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一章
カノンの拠点で(2)
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カノンの拠点の中にお邪魔し、天井を仰ぎ見て思わずつぶやく。
「おお、文明の灯だ……」
「……どう、いう?」
照明装置のことです。
というか電力の事だ。
俺はいま原始人から現生人類になった。
……いやあ、死に戻りした後で拠点消失の可能性に思い至ったときは「ぜったい運営に泣きついたりなんかしないッ!」と決意していたけれど。
最初から拠点がないのはマジで致命的だな。
詰んでたな。
訂正。
詰んでたかもしれんな。
カノンに軽く確認したところ、それぞれの機能自体は『犬』の頃からほとんど変わっていないようだった。
フルダイブゲームになったことで、相対的に洗浄室の重要性が跳ねあがったくらいだろうか。
*────
さて、ひとまずカノンの拠点にお邪魔させてもらったわけだが。
俺がいろいろやるよりも先に、まずはカノンの用事の方を片づけておこう。
「……それで、どうだ。飲み水は作れそう?」
カノンが先ほど、俺の元リスタート地点である川に訪れていた理由。
それは、飲料水の精製に用いることができる水資源の確保のためだった。
カノンは初期所有品として[ 金属製の500ml魔法瓶 ] を選択していたようだ。
この星に着陸した後「プレイヤーは最初になにをやることになるか」を見据えた、極めてまっとうな選択だと言える。
また今後、できるだけ品質を保持したまま液体資源を採取するのにも大いに役立つだろう。
[ 金属製の500ml魔法瓶 ] 。
それは、単なる水筒ではない。
原始的サバイバル生活における数ある必須行動のなかでも、とりわけ液体資源の混じりけのない採取を可能とする、極めてクレバーな初期アイテムである。
カノンは今日も正しいな。
そこへ行くと、俺が選んだ『100MBの白紙の本』は道具ですらない、ただの嗜好品だ。
テレポバグしたさに、あたまの悪い選択をしてしまった。
「……ん、と。ちょっと、やってみる、ね」
そう言うとカノンは、分析装置のボタンをポチっと押し、水筒をまるごとそのまま入れる。
こんな雑な入れ方をしても、分析装置は「金属製の500ml魔法瓶」とその中身を区別して、それぞれの分析結果を装置上部のモニターに返してくれる。
すばらしきかな、人間の技術。
モニターにはいろいろ表示されているようだが――いまは、カノンに任せよう。
分析装置については、あとでがっつり使うことになるだろう。
「……うん、ふつうに、飲料水として、使えそう?
この水だけだと、濾過と煮沸くらいしか、できないみたい、けど」
「消毒までできれば長期保存もいけそうだが、今はそれで十分じゃないか?
その辺はおいおいやってけばいいさ」
あの川の水は、この惑星の地下水脈から湧き出ているものかな?
湧出時点で、既にある程度濾過されていると思われる。
これが湿地帯の沼地に溜まった水だったりすると、単に濾過するだけではとても飲めたものではなかっただろう。
カノンは分析装置に水筒を入れたまま、今度は製造装置を起動する。
分析装置に投入された水筒の中の「水資源」にかんする分析結果は、既にこの脱出ポッド内のデータバンクに集積されており、現状で「利用可能な資源」として扱われる。
ゆえに、その利用可能な資源から生成可能な生成物として、製造装置は、
「あ……やっぱり。濾過、煮沸処理した、水、できるって。
……もう、飲用可に、なってる、判定?」
「いいじゃん。行けるじゃん。それで一回やってみようぜ」
「うん、やってみる、ね?」
ついでにちょびっと飲ませてくれると嬉しい。
この世界、フルダイブシステムに基づく全感覚型VRゲームで、はじめて口にする「水」だ。
どんな味かな。どんな匂いかな。
わくわくするぜぇ。
……なに、川に墜落したときにちょっと水を飲んだ?
