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一章
探し人の便り
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*────
ここは惑星カレド、とある脱出ポッドの内部。
それは瞬きの間に行われた。
一角に設えられたアンティーク調の椅子の上に、
どこからともなくふっと現れた無数微小の青白い粒子が、
くるくると渦巻きながら、人の形を形成する。
そんな青白いヒトガタに、
ぱりぱりと、どこかホログラフィックなエフェクトが覆いかぶさり、
そこに現れたのは――
*────
「サルウェ、カノン」
「んっ、こんにちはっ! フーガくん。 ……さるうぇ?」
「ラテン語の『こんにちは』、らしい」
あいさつのネタが切れたので調べた。
古代ローマでもそのような挨拶が行われていたのか。
それともラテン語が使われていた、どこか別の時代、別の国で生まれたのか。
そこまでは調べていない。
ダイブイン時の姿勢は、ダイブアウト時に座っていたときのまま。
座ったままダイブアウトしても問題なさそうだな。
しかし、座ったままの状態でダイブインするんだな。
この椅子が無くなってたら、どうなるんだろう。
椅子の上になにかものが置かれていたら?
ちょっと試してみたい気はするが、カノンに協力を仰ぐほどのことではないな。
右前方、俺と同じように椅子に座っているカノンを見る。
今日もカノンは普段着スタイル。チュニックにケープ。
椅子同士の距離が近いのもあって、仄かなカオリマツの香りが漂ってくる。
椅子ができて座って待てるようになっただけまだマシとは言え、またカノンが先にダイブインする形に落ち着いてしまっている。
カノンを待たせないための五分前行動が意味をなしていない。
あるいは、彼女は俺を待っていたいのかもしれないが――
「あっ、そうそう。フーガくん、今日の朝のうちに、モンターナさんから、メッセージが届いてた、よ」
「おん、モンターナから?」
セドナ川の果てについての感想を一昨日送ったから、その返信だろうか。
それともなにか急用とか。
「えっとね、『昨日、セドナ川下流域湾曲部付近にて、白衣の人物の目撃情報あり。探し人の可能性あり。確認されたし』だって」
「Oh……」
具体性を欠いているのに、極めて分かりやすいメッセージだ。
「これって、たぶん、きょーじゅだよね」
「流石にりんねるだと思うけど……」
サバイバルゲームで、まず第一に白衣を作ろうとする人物は少ないだろう。
ましてやりんねるがセドナにいることはマキノさんによって保証されているわけだし、十中八九本人だ。
モンターナに示された地点は「セドナ川下流域湾曲部」。
仮想端末のマップを確認するに……なるほど、このセドナ川下流域湾曲部というのは、モンターナの拠点をしばらく北上したところにある、川が「く」の字型に折れ曲がった部分だろう。
セドナ川の下流域、すなわち俺たちやモンターナの拠点付近で、湾曲している部分はそこしかない。
そしてこの湾曲部分は、俺たちの拠点が位置する樹林帯と、セドナ中央の平野部の丁度境目くらいにあるらしい。
そちらには行ったことがない。
ここからは徒歩で1時間ほどの範囲内だ。
「ちょっと探しに、行ってみる?」
「マキノさんに約束したしな。……りんねるの性格上、まだそのあたりにいる可能性も高いし」
マキノさんの性格から考えるに、無事にりんねると合流できたのなら、まちがいなく俺たちに一報があるだろう。
それがないということは、相変わらずりんねるはどこぞをほっつき歩いており、マキノさんはまだりんねると合流できていないと見ていい。
……いい機会だな。
「よし。カノン、今日はりんねる探しのついでに食料探しもやるぞ」
「んっ。いいかも。前みたいに、探しながら歩く?」
「それもいいけど、……そろそろ本格的に安定供給したいからな。
持続的に採取できる食料源の確保を目標とする」
