「刀には竜、花は咲かず」~孤独なおっさん武術家と毒舌アイドルの異世界タッグ~

アサバハヤト

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第一章 竜の巻 ようこそ、異世界へ。

1-10 珍獣

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 「落ち着け。俺たちはまだ生きている。」

 俺の言葉は怯える瑚依に向けられた、支えるでもなく突き放すような一言だった。

 半ば頼りなさげに、瑚依は懸命に頷いた。
 血の気が失せた青ざめた顔、目じりには涙が滲んでいる。

 盗賊の足音がジリジリと近づき、汗が首筋を伝った。

 この場に俺がいなければ、あるいは彼女一人ならば、きっと気を失っていたに違いない。

 「いいか。目を閉じて、ここでじっとしてろ。」

 俺は躊躇なく瑚依を飛行機の残骸の影へ押し込んだ。耳元でそう告げると、彼女の心臓が早鐘を打つ音が、やけに近くで聞こえた。

 これから始まるのは、血と悲鳴の世界だ。
 ああいう光景に慣れてねえ人間にとって、見ないで済むなら、それが一番の慈悲になる。

 瑚依は一瞬、驚いたように身を強張らせたが、すぐに意味を理解したらしい。両手を口元に寄せ、顔を歪めながら残骸の影に蹲る。きっちりと、目を閉じた。

 俺は背負っていたリュックを下ろし、さっき拾った自転車フレームの短いパイプを一本取り出した。
 次に、ゴム手袋。十徳ナイフで指先だけを切り落とす。そこへガラス玉を一粒押し込み、パイプの端に被せる。
 ダクトテープを二重に巻いて固定――即席の豆鉄砲だ。

 威力はいらねえ。
 狙うのは、視線と意識だ。

 それから、カピバラ姿の松尾に、指先だけで合図を送る。

 伊達に十年以上の付き合いをしていたわけじゃない。
 
 松尾は一瞬で察した。
 
 俺は暗闇の中でゴムを引き絞り――放した。

 パチン、という乾いた音。
 ガラス玉が低く跳ね、若い盗賊の脛を叩いた。

 「いってぇ!?」

 反射的に、二人の盗賊の視線が足元へ落ちた、その瞬間だ。

 松尾が、俺の射出と同時に影から飛び出した。

 突如現れたカピバラに、二人の盗賊が目を剥いた。

 「おい、何だあれは!」

 「見たことねえ生き物だぞ!捕まえりゃ儲けもんだ、追え!」

 年若い盗賊が叫び、勢いよく駆け出す。
 松尾は一目散に逃げた。丸い体に似合わぬ速度で、瓦礫の間を縫うように走る。

 若者は必死でそれを追った。

 一方、年配の盗賊は足元に転がったガラス玉を拾い上げ、眉をひそめた。
 何が起きたのか、まだ掴みきれていない――そんな顔だ。

 絶好の隙だった。

 俺は、ガラス玉の方へ注意を向けたままの老盗賊に向かって、地面を這うように距離を詰めた。

 シャツのボタンを2つ外し、右腕に袖を巻き付ける。
 一気だ。

 背後から首に腕を回し、リアネイキドチョークを応用して締め上げる。同時に、口へ袖を押し込み、声を殺す。
 左手で彼の腰から短剣を抜き、肋骨の隙間を狙って左胸へ深く突き立てた。

 老盗賊は短く呻き、二、三度痙攣したあと、力が抜けた。

 俺はすぐに体を引きずり、闇の中へ放り込む。
 血の匂いが鼻を刺し、砂が小さく跳ねた。

 うまくいった。

 どうやら、こいつらの生理構造は地球人と大差ねえ。
 致命点も、ほぼ共通らしい。

 P229は最後の切り札だ。
 弾は有限で、使い切ればただの鉄塊になる。

 だから、可能な限り――俺は近接で、一人ずつ潰す。

 それが一番、無駄がねえ。

 大丈夫だ。
 銃以外にも、手はいくらでもある。

 ふと、どうでもいい記憶が頭をよぎった。
 昔、年末年始に松尾の家で忘年会をやった時だ。
 あいつがやたら勧めてきて、仕方なく一緒に観たアメリカのテレビドラマ。
 確か日本語じゃ、「冒険野郎●ク●イバー」とか、そんな名前だった。

 俺が二歳か三歳の頃に初放送された、大ヒット作らしい。
 主人公は、即席の知恵と身の回りのガラクタだけで、どんな修羅場も切り抜ける。
 爆弾も罠も作るが、人は殺さない。
 環境保護だの、子供の教育だのにも熱心な、非の打ち所のない白い騎士だ。

 ――立派だと思う。

 だが、俺は違う。

 俺は殺す。
 一切の容赦はしない。

 なぜなら、俺はヒーローじゃねえ。
 悪党を始末する側の、大悪党だ。

 ふと、Kを守れなかった記憶が脳裏を掠め、手が一瞬だけ震えた。
 だが、すぐに握り直す。

 その頃、松尾の逃走と若者の怒号に引き寄せられ、さらに二人の盗賊が合流していた。

 「何を騒いでる!」

 二人の盗賊が、若者に詰め寄る。

 「くそっ、速ぇんだよ、あの生き物!」
 若者は声を張り上げた。
 「珍しい生物だ! おそらく天から落ちてきたやつだ!生け捕りにできりゃ、一財産だぞ!」
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