あんなんノーカンだ、ノーカン。
あんなのが初体験とはわたくし認めませんわよ。
カノンは分析装置から水筒を取り出すと、製造装置の前にあるハッチを開き、液体資源の搬入口に、魔法瓶の中の液体を注ぎ込む。
こんな風に、圧縮ストレージを使わなくても、小さな資源なら製造装置にそのまま投入することもできる。
流石に必要とされる資源が一抱えほどの大きさになってくると厳しそうだ。
切り出した木材とかは素直に圧縮ストレージに放り込むのがいいだろう。
製造装置は、投入された資源に対して、生成される生成物の量や品質と言った予測結果を表示する。
ここから各種成分などの詳細なデータも閲覧することができるが、ひとまず表示されるのは、
「『濾過、煮沸処理済、水』282ml、だって。……これでやってみる、ね。」
「おう、いけいけ。しかしほとんど減ってないな。たぶん300mlも入れてないだろ?」
「うん、かなり、きれいな水だった、のかも?」
「森あり山あり水場あり。セドナいいとこだなぁ」
「うん、ありがたい、ね?」
「つまり招待してくれたカノンに感謝が必要か」
「あっ、あのっ。……そういうの、じゃ……」
「おおぅ、ただの冗談だ。すまんすまん」
セドナはそれなりに思い入れのある土地だからな。
このセドナはあのセドナでは決してないのだろうが、この土地も、あれくらいの活気を集めたいものだ。
かつてのセドナはプレイヤーの開拓拠点を築くのに非常に適した土地だった。
穏やかな広葉樹の樹林帯に開かれた拠点で、鉱山などはなかったが、その代わりに木工資源の採取や加工が盛んな、活気のある拠点だった。
近くには大海へと注ぐ河口もあり水産資源も豊富とくれば、栄えないはずがない。
人は資源豊かな場所に集まるものだ。
……やがて、静かな駆動音とともに――どこでなにをしているんだか――水の精製を行っていた製造装置が、その作業を終えたことを示すように、作業中を示していたランプが赤から緑に変わる。
生成が完了したようだ。
投入口とはまた別にあるハッチ――生成物が巨大な場合は、脱出ポットの外から取り出すなんて芸当も可能――を開くと、ビーカーのようなフラスコのような、そんな薄いガラス製の容器に、透明な液体が溜まっている。
ちなみにこのビーカーのようなものは製造装置の備品として洗浄煮沸して使いまわされるため、外に持ち出すことはできない。
そもそもやや薄手のガラスだしな。
資源採取には向いていない。
蓋もないし、液体サンプルを採取するための試験管のような使い方はできない。
そういう意味でも初期所有物の水筒はやはりベターだと言える。
あとこれ、地味に手間をかけて作られているガラス製品だったはずだ。
基本的に珪砂でできているけど、どんな液体生成物とも反応しないように、たしか10種類くらいの素材が混ぜられている混合物だ。
要は貴重品だから外に持ち出さないほうが良いよってことだな。
「……んっ。ちゃんと、できた、みたい?」
「できたっぽいな。……よし、どうする?
採取者の権利としてまずは一杯飲んどく?
それとも俺が毒見する?」
この製造装置では、毒物も作ることができる。
ただし、その結果は生成時にプレイヤーが確認しているはずである。
そもそも採取した水に毒素が入っているなら、分析装置がそれを検出しているはずだ。
――ただし。
プレイヤーたち人類が母星アース上で発見しておらず、アースの分析装置では検出不可能ななにかが、混入していなければ、だが。
その意味で毒見というのは決して誇張ではない。
99.99%くらいは安全だが、決して100%安全と言い切ることができるわけではない。
それが未開惑星サバイバル。
サバイバルホラー映画なら、序盤に伏線が張られ、中盤で回収される感じだ。
まさか、あの時の水が――みたいな。
とある医者の活躍を描いた超有名な漫画に、ただの水を飲んだはずのライバルの医者の身体が――ってストーリーもあったな。
「――あっ、その、えっ!?
どうしよ、あの……。……わたし、飲むっ」
「いや待て待て、俺も行くわ。同時に行こう。魔法瓶の蓋借りていい?」
この流れだと俺がプレッシャーをかけて先に呑ませた屑野郎みたいじゃねぇか。
カノンから魔法瓶の蓋を借り、ビーカーから1/4カップほどを注ぎ入れる。
注がれた透明な水面に、顔を近づけてみる。
異臭。感じられる限りではなし。敢えて言うなら水の匂い。
目に見える混入物。なし。濾過されているのだから当然だ。
色。無色。敢えて言うなら魔法瓶の蓋の銀色。つまり普通の水の色。
実は水は無色透明ではないらしいけど。
このスケールならおおよそ透明に見えるのが正しいと言って差し支えないだろう。
本当は薄い青緑色なんだっけ?よく知らんけど。
「――よし、飲むぞ」
「うん。じゃあ、わたしも、飲む」
「いち、にの、さんで行くか。……いち、にの、――」
さんっ!
