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第17話 マフィア抗争
「ひぃぃ!?」
「チビ、目はやめて。頭なら掴んでいいから」
ラヴィポッドはユーエスに肩車されて街の上空を飛んでいた。
落ちれば即死の高さ。
恐怖のあまりしがみ付き、ユーエスに目隠ししてしまっている。
何故二人は飛んでいるのか。
街中で魔術を使って戦闘している輩がいるらしい。
本来団長が出向くほどのことではない。
他領なら、どうしても団長の力を借りないと鎮圧出来ない場合のみ出動するのが一般的だ。
陽動の可能性があるから。
団長が留守の間に領主が襲われないとも限らない。
しかしドリサは、領主であるダルム本人が元騎士。
十分な自衛能力を持っているため、些細な事件でも団長を思う存分働かせていた。
「転職しようかな」がユーエスの口癖になっている。
「多分この辺だと思うんだけど」
ユーエスは事あるごとに駆り出されている。
ドリサの地理は体が覚えており、前が見えなくても大体自分がどの辺りにいるのか把握していた。
スーッと降下する。
目をギュッと瞑り頭に張り付くラヴィポッドを引っ剥がした。
「ん?」
漸く開けた視界の両端に魔術が映り込んだ。
人を呑み込むほど大きな火球と風球。
それらが左右から迫っていた。
魔術がぶつかり、弾ける。
風が火を拡散させ熱風が吹き荒れた。
そんな暴力的な嵐の中心に、透き通る水球が現れる。
内側では、ユーエスがラヴィポッドを抱きかかえて立っていた。
魔術が散り、ハッと顔を上げたラヴィポッド。
地上に降りていたことに今更気づき、ユーエスの手を抜け出してキョロキョロと周囲を確認する。
「こ、焦げ臭……」
鼻をつまむ。
戦闘の余波を受けて煙を上げる建物。
非難は住んでいるのか建物からは人の気配がしない。
しかしラヴィポッドとユーエスの周囲にはスーツ姿で強面の男たちが集まっていた。
黒のスーツ集団と、白のスーツ集団に挟まれる形だ。
「これはこれは騎士団長様。態々御足労いただきありがとうございます。ですがこれは我々の問題。ここは引いて貰えませんか?」
白スーツの中でもやたらギラギラとしたアクセサリーを身に着けた男が慇懃無礼に前へ出た。
恐らくここの白スーツの中で最も上の立場なのだろう。
「騎士様の出る幕じゃねえってのは同意じゃあ。ウチのシマに土足で踏み込んだクソ共に落とし前つけて貰わにゃいかんけぇのぉ」
反対では、小太りだがやけに貫禄のある髭面が葉巻をふかす。
ソフトハットを被ったこちらは黒スーツのボスだろう。
明らかに堅気じゃない。
「ひぃぃ!?」
ラヴィポッドは割れた窓から家屋に浸入して隠れる。
「ふぅ」
落ち着いて息を吐く。
ふと気配を感じて横を見ると、包帯をぐるぐるに巻いた不審者と目があった。
ミイラだ。
血の気が引き、ラヴィポッドの顔が青褪めていく。
心臓を掴まれたような苦しさで息が詰まった。
「ひっ……」
悲鳴を上げようとするも、ミイラに口を押えられる。
「静かにしろ、気づかれんだろ。俺だ、アロシカだ」
「しー」と人差し指を立てる、包帯ぐるぐる巻きの少年。
「……へ? な、なんでこんなところに……」
ラヴィポッドが目をぱちつかせる。
「なんか騒ぎが起きてたからさ。面白そうだし見に来た」
アロシカの言葉にキョトン、とする。
(面白そうって、ヤバそうな顔のおじさんたちが? ……怪我しすぎて頭壊れちゃったんだ)
全く共感できず、怪我の後遺症を疑う。
