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STAGE1―4
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地下から外に出ると、ワァという歓声に囲まれた。
一瞬だけ笑顔を浮かべそうになった一同だが、「なんだ」「違うよ」という低い声を聞いて、エンジェルスフラップの出待ちファンなのだと気付いた。
フロアには男性客も多かったように記憶しているが、この場で待っているのは殆どが女性だ。
響生達もちらほら声をかけてもらえるようになったが、友達からスタートした客はプライベートでも会っているので有難がる必要がないし、新しいファンは何故か遠巻きに見ていて近づいてこない。
初ライブでこれだけの出待ちファンがいるのだから、バンドとしてではなくて個人のファンがついているのだろう。
その熱を向けられている彼らを羨ましく思う反面、そんなバンドと同じステージに立っていたことが誇らしい。
(俺だってもっとやれる! もっと多くの人に見てもらいたいし楽しんでもらいたい)
そんな響生の熱に、シンが鼻で笑って水を差す。
「はっ、昔っからコウのファンは気の強そうなケバい女が多いな。顔目当ての客ばっかで残念だねぇ」
嫌みな言い方に苛立ちを覚えた響生だが、辛辣と暴言を穿き違えている年上の男に、突っかかる気も諭すつもりもない。
いつものように平常心でやり過ごす。
「メジャーの頃から知っているんですね」
「ああ。あの頃はピンクだの水色だの髪色変えて、派手な衣装着てギターぶっ壊してたよ。10年くらい前かな。アニソンもやってたから、響生もガキの頃に聞いたことあるはずだぞ」
ビジュアル系ということだろうか。
淡々とプレイしていた、さっきの彼の姿からは想像できない。
「美人ボーカルと美形ギタリストだからビジュアルとインパクトで売ってこうって事務所の方針だろうな。アマの頃は実力派って言われてたのに、デビューしたらアイドルバンドになっちまって、つまんない音でガッカリだったよ。人気はあったけど、ボーカルのレインがオーバードーズだか自殺だかで活動休止して、結局そのまま解散したんじゃないかな」
評論家気取りの言葉にキレそうになるが、解散の原因を聞いて怒りが吹っ飛んだ。
重い過去に動揺する響生に、シンが何故か自慢げに笑う。
「レインは神がかりな感じで歌う子でさ、他の歌い手には無いカリスマ性があったよ。俺、好きだったんだよなぁ。この前、ちょうど検索してた画像が、確か……」
シンがスマートフォンを操作して動画を開くと、白いキャミソールワンピース姿の、細身で長い黒髪の女性が目に入った。
スタジオだろうか、殺風景な部屋で、裸足の彼女が全身を使って訴えかけるようにアカペラで歌う。
叙情的と言っていいのだろうか、息苦しくなるほどの狂気を含んだ掠れた歌声は、聞いているこちらも憂鬱になる。
泣きたい時には最高のBGMになりそうがだ、響生はそういう湿っぽい儀式は好きではない。
原曲が分からないのでどう評価していいか分からないが、存在感があることだけは確かだ。
「やっぱイイ女だよな。今歌ってるのはコウとの刃傷沙汰で荒れてた頃の曲。実体験を歌うから、私生活がバレバレで面白れぇの」
下卑た笑みを浮かべながら響生の顔を覗き込むシンに、不機嫌を隠せずにスマートフォンを押し返す。
「ちょっと方向性が違うんで、わかんないです」
「まあまあ、昔の女に嫉妬すんなって」
頬を強張らせる響生を見て、シンが面白がる。
趣味の悪い揶揄に、益々声が硬くなる。
「嫉妬とか、ないですから」
そう言い張るが、不快な感情は、シンの暴言に対する怒りだけではない。
(嫉妬、かもしれない)
レインの歌声は不快なのに耳に残って離れない。
コウはこの歌声が忘れられなくて、バンドにボーカルを入れずにいるのだろうか。
