能力者主義の世界で俺は無能なチート能力者

高桐AyuMe

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本編

癪だ……

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 四日目に突入した。
 昨日はあの奇襲からは何ら変わった出来事はなく、島をぐるっと一周して島内の詳しい地形は頭に入れておいた。
 解禁翌日とあってか、昨日よりは沈黙とした空気が目立つ。恐らくは今日はあまり動きは少ないだろうな。
 出来れば疲弊した生徒からうまくポイントを稼ぎたいところではある。が、まだ焦るようなタイミングじゃない。
 まあ、今日から俺も動かなければならないな。占有ポイントは相変わらず入っているとはいえ、戦闘で勝ち続けた生徒よりかは乏しい。ここらで俺が動いたという情報が流れるだけでも、また違う展開になるかもしれない。
 取り敢えず、昨日頻繫に戦闘音がした所に足を運んでみる。思わぬおこぼれへの期待は持っていても罰は当たらないだろうか。
 その場所までたどり着くが、そこには地面が少々えぐれたりと、昨日の激しい戦闘を物語っている。が、並の能力者同士ではここまでの被害はなかっただろう。
 つまりは。
「あいつに持ってかれたか……」
「一歩、いや1日遅かったようだな」
 後ろからの声。多少驚きつつも俺はその声に聞き覚えはある。
「久しいな、椿。まだ始まったばかりとは言え、体調に問題はなさそうだな」
「それはお互い様だな」
 Sクラス昇格有力候補、西園寺幸助はゆっくりと歩み寄りながら、言った。
「ああ、申し訳ない。今ここでお前と戦うつもりはない。少なくとも今はな」
「一応保険は掛けるんだな」
「しかるべき時が来れば俺はその選択肢を取るだろうからな」
 いつか、西園寺の前に俺が立ちはだかったとき、もしくはそれと似たような状況に陥った時、俺との対峙を選ぶと、西園寺は言う。
 それはさておき、
「それで、一日遅かったとはどういうことだ?」
 俺は西園寺が開口一番に言った言葉の意味を問う。
「昨日ここら一体で複数の生徒が交わって戦闘が始まったんだが、少しばかり遅れて舞原が来ると、あいつがすべて一人で持って行った」
「複数っていくらくらいだ?」
「さあ。正確な人数はわからないが十数人近くはいたはずだ」
「それを一人で片付けた、と」
 随分と見せつけてくれる。まあ、もしかしたら本人に戦闘の意思がなかっただけで、たまたまその瞬間に遭遇してしまっただけかもしれないが。それでも十分なインパクトは与えられる。
「素朴な疑問なんだが、なんでお前がそんなに事細かに状況を知っている?」
「俺も爆音が気になって調べに行ったら十数人の生徒が倒れていて、その中心に舞原がいた。周辺は相当荒れていたから、舞原が到着する前に少しばかりの戦闘があったと考えている。彼女であればそんな暴君のような戦い方はしない」
    俺はその話に同意しつつ、俺が気になっていることを問いかける。
「戦闘の話で聞きたいんだが、この試験中に顔の知らない奴と戦ったり、そういう話を聞かなかったか?」
「ん? なんだそれは。少なくともこの試験に参加している生徒の顔は全員把握しているが。特にそんなことはなかったし、そんな話も聞かなかったな。お前はそういうことがあったのか?」
    唐突で、一見すると意味のわからない質問に西園寺は非常に困惑した様子で答える。そこにうそや偽りはないように思えた。俺はその答えに満足して話を変える。
「いや、何でもない。忘れてくれ。で、今日お前はここに何の用があって来たんだ?」
「いや、既に今日はもう一戦終えていてな。場を離れるついでに様子を見に来ただけだ。そこに偶々お前が突っ立っていたから話しかけたんだ」
「ポイントの方は余裕はあるのか?」
 その問いに西園寺は苦笑を漏らす。
「いくら敵対してないないからと言って、そこまで詳細を言えはしないさ」
「まあ、冗談だ。参考程度に聞いてみただけだ。お前はこれからどうする?」
「特にこれと言って目的はない。一応エリア占有をしてる身でな。そこまで戦闘に意欲的ではない。そういうお前はどうするんだ。まだこの試験じゃこれといった動きは見せていないが」
「事実、動くつもりはなかったからな。少しずつギアは上げていくつもりだ」
「まあ会話はこれくらいにしておこう。長話をしていると警告が下るかもしれないしな」
 俺たちはこの試験において24時間本部からの監視体制下に置かれている。不用意な事故を防ぐためだ。また、生徒同士の協同などの不正を防ぐ目的もある。今この瞬間も監視されているため、下手をすれば、協同の疑いで強制リタイア。なんてこともありうる。これ以上の長話は危険だ。
「俺はこの辺で去るとしよう。またお前との手合わせを楽しみにしている」
「勘弁してくれ。こっちから願い下げだ」
 俺は前回の試験での戦いを思い出し、思わず苦笑いを浮かべた。もうあの博打を打つのは勘弁だ。
 西園寺は俺が来たほうへ姿を消していく。俺ももう少し辺りを散策してみることにしよう。

 正午を過ぎ、日差しは一層強く照りつける。そんな日差しの中、俺は森の中を歩く。だが、既に俺の戦闘警戒レベルはマックスに引き上げられ、頭の中で警戒アラートが鳴っていた。
 原因は明白だ。先ほどから後をつけているやつがいる。何回かうまく顔を確認してみたが、断片的ではあるものの、やはり知らない顔であった。
 思い出されるのは昨日の奇襲。あいつも俺は顔を知らなかった。どうやら俺たちが知らない何かが密かに動きを見せているのかもしれない。そう考えても不思議ではない。
 だが、それでも引っかかるところはある。顔を知らないやつ
が何人潜んでいるのか知らないが、俺しか見ていないことだ。西園寺に聞いてみたが反応的に知らない感じだった。俺だけがこの状況に遭遇するのは果たして偶然か、あるいは必然か。
 どうせまた戦闘を吹っ掛けられるんだろう。知らないふりをして大人しく受け身に回るのは少し癪だ。ここは一つ。俺から動いても問題ないか。
 俺は足を止め、後ろに体ごと振り返る。後ろにはしんと静まり返る木々と植物。だが、そんな空気の中に細く漂う敵意に肌がピリつく。
 刹那、俺は地を蹴り勢いのまま一つの大木に突っ込んだ……。
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