「それができれば、いいけど。なにか、アテがある?」
「うむ」
木材は確保できたんだ。
だったら、あれが作れる。
「魚を捕るぞ」
持続可能な食料源。魚はそのアテの一つだ。
……まともに食える魚がいれば、だが。
*────
「で、まずは準備だ。木材で仕掛け罠を作る」
「前にモンターナさんと、話してた奴、だよね?」
「ああ。筌だな」
今回の探索で魚を取れるか試したいと思っていたから、ダイブインする前に事前に調べてきた。
調べたのは、アマゾン川で行われている漁業と、そこに住む淡水魚の性質について。
そのまま通用するわけではないだろうが、多少はこの環境に合ったものにできるだろう。
「これを3つくらい作って、ポイントを変えてセドナ川に仕掛ける。
これについては帰りに回収しよう。
そういうわけでカノン、ちょっと木材使っていい?」
「んっ。いいよっ」
言いながら、製造装置を起動する。
分類は……石斧とかと同じカテゴリー、道具類だな。
そのものずばり『筌』という名称の道具があったので、多少手を加えて完成させる。
今回は形状にはそんなにこだわらない。
取りたい魚種も判明していない今、細部にこだわったところで大して捕獲率が上がるわけではないだろう。
それに昨日のスタンドテーブルの件で、製造装置先生が呈示する参考図はある程度完成されているのだとわかったからな。
あんまり弄らなくてもうまく機能するんじゃないかという期待もある。
製造装置を稼働させ、側面の開口部から生成物を取り出す。
出来上がったのは、細い板状に削った木材で編まれた籠のような形の道具。
籠の内側には、漏斗をひっくり返したような形の「返し」がついている。
うん、イメージ通りだ。
手作業で作ると難易度高そうだし、製造装置先生が作ってくれて本当に助かる。
「……っと、できたな。これが筌だ。理屈については前に説明したよな」
「魚が入り易くて、出にくい形、だったよね?」
「おう。理屈としては本当にそれだけだ。
これを魚道……魚の通り道か、魚がねぐらにしそうな暗がりに仕掛ける」
漁業には詳しくないが、そういうことのはずだ。
機能しそうだったので、同じものを3つほどつくる。
一つ一つの重さは1kg程度で、持ち運びに問題はない。
内部に仕込めるような餌は、まだ用意できない。
あとはそのまま仕掛けるだけだ。
「他にも、なにかつくる?」
「うーん、そうだな……」
採集用の石製のナイフ、はまだいいか。
植物によっては根っこから掘り返した方がいいことも多いし、手で摘んだほうが良いだろう。
獣用トラップ、もまだいいな。
そもそも獣本体はもちろん、それらがいる痕跡を示すフィールドサインも見ていない。
兎のいない森で兎捕りの罠を仕掛けるなんて間抜けすぎるだろう。
狩猟弓、はカノンには少々扱いが厳しそうだから却下。
そもそも直接的な狩猟は、まとまった数の獣がいる場所を求めて各地を転々とするプレイスタイルでもない限り効率が悪いし、持続可能な食料源としても相応しくない。
わかりやすい食料源が見つかってないから、ここまで食糧問題が後回しになったわけだしな。
モンターナも苦戦しているようだったし、一筋縄ではいかない。
「……うん、今回は筌だけでいいか。
獣や鳥の代わりに、食える植物を探したいところだ」
「岩壁に生えてた、葉っぱみたいな?」
「いや、……これに関しては、あったらめっけもんくらいの気持ちでいる。
りんねるに逢えたなら、りんねるに聞いた方がいいだろう」
「たしかに、野草にも詳しそうだもんね」
あの人はとりあえず一回は食って確かめるだろうなぁ。
フルダイブになったこの世界でもやってるのかはわからんけど。
「……よし、じゃあ、食料と水を準備していこうか。
カノンも、着替えたほうが良いかもしれんぞ」
「んっ。ありがとう。じゃあ、着替えてくる、ね」
洗浄室に消えるカノンを見送る。
ふと採光窓を見ると、朝の陽ざしであるはずのその光は、どこか仄暗い。
……昨日に引き続き、セドナは曇りみたいだな。
途中で雨に降られるかな?
