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一章
ウェルカムバック・ワンダラー(2)
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『(ザッ、ザザッ――)
現在、当機は惑星カレドの静止軌道上に到達しました。
生体能力の確認シーケンスを順延し、
一時的に着陸地点決定シーケンスに移行します。』
『現在、当機は惑星カレドの静止軌道上を航行しています。
軌道傾斜角42.6度。離心率ゼロを維持。
惑星カレド地表面からの相対高度52,027kmの位置を移動中。
着陸可能な地形を探査しています。少々お待ちください――』
この演出は、前作には無かった。
機械音声さんによるストーリーテリング、アバターの造形の後は、初期技能の選択段階に移行していたはずだ。
すると……初期技能や初期アイテムの選択はなくなったのか?
(いや……「一時的に移行」とか言ってたな?)
『犬2』になってこの段階が新たに差し挟まれたのかもしれん。
しかしまた、よくわからない単語をずらずらと並べてきた。
要は『無事に軌道上に乗って安定したから着陸地点探すね!』ということだろうか。
理系ガチ勢なら、これで惑星の質量とか自転速度とか推測できたりするのかもしれない。
……俺? 俺は文系専攻だったからわからないよ。
理系だったとしてもたぶんわからなかったよ。
『――探査終了。
惑星カレド地表面にて当機が現在着陸可能な地形座標が 672件 検出されました。
仮想スクリーンを展開、検出された地形座標を複数ランダムに提示します。
着陸を希望する座標を選択・指定してください。』
『なお、これらの地形座標は、すべて惑星カレドの地表面に同時に存在し、
着陸後の各地点間の移動可能性が保証されています。
他の乗員と同じ地形座標への着陸を望む場合は、あらかじめご相談ください。』
目の前に、小さな無数の立方体からなるホログラフィックなスクリーンがパリパリと投影される。
これはいわゆる仮想ウィンドウとか仮想スクリーンと呼ばれるもので、前作でも使われていた、プレイヤーひとりひとりに紐付けられている「情報処理用仮想端末」の機能の一つだ。
現在表示されているように電子データを扱う際には毎回使うほか、
技術を進めて行くとこのウィンドウの機能自体もいろいろカスタマイズが可能だった。
各種計器を揃えることで、自身のバイタルサインのチェックや、気温・湿度・気圧の測定、周囲の大気に含まれている元素の解析、サーモグラフィーによる暗視なんかもできた。
視覚と聴覚しか知覚できなかった前作では、非常に重要なツールの一つだった。
フルダイブである今作ではどのような活躍をしてくれるのか、今から楽しみだ。
今作でも呼び出し用のコマンドを自分で設定できたらうれしいが、さてさて。
で、だ。
そんなホログラフィック・スクリーンに、なにか衛星写真のようなものが表示されている。
地表のいくつかの地点を宇宙上空から撮影した、やや度数の粗い衛星写真が10個ほど。
それぞれの衛星写真の上には、アルファベットと英数字からなる24桁の英数字の羅列が添えられている。
確かこういうの――シード値っていうんだっけ。
あるいは、なんらかの乱数を無作為に規定するための値ではなく、なにか別の基準に基づいて算出された、この惑星における座標系かもしれない。
その辺はよくわからないが、わかったこともある。
要は着陸可能な座標は複数あり、現在表示されているのはそのなかの幾つかの候補。
プレイヤーはその中から一つを選ぶことができるということ。
つまりプレイヤーは複数提示された選択肢の中から1つの着陸地点を選択するという形で、開始地点を振りわけられるわけだ。
一度に数万人のプレイヤーがゲーム開始地点に集まることはないと思っていたが。
なるほど、こうやってゲーム開始時のプレイヤーの集団の規模を調整していると。
それと、先ほどの言い回しで気になった点が一つ。
『着陸後の各地点間の移動可能性が保証されています』
なかなかに、もってまわった言い回しだ。
同じ惑星上とはいえ、相互の行き来は簡単には出来ないとみるべきだろう。
惑星上の様々な地点間を簡単に行き来できてしまうと「未開の地を一から探索」という感覚が薄れてしまう。
