!ナルト君!ハイジャック犯を倒した大英雄だ!」
ファーストクラスの乗客がナルト君に拍手と歓声を送った。
俺と瑚依は指示に従い、席に戻った。ファーストクラスに着くと、多くの乗客が立ち上がり、俺たちに拍手を送ってきた。ハイジャック犯に立ち向かった勇気を称えてた。UFOマニアの山田がスマホで俺たちを撮り始めた。
でも、拍手と歓声のほとんどは瑚依に向いてた。ビジネスクラスの乗客は、俺が佐藤に脅されてるのと、瑚依が消火器で佐藤を叩くとこしか見てねえ。その後、ファーストクラスやエコノミーに避難して、事件の全貌を知らなかった。松尾の協力で収束は隠され、佐藤を撃ったのは松尾ってことにした。松尾がこっそり俺と発砲済みの拳銃を交換したんだ。
視線が瑚依に移った。彼女の綺麗な顔は青白く、疲れが浮かんでた。宮崎真理絵がゆっくり近づき、温かい毛毯で瑚依を包み、細い体を優しく抱き寄せた。
瑚依の頬に涙が一滴浮かんでた。宮崎が耳元で何か囁くと、瑚依は力を抜いて身を委ねた。
その時、ギャレーのカーテンが開き、榊原さんが俺をこっそり呼んだ。仕方なく近づくと、彼女が2つのカップを渡してきた。見ると、ホカホカのホットココアだった。
「え?」——俺が驚いた顔で彼女を見た。
「すみません、これは浅羽さんのためじゃありません。」——榊原さんが微笑んだ。「小槻瑚依さんに渡してください。」
「なんで俺が?自分で渡せばいいだろ。」
「浅羽さん、あなたと彼女は一緒に危機を乗り越えた仲間です。この機会に、もっと絆を深めるのもいいんじゃないですか?」——榊原さんが口元を押さえ、ニコッと笑った。
「……」——俺は2つのホットココアを見つめ、どう返せばいいか分からなかった。
仕方なく、ホットココアを持って席に戻った。1つを自分のテーブルに置き、もう1つを瑚依の前にそっと置いた。
瑚依が目を丸くして俺を見上げた。ファーストクラスの広い席のおかげで、隣の宮崎さんが何か分かったような、安堵の笑みを浮かべてた。
「ほら。お前の分だ。」——俺が無表情で言った。「ゆっくり飲め。」
「浅羽さん、瑚依から話を聞きました。」——宮崎さんが感謝の目で俺を見た。「私たちは口外しません。今日、二度も命を救ってくれて、本当にありがとう。」
でも、宮崎が話し終わる前に、俺は席に戻ろうと体を動かした。
「待って。」——瑚依が呼び止めた。声はまだ震えてて、弱々しかった。
「……何か用か?」——振り返らずに答えた。
「……あの時、なんであんなに怒ってたの?」——瑚依が数秒ためらって聞いた。「その男は確かに許せねえことした。でも、あなたはまるで…」
「まるで奴を殺したいみたいだったってか?」——俺が言葉を遮った。
「……うん。」——瑚依が静かに頷いた。
「実際、奴はまだ生きてる。」——皮肉を込めて言った。「だから安心したろ?そんなクズでも心配するなんて、立派な優しさだな。見舞いに行ってみな。」
「違う!心配してんのは奴じゃねえ!おっさんのことだよ!」——瑚依が即座に反論した。
「俺が?」
「空港でチンピラ二人をやっつけた時もそうだった。おっさんの腕前なら、もっと楽に片付けられたはずだろ……」——瑚依の声が焦ってた。何を言いたいのか、自分でも探してるみたいだった。
「それがどうした?俺はお前にとっちゃ、ただの流れ者だ。飛行機降りたら、もう会うこともねえ。」——冷たく言った。「この悪夢みたいな日を忘れて、お前には——」
「何でそれがいいことに繋がるんだよ!バカ!人間関係って、そんな簡単に切れるもんじゃねえ!年上なのに、それも分かんねえのか!?」——瑚依が声を震わせて遮った。
「……」——俺は何も言わなかった。
「瑚依……落ち着いて。」——宮崎が心配そうに宥めた。
「おっさん、私、あなたが二度も助けてくれたこと、すげえ感謝してる。でも、殺人はダメだ。どんな理由があっても。人の命は、地球より重いはずだろ。」——瑚依が言った。
その時、袖が引っ張られる感触があった。見ると、瑚依の細い手がそこにあった。
「……勘違いすんな、小槻さん。俺はお前が思うようなまともな奴じゃねえ。」——瑚依の手をそっと払った。「自分のために、これからは俺に関わらない方が——」
「ふざけんな!バカ!お前は!」——瑚依がまた遮り、叫んだ。声が乗客の視線を引きつけた。「誰にも誤解されて、誰からも嫌われて生きていける奴なんかいねえ!言葉に出さなきゃ、誰も本当のお前を分からねえよ!」
「瑚依……」——宮崎が言葉に詰まった。