グイッ
舌の上に溢れる、冷たい液体の感触。
なじみ深い、だけどやや硬質な、紛れもない水の味。
そのまま喉を流れ込む、流動物。
それは身体の熱を奪いながら、食道を流れ、胃に流れ込み――
「……おー、水。これはクリアウォーターですわ」
まるで水を飲んだみたいだ。
リアルで飲んだみたいという意味でな。
ほとんど変わらん。すげえなフルダイブVR。
「……ちょっと、匂い、ある、かも?」
「……あるかな、あるかも? すまん、そこまではわからんかもしれん、俺」
川に墜落した時に飲まされた水の味よりはうまい気がする。
気分の問題である可能性が多分にありそうだが。
外で食べるバーベキューがうまいのと同様に、製造装置先生が作ってくれた水はうまい。
「あとはこれで――2時間くらい様子を見て、腹が痛くなったりしなければ……。
暫定的には、飲み水の持続可能な供給源を確保できたと考えていいな」
「う、うん。えっと、そうだね?」
警戒しまくりである。
石橋を叩くチキンと笑え。
俺はその警戒を怠ったものの末路を幾たびか見てきたぞ。
「飲み水が手に入るなら、ひとまず、安心?」
「水さえありゃなんとでもなるからなぁ」
水さえあれば、生命活動のしばらくの維持ができる。
あらゆるサバイバルゲームにおいて、水の確保は筆頭問題だろう。
「ひとまずこれで、製造装置先生の試運転はおっけーだな。
いい仕事してくれそうで楽しみだ」
「他にも、つくって、みる? その……服、とか」
ああ、やっぱり気にさせてしまっていたか。
そりゃあここまで裸足だったもんな。
ぴっちりインナースーツ男だったしな。
確かに、各種装備の作り方、少なくとも靴が作れるかどうかははやく確認しておきたい。
なんとなく俺が感じている予想が正しければ、たぶん今作では、靴やグローブと言った必需品に関しては大した手間をかけなくても作ってくれると思うんだが……。
その予想が正しいかはあとでちゃんと確かめるとして、
「うん、それもやりたいな。でも……先にちょっと確認したいことがあるんだけど、そっちからでいい?」
ちょっとね。
「おお、文明の灯だ……」
「……どう、いう?」
照明装置のことです。
というか電力の事だ。
俺はいま原始人から現生人類になった。
……いやあ、死に戻りした後で拠点消失の可能性に思い至ったときは「ぜったい運営に泣きついたりなんかしないッ!」と決意していたけれど。
最初から拠点がないのはマジで致命的だな。
詰んでたな。
訂正。
詰んでたかもしれんな。
カノンに軽く確認したところ、それぞれの機能自体は『犬』の頃からほとんど変わっていないようだった。
フルダイブゲームになったことで、相対的に洗浄室の重要性が跳ねあがったくらいだろうか。
*────
さて、ひとまずカノンの拠点にお邪魔させてもらったわけだが。
俺がいろいろやるよりも先に、まずはカノンの用事の方を片づけておこう。
「……それで、どうだ。飲み水は作れそう?」
カノンが先ほど、俺の元リスタート地点である川に訪れていた理由。
それは、飲料水の精製に用いることができる水資源の確保のためだった。
カノンは初期所有品として[ 金属製の500ml魔法瓶 ] を選択していたようだ。
この星に着陸した後「プレイヤーは最初になにをやることになるか」を見据えた、極めてまっとうな選択だと言える。
また今後、できるだけ品質を保持したまま液体資源を採取するのにも大いに役立つだろう。
[ 金属製の500ml魔法瓶 ] 。
それは、単なる水筒ではない。
原始的サバイバル生活における数ある必須行動のなかでも、とりわけ液体資源の混じりけのない採取を可能とする、極めてクレバーな初期アイテムである。
カノンは今日も正しいな。
そこへ行くと、俺が選んだ『100MBの白紙の本』は道具ですらない、ただの嗜好品だ。
テレポバグしたさに、あたまの悪い選択をしてしまった。
「……ん、と。ちょっと、やってみる、ね」
そう言うとカノンは、分析装置のボタンをポチっと押し、水筒をまるごとそのまま入れる。
こんな雑な入れ方をしても、分析装置は「金属製の500ml魔法瓶」とその中身を区別して、それぞれの分析結果を装置上部のモニターに返してくれる。
すばらしきかな、人間の技術。
モニターにはいろいろ表示されているようだが――いまは、カノンに任せよう。
分析装置については、あとでがっつり使うことになるだろう。
「……うん、ふつうに、飲料水として、使えそう?