さっそくレザーコートの活躍の機会がありそうだ。
*────
カノンの準備を待つ間、技能スロットを弄る。
今回は昼時間だから【夜目】は必要ない。
夜時間も探索に充てられるのがこのゲームのいいところではあるのだが、技能スロットのうち一つを【夜目】に割きたくなる関係上、どちらかと言えば昼の方が探索に向いている。
夜に活動し始める動物や、夜にしか見られないものが見つかることもあるから、夜の探索にも相応のメリットはあるけどな。
今回の目的は人探しと食料探しだし、素直に明るい時間帯に探索すればいいだろう。
今回の探索に役立ちそうな技能から順に、技能スロットを埋めていく。
―――――――――――――
【旅歩き】 ―― Lv1
【運搬】 ―― Lv2
【潜水】 ―― Lv1
【摘草】 ―― Lv1
―――――――――――――
で、残りの1枠はなににしようか。
装備換装、測量、夜目、聴力強化、危機感知、登攀、跳躍、石工、伐採、握力強化の中から一つになる。
まだまだ少ないが、それでも多少は選択肢が出てきたな。
必須枠というようなものもないし、残り一枠についてはカノンとの相性を考えて選ぶことにしよう。
「お待たせ、フーガくん」
「ん。いいぞ。技能付け替えてたんだけど、カノンは今回なに持ってく?」
「旅歩きと運搬と、危機感知と、摘草と……フーガくんは、どんなふうにした?」
どうやらカノンも、俺と同じようなことを考えていたらしい。
「旅歩きと運搬、潜水と摘草だな。残り1枠はカノンの構成を聞いてからと思って」
「んっと、じゃあ、……わたしは、【聴力強化】にしようかな?」
「ありがと。となると俺は……【石工術】にしとこうかな。なんか割りたくなるかもしれんし」
別に木に登る程度なら登攀要らんしな。跳躍もなくてもどうにでもなるだろう。
それに石工自体は出番がなくても、楔を使うことはある――あっ。
「……そういえば、前回でカオリマツの楔は全部使ったんだったな。
ごめんカノン、この場でちゃちゃっと補充していい?
それと、できれば今回は花崗岩を使わせてほしいんだけど」
「んっ。いいよっ。まだ、あるよね」
「ありがとう。5分も待たせないから」
少々急ぎ足で製造装置を起動、製作履歴から楔を選択。
素材は花崗岩を選択。石斧に使っただけだから、まだ資源に余裕はある。
前回の楔は底面が長方形の四角錐の形にしたわけだが、今回の楔はまた別の形にする。
形状のイメージとしては細い杭。あるいはボールペン。あるいは片面が平たい棒手裏剣。
用途のイメージとしては、ずばりアウトドア道具のペグだ。
底面の形は……今回は丸にしておこう。直径は1cmくらいでいいかな。
これで仕様を確定し、製造ボタンを押下。
この形に大理石を削ってもらう。
加工難易度が無視できる製造装置の恩恵に最大限与らせてもらおう。
「……よし、できた。いい感じだし、あと4本くらい行っとくか」
「今回の楔は、細長いね?」
「ああ。気をつけろよ。わりと簡単に刺さるから」
出来上がった楔は、片方の先端を鋭利に尖らせた直径1.5cmほどの円筒形。
円錐のように徐々に尖らせてあるのではなく、全長の2/3ほどのあたりから尖らせてある。
研磨もしてあるので、表面はつるつるしている。