「小槻さん。もう一度言う。」——俺が冷たく言った。「お前と俺はただの通りすがりだ。俺は元気だ、心配いらねえ。それで終わりだ。」
そう言って、席に戻った。ファーストクラスの広い間隔のおかげで、瑚依の姿を視界から消せた。
「そんな……」——瑚依の失望した声が仕切り越しに聞こえた。「浅羽隼人!アンタ、ガチでバカ!ドジっ子どころか宇宙級の大馬鹿!カピバラの足元にも及ばねーよ!もういい! アンタみたいなクソ拗らせ野郎、関わる価値ゼロ! バイバーイ!」
罵声の後、瑚依が黙った。宮崎さんが静かに慰めてるようだった。でも、俺は目を閉じ、ホットココアを啜りながら、気にもしなかった。
カピバラが俺より優れてるってのは、否定しねえ。
あのふわふわした毛並みと愛らしい姿は、人間なんかよりよっぽど可愛い。
ギャレーのカーテン越しに、榊原さんが眉をひそめて俺を見てた。「どうやったらそんなに拗らせるんだ?」って目で問いかけてるみたいだった。でも、数秒後にカーテンを引いた。乗客の囁き以外、キャビンは静けさに戻った。
ハイジャックが収まったと知らされ、乗客から安堵の息が漏れた。その中で、松尾警部が後始末を引き受けてた。手錠を取り出し、佐藤の手首に素早くかけると、客室乗務員の協力で毛毯、ロープ、テープを使ってガッチリ縛り上げ、必要な応急処置を施した。
次に松尾が向かったのは、共犯のCA、楊雅喬の遺体だった。彼女の体は機体の壁際に崩れ落ち、血溜まりが床に広がってた。松尾が無線で指示を仰ぎ、客室乗務員数人と毛毯を持ってきて遺体を覆った。血の臭いが立ち込める中、遺体をそっとギャレーの一角に移し、乗客の視線から隠した。「これ以上混乱させねえようにな。」——松尾が呟き、額の汗を拭った。
続けて、松尾がノズミちゃんに近づいた。佐藤に弄ばれた彼女の痛みを和らげるように頭を軽く撫で、避難時に落ちたウルトラマンの人形を手に戻した。「大丈夫だよ、もう心配いらねえよ。」——安心させるように笑顔で言った。
その後、松尾は乗客一人ひとりに冷静に声をかけた。「皆さん、落ち着いてください。怪我した人は手を上げてください。」——客室乗務員と一緒に、安全確認と怪我人のチェックを進めた。
松尾が俺の前に来た時、右腕のナイフ傷に目が留まった。「浅羽、その腕、大丈夫か?」——俺が頷くと、松尾が客室乗務員に指示を出した。榊原さんが救急キットを持ってきて、傷口を消毒液で洗い、ガーゼを当てて包帯を巻いた。包帯がきつく締まり、傷口がズキズキしたが、血は止まった。「これでしばらくは持つよ。」——榊原さんが小さく微笑んだ。俺は無言で頷き、腕を軽く動かして確かめた。
松尾は無線機を何度も手に取り、地上の警察や航空局に状況を報告し、指示を仰いだ。専門家と情報をやり取りして、適切な対応を確保してた。
最後に、証拠保全のため乗客に指示を出した。「皆さん、今の席から動かねえでください。何も触らねえでください。現場を保つためです。」——客室乗務員と協力し、犯罪現場となった機内の状況を記録し、写真を撮った。
この騒動で一番の功績を上げたのは、ペット専用キャビンから逃げ出したカピバラの「ナルト」君だった。ファーストクラスの飼い主の男に高く抱き上げられ、乗客全員の前で誇らしげに称えられた。「よくやった!ナルト君!ハイジャック犯を倒した大英雄だ!」
ファーストクラスの乗客がナルト君に拍手と歓声を送った。
俺と瑚依は指示に従い、席に戻った。ファーストクラスに着くと、多くの乗客が立ち上がり、俺たちに拍手を送ってきた。ハイジャック犯に立ち向かった勇気を称えてた。UFOマニアの山田がスマホで俺たちを撮り始めた。
でも、拍手と歓声のほとんどは瑚依に向いてた。ビジネスクラスの乗客は、俺が佐藤に脅されてるのと、瑚依が消火器で佐藤を叩くとこしか見てねえ。その後、ファーストクラスやエコノミーに避難して、事件の全貌を知らなかった。松尾の協力で収束は隠され、佐藤を撃ったのは松尾ってことにした。松尾がこっそり俺と発砲済みの拳銃を交換したんだ。
視線が瑚依に移った。彼女の綺麗な顔は青白く、疲れが浮かんでた。宮崎真理絵がゆっくり近づき、温かい毛毯で瑚依を包み、細い体を優しく抱き寄せた。
瑚依の頬に涙が一滴浮かんでた。宮崎が耳元で何か囁くと、瑚依は力を抜いて身を委ねた。
その時、ギャレーのカーテンが開き、榊原さんが俺をこっそり呼んだ。仕方なく近づくと、彼女が2つのカップを渡してきた。見ると、ホカホカのホットココアだった。