この水だけだと、濾過と煮沸くらいしか、できないみたい、けど」
「消毒までできれば長期保存もいけそうだが、今はそれで十分じゃないか?
その辺はおいおいやってけばいいさ」
あの川の水は、この惑星の地下水脈から湧き出ているものかな?
湧出時点で、既にある程度濾過されていると思われる。
これが湿地帯の沼地に溜まった水だったりすると、単に濾過するだけではとても飲めたものではなかっただろう。
カノンは分析装置に水筒を入れたまま、今度は製造装置を起動する。
分析装置に投入された水筒の中の「水資源」にかんする分析結果は、既にこの脱出ポッド内のデータバンクに集積されており、現状で「利用可能な資源」として扱われる。
ゆえに、その利用可能な資源から生成可能な生成物として、製造装置は、
「あ……やっぱり。濾過、煮沸処理した、水、できるって。
……もう、飲用可に、なってる、判定?」
「いいじゃん。行けるじゃん。それで一回やってみようぜ」
「うん、やってみる、ね?」
ついでにちょびっと飲ませてくれると嬉しい。
この世界、フルダイブシステムに基づく全感覚型VRゲームで、はじめて口にする「水」だ。
どんな味かな。どんな匂いかな。
わくわくするぜぇ。
……なに、川に墜落したときにちょっと水を飲んだ?
あんなんノーカンだ、ノーカン。
あんなのが初体験とはわたくし認めませんわよ。
カノンは分析装置から水筒を取り出すと、製造装置の前にあるハッチを開き、液体資源の搬入口に、魔法瓶の中の液体を注ぎ込む。
こんな風に、圧縮ストレージを使わなくても、小さな資源なら製造装置にそのまま投入することもできる。
流石に必要とされる資源が一抱えほどの大きさになってくると厳しそうだ。
切り出した木材とかは素直に圧縮ストレージに放り込むのがいいだろう。
製造装置は、投入された資源に対して、生成される生成物の量や品質と言った予測結果を表示する。
ここから各種成分などの詳細なデータも閲覧することができるが、ひとまず表示されるのは、
「『濾過、煮沸処理済、水』282ml、だって。……これでやってみる、ね。」
「おう、いけいけ。しかしほとんど減ってないな。たぶん300mlも入れてないだろ?」
「うん、かなり、きれいな水だった、のかも?」
「森あり山あり水場あり。セドナいいとこだなぁ」
「うん、ありがたい、ね?」
「つまり招待してくれたカノンに感謝が必要か」
「あっ、あのっ。……そういうの、じゃ……」
「おおぅ、ただの冗談だ。すまんすまん」
セドナはそれなりに思い入れのある土地だからな。
このセドナはあのセドナでは決してないのだろうが、この土地も、あれくらいの活気を集めたいものだ。
かつてのセドナはプレイヤーの開拓拠点を築くのに非常に適した土地だった。
穏やかな広葉樹の樹林帯に開かれた拠点で、鉱山などはなかったが、その代わりに木工資源の採取や加工が盛んな、活気のある拠点だった。
近くには大海へと注ぐ河口もあり水産資源も豊富とくれば、栄えないはずがない。
人は資源豊かな場所に集まるものだ。
……やがて、静かな駆動音とともに――どこでなにをしているんだか――水の精製を行っていた製造装置が、その作業を終えたことを示すように、作業中を示していたランプが赤から緑に変わる。
生成が完了したようだ。
投入口とはまた別にあるハッチ――生成物が巨大な場合は、脱出ポットの外から取り出すなんて芸当も可能――を開くと、ビーカーのようなフラスコのような、そんな薄いガラス製の容器に、透明な液体が溜まっている。
ちなみにこのビーカーのようなものは製造装置の備品として洗浄煮沸して使いまわされるため、外に持ち出すことはできない。
そもそもやや薄手のガラスだしな。
資源採取には向いていない。
蓋もないし、液体サンプルを採取するための試験管のような使い方はできない。
そういう意味でも初期所有物の水筒はやはりベターだと言える。
あとこれ、地味に手間をかけて作られているガラス製品だったはずだ。
基本的に珪砂でできているけど、どんな液体生成物とも反応しないように、たしか10種類くらいの素材が混ぜられている混合物だ。
要は貴重品だから外に持ち出さないほうが良いよってことだな。
「……んっ。ちゃんと、できた、みたい?」
「できたっぽいな。……よし、どうする?
