ワンダリング・ワンダラーズ!!

ツキセ

文字の大きさ
24 / 148
一章

再開

しおりを挟む
ゆっくりと目を開く。
そこにあるのは――見慣れた天井。

フルダイブシステム・ニューロノーツの導きによって、仮想世界から現実世界へと帰還したのだ。

(……なるほど、こういう感じなのか)

手足を動かしてみるが、その動きに違和感はない。
俺とフーガの体格はほぼ同じだ。
かつてそのように設定した。
それゆえか、まるで俺自身があちらとこちらを行き来しているかのような錯覚すら覚える。

そうして、どうせしばらくの間は食事も惜しんで熱中するだろうからと、あらかじめ用意しておいた簡単な食事――ほぼ夜食だし、今回はブロックタイプとかゼリータイプとかいろいろあるアレでいいだろう――を摂取しながら、頭の中をぐるぐると渦巻く考えを整理する。

(……。)

暗い窓の外を見遣る。

この明るい部屋の中からは、夜の帳のうちにあるものなど、なにも見えやしない。


*────


考えるのは、カノンのことだ。

もう俺も大人、社会人だ。
ある程度俯瞰して、物事を見られるはずだ。
そうでなければならない。

だから、俺が、俺が、ではなく。
俺がカノンをどう思っているのか、とか。
これからどうしたいか、なにをすればいいか、とか。
俺からはこう見える、それ以上はカノンにしかわからない、とか。
そんな自己中心主義の小人しょうじんのような考えでなく、
もっと考えられることがあるだろう。
考えなきゃいけないことが、ある。

たとえば。
カノンは俺と会うまでに、俺には見えない幾つもの懸念を抱えていたはずで。
それを考えるなら、俺の第一声はどう考えてもだったということ。

たとえば。
4年間の断交は、俺が彼女をしているのと同様に、
彼女にとっても俺をしているはずである、ということ。

たとえば。
俺がカノンの現在いまを、言葉を選んで、慎重に探ろうとしていたのと同じように。
カノンもまた、そのようにして、俺の現在いまを探ろうとしているに違いないということ。

たとえば。
カノンはいま、俺がなにをすることを。なにを言うことを。
俺のどのような振る舞いをすることを恐れているか、ということ。

そういうことを。
単に狭くつたない自分の頭の中だけで決めつけるのではなく。
一人の人間としての彼女との相対あいたいの中で。
ふいに零れ落ちた小さな切れ端すらも拾い上げて。
確かめていくべきだということ。
考えていくべきだということ。

俺たちはまず、しないといけない。
かつての友とのを、つつがなく成功させて。
旧友ではない、いまの友という人間関係を、取り戻さないといけない。

そして――
その先を見るならば、それは単なる前提条件だ。
それができないならば、その先への歩みなど――望むすべもない。


(あ”ー……)


青春してんなぁ、俺。
胸中に渦巻いている複雑な想いが、単に「しばらくの間没交渉だった旧友との再会」に際して生じる類のものではないことぐらい、自分でもわかっている。

そういうのはあそこで終わったものと思っていたけれど。
若き日のほろ苦い過ちとして、過去になっていくものだと思っていたけれど。
そんな痣痕を、彼女は拾い上げてくれようとしているらしい。
それは、俺ができなかった、勇気あること。

あの――カノンが。


(……小夜か。たぶん、デューオも?)

それは推測ともいえない、単なる勘にすぎないけれど、なんとなく。
此度の数奇な再会には、きっとどこかで彼らも一枚噛んでいるのではないかと。

とりとめのない思索を断ち切るように、ゼリータイプのそれを、ぎゅっと握り潰す。
いつの間にか空になっていたそれからは、もうなにも絞り出せそうになかった。


*────


さて、うだうだ考えるのはこの辺でやめよう。
まだダイブアウトして10分足らずだ。
ありがとう、カロリー補給の友。
おかげで少々暇を持て余してしまった。

俺が離脱するときに見た彼女の表情から、今の彼女の心境を推測するに
できるだけはやく向こうに戻りたい思いは確かにある。
彼女がいないうちにやっておけることもある。

だが、それは駄目だ。
今の状況ならば、約束通り時刻通り、きっちりきっかり22時ちょうどに向こうに戻るのが、きっともっとも、今のカノンに不安を与えない。

5分前、10分前行動?
そんなの社会の中でしか通用しねぇよ。
こちとら青春の真っただ中やぞ。

(公式サイトでも、確認するかね?)

オンセールしたということで、なにか情報が更新されているかもしれない。
それに一つ確認しておきたいことがある。
それはこの『犬2』における「イベント」の仕様について。

今作『犬2』でも、『犬』のときと同形式のイベントが起こるらしきことは、既にテザーサイトで確認している。
ただ、ゲームを開始したあとで、前作と違ってプレイヤーの初期開始地点が数百に別れているということを知ったから、あらためて確認しておきたいことがある。


*────


え、そもそもこのゲームに「イベント」なんてあるのか、って?
そういえば、『犬』のイベントについてはまだ説明したことがなかったな。
すまない。そうだった。

では、再びダイブインするまでの30分を使って、『犬2』における「イベント」について紹介しよう。
公式サイトを見る限り、『犬2』も『犬』と同じ形式でイベントが開催されるようだから。
前作についてしか詳しくない今の俺でも、十分紹介できると思う。

飲み物でも飲みながら、まったり聞いてくれ。

――え、もう眠い? もう舞えない?

ええと、そうだな。
これからする話は正直、今まで話してきた『犬』知識に比べれば、
これからの話には必須のものじゃないんだ。
というか正直、今後しばらくの間はほとんど忘れてもらって構わない。
だから今回は、先に結論から話そうか。
それ以降については聞きたい人だけ聞いてくれ。
で、この話が終わったら俺もすぐにダイブインするから、
いま眠い人は、30分くらいの間、ちょっと仮眠しててくれ。

では、結論。

『犬』には3種類のイベント区分がある。
よくないことがおこる「カラミティ」イベント。
うれしいことがおこる「グレイス」イベント。
すごいことがおこる「パラダイムシフト」イベント。

このうち上2つがおおむね一か月を目途に定期的に交互に開催される。
で、『犬2』ではプレイヤーの初期開始座標が数百に別れるようになったけど、これらのイベントはすべての地形座標でだいたい同じように起こるみたいだ。

以上だ。
寝る人はおやすみ。

なに、意味が分からない? もっと詳しく説明しろ?
『犬』新規だ! 囲め囲め!

いま囲まれた同志諸君はぜひ聞いてってくれ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...