「え?」——俺が驚いた顔で彼女を見た。
「すみません、これは浅羽さんのためじゃありません。」——榊原さんが微笑んだ。「小槻瑚依さんに渡してください。」
「なんで俺が?自分で渡せばいいだろ。」
「浅羽さん、あなたと彼女は一緒に危機を乗り越えた仲間です。この機会に、もっと絆を深めるのもいいんじゃないですか?」——榊原さんが口元を押さえ、ニコッと笑った。
「……」——俺は2つのホットココアを見つめ、どう返せばいいか分からなかった。
仕方なく、ホットココアを持って席に戻った。1つを自分のテーブルに置き、もう1つを瑚依の前にそっと置いた。
瑚依が目を丸くして俺を見上げた。ファーストクラスの広い席のおかげで、隣の宮崎さんが何か分かったような、安堵の笑みを浮かべてた。
「ほら。お前の分だ。」——俺が無表情で言った。「ゆっくり飲め。」
「浅羽さん、瑚依から話を聞きました。」——宮崎さんが感謝の目で俺を見た。「私たちは口外しません。今日、二度も命を救ってくれて、本当にありがとう。」
でも、宮崎が話し終わる前に、俺は席に戻ろうと体を動かした。
「待って。」——瑚依が呼び止めた。声はまだ震えてて、弱々しかった。
「……何か用か?」——振り返らずに答えた。
「……あの時、なんであんなに怒ってたの?」——瑚依が数秒ためらって聞いた。「その男は確かに許せねえことした。でも、あなたはまるで…」
「まるで奴を殺したいみたいだったってか?」——俺が言葉を遮った。
「……うん。」——瑚依が静かに頷いた。
「実際、奴はまだ生きてる。」——皮肉を込めて言った。「だから安心したろ?そんなクズでも心配するなんて、立派な優しさだな。見舞いに行ってみな。」
「違う!心配してんのは奴じゃねえ!おっさんのことだよ!」——瑚依が即座に反論した。
「俺が?」
「空港でチンピラ二人をやっつけた時もそうだった。おっさんの腕前なら、もっと楽に片付けられたはずだろ……」——瑚依の声が焦ってた。何を言いたいのか、自分でも探してるみたいだった。
「それがどうした?俺はお前にとっちゃ、ただの流れ者だ。飛行機降りたら、もう会うこともねえ。」——冷たく言った。「この悪夢みたいな日を忘れて、お前には——」
「何でそれがいいことに繋がるんだよ!バカ!人間関係って、そんな簡単に切れるもんじゃねえ!年上なのに、それも分かんねえのか!?」——瑚依が声を震わせて遮った。
「……」——俺は何も言わなかった。
「瑚依……落ち着いて。」——宮崎が心配そうに宥めた。
「おっさん、私、あなたが二度も助けてくれたこと、すげえ感謝してる。でも、殺人はダメだ。どんな理由があっても。人の命は、地球より重いはずだろ。」——瑚依が言った。
その時、袖が引っ張られる感触があった。見ると、瑚依の細い手がそこにあった。
「……勘違いすんな、小槻さん。俺はお前が思うようなまともな奴じゃねえ。」——瑚依の手をそっと払った。「自分のために、これからは俺に関わらない方が——」
「ふざけんな!バカ!お前は!」——瑚依がまた遮り、叫んだ。声が乗客の視線を引きつけた。「誰にも誤解されて、誰からも嫌われて生きていける奴なんかいねえ!言葉に出さなきゃ、誰も本当のお前を分からねえよ!」
「瑚依……」——宮崎が言葉に詰まった。
「小槻さん。もう一度言う。」——俺が冷たく言った。「お前と俺はただの通りすがりだ。俺は元気だ、心配いらねえ。それで終わりだ。」
そう言って、席に戻った。ファーストクラスの広い間隔のおかげで、瑚依の姿を視界から消せた。
「そんな……」——瑚依の失望した声が仕切り越しに聞こえた。「浅羽隼人!アンタ、ガチでバカ!ドジっ子どころか宇宙級の大馬鹿!カピバラの足元にも及ばねーよ!もういい! アンタみたいなクソ拗らせ野郎、関わる価値ゼロ! バイバーイ!」
罵声の後、瑚依が黙った。宮崎さんが静かに慰めてるようだった。でも、俺は目を閉じ、ホットココアを啜りながら、気にもしなかった。
カピバラが俺より優れてるってのは、否定しねえ。
あのふわふわした毛並みと愛らしい姿は、人間なんかよりよっぽど可愛い。
ギャレーのカーテン越しに、榊原さんが眉をひそめて俺を見てた。「どうやったらそんなに拗らせるんだ?」って目で問いかけてるみたいだった。でも、数秒後にカーテンを引いた。乗客の囁き以外、キャビンは静けさに戻った。
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