それに「きつい地形に当たったからこの着陸地点捨てるわ」なんてことができてしまうと、プレイヤーを分散させた意味がない。
しばらくの間は他の着陸地点を選んだプレイヤーとは接触できないと考えるべきだろう。
今作『犬2』では、一人のプレイヤーは一つのアバターしか持つことができないし、アバターを消去して新しく作るといったこともできない。
そのような仕様の所以は、上記のような理由――より生存が容易な地形への流入の懸念――もあるのかもしれない。
水は易きに流れる、というように、そうした「やり直し」の余地を残すとそれをするのが「より正しい選択」「それをしないのは縛りプレイ」なんてことになってしまいかねない。
それは……残念なことだと思う。
などとつらつら考えてみると、前作『犬』では存在せず、『犬2』で新たに挿入された、この「着陸地点決定シーケンス」。
厳密には異なるが、役割としては昔のMMOで言うところの「サーバー選択」に近いかもしれない。
同じ世界内にいることは変わりないから、ここで異なる座標を選んでもあとで合流できる可能性自体は保証されているわけだが。
*────
そうして並べられた衛星写真――だいたいが森と平野、なかには滝や川のような地形や、丘陵地帯、草原地帯と言った地形も散見される――を下へとスクロールしていくと、最下部には [ 他の地形座標を選ぶ ] という項目と、その横に―― [ 特に希望はない|(ランダム決定) ] という項目。
くッ……! ゲーマーのつぼを刺激してきやがる。
これがテーブルトーク・ロールプレイングゲームなら迷わずランダムをポチっていたものを。
推測するに、このランダム決定によって各着陸地点のおおまかな人数調整を行うのだろう。
「本日のおすすめ料理」ならぬ「本日のおすすめ着陸地点」ってやつだ。
偶然自分しか選ばなかった着陸地点とか悲惨なことになりかねないし、その逆もまた悲惨だ。
どの地形も優劣がつけがたい以上「よくわからんからランダムにしとこ」ってプレイヤーも多いだろう。
プレイヤーの自由意志を尊重したうえで不公平を減らす、いい配慮が込められた選択肢だ。
だが……今回はゲーマー魂をぐっと我慢して、良地形を探そう。
なぜなら。
……決して無いとは思うが。
(――そくし こわい)
ランダム、それは「なにが起こっても許容します」ボタン。
ゲーム的には限りなく魅惑的な選択肢でありながら、それは同時に自身の生殺与奪の権利のすべてを運命の女神に投げ渡すことでもある……ッ!
うん。今回は素直に自分で選ぼう。
どこかよさそうな地形はあるかな。
少なくとも水場は欲しい。
木材や金属の加工にせよ、生命活動のための資源にせよ、なくて困ることはあってもあって困ることはほとんどない。
浪漫としての洞窟も捨てがたいが、ゲーム開始時点だと計器類が不足していて、湿気や浸水、崩落の危険性を測れないんだよな……。
いや、これは『犬』での話だけど。
今作でもその辺のノウハウは生きると思われる。
それと、流石に開始地点が火口とか海洋のただなかは選ばれないだろうが、湿地帯や砂漠もできれば遠慮したいところだ。
そうして衛星写真を眺めていると、ふとここまで見落としていた情報があることに気づく。
衛星写真の下には、 " ダブルクォーテーション " で囲まれた、なにか固有名詞のような意味ありげな文字列が、薄い灰色で添えられている。
" kypria "
" ottegebe "
" carnegia "
" astarte "
なんだろう、これ。
付近にある【 i 】ボタン――たぶんインフォメーションボタン――を、さきほど再現されたばかりのアバター「フーガ」の人差し指で、ポチっと押す。
『各衛星写真の下に提示されている文字列は、検出された672の着陸可能な地形座標に与えられた仮称です。
他の乗員と同じ地形座標に着陸したい場合、この仮称を用いることで、
情報の伝達をより容易に行うことができます。
なお仮称に採用された単語に含まれる語義と、地形の性状に対応関係はありません。』
なーるほど。
確かにこういうのがないと、他のプレイヤーに自身の着陸地点を伝えようと思ったとき、24桁の英数字を暗記・復唱するゲームが始まってしまう。
MMOである以上、一緒にプレイしたいって人は多いだろうし、ありがたい配慮だ。
ここで一度ダイブアウトして、一緒にはじめる他の仲間と情報共有する人も多そうだ。
……まあ、俺は自由に選べるんだけどなッ……!