採取者の権利としてまずは一杯飲んどく?
それとも俺が毒見する?」
この製造装置では、毒物も作ることができる。
ただし、その結果は生成時にプレイヤーが確認しているはずである。
そもそも採取した水に毒素が入っているなら、分析装置がそれを検出しているはずだ。
――ただし。
プレイヤーたち人類が母星アース上で発見しておらず、アースの分析装置では検出不可能ななにかが、混入していなければ、だが。
その意味で毒見というのは決して誇張ではない。
99.99%くらいは安全だが、決して100%安全と言い切ることができるわけではない。
それが未開惑星サバイバル。
サバイバルホラー映画なら、序盤に伏線が張られ、中盤で回収される感じだ。
まさか、あの時の水が――みたいな。
とある医者の活躍を描いた超有名な漫画に、ただの水を飲んだはずのライバルの医者の身体が――ってストーリーもあったな。
「――あっ、その、えっ!?
どうしよ、あの……。……わたし、飲むっ」
「いや待て待て、俺も行くわ。同時に行こう。魔法瓶の蓋借りていい?」
この流れだと俺がプレッシャーをかけて先に呑ませた屑野郎みたいじゃねぇか。
カノンから魔法瓶の蓋を借り、ビーカーから1/4カップほどを注ぎ入れる。
注がれた透明な水面に、顔を近づけてみる。
異臭。感じられる限りではなし。敢えて言うなら水の匂い。
目に見える混入物。なし。濾過されているのだから当然だ。
色。無色。敢えて言うなら魔法瓶の蓋の銀色。つまり普通の水の色。
実は水は無色透明ではないらしいけど。
このスケールならおおよそ透明に見えるのが正しいと言って差し支えないだろう。
本当は薄い青緑色なんだっけ?よく知らんけど。
「――よし、飲むぞ」
「うん。じゃあ、わたしも、飲む」
「いち、にの、さんで行くか。……いち、にの、――」
さんっ!
グイッ
舌の上に溢れる、冷たい液体の感触。
なじみ深い、だけどやや硬質な、紛れもない水の味。
そのまま喉を流れ込む、流動物。
それは身体の熱を奪いながら、食道を流れ、胃に流れ込み――
「……おー、水。これはクリアウォーターですわ」
まるで水を飲んだみたいだ。
リアルで飲んだみたいという意味でな。
ほとんど変わらん。すげえなフルダイブVR。
「……ちょっと、匂い、ある、かも?」
「……あるかな、あるかも? すまん、そこまではわからんかもしれん、俺」
川に墜落した時に飲まされた水の味よりはうまい気がする。
気分の問題である可能性が多分にありそうだが。
外で食べるバーベキューがうまいのと同様に、製造装置先生が作ってくれた水はうまい。
「あとはこれで――2時間くらい様子を見て、腹が痛くなったりしなければ……。
暫定的には、飲み水の持続可能な供給源を確保できたと考えていいな」
「う、うん。えっと、そうだね?」
警戒しまくりである。
石橋を叩くチキンと笑え。
俺はその警戒を怠ったものの末路を幾たびか見てきたぞ。
「飲み水が手に入るなら、ひとまず、安心?」
「水さえありゃなんとでもなるからなぁ」
水さえあれば、生命活動のしばらくの維持ができる。
あらゆるサバイバルゲームにおいて、水の確保は筆頭問題だろう。
「ひとまずこれで、製造装置先生の試運転はおっけーだな。
いい仕事してくれそうで楽しみだ」
「他にも、つくって、みる? その……服、とか」
ああ、やっぱり気にさせてしまっていたか。
そりゃあここまで裸足だったもんな。
ぴっちりインナースーツ男だったしな。
確かに、各種装備の作り方、少なくとも靴が作れるかどうかははやく確認しておきたい。
なんとなく俺が感じている予想が正しければ、たぶん今作では、靴やグローブと言った必需品に関しては大した手間をかけなくても作ってくれると思うんだが……。
その予想が正しいかはあとでちゃんと確かめるとして、
「うん、それもやりたいな。でも……先にちょっと確認したいことがあるんだけど、そっちからでいい?」
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