「ほら、なんか始まっぞ。バレんなよ」
なんやかんやで、二人は頭だけ出してマフィアの抗争を覗き見ることにした。
「これだけ周りに被害出しといてそれはないでしょ」
マフィアに挟まれても、ユーエスはなんら臆することはない。
「んなこたぁそっちの若造に言っちぁあくれんか。先代からこの街のルールっちゅうもんを教わってないんかのぉ」
「……この街のルールを決めているのは貴方たちじゃない」
黒スーツのボスに言い返す。
「舐めた口きくじゃねぇか小僧」
ユーエスが肩を竦める。
「引かないなら全員捕まえるけど」
しばらく睨み合いが続き、マフィアが折れる。
「けっ!」と面白く無さそうに踵を返した。
事態が収束するかに思われたが、白スーツのボスが立ち止まる。
この場に似つかわしくない少女が道を塞いでいたから。
「騎士団長様?」
「……ハニちゃん?」
何故ここに。意外な遭遇にお互い目を丸くする。
ユーエスとハニが知り合いであると理解した白スーツのボスは何やら目配せした。
すると部下がハニを取り押さえる。
「は、離して!」
即座に魔術を発動できるユーエスやラヴィポッドと違い、ハニは発動まで少しの時間を要する。
いきなり襲われればなす術もない。
必至に抵抗するが、大男の力には敵わないようだ。
飄々とした態度から一転、ユーエスの視線が鋭くなる。
「なんのつもり?」
「抵抗した瞬間、この少女を殺します」
「……」
沈黙するユーエス。
人質を取り、優位に立った白スーツのボスはニヤニヤと表情を歪ませる。
「何か言ったらどうです?」
「喋んなカス」
その返答を抵抗と取ったのか、身動き取れないハニに白スーツが拳を振り上げる。
脅しではないと分からせるために。
ユーエスが風魔術で加速し、反応すら出来ない速度で白スーツたちを蹂躙しようとした。
しかし、それは叶わなかった。
「クセェ手でハニに触んなぁぁっ!」
何処からか高速で飛んできたミイラが、ハニを殴ろうとした白スーツの頭に角材を叩き付けたから。
◇
アロシカがマフィアに突撃する少し前。
「ハニさんと一緒に来たんですか?」
「あ? 一人で来たけど」
「で、でもあそこに……」
ラヴィポッドの指が示す先には確かにハニの姿があった。
「たぶん追ってきたんだな。あいつ昔っからお節介なんだよ」
アロシカが何かしようとすると、ハニはいつもお目付け役のようについてくる。
何度「ついてくんな」と言ってもついてくる。
ちょっとうんざりするくらいに。
「おっさん共に絡まれて嫌な思いすりゃ、これに懲りてついてくんのやめんだろ。ちょうどいいや」
「ちょ、ちょうどいいんですね」
ちょうどいいらしい。
ラヴィポッドにはよくわからないが。
ハニが捕まっているけど、いいらしい。
横からギリギリと音が聞こえてくるのは気のせいだろうか。
白スーツがハニを殴ろうとするのを見て、ラヴィポッドは思わず身を竦ませる。
自分が叩かれるかのように。
そして目を開けると、アロシカがいなくなっていた。
「クセェ手でハニに触んなぁぁっ!」
アロシカがマフィアの中に突っ込むのを見て、
「ちょうどいい?」
ラヴィポッドは首を傾げる。言ってることが違うのではないかと。
「アロシカ!? まだ怪我治ってないのに何やってるの!」
「うるせぇ! 動けりゃ治ってんだよ! 捕まんな間抜け!」
「はぁ!? 私がどれだけ心配してっ」
ガミガミと敵地のど真ん中で言い合うハニとアロシカ。
ラヴィポッドは我関せず。そろりそろりと移動していたが、