どこか高級感のある花崗岩の紋様も相まって、まるでなにかの文具か画材道具のようだ。
だがこの道具は、使いようによっては、今までつくったもののなかで一番殺傷力が高い。
あの花崗岩の石斧よりも上だろう。形状がほとんど棒手裏剣だしな。
今回はその用途で使うつもりはないが……。
「これは、どうやって使う?」
「1つは、仕掛け罠の固定だな。川底の流れの強さによっては流されちゃうし」
あの川は水深が深いからな。
川底に直接固定するにせよ、紐でつないで陸から繋留するにせよ、なにかしらの留め具は必要だ。
「1つってことは、まだある?」
「……ん。それはそのときになったら紹介ってことで」
今回も、やっぱり覚えたい技能があるのだ。
*────
「よーし、では本日も元気にしゅっぱ――やっぱり、曇ってるな」
脱出ポッドのハッチを開き、外へと繰り出す。
時刻は朝七時前後、既に日は登っているはずのセドナは、いまだどこかうす暗い。
空を見れば厚い雲。
昨日の夜空も曇っていたが、心なしか更に厚くなっているような気がする。
「雨、降るかな?」
「これは……降るかもしれんな。コート持ってくか」
ここまで5日間ほどセドナで過ごしたのだが、セドナは昼間の気温がそこまで上がらない。
つまり、常に涼しいのだ。
コートを纏ったところで暑いわけでもなし、ましてや日が陰るというのなら、少し肌寒くなることもありうる。
雨が降るというのなら、なおさらのことだ。
素直にコートを着ていくのがいいだろう。
ハッチの近くに立てたポールスタンドから、俺とカノンのコートをとる。
デザインは同じだが、カノンのものは少しサイズを小さく作ってあるので見分けがつく。
「ほい、カノン。曇ってるみたいだし、最初から着てっていいと思うぞ」
「ありがと、フーガくん」
そうして俺とカノンは、初期装備の革装備一式に上からレザーコートを纏ったスタイルとなる。
作成後に一度試着はしたが、実地試験ははじめてだ。
暑いだとか寒いだとか、耐水撥水性能だとか、今回の探索でそのあたりのデータも採ることができるだろう。
「よし、では仕切りなおして。――本日も元気に出発!」
「うんっ」
りんねる探しと食料探し。
今回の探索でどっちもうまくいけばいいが、果たして。
ここは惑星カレド、とある脱出ポッドの内部。
それは瞬きの間に行われた。
一角に設えられたアンティーク調の椅子の上に、
どこからともなくふっと現れた無数微小の青白い粒子が、
くるくると渦巻きながら、人の形を形成する。
そんな青白いヒトガタに、
ぱりぱりと、どこかホログラフィックなエフェクトが覆いかぶさり、
そこに現れたのは――
*────
「サルウェ、カノン」
「んっ、こんにちはっ! フーガくん。 ……さるうぇ?」
「ラテン語の『こんにちは』、らしい」
あいさつのネタが切れたので調べた。
古代ローマでもそのような挨拶が行われていたのか。
それともラテン語が使われていた、どこか別の時代、別の国で生まれたのか。
そこまでは調べていない。
ダイブイン時の姿勢は、ダイブアウト時に座っていたときのまま。
座ったままダイブアウトしても問題なさそうだな。
しかし、座ったままの状態でダイブインするんだな。
この椅子が無くなってたら、どうなるんだろう。
椅子の上になにかものが置かれていたら?