同僚に『犬2』やりませんかなどという勇気などない。なかった……。
(――いや、待て待て)
ちがう。
「俺は自由に選べる」じゃないだろう。
今日は8月30日。時刻は現在15時を少し回ったくらい。
この日、この5時間後。
『犬2』には、俺を待っている誰かがいるはずだろう。
(――あれ、これ合流できないやつでは?)
「誰か」が待っているということは分かるが、その誰かがどの地形座標を選んだのかが分からない。
「誰か」との連絡手段は途絶しているから、ダイブアウトして擦り合わせることもできない。
ガッデム! 何処のどいつだフレンドとの連絡先交換をサボった奴は!
――俺だァ!
「詰んだ……」
訂正。
詰んだかもしれん。
まずは、ここで俺が取るべき最善手を模索しよう。
運命神の気まぐれを信じて適当に選んでみる?
成功確率は1/672。冗談きついぜ。
3d6、さいころ三つ振ってピンゾロする確率よりよっぽど低いじゃないか。
……でも3d6でピンゾロって稀によく出るよな。
あれ、じゃあ1/672も意外と大したことない……?
いや試行回数1回でそれは無茶だろう、まじめに考えろ。
適当な地点に着陸したあとで合流する?
幾らなんでも今日のうちに他の座標地点までの移動経路が開通することはないだろう。
前作の経験で言えば隣接する地域を調査・開拓するだけでも軽く一週間はかかる。
惑星内でたかだか数百あまりしか存在しない他の拠点へのアクセスなんてどう考えても無理ゲーだ。
もしかしたら、プレイヤーの着陸地点はどこか生存しやすい大陸にある程度固まっているかもしれないが、それでも今日のうちなんてとても――
『新生セドナにて君を待つ』
(――ん?)
新生セドナ。
セドナ。
それは『犬』で、とある拠点に与えられた名前。
それはたしか、どこかの神話の女神の名前だとか。
それはたしか、実際にあるどこかの小惑星の名前でもあるとか。
セドナ。
Sedna?
(もしかして――)
この672の仮称のなかに、あるんじゃないか?
Sednaの仮称が与えられた着陸地点の地形座標が。
それこそが「新生セドナ」なのではないか?
俺は仮想スクリーン上の [ 他の地形座標を選ぶ ] に触れる。
再び十個の候補を示す衛星写真と、それぞれの着陸地点に与えられた仮称が表示される。
" ceres " " pallas " " juno " " vesta " " astraea "
" hebe " " iris " " flora " " metis " " hygiea " ...
ない。次。
しかし、どこかで聞いたことがあるような名称が多いな。
これらの仮称には、なにか命名法則でもあるのだろうか。
" parthenope " " victoria " " egeria " " irene " " eunomia "
" psyche " " thetis " " melpomene " " fortuna " " massalia " ...
ない。次。
本当にあるのか不安になってきた。
というか目が滑る!もっとジャッポーネにもわかりやすい仮称で頼む!
" aspasia " " chloris " " xanthe " ...
ない。次!
チクショウ、遂に発音すらわからなくなったぞ!
これ仮称を用意した意味をはんぶん喪失してないか。
桁数減ってるけど結局よくわからん文字列を覚える必要あるじゃ――
" saskia " " sedna " " eriphyla " ...