「まだいたぞ! ガキの仲間だ!」
見つかってしまった。
集団から一人抜け出し、白スーツがラヴィポッドを捕えようと駆け出す。
「ひぃぃ!?」
パニックになったラヴィポッドがストーンゴーレムの人形を放り投げた。
「出でよ! ストーンゴーレムッ!」
頭を抱えて蹲ったまま叫ぶ。
ちょうど白スーツの少し上を飛んでいた人形が巨大化を始め、うつ伏せの状態で巨大化した。
「な、なんだこれはぁぁぁぁぁぁ!?」
突如現れた石の巨人。
その巨躯による超重量のフライングボディプレスが炸裂し、己に何が起こったのか理解する間もなく白スーツが圧し潰された。
ついでに逃げ遅れた白スーツ数名と、家屋の一部も潰される。
「あ、あぶに~」
ラヴィポッドは立ち上がるストーンゴーレムの肩に乗り、安全圏に避難する。
一件落着とばかりに額の汗を拭った。
下の様子を窺うと、全方位から視線を向けられていた。
謎の巨人の出現に言葉を失う白スーツの頭目。
腹を抱えて笑う黒スーツの頭目。
なんだか悔しそうなアロシカ。
呆れるハニ。
街の被害が拡大し、額を押さえて首を振るユーエス。
「ひぃぃ!?」
注目を浴びるのが嫌なのか、ラヴィポッドはストーンゴーレムの頭にしがみつく。
全員が動きを止める中、逸早く動き出したのはハニ。
跳び退いて白スーツから距離を取り、人差し指を向ける。
足場が土じゃないため、魔術で土を生成。
「全部あんたらの所為よっ!」
自分が捕まって、騎士団長に迷惑をかけたのも。
アロシカと口喧嘩しているのも。
一部八つ当たりを込めて。
土の弾丸を射出した。
「ボス!」
白スーツの部下がボスを引き寄せ、身代わりになった。
土の弾丸が部下の胸部を貫き、ボスの頬を掠める。
「な……」
無詠唱の発動速度。
人体を貫通して尚減速すらしない破壊力。
二元素を合わせたオリジナルの魔術。
(なんなんだこいつらは……っ!)
突如飛来したミイラ。
怪物を使役する少女。
殺傷力の高すぎる魔術を放つ少女。
ただのガキだと甘く見ていたボスが息を呑む。
「うらあ!」
アロシカが吠える。
ラヴィポッドとハニに負けじと、無意識でマナによる身体強化を駆使して角材を振り回す。
立ち塞がる白スーツの部下を薙ぎ払いながら、集団の後方へと逃げるボスを狙う。
「最高じゃあねぇかガキども!」
黒スーツのボスが葉巻をふかし、上機嫌にカカッと笑う。
「ガキ暴行の現行犯じゃあ! おどれら、騎士様を手伝って差し上げろ! 暴行を加えちゃれぇ!」
黒スーツ集団が雄叫びを上げ、白スーツ集団に襲い掛かった。
混戦の中、白スーツの放った魔術の流れ弾がラヴィポッドに飛来する。
「ひぃぃ!?」
ストーンゴーレムが魔術を振り払い、主に危害を加えたものを排除しようと暴れだす。
そして始まった大乱闘。
マフィア抗争の中に三人の子どもと石の巨人が紛れる。
戦争もかくや。
街中で起きてはいけない規模の争いが繰り広げられた。
「なんでこうなった……?」
呆然と立ち尽くすユーエス。
笑うしかない。
「もう、一人増えても同じだよね~」
強者は平和な日常だけを過ごすとストレスが溜まる。
それは伸びもできない窮屈な空間に押し込まれるような閉塞感だった。
故に強者はその力を存分に振るえる場所を求める。
全てを諦めたユーエスは、朗らかに笑いながらマフィア抗争に加わった。
「おいガキ、見境なく振り回すんじゃねえ! 敵は白い奴らだ!」
黒スーツが怒鳴る。
「うるせえ全員ぶっ倒しゃあ白い奴も倒せんだろ!」
聞く耳持たず暴れ回るアロシカ。