ちょっと試してみたい気はするが、カノンに協力を仰ぐほどのことではないな。
右前方、俺と同じように椅子に座っているカノンを見る。
今日もカノンは普段着スタイル。チュニックにケープ。
椅子同士の距離が近いのもあって、仄かなカオリマツの香りが漂ってくる。
椅子ができて座って待てるようになっただけまだマシとは言え、またカノンが先にダイブインする形に落ち着いてしまっている。
カノンを待たせないための五分前行動が意味をなしていない。
あるいは、彼女は俺を待っていたいのかもしれないが――
「あっ、そうそう。フーガくん、今日の朝のうちに、モンターナさんから、メッセージが届いてた、よ」
「おん、モンターナから?」
セドナ川の果てについての感想を一昨日送ったから、その返信だろうか。
それともなにか急用とか。
「えっとね、『昨日、セドナ川下流域湾曲部付近にて、白衣の人物の目撃情報あり。探し人の可能性あり。確認されたし』だって」
「Oh……」
具体性を欠いているのに、極めて分かりやすいメッセージだ。
「これって、たぶん、きょーじゅだよね」
「流石にりんねるだと思うけど……」
サバイバルゲームで、まず第一に白衣を作ろうとする人物は少ないだろう。
ましてやりんねるがセドナにいることはマキノさんによって保証されているわけだし、十中八九本人だ。
モンターナに示された地点は「セドナ川下流域湾曲部」。
仮想端末のマップを確認するに……なるほど、このセドナ川下流域湾曲部というのは、モンターナの拠点をしばらく北上したところにある、川が「く」の字型に折れ曲がった部分だろう。
セドナ川の下流域、すなわち俺たちやモンターナの拠点付近で、湾曲している部分はそこしかない。
そしてこの湾曲部分は、俺たちの拠点が位置する樹林帯と、セドナ中央の平野部の丁度境目くらいにあるらしい。
そちらには行ったことがない。
ここからは徒歩で1時間ほどの範囲内だ。
「ちょっと探しに、行ってみる?」
「マキノさんに約束したしな。……りんねるの性格上、まだそのあたりにいる可能性も高いし」
マキノさんの性格から考えるに、無事にりんねると合流できたのなら、まちがいなく俺たちに一報があるだろう。
それがないということは、相変わらずりんねるはどこぞをほっつき歩いており、マキノさんはまだりんねると合流できていないと見ていい。
……いい機会だな。
「よし。カノン、今日はりんねる探しのついでに食料探しもやるぞ」
「んっ。いいかも。前みたいに、探しながら歩く?」
「それもいいけど、……そろそろ本格的に安定供給したいからな。
持続的に採取できる食料源の確保を目標とする」
「それができれば、いいけど。なにか、アテがある?」
「うむ」
木材は確保できたんだ。
だったら、あれが作れる。
「魚を捕るぞ」
持続可能な食料源。魚はそのアテの一つだ。
……まともに食える魚がいれば、だが。
*────
「で、まずは準備だ。木材で仕掛け罠を作る」
「前にモンターナさんと、話してた奴、だよね?」
「ああ。筌だな」
今回の探索で魚を取れるか試したいと思っていたから、ダイブインする前に事前に調べてきた。
調べたのは、アマゾン川で行われている漁業と、そこに住む淡水魚の性質について。
そのまま通用するわけではないだろうが、多少はこの環境に合ったものにできるだろう。
「これを3つくらい作って、ポイントを変えてセドナ川に仕掛ける。
これについては帰りに回収しよう。
そういうわけでカノン、ちょっと木材使っていい?」
「んっ。いいよっ」
言いながら、製造装置を起動する。
分類は……石斧とかと同じカテゴリー、道具類だな。
そのものずばり『筌』という名称の道具があったので、多少手を加えて完成させる。
今回は形状にはそんなにこだわらない。
取りたい魚種も判明していない今、細部にこだわったところで大して捕獲率が上がるわけではないだろう。
それに昨日のスタンドテーブルの件で、製造装置先生が呈示する参考図はある程度完成されているのだとわかったからな。
あんまり弄らなくてもうまく機能するんじゃないかという期待もある。
製造装置を稼働させ、側面の開口部から生成物を取り出す。
出来上がったのは、細い板状に削った木材で編まれた籠のような形の道具。
籠の内側には、漏斗をひっくり返したような形の「返し」がついている。
うん、イメージ通りだ。