(――あった)
その五文字のアルファベットの上にあるのは、一枚の衛星写真。
大部分が森であり、川や丘陵も見える。
南の端っこに映っている白灰色は――山岳地帯だろうか?
無難と言えば無難、際立った個性もない。
他の候補と比べて特筆するべきところもないような地形座標。
だが悪くない。決して悪くない地形だ。
もはやここを選ばない理由など存在しないだろう。
それでも一応、念には念を入れて、 " newsedna|(新・セドナ) " なんて仮称が与えられた地形が存在しないかどうか、他の候補地ボタンを連打してもう一周してみたが、そのような仮称は無事存在しなかった。
よしよし……では、ポチっと。
『座標コード " oe7a, 872a, fus6, f9ad, woy3, lrea. "
仮称 " sedna " を着陸地点として選択します。
この地点に決定する場合は [ 確認 ] ボタンを、
訂正したい場合は [ 戻る ] ボタンを押してください。』
同じく確認をポチっと。
『着陸地点を決定、これより当機は指定座標上空へ向けて移動を開始します。
仮称 " sedna " の地形座標を記録した『異世界への招待状』の発行プロセスを開始。
同プロセスは以後しばらくの間バックグラウンドで進行・処理されます。
以上で着陸地点決定シーケンスを終了します。
着陸シーケンス開始まで、少々お待ちください。』
なにやら気になる単語も聞こえてきたが――
どうやら着陸地点決定が無事に終わったようだ。
「新生セドナ」の目途も着いたし、首尾は上々。
これで推理が間違ってたらお笑い草だがな!
最善は尽くしたと思いたい。
ファイナルアンサーです。
さて、一時的に挿入された着陸地点探査シーケンスが終わったということは、次は――
『続いて、生体能力の確認シーケンスを開始します――』
っしゃあ、お待ちかねの初期技能選びの時間だァ!
現在、当機は惑星カレドの静止軌道上に到達しました。
生体能力の確認シーケンスを順延し、
一時的に着陸地点決定シーケンスに移行します。』
『現在、当機は惑星カレドの静止軌道上を航行しています。
軌道傾斜角42.6度。離心率ゼロを維持。
惑星カレド地表面からの相対高度52,027kmの位置を移動中。
着陸可能な地形を探査しています。少々お待ちください――』
この演出は、前作には無かった。
機械音声さんによるストーリーテリング、アバターの造形の後は、初期技能の選択段階に移行していたはずだ。
すると……初期技能や初期アイテムの選択はなくなったのか?
(いや……「一時的に移行」とか言ってたな?)
『犬2』になってこの段階が新たに差し挟まれたのかもしれん。
しかしまた、よくわからない単語をずらずらと並べてきた。
要は『無事に軌道上に乗って安定したから着陸地点探すね!』ということだろうか。
理系ガチ勢なら、これで惑星の質量とか自転速度とか推測できたりするのかもしれない。
……俺? 俺は文系専攻だったからわからないよ。
理系だったとしてもたぶんわからなかったよ。
『――探査終了。
惑星カレド地表面にて当機が現在着陸可能な地形座標が 672件 検出されました。
仮想スクリーンを展開、検出された地形座標を複数ランダムに提示します。
着陸を希望する座標を選択・指定してください。』
『なお、これらの地形座標は、すべて惑星カレドの地表面に同時に存在し、
着陸後の各地点間の移動可能性が保証されています。
他の乗員と同じ地形座標への着陸を望む場合は、あらかじめご相談ください。』
目の前に、小さな無数の立方体からなるホログラフィックなスクリーンがパリパリと投影される。
これはいわゆる仮想ウィンドウとか仮想スクリーンと呼ばれるもので、前作でも使われていた、プレイヤーひとりひとりに紐付けられている「情報処理用仮想端末」の機能の一つだ。
現在表示されているように電子データを扱う際には毎回使うほか、
技術を進めて行くとこのウィンドウの機能自体もいろいろカスタマイズが可能だった。
各種計器を揃えることで、自身のバイタルサインのチェックや、気温・湿度・気圧の測定、周囲の大気に含まれている元素の解析、サーモグラフィーによる暗視なんかもできた。