「このめちゃくちゃなミイラどっかで……」
「お、騎士団長っつったっけ? 一番強そうだな死ねぇ!」
◇
ラヴィポッド。
小型石人形。
ユーエス。
アロシカ。
ハニ。
黒スーツのボス。
五人と一体は正座していた。
居心地悪そうに身を縮めて。
正面には、ダルムが仁王立ちして腕を組んでいる。
吊り上がった眉、眉間に寄った深い皺。
誰が見ても怒っていると危険なオーラを放っていた。
「ユーエス、日頃から言ってるよな。てめぇの仕事は被害を最小限にすることであって、好き勝手暴れることじゃねえ」
「はい……」
ぐうの音も出ないユーエス。
怒りからか昔の口調に戻ってしまっているダルム。
その視線が黒スーツのボスに向く。
「クロレヴィッチ、ウチとスモーブローファミリーの掟を忘れたわけじゃねえよな?」
「も、もちろんでさぁ若旦那……」
クロレヴィッチは脱げかけた帽子を被り直す。
ダルムが暫し睨んだ後、「大人のくせに怒られてやんの」と他人事のように笑うアロシカの顔面を掴んだ。
ラヴィポッドとハニが背筋を正す。
「てめえらは今俺の恩情でドリサに置いて貰ってるってことを弁えろ」
ハニがアロシカの代わりにコクコクと頷く。
「離せジジイ!」と抵抗するアロシカを他所に、ダルムの視線がラヴィポッドに向けられた。
その瞬間ラヴィポッドは部屋の端まで転がり、震えながら壁にへばり付いた。
「街中でゴーレムを出すのは極力やめておけ。いらん被害とトラブルを生む」
首が千切れんばかりに頷くラヴィポッド。
「まぁしかし……久し振りにいいもんを拾った」
ハニとアロシカを見て、ダルムが不敵に笑う。
教育のしがいがありそうだ、と。
「迷惑かけた分キッチリ働いてもらおうか」
後日、アロシカとハニはドリサ騎士団に入隊させられた。
「チビ、目はやめて。頭なら掴んでいいから」
ラヴィポッドはユーエスに肩車されて街の上空を飛んでいた。
落ちれば即死の高さ。
恐怖のあまりしがみ付き、ユーエスに目隠ししてしまっている。
何故二人は飛んでいるのか。
街中で魔術を使って戦闘している輩がいるらしい。
本来団長が出向くほどのことではない。
他領なら、どうしても団長の力を借りないと鎮圧出来ない場合のみ出動するのが一般的だ。
陽動の可能性があるから。
団長が留守の間に領主が襲われないとも限らない。
しかしドリサは、領主であるダルム本人が元騎士。
十分な自衛能力を持っているため、些細な事件でも団長を思う存分働かせていた。
「転職しようかな」がユーエスの口癖になっている。
「多分この辺だと思うんだけど」
ユーエスは事あるごとに駆り出されている。
ドリサの地理は体が覚えており、前が見えなくても大体自分がどの辺りにいるのか把握していた。
スーッと降下する。
目をギュッと瞑り頭に張り付くラヴィポッドを引っ剥がした。
「ん?」
漸く開けた視界の両端に魔術が映り込んだ。
人を呑み込むほど大きな火球と風球。
それらが左右から迫っていた。
魔術がぶつかり、弾ける。
風が火を拡散させ熱風が吹き荒れた。
そんな暴力的な嵐の中心に、透き通る水球が現れる。
内側では、ユーエスがラヴィポッドを抱きかかえて立っていた。
魔術が散り、ハッと顔を上げたラヴィポッド。
地上に降りていたことに今更気づき、ユーエスの手を抜け出してキョロキョロと周囲を確認する。
「こ、焦げ臭……」
鼻をつまむ。
戦闘の余波を受けて煙を上げる建物。
非難は住んでいるのか建物からは人の気配がしない。