重苦しい気分を持て余したまま、小走りで、先を行く馨の後を追った。
一瞬だけ笑顔を浮かべそうになった一同だが、「なんだ」「違うよ」という低い声を聞いて、エンジェルスフラップの出待ちファンなのだと気付いた。
フロアには男性客も多かったように記憶しているが、この場で待っているのは殆どが女性だ。
響生達もちらほら声をかけてもらえるようになったが、友達からスタートした客はプライベートでも会っているので有難がる必要がないし、新しいファンは何故か遠巻きに見ていて近づいてこない。
初ライブでこれだけの出待ちファンがいるのだから、バンドとしてではなくて個人のファンがついているのだろう。
その熱を向けられている彼らを羨ましく思う反面、そんなバンドと同じステージに立っていたことが誇らしい。
(俺だってもっとやれる! もっと多くの人に見てもらいたいし楽しんでもらいたい)
そんな響生の熱に、シンが鼻で笑って水を差す。
「はっ、昔っからコウのファンは気の強そうなケバい女が多いな。顔目当ての客ばっかで残念だねぇ」
嫌みな言い方に苛立ちを覚えた響生だが、辛辣と暴言を穿き違えている年上の男に、突っかかる気も諭すつもりもない。
いつものように平常心でやり過ごす。
「メジャーの頃から知っているんですね」
「ああ。あの頃はピンクだの水色だの髪色変えて、派手な衣装着てギターぶっ壊してたよ。10年くらい前かな。アニソンもやってたから、響生もガキの頃に聞いたことあるはずだぞ」
ビジュアル系ということだろうか。
淡々とプレイしていた、さっきの彼の姿からは想像できない。
「美人ボーカルと美形ギタリストだからビジュアルとインパクトで売ってこうって事務所の方針だろうな。アマの頃は実力派って言われてたのに、デビューしたらアイドルバンドになっちまって、つまんない音でガッカリだったよ。人気はあったけど、ボーカルのレインがオーバードーズだか自殺だかで活動休止して、結局そのまま解散したんじゃないかな」
評論家気取りの言葉にキレそうになるが、解散の原因を聞いて怒りが吹っ飛んだ。
重い過去に動揺する響生に、シンが何故か自慢げに笑う。
「レインは神がかりな感じで歌う子でさ、他の歌い手には無いカリスマ性があったよ。俺、好きだったんだよなぁ。この前、ちょうど検索してた画像が、確か……」
シンがスマートフォンを操作して動画を開くと、白いキャミソールワンピース姿の、細身で長い黒髪の女性が目に入った。
スタジオだろうか、殺風景な部屋で、裸足の彼女が全身を使って訴えかけるようにアカペラで歌う。
叙情的と言っていいのだろうか、息苦しくなるほどの狂気を含んだ掠れた歌声は、聞いているこちらも憂鬱になる。
泣きたい時には最高のBGMになりそうがだ、響生はそういう湿っぽい儀式は好きではない。
原曲が分からないのでどう評価していいか分からないが、存在感があることだけは確かだ。
「やっぱイイ女だよな。今歌ってるのはコウとの刃傷沙汰で荒れてた頃の曲。実体験を歌うから、私生活がバレバレで面白れぇの」
下卑た笑みを浮かべながら響生の顔を覗き込むシンに、不機嫌を隠せずにスマートフォンを押し返す。
「ちょっと方向性が違うんで、わかんないです」
「まあまあ、昔の女に嫉妬すんなって」
頬を強張らせる響生を見て、シンが面白がる。
趣味の悪い揶揄に、益々声が硬くなる。
「嫉妬とか、ないですから」
そう言い張るが、不快な感情は、シンの暴言に対する怒りだけではない。
(嫉妬、かもしれない)
レインの歌声は不快なのに耳に残って離れない。
コウはこの歌声が忘れられなくて、バンドにボーカルを入れずにいるのだろうか。
重苦しい気分を持て余したまま、小走りで、先を行く馨の後を追った。
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