視覚と聴覚しか知覚できなかった前作では、非常に重要なツールの一つだった。
フルダイブである今作ではどのような活躍をしてくれるのか、今から楽しみだ。
今作でも呼び出し用のコマンドを自分で設定できたらうれしいが、さてさて。
で、だ。
そんなホログラフィック・スクリーンに、なにか衛星写真のようなものが表示されている。
地表のいくつかの地点を宇宙上空から撮影した、やや度数の粗い衛星写真が10個ほど。
それぞれの衛星写真の上には、アルファベットと英数字からなる24桁の英数字の羅列が添えられている。
確かこういうの――シード値っていうんだっけ。
あるいは、なんらかの乱数を無作為に規定するための値ではなく、なにか別の基準に基づいて算出された、この惑星における座標系かもしれない。
その辺はよくわからないが、わかったこともある。
要は着陸可能な座標は複数あり、現在表示されているのはそのなかの幾つかの候補。
プレイヤーはその中から一つを選ぶことができるということ。
つまりプレイヤーは複数提示された選択肢の中から1つの着陸地点を選択するという形で、開始地点を振りわけられるわけだ。
一度に数万人のプレイヤーがゲーム開始地点に集まることはないと思っていたが。
なるほど、こうやってゲーム開始時のプレイヤーの集団の規模を調整していると。
それと、先ほどの言い回しで気になった点が一つ。
『着陸後の各地点間の移動可能性が保証されています』
なかなかに、もってまわった言い回しだ。
同じ惑星上とはいえ、相互の行き来は簡単には出来ないとみるべきだろう。
惑星上の様々な地点間を簡単に行き来できてしまうと「未開の地を一から探索」という感覚が薄れてしまう。
それに「きつい地形に当たったからこの着陸地点捨てるわ」なんてことができてしまうと、プレイヤーを分散させた意味がない。
しばらくの間は他の着陸地点を選んだプレイヤーとは接触できないと考えるべきだろう。
今作『犬2』では、一人のプレイヤーは一つのアバターしか持つことができないし、アバターを消去して新しく作るといったこともできない。
そのような仕様の所以は、上記のような理由――より生存が容易な地形への流入の懸念――もあるのかもしれない。
水は易きに流れる、というように、そうした「やり直し」の余地を残すとそれをするのが「より正しい選択」「それをしないのは縛りプレイ」なんてことになってしまいかねない。
それは……残念なことだと思う。
などとつらつら考えてみると、前作『犬』では存在せず、『犬2』で新たに挿入された、この「着陸地点決定シーケンス」。
厳密には異なるが、役割としては昔のMMOで言うところの「サーバー選択」に近いかもしれない。
同じ世界内にいることは変わりないから、ここで異なる座標を選んでもあとで合流できる可能性自体は保証されているわけだが。
*────
そうして並べられた衛星写真――だいたいが森と平野、なかには滝や川のような地形や、丘陵地帯、草原地帯と言った地形も散見される――を下へとスクロールしていくと、最下部には [ 他の地形座標を選ぶ ] という項目と、その横に―― [ 特に希望はない|(ランダム決定) ] という項目。
くッ……! ゲーマーのつぼを刺激してきやがる。
これがテーブルトーク・ロールプレイングゲームなら迷わずランダムをポチっていたものを。
推測するに、このランダム決定によって各着陸地点のおおまかな人数調整を行うのだろう。
「本日のおすすめ料理」ならぬ「本日のおすすめ着陸地点」ってやつだ。
偶然自分しか選ばなかった着陸地点とか悲惨なことになりかねないし、その逆もまた悲惨だ。
どの地形も優劣がつけがたい以上「よくわからんからランダムにしとこ」ってプレイヤーも多いだろう。
プレイヤーの自由意志を尊重したうえで不公平を減らす、いい配慮が込められた選択肢だ。
だが……今回はゲーマー魂をぐっと我慢して、良地形を探そう。
なぜなら。
……決して無いとは思うが。
(――そくし こわい)
ランダム、それは「なにが起こっても許容します」ボタン。
ゲーム的には限りなく魅惑的な選択肢でありながら、それは同時に自身の生殺与奪の権利のすべてを運命の女神に投げ渡すことでもある……ッ!