しかしラヴィポッドとユーエスの周囲にはスーツ姿で強面の男たちが集まっていた。
黒のスーツ集団と、白のスーツ集団に挟まれる形だ。
「これはこれは騎士団長様。態々御足労いただきありがとうございます。ですがこれは我々の問題。ここは引いて貰えませんか?」
白スーツの中でもやたらギラギラとしたアクセサリーを身に着けた男が慇懃無礼に前へ出た。
恐らくここの白スーツの中で最も上の立場なのだろう。
「騎士様の出る幕じゃねえってのは同意じゃあ。ウチのシマに土足で踏み込んだクソ共に落とし前つけて貰わにゃいかんけぇのぉ」
反対では、小太りだがやけに貫禄のある髭面が葉巻をふかす。
ソフトハットを被ったこちらは黒スーツのボスだろう。
明らかに堅気じゃない。
「ひぃぃ!?」
ラヴィポッドは割れた窓から家屋に浸入して隠れる。
「ふぅ」
落ち着いて息を吐く。
ふと気配を感じて横を見ると、包帯をぐるぐるに巻いた不審者と目があった。
ミイラだ。
血の気が引き、ラヴィポッドの顔が青褪めていく。
心臓を掴まれたような苦しさで息が詰まった。
「ひっ……」
悲鳴を上げようとするも、ミイラに口を押えられる。
「静かにしろ、気づかれんだろ。俺だ、アロシカだ」
「しー」と人差し指を立てる、包帯ぐるぐる巻きの少年。
「……へ? な、なんでこんなところに……」
ラヴィポッドが目をぱちつかせる。
「なんか騒ぎが起きてたからさ。面白そうだし見に来た」
アロシカの言葉にキョトン、とする。
(面白そうって、ヤバそうな顔のおじさんたちが? ……怪我しすぎて頭壊れちゃったんだ)
全く共感できず、怪我の後遺症を疑う。
「ほら、なんか始まっぞ。バレんなよ」
なんやかんやで、二人は頭だけ出してマフィアの抗争を覗き見ることにした。
「これだけ周りに被害出しといてそれはないでしょ」
マフィアに挟まれても、ユーエスはなんら臆することはない。
「んなこたぁそっちの若造に言っちぁあくれんか。先代からこの街のルールっちゅうもんを教わってないんかのぉ」
「……この街のルールを決めているのは貴方たちじゃない」
黒スーツのボスに言い返す。
「舐めた口きくじゃねぇか小僧」
ユーエスが肩を竦める。
「引かないなら全員捕まえるけど」
しばらく睨み合いが続き、マフィアが折れる。
「けっ!」と面白く無さそうに踵を返した。
事態が収束するかに思われたが、白スーツのボスが立ち止まる。
この場に似つかわしくない少女が道を塞いでいたから。
「騎士団長様?」
「……ハニちゃん?」
何故ここに。意外な遭遇にお互い目を丸くする。
ユーエスとハニが知り合いであると理解した白スーツのボスは何やら目配せした。
すると部下がハニを取り押さえる。
「は、離して!」
即座に魔術を発動できるユーエスやラヴィポッドと違い、ハニは発動まで少しの時間を要する。
いきなり襲われればなす術もない。
必至に抵抗するが、大男の力には敵わないようだ。
飄々とした態度から一転、ユーエスの視線が鋭くなる。
「なんのつもり?」
「抵抗した瞬間、この少女を殺します」
「……」
沈黙するユーエス。
人質を取り、優位に立った白スーツのボスはニヤニヤと表情を歪ませる。
「何か言ったらどうです?」
「喋んなカス」
その返答を抵抗と取ったのか、身動き取れないハニに白スーツが拳を振り上げる。
脅しではないと分からせるために。
ユーエスが風魔術で加速し、反応すら出来ない速度で白スーツたちを蹂躙しようとした。
しかし、それは叶わなかった。
「クセェ手でハニに触んなぁぁっ!」
