「刀には竜、花は咲かず」~孤独なおっさん武術家と毒舌アイドルの異世界タッグ~

アサバハヤト

文字の大きさ
37 / 152
第〇章 刀の巻 プロローグ

0-36 二つの月(プロローグEND)

しおりを挟む
 意識が戻った瞬間、目を開けた。真っ白な空間が広がり、俺は一人で立ってた。目の前に、10年間朝も夜も想い続けたKの姿が現れた。

 雪白のワンピースが彼女を包み、絹みてえな長い髪が腰まで垂れてた。迷うような微笑みが俺に向けられ、涙が込み上げてきた。思わず駆け寄って抱きしめようとしたが、体が動かねえ。「何だ……これ、K、お前がよく言ってた金縛りってやつか?それとも、俺、もう死んで幽霊になってんのか?」——苦笑いが口から漏れた。



 Kが首を振って、優しく呟いた。「先輩、この10年、どうだった?」

「いつも通り、俺は元気だよ。」——言葉が喉から出た。

「嘘だよ。」——Kが軽くたしなめた。「先輩、昔から本音が顔に出るんだから。隠せないよ。嘘つくの、似合わねえ。」

 俺も笑った。10年ぶりに忘れてた優しい声が漏れた。「白いワンピースもお前に似合わねえな。赤いチェックのコートと茶緑のショートパンツ、どこやったんだ?」

 互いの目を見つめ合い、言葉が胸に溢れた。言いたいことが山ほどあるのに、どこから話せばいいか分からねえ。その時、Kが微笑んで手を振った。「先輩、私のとこに来るにはまだ早いよ。まだ待ってる人がいるよ。」

 心が締め付けられ、歯を食いしばった。「いや、俺を待ってる奴なんかいねえ。」

「また先輩、嘘ついてる。」——Kが笑って手を振った。昔、デートの帰りに送ってった時みてえに、数歩進んで振り返り、眩しい笑顔を見せた。

「K、あの時、俺、お前に……!」——慌てて呼び止めたが、視界がぼやけ、彼女の姿が遠ざかった。

 体が下に落ちるみてえに沈み、意識がまた闇に飲まれた。

 ......

 どれだけ時間が経ったか、分からなかった。永遠みてえだった。

 体を引き裂くような痛みが襲ってきた。

 この長い一日で耳障りだった瑚依の叫び声が、暗闇から遠く聞こえてきた。

 声が近づき、だんだんハッキリしてきた。

 ……うるせえな。

「おっさん!おっさん!浅羽さん!!起きて!返事してくれ!お願い!」

 ゆっくり目を開けた。最初に見えたのは、鼻水と涙で汚れた瑚依の顔だった。彼女の涙が俺の冷たい頬に落ち、熱い刺激が走った。

 機体の一部が壊れ、夜空が見えた。星が冷たく輝き、この惨状を黙って見てた。外は衝撃と爆発でねじ曲がり、中は煙と炎に覆われてた。空気は金属の粉塵でいっぱいで、吸うたびに肺が締まった。

 座席はほとんど潰れ、燃えたり吹き飛んだりしてた。俺と瑚依がいるのは、元ファーストクラスのエリアだった。壁はほぼなく、床と天井も崩れてた。

 五感がまだボヤけてて、状況をすぐ掴めなかった。右手で触れた地面から微かな熱が伝わり、生き残った安堵と一緒に、夢に引き戻されそうな誘惑を感じた。強く頭を振ってそれを振り払い、痛みに耐えながら体を起こした。

 意外にも、全身が痛むが無事だった。骨折じゃなく、ジムで一日筋トレした後の筋肉痛みてえだ。

 瑚依が震える手で俺の左手を握ってた。俺の体温を感じたいみたいに。泥と汚れに覆われた肌は白く、柔らかかった。白いレースのブラウスはボロボロで、袖や裾に焦げ跡がいくつもあった。黒いシルクみたいな長い髪も乱れてた。でも、重傷はねえようだった。

 奇跡以外の何でもねえ状況だった。

「……立てるか?どこか痛むとこはねえか?」——俺が瑚依の手を握り返し、その日一番優しく聞いた。

「……うん。」——瑚依が力強く頷いた。

 瑚依の手を引き、立ち上がった。体を確認した。ボロボロの服、コートはどっか行き、体に焦げ跡が広がってたが、指も足も動く。大きな問題はねえ。

 手を繋ぎ、障害物を越えて、壊れた機内から脱出した。信じられねえことに、俺たち以外に誰もいなかった。

 死体すら見えなかった。

 助けを呼ぶ前に、状況を確認しなきゃならなかった。

 目の前に広がるのは、巨大なスクラップ置き場みてえな景色だった。

 金属の山と混乱が混ざり合い、不思議な風景を作ってた。いろんな形の金属片が無秩序に積まれ、星空の下で光を反射してた。近くで見ると、錆びた鉄、壊れたエンジン、かつて輝いてたクロムが混ざり合い、機械の森みてえだった。

 地面は油と泥で覆われ、金属片が散乱してた。空気には鉄と油の匂いが漂い、風に乗って鼻に届いた。

 スクラップ置き場でも、管理が酷すぎる。何1つ整理されてねえ。まるで巨人が適当にぶちまけたみてえだ。飛行機の残骸も、ドラゴンに引き裂かれたように壊れてた。完全な部品は一つもねえ。穴の開いた貨物船はタイタニックみたいに二つに割れ、逆さに突き刺さってた。俺たちの飛行機の翼も、壊れた墓石みてえに立ってた。

 星空は澄んでて、光害がねえ。3月の夜にしては異常に寒い。長野の奥深い山中か?星空スポットを思い出した。

 でも、見上げるとその考えが否定された。ここは長野どころか、日本じゃねえ。

 地球かどうかも怪しい。

 星空に異常はねえ。でも、星と一緒に大きさも色も違う2つの月が浮かんでた。

 俺と瑚依だけが、飛行機の残骸と一緒に、異世界の廃墟に取り残されてた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~

厳座励主(ごんざれす)
ファンタジー
「英雄なんて、もう二度とごめんだ」 ダンジョン出現から10年。 攻略が『配信』という娯楽に形を変えた現代。 かつて日本を救った伝説の英雄は、ある事情から表舞台を去り、ダンジョン攻略支援用AI『アリス』の開発に没頭する裏方へと転身していた。 ダンジョンも、配信も、そして英雄と呼ばれることも。 すべてを忌み嫌う彼は、裏方に徹してその生涯を終える……はずだった。 アリスの試験運用中に遭遇した、迷惑系配信者の暴挙。 少女を救うために放った一撃が、あろうことか世界中にライブ配信されてしまう。 その結果―― 「――ダンジョン嫌いニキ、強すぎるだろ!!」 意図せず爆増するファン、殺到するスポンサー。 静寂を望む願いをよそに、世界は彼を再び『英雄』の座へと引きずり戻していく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

おっさん冒険者のおいしいダンジョン攻略

神崎あら
ファンタジー
冒険者歴20年以上のおっさんは、若い冒険者達のように地位や権威を得るためにダンジョンには行かない。 そう、おっさんは生活のためにダンジョンに行く。 これはそんなおっさんの冒険者ライフを描いた生活記である。

処理中です...