うん。今回は素直に自分で選ぼう。
どこかよさそうな地形はあるかな。
少なくとも水場は欲しい。
木材や金属の加工にせよ、生命活動のための資源にせよ、なくて困ることはあってもあって困ることはほとんどない。
浪漫としての洞窟も捨てがたいが、ゲーム開始時点だと計器類が不足していて、湿気や浸水、崩落の危険性を測れないんだよな……。
いや、これは『犬』での話だけど。
今作でもその辺のノウハウは生きると思われる。
それと、流石に開始地点が火口とか海洋のただなかは選ばれないだろうが、湿地帯や砂漠もできれば遠慮したいところだ。
そうして衛星写真を眺めていると、ふとここまで見落としていた情報があることに気づく。
衛星写真の下には、 " ダブルクォーテーション " で囲まれた、なにか固有名詞のような意味ありげな文字列が、薄い灰色で添えられている。
" kypria "
" ottegebe "
" carnegia "
" astarte "
なんだろう、これ。
付近にある【 i 】ボタン――たぶんインフォメーションボタン――を、さきほど再現されたばかりのアバター「フーガ」の人差し指で、ポチっと押す。
『各衛星写真の下に提示されている文字列は、検出された672の着陸可能な地形座標に与えられた仮称です。
他の乗員と同じ地形座標に着陸したい場合、この仮称を用いることで、
情報の伝達をより容易に行うことができます。
なお仮称に採用された単語に含まれる語義と、地形の性状に対応関係はありません。』
なーるほど。
確かにこういうのがないと、他のプレイヤーに自身の着陸地点を伝えようと思ったとき、24桁の英数字を暗記・復唱するゲームが始まってしまう。
MMOである以上、一緒にプレイしたいって人は多いだろうし、ありがたい配慮だ。
ここで一度ダイブアウトして、一緒にはじめる他の仲間と情報共有する人も多そうだ。
……まあ、俺は自由に選べるんだけどなッ……!
同僚に『犬2』やりませんかなどという勇気などない。なかった……。
(――いや、待て待て)
ちがう。
「俺は自由に選べる」じゃないだろう。
今日は8月30日。時刻は現在15時を少し回ったくらい。
この日、この5時間後。
『犬2』には、俺を待っている誰かがいるはずだろう。
(――あれ、これ合流できないやつでは?)
「誰か」が待っているということは分かるが、その誰かがどの地形座標を選んだのかが分からない。
「誰か」との連絡手段は途絶しているから、ダイブアウトして擦り合わせることもできない。
ガッデム! 何処のどいつだフレンドとの連絡先交換をサボった奴は!
――俺だァ!
「詰んだ……」
訂正。
詰んだかもしれん。
まずは、ここで俺が取るべき最善手を模索しよう。
運命神の気まぐれを信じて適当に選んでみる?
成功確率は1/672。冗談きついぜ。
3d6、さいころ三つ振ってピンゾロする確率よりよっぽど低いじゃないか。
……でも3d6でピンゾロって稀によく出るよな。
あれ、じゃあ1/672も意外と大したことない……?
いや試行回数1回でそれは無茶だろう、まじめに考えろ。
適当な地点に着陸したあとで合流する?