何処からか高速で飛んできたミイラが、ハニを殴ろうとした白スーツの頭に角材を叩き付けたから。
◇
アロシカがマフィアに突撃する少し前。
「ハニさんと一緒に来たんですか?」
「あ? 一人で来たけど」
「で、でもあそこに……」
ラヴィポッドの指が示す先には確かにハニの姿があった。
「たぶん追ってきたんだな。あいつ昔っからお節介なんだよ」
アロシカが何かしようとすると、ハニはいつもお目付け役のようについてくる。
何度「ついてくんな」と言ってもついてくる。
ちょっとうんざりするくらいに。
「おっさん共に絡まれて嫌な思いすりゃ、これに懲りてついてくんのやめんだろ。ちょうどいいや」
「ちょ、ちょうどいいんですね」
ちょうどいいらしい。
ラヴィポッドにはよくわからないが。
ハニが捕まっているけど、いいらしい。
横からギリギリと音が聞こえてくるのは気のせいだろうか。
白スーツがハニを殴ろうとするのを見て、ラヴィポッドは思わず身を竦ませる。
自分が叩かれるかのように。
そして目を開けると、アロシカがいなくなっていた。
「クセェ手でハニに触んなぁぁっ!」
アロシカがマフィアの中に突っ込むのを見て、
「ちょうどいい?」
ラヴィポッドは首を傾げる。言ってることが違うのではないかと。
「アロシカ!? まだ怪我治ってないのに何やってるの!」
「うるせぇ! 動けりゃ治ってんだよ! 捕まんな間抜け!」
「はぁ!? 私がどれだけ心配してっ」
ガミガミと敵地のど真ん中で言い合うハニとアロシカ。
ラヴィポッドは我関せず。そろりそろりと移動していたが、
「まだいたぞ! ガキの仲間だ!」
見つかってしまった。
集団から一人抜け出し、白スーツがラヴィポッドを捕えようと駆け出す。
「ひぃぃ!?」
パニックになったラヴィポッドがストーンゴーレムの人形を放り投げた。
「出でよ! ストーンゴーレムッ!」
頭を抱えて蹲ったまま叫ぶ。
ちょうど白スーツの少し上を飛んでいた人形が巨大化を始め、うつ伏せの状態で巨大化した。
「な、なんだこれはぁぁぁぁぁぁ!?」
突如現れた石の巨人。
その巨躯による超重量のフライングボディプレスが炸裂し、己に何が起こったのか理解する間もなく白スーツが圧し潰された。
ついでに逃げ遅れた白スーツ数名と、家屋の一部も潰される。
「あ、あぶに~」
ラヴィポッドは立ち上がるストーンゴーレムの肩に乗り、安全圏に避難する。
一件落着とばかりに額の汗を拭った。
下の様子を窺うと、全方位から視線を向けられていた。
謎の巨人の出現に言葉を失う白スーツの頭目。
腹を抱えて笑う黒スーツの頭目。
なんだか悔しそうなアロシカ。
呆れるハニ。
街の被害が拡大し、額を押さえて首を振るユーエス。
「ひぃぃ!?」
注目を浴びるのが嫌なのか、ラヴィポッドはストーンゴーレムの頭にしがみつく。
全員が動きを止める中、逸早く動き出したのはハニ。
跳び退いて白スーツから距離を取り、人差し指を向ける。
足場が土じゃないため、魔術で土を生成。
「全部あんたらの所為よっ!」
自分が捕まって、騎士団長に迷惑をかけたのも。
アロシカと口喧嘩しているのも。
一部八つ当たりを込めて。
土の弾丸を射出した。
「ボス!」
白スーツの部下がボスを引き寄せ、身代わりになった。
土の弾丸が部下の胸部を貫き、ボスの頬を掠める。
「な……」
無詠唱の発動速度。
人体を貫通して尚減速すらしない破壊力。
二元素を合わせたオリジナルの魔術。
(なんなんだこいつらは……っ!)