手作業で作ると難易度高そうだし、製造装置先生が作ってくれて本当に助かる。
「……っと、できたな。これが筌だ。理屈については前に説明したよな」
「魚が入り易くて、出にくい形、だったよね?」
「おう。理屈としては本当にそれだけだ。
これを魚道……魚の通り道か、魚がねぐらにしそうな暗がりに仕掛ける」
漁業には詳しくないが、そういうことのはずだ。
機能しそうだったので、同じものを3つほどつくる。
一つ一つの重さは1kg程度で、持ち運びに問題はない。
内部に仕込めるような餌は、まだ用意できない。
あとはそのまま仕掛けるだけだ。
「他にも、なにかつくる?」
「うーん、そうだな……」
採集用の石製のナイフ、はまだいいか。
植物によっては根っこから掘り返した方がいいことも多いし、手で摘んだほうが良いだろう。
獣用トラップ、もまだいいな。
そもそも獣本体はもちろん、それらがいる痕跡を示すフィールドサインも見ていない。
兎のいない森で兎捕りの罠を仕掛けるなんて間抜けすぎるだろう。
狩猟弓、はカノンには少々扱いが厳しそうだから却下。
そもそも直接的な狩猟は、まとまった数の獣がいる場所を求めて各地を転々とするプレイスタイルでもない限り効率が悪いし、持続可能な食料源としても相応しくない。
わかりやすい食料源が見つかってないから、ここまで食糧問題が後回しになったわけだしな。
モンターナも苦戦しているようだったし、一筋縄ではいかない。
「……うん、今回は筌だけでいいか。
獣や鳥の代わりに、食える植物を探したいところだ」
「岩壁に生えてた、葉っぱみたいな?」
「いや、……これに関しては、あったらめっけもんくらいの気持ちでいる。
りんねるに逢えたなら、りんねるに聞いた方がいいだろう」
「たしかに、野草にも詳しそうだもんね」
あの人はとりあえず一回は食って確かめるだろうなぁ。
フルダイブになったこの世界でもやってるのかはわからんけど。
「……よし、じゃあ、食料と水を準備していこうか。
カノンも、着替えたほうが良いかもしれんぞ」
「んっ。ありがとう。じゃあ、着替えてくる、ね」
洗浄室に消えるカノンを見送る。
ふと採光窓を見ると、朝の陽ざしであるはずのその光は、どこか仄暗い。
……昨日に引き続き、セドナは曇りみたいだな。
途中で雨に降られるかな?
さっそくレザーコートの活躍の機会がありそうだ。
*────
カノンの準備を待つ間、技能スロットを弄る。
今回は昼時間だから【夜目】は必要ない。
夜時間も探索に充てられるのがこのゲームのいいところではあるのだが、技能スロットのうち一つを【夜目】に割きたくなる関係上、どちらかと言えば昼の方が探索に向いている。
夜に活動し始める動物や、夜にしか見られないものが見つかることもあるから、夜の探索にも相応のメリットはあるけどな。
今回の目的は人探しと食料探しだし、素直に明るい時間帯に探索すればいいだろう。
今回の探索に役立ちそうな技能から順に、技能スロットを埋めていく。
―――――――――――――
【旅歩き】 ―― Lv1
【運搬】 ―― Lv2
【潜水】 ―― Lv1
【摘草】 ―― Lv1
―――――――――――――
で、残りの1枠はなににしようか。
装備換装、測量、夜目、聴力強化、危機感知、登攀、跳躍、石工、伐採、握力強化の中から一つになる。
まだまだ少ないが、それでも多少は選択肢が出てきたな。
必須枠というようなものもないし、残り一枠についてはカノンとの相性を考えて選ぶことにしよう。
「お待たせ、フーガくん」
「ん。いいぞ。技能付け替えてたんだけど、カノンは今回なに持ってく?」
「旅歩きと運搬と、危機感知と、摘草と……フーガくんは、どんなふうにした?」
どうやらカノンも、俺と同じようなことを考えていたらしい。
「旅歩きと運搬、潜水と摘草だな。残り1枠はカノンの構成を聞いてからと思って」
「んっと、じゃあ、……わたしは、【聴力強化】にしようかな?」
「ありがと。となると俺は……【石工術】にしとこうかな。なんか割りたくなるかもしれんし」
別に木に登る程度なら登攀要らんしな。跳躍もなくてもどうにでもなるだろう。
それに石工自体は出番がなくても、楔を使うことはある――あっ。
「……そういえば、前回でカオリマツの楔は全部使ったんだったな。
ごめんカノン、この場でちゃちゃっと補充していい?
