冷遇王子を匿ったらまさかのアレがついてきた

すずね

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第5話 2

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 白銀に輝く婚約衣装に身を包み、薄く化粧を施した婚約者の姿に、アルベルトは一瞬で心を奪われた。
 最近ますます母親に似てきた美しい顔立ちと、細身の体にまとった礼服と装飾は女性的だが、強い眼差しやスラリと伸びた手足は少年らしく、人類や性別を超えた神秘的な美しさと可愛らしさが溢れ出していた。
 エリアスの魅力は、無邪気さと好奇心とあけすけな欲望、貴族としては欠点に見えるその点をカバーして上回る理知的な頭脳と探求心である。
 初めて彼を見た時、可愛らしい子供だとは思ったが、すぐに外見よりも内面に好意を持った。
 そして、心に深い傷を抱えたアルベルトに何度も寄り添い、率直な言葉と態度で勇気をくれた。
 共に過ごすようになって二年、あの頃と何も変わらないと思っていたアルベルトだが、久しぶりの正装姿を見て、最近頻繁に苦言を呈するエリアスの近親者たちの気持ちが分かった。
 子供だとばかり思っていた少年は、目を離せないほど魅力的に成長している。

 気付いたらエリアスの額に口付けていた。
 今までも、このモチモチとしたなめらかな肌にキスをしたり撫でたり、親愛のスキンシップを何気なく繰り返してきた。
 だが、このキスは何かが違う。
 心拍数が跳ね上がり、頬が熱くなる。
(これが恋というものなのか?)

 この地に来るまで、愛というものがよく分からなかった。
 アルベルトにとって、母の愛は重く一方的に押し付けられるもので、父の愛は平等という名の放置であった。
 王城の中にも気にかけてくれる従者は何人かいたが、母付きの騎士に裏切られてからは誰も信じることができなくなってしまった。
 だが、グラナート家の人々は、家族から使用人に至るまで、最初は同情で、だが今では温かな親愛を惜しみなく与えてくれる。
 エリアスとは改めて、家族として兄弟のように仲良くしようと誓い合った。
 朝食後、身支度を整えるために別れた時まではそう思っていたのに。
 
「アルも……カッコいいよ」
 目の前の少年が控えめな笑みを浮かべた途端、アルベルトの目には白銀に輝く雪の結晶とふわふわとした羽が舞う光景が見えた。

 今までは、北の辺境に逃げ込んだ王族のつまはじきという立ち位置だったが、正式に婚約すればグラナート家嫡男の婿として認識され、国内の注目が集まるだろう。
 この婚約が一族総意であり、当事者にとっても愛情あるもので、何人たりとも引き裂くことはできないと見せつける必要がある。
 実際に兄弟のように愛情深く互いを想い合ってはいるが、対外的にも婚約者として信頼し合っているように刷り込みたい。
 そんな意図で名前を呼ばせることにしたアルベルトだが、はにかんだ表情で見上げるエリアスの声を聞いた瞬間、魅了の魔力をかけられたようにエメラルドの瞳から目が離せなくなった。

「ありがとう。このまま婚姻式でもいいのだけれど」
 冗談めかして言ったが、それはアルベルトの本心だった。
 婚約などではなく、すぐにでも自分のものにしたい。
 誰にも取られたくないという欲が生まれ、エリアスの髪や顔に触れる。
 誘惑するように甘い声で微笑んでみせれば、期待通り照れたように赤くなるが、どうせ初めての正装姿を見て感激してしているだけだろう。

 バレンティーナやシモンに性的な触れ合いを禁じられた時には、子供相手に何を言っているのかと即答で否定できたアルベルトだが、恋愛感情というものは一瞬の間に生まれてしまうのだと身に染みて思い知った。
 今は閨に無関心なエリアスだが、成人後にそういった行為を求められた時、男らしく成長した姿でも抱けるのだろうかなどと多少は悩んだが、そんな心配は全く必要なかった。
 どんな姿のエリアスであっても、互いの身をつなぐことに躊躇などしない。
 それよりも、シモンの言う通り、性交について好奇心を発揮された時の対処法を考える方が先だろう。
 婚姻まであと三年、その肌を暴くことを許されるのは更に三年後である。
(俺はそれまで耐えられるのだろうか)
 性的な興味はさておき、知識は大人以上なのに恋愛観は幼児並みである婚約者に恋愛感情を抱かせるのは至難の業だ。
(いや、時間はたっぷりある。ゆっくりと意識してくれればいい。俺無しではいられないくらい好きになってね)

 アルベルトの甘い笑みに、エリアスは照れた様な表情を浮かべている。
 人の良いエリアスだから、この調子で気を引き続ければ、いずれは意識するようになるかもしれない。
 シモンは、エリアスの造語である「脳筋」のラウラを恋愛脳に変えた強者だ。
 子供に欲情する変態とからかわれて否と反論したが、案外シモンの目は鋭い。
 正直に今の気持ちを白状して味方に引き入れ、相談に乗ってもらった方が得策である。
 シモンの軽口や態度には調子を乱されて苦手だが、そんな事を言っている場合ではない。
 エリアスの心を手に入れるためには、なりふり構っていられないのだ。
(婚姻式までには互いに想い合うようになりたい。いや、絶対になる)

 恥ずかしそうに視線が揺らぎ、落ち着かない様子のエリアスの手を取り、いつものように指を絡ませて手をつなぐ。
 エリアスは知らないようだが、幼子以外が公的な場でそれをすることは、心も体も一つであることを意味している。
 近親者から指摘されないので、名前呼び同様に対外的なアピールとして許されているのだろう。
 利用できることは何でも利用して外堀を埋めるつもりだ。

 大広間に入ると、大きな拍手と喝采に包まれた。
 普段は、表情を読まれないよう表面的な笑みを保つよう心掛けていたアルベルトだが、今日からは違う。
 エリアスに対してだけは溢れる愛情を余すところなく全て解放し、それを阻もうとする者に対しては氷の視線で心臓を射貫くことも厭わない。
 二人が幸せな夫婦になるイメージを、折に触れて世に印象付けていく。
 緊張からか戸惑いの表情で見上げてくる婚約者に、心からの笑みを向けて手をしっかりと握った。
 すると、エリアスの目元が赤くなり微かに涙で潤む。
 だが、次の瞬間にはまた、少年らしい力強い眼差しに変わった。
(ああ本当に……俺の婚約者は美しくて可愛らしくて、そして頼もしい)
 来年、アルベルトは十八歳になる。
 王位継承権を自ら放棄できる年齢になり、それを実行することを義父母にも伝えてある。
(今までは守ってもらうばかりだったが、これからはグラナート家の陰に隠れていないで、婿としてエリアスの支えになりたい)
 二人を迎える温かい人々と、引きずり下ろすチャンスを虎視眈々と狙っている人々を見渡し、改めてアルベルトは覚悟を決めた。

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