幾らなんでも今日のうちに他の座標地点までの移動経路が開通することはないだろう。
前作の経験で言えば隣接する地域を調査・開拓するだけでも軽く一週間はかかる。
惑星内でたかだか数百あまりしか存在しない他の拠点へのアクセスなんてどう考えても無理ゲーだ。
もしかしたら、プレイヤーの着陸地点はどこか生存しやすい大陸にある程度固まっているかもしれないが、それでも今日のうちなんてとても――
『新生セドナにて君を待つ』
(――ん?)
新生セドナ。
セドナ。
それは『犬』で、とある拠点に与えられた名前。
それはたしか、どこかの神話の女神の名前だとか。
それはたしか、実際にあるどこかの小惑星の名前でもあるとか。
セドナ。
Sedna?
(もしかして――)
この672の仮称のなかに、あるんじゃないか?
Sednaの仮称が与えられた着陸地点の地形座標が。
それこそが「新生セドナ」なのではないか?
俺は仮想スクリーン上の [ 他の地形座標を選ぶ ] に触れる。
再び十個の候補を示す衛星写真と、それぞれの着陸地点に与えられた仮称が表示される。
" ceres " " pallas " " juno " " vesta " " astraea "
" hebe " " iris " " flora " " metis " " hygiea " ...
ない。次。
しかし、どこかで聞いたことがあるような名称が多いな。
これらの仮称には、なにか命名法則でもあるのだろうか。
" parthenope " " victoria " " egeria " " irene " " eunomia "
" psyche " " thetis " " melpomene " " fortuna " " massalia " ...
ない。次。
本当にあるのか不安になってきた。
というか目が滑る!もっとジャッポーネにもわかりやすい仮称で頼む!
" aspasia " " chloris " " xanthe " ...
ない。次!
チクショウ、遂に発音すらわからなくなったぞ!
これ仮称を用意した意味をはんぶん喪失してないか。
桁数減ってるけど結局よくわからん文字列を覚える必要あるじゃ――
" saskia " " sedna " " eriphyla " ...
(――あった)
その五文字のアルファベットの上にあるのは、一枚の衛星写真。
大部分が森であり、川や丘陵も見える。
南の端っこに映っている白灰色は――山岳地帯だろうか?
無難と言えば無難、際立った個性もない。
他の候補と比べて特筆するべきところもないような地形座標。
だが悪くない。決して悪くない地形だ。
もはやここを選ばない理由など存在しないだろう。
それでも一応、念には念を入れて、 " newsedna|(新・セドナ) " なんて仮称が与えられた地形が存在しないかどうか、他の候補地ボタンを連打してもう一周してみたが、そのような仮称は無事存在しなかった。
よしよし……では、ポチっと。
『座標コード " oe7a, 872a, fus6, f9ad, woy3, lrea. "
仮称 " sedna " を着陸地点として選択します。
この地点に決定する場合は [ 確認 ] ボタンを、
訂正したい場合は [ 戻る ] ボタンを押してください。』
同じく確認をポチっと。
『着陸地点を決定、これより当機は指定座標上空へ向けて移動を開始します。
仮称 " sedna " の地形座標を記録した『異世界への招待状』の発行プロセスを開始。
同プロセスは以後しばらくの間バックグラウンドで進行・処理されます。
以上で着陸地点決定シーケンスを終了します。
着陸シーケンス開始まで、少々お待ちください。』
なにやら気になる単語も聞こえてきたが――
どうやら着陸地点決定が無事に終わったようだ。
「新生セドナ」の目途も着いたし、首尾は上々。
これで推理が間違ってたらお笑い草だがな!
最善は尽くしたと思いたい。
ファイナルアンサーです。
さて、一時的に挿入された着陸地点探査シーケンスが終わったということは、次は――
『続いて、生体能力の確認シーケンスを開始します――』
っしゃあ、お待ちかねの初期技能選びの時間だァ!
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優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
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戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
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わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
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【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
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うちの冷蔵庫がダンジョンになった
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ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
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意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
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一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
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