それと、できれば今回は花崗岩を使わせてほしいんだけど」
「んっ。いいよっ。まだ、あるよね」
「ありがとう。5分も待たせないから」
少々急ぎ足で製造装置を起動、製作履歴から楔を選択。
素材は花崗岩を選択。石斧に使っただけだから、まだ資源に余裕はある。
前回の楔は底面が長方形の四角錐の形にしたわけだが、今回の楔はまた別の形にする。
形状のイメージとしては細い杭。あるいはボールペン。あるいは片面が平たい棒手裏剣。
用途のイメージとしては、ずばりアウトドア道具のペグだ。
底面の形は……今回は丸にしておこう。直径は1cmくらいでいいかな。
これで仕様を確定し、製造ボタンを押下。
この形に大理石を削ってもらう。
加工難易度が無視できる製造装置の恩恵に最大限与らせてもらおう。
「……よし、できた。いい感じだし、あと4本くらい行っとくか」
「今回の楔は、細長いね?」
「ああ。気をつけろよ。わりと簡単に刺さるから」
出来上がった楔は、片方の先端を鋭利に尖らせた直径1.5cmほどの円筒形。
円錐のように徐々に尖らせてあるのではなく、全長の2/3ほどのあたりから尖らせてある。
研磨もしてあるので、表面はつるつるしている。
どこか高級感のある花崗岩の紋様も相まって、まるでなにかの文具か画材道具のようだ。
だがこの道具は、使いようによっては、今までつくったもののなかで一番殺傷力が高い。
あの花崗岩の石斧よりも上だろう。形状がほとんど棒手裏剣だしな。
今回はその用途で使うつもりはないが……。
「これは、どうやって使う?」
「1つは、仕掛け罠の固定だな。川底の流れの強さによっては流されちゃうし」
あの川は水深が深いからな。
川底に直接固定するにせよ、紐でつないで陸から繋留するにせよ、なにかしらの留め具は必要だ。
「1つってことは、まだある?」
「……ん。それはそのときになったら紹介ってことで」
今回も、やっぱり覚えたい技能があるのだ。
*────
「よーし、では本日も元気にしゅっぱ――やっぱり、曇ってるな」
脱出ポッドのハッチを開き、外へと繰り出す。
時刻は朝七時前後、既に日は登っているはずのセドナは、いまだどこかうす暗い。
空を見れば厚い雲。
昨日の夜空も曇っていたが、心なしか更に厚くなっているような気がする。
「雨、降るかな?」
「これは……降るかもしれんな。コート持ってくか」
ここまで5日間ほどセドナで過ごしたのだが、セドナは昼間の気温がそこまで上がらない。
つまり、常に涼しいのだ。
コートを纏ったところで暑いわけでもなし、ましてや日が陰るというのなら、少し肌寒くなることもありうる。
雨が降るというのなら、なおさらのことだ。
素直にコートを着ていくのがいいだろう。
ハッチの近くに立てたポールスタンドから、俺とカノンのコートをとる。
デザインは同じだが、カノンのものは少しサイズを小さく作ってあるので見分けがつく。
「ほい、カノン。曇ってるみたいだし、最初から着てっていいと思うぞ」
「ありがと、フーガくん」
そうして俺とカノンは、初期装備の革装備一式に上からレザーコートを纏ったスタイルとなる。
作成後に一度試着はしたが、実地試験ははじめてだ。
暑いだとか寒いだとか、耐水撥水性能だとか、今回の探索でそのあたりのデータも採ることができるだろう。
「よし、では仕切りなおして。――本日も元気に出発!」
「うんっ」
りんねる探しと食料探し。
今回の探索でどっちもうまくいけばいいが、果たして。
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青春
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颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
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