突如飛来したミイラ。
怪物を使役する少女。
殺傷力の高すぎる魔術を放つ少女。
ただのガキだと甘く見ていたボスが息を呑む。
「うらあ!」
アロシカが吠える。
ラヴィポッドとハニに負けじと、無意識でマナによる身体強化を駆使して角材を振り回す。
立ち塞がる白スーツの部下を薙ぎ払いながら、集団の後方へと逃げるボスを狙う。
「最高じゃあねぇかガキども!」
黒スーツのボスが葉巻をふかし、上機嫌にカカッと笑う。
「ガキ暴行の現行犯じゃあ! おどれら、騎士様を手伝って差し上げろ! 暴行を加えちゃれぇ!」
黒スーツ集団が雄叫びを上げ、白スーツ集団に襲い掛かった。
混戦の中、白スーツの放った魔術の流れ弾がラヴィポッドに飛来する。
「ひぃぃ!?」
ストーンゴーレムが魔術を振り払い、主に危害を加えたものを排除しようと暴れだす。
そして始まった大乱闘。
マフィア抗争の中に三人の子どもと石の巨人が紛れる。
戦争もかくや。
街中で起きてはいけない規模の争いが繰り広げられた。
「なんでこうなった……?」
呆然と立ち尽くすユーエス。
笑うしかない。
「もう、一人増えても同じだよね~」
強者は平和な日常だけを過ごすとストレスが溜まる。
それは伸びもできない窮屈な空間に押し込まれるような閉塞感だった。
故に強者はその力を存分に振るえる場所を求める。
全てを諦めたユーエスは、朗らかに笑いながらマフィア抗争に加わった。
「おいガキ、見境なく振り回すんじゃねえ! 敵は白い奴らだ!」
黒スーツが怒鳴る。
「うるせえ全員ぶっ倒しゃあ白い奴も倒せんだろ!」
聞く耳持たず暴れ回るアロシカ。
「このめちゃくちゃなミイラどっかで……」
「お、騎士団長っつったっけ? 一番強そうだな死ねぇ!」
◇
ラヴィポッド。
小型石人形。
ユーエス。
アロシカ。
ハニ。
黒スーツのボス。
五人と一体は正座していた。
居心地悪そうに身を縮めて。
正面には、ダルムが仁王立ちして腕を組んでいる。
吊り上がった眉、眉間に寄った深い皺。
誰が見ても怒っていると危険なオーラを放っていた。
「ユーエス、日頃から言ってるよな。てめぇの仕事は被害を最小限にすることであって、好き勝手暴れることじゃねえ」
「はい……」
ぐうの音も出ないユーエス。
怒りからか昔の口調に戻ってしまっているダルム。
その視線が黒スーツのボスに向く。
「クロレヴィッチ、ウチとスモーブローファミリーの掟を忘れたわけじゃねえよな?」
「も、もちろんでさぁ若旦那……」
クロレヴィッチは脱げかけた帽子を被り直す。
ダルムが暫し睨んだ後、「大人のくせに怒られてやんの」と他人事のように笑うアロシカの顔面を掴んだ。
ラヴィポッドとハニが背筋を正す。
「てめえらは今俺の恩情でドリサに置いて貰ってるってことを弁えろ」
ハニがアロシカの代わりにコクコクと頷く。
「離せジジイ!」と抵抗するアロシカを他所に、ダルムの視線がラヴィポッドに向けられた。
その瞬間ラヴィポッドは部屋の端まで転がり、震えながら壁にへばり付いた。
「街中でゴーレムを出すのは極力やめておけ。いらん被害とトラブルを生む」
首が千切れんばかりに頷くラヴィポッド。
「まぁしかし……久し振りにいいもんを拾った」
ハニとアロシカを見て、ダルムが不敵に笑う。
教育のしがいがありそうだ、と。
「迷惑かけた分キッチリ働いてもらおうか」
後日、アロシカとハニはドリサ騎士団に入隊させられた。
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あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
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※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
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