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オニタイジ
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ルギは走った。
薄明かりのけもの道をとにかく走った。
後方に追っ手が迫る気配がしたが一心不乱に全速力で森を駆け抜けた。
月明かりに照らされた浜辺に出た。
波打ち際に誰かが忘れた小舟が置いてある。
ルギは小舟に乗り中にあった筏を漕いだ。
数里ほど離れた所で追っ手の松明が見えた。
数本の矢を放ったようであったがここまでは届かなかった。
力の限り筏を漕ぎ、辺りが白み始めた頃に沖に島影が見えた。
だがここにも追っ手が迫っているのかもしれない…
ルギは用心しながらなるべく目に付きにくそうな木陰に小舟を着けた。
誰も居ないのだろうか?
辺りは夜も明けたようだが人の気配がしない。
でも人が幾度も通ったような道が森に続いている。
しばらく歩くと何かを煮ているような匂いがした。
小屋があった。
匂いはここから漂っているようだ。
人の声のようなものが聞こえる。
だが聞き慣れたこの地の言語ではなかった。
小屋の周りに子どもが数人走り回っていた。
一人はこの地の子どもような姿だがもう一人は彼の地で見た教会の壁画で見たような透き通った肌に黄金色の髪の天使だった。
ルギを見つけると子どもたちは驚き小屋に駆け込んで行った。
そして小屋から自分と同じくらい大柄な透き通った肌で黄金色の髪の男が棍棒のようなものを持って出て来た。
カタコトで何かを言っている。
正確な意味は分からなかったが自分を警戒していることだけはルギには理解出来た。
拳を広げ両手を上げて危害を加えない事をアピールした。
「オレは何もしない。あんた達に危害は加えない。」そうアピールし続けると男は棍棒のようなものを下げ「こっちに来い」と手招いた。
小屋の中には数人の子ども達とこの地の女性(たぶん母親)が煮物をよそおっていた。
この地の女性の言葉が何となく分かった。
自分が白い肌の者達に囚われて船の中で身動きも出来ずに糞尿まみれになって何日にも経ち「もうこ死んでしまったんじゃないか?」と何度も思ったある時に見たこともない異国の地に着き、足枷を付けられ起きている間ずっと働かされたことを話した。
女性はそれを先の白人(多分彼女の夫)に耳打ちした。
彼は頷き右手を差し出した。
「オレはイアンだ。」
それはこの地に着いて何となく分かる言葉だった。
「ア…ワタシ…はルギ…デ…ス。」
ここまで話すのが精一杯だった。
イアン一家の朝食を分けて貰った。
温かな魚介のスープだった。
こんな温かで美味いスープは久しぶりだった。
朝食を終えるとイアンは「ついて来い」と手招きし森へ案内した。
森の奥の先に多少開けた大地が見えた。
彼はここで作物を育ているらしい。
まだ畑にしていない荒地の岩石や張り広がった根の除去(つまりは開墾)を手伝って欲しいとの事だった。
大柄な大人の二人掛かりでの作業は目覚ましくあっと言う間にそれまでの3倍相当の面積を開墾した。
イアンはそこに稗と蕎麦を植えた。
この島を訪れた頃はまだ肌寒かったが夏が過ぎ秋が訪れる頃には沢山の稗やそばが実った。
収穫を終えて冬に備える為に魚の干物も欠かせなかった。
イアンはいろんな事を教えてくれた。
彼は露西亞という国で生まれ兄弟と共に漁に出ていたが時化でボートが転覆し、氣が付いたら一つ上の兄のスミロフとこの島に辿り着いていた。
その後スミロフはその時のケガが元で亡くなってしまったらしい。
この島には流刑囚として侍一家が住んでいたらしいのだが、ある嵐の翌日に家屋が倒壊し娘一人残して全員亡くなってしまったとのこと。
最初は鬼と恐れられていたものの、独りぼっちのその娘”トメ”と心を通わせるようになり乳飲児も合わせて5人の子どもを授かったようだ。
その後この島に罪人と呼ばれる者たちが役人と共にやって来た。
彼らは私とイアンを見ると「鬼じゃ!鬼じゃー!」と喚き小舟で去って行った。
島に取り残された罪人の一人に”ぎん”がいた。
彼女は身売りに出された先で何度もされた無理強いに我慢出来ず主人を刺してしまったらしい。
心閉ざしていた”ぎん”だったがその美しさに魅了された満面の微笑みのルギに絆されて彼の子を宿すようになってしまった。
子が産まれる時、トメが助産婦を引き受けてくれた。
生まれて来た子は”トキ”と名付けた。
イアン一家と我が家3人、毎日狩をして稗や蕎麦の状態を診て子ども達と遊ぶ。
決して充分な糧ではないにしても充実した日々だった。
彼の子が訪れる前までは…
ある時、この島に鬼が住むとの噂が立ったらしいと定期的に訪れる船頭が教えてくれた。
「どこに鬼がいるんだ?」イアンも私もそう言って笑い飛ばしていた。
ある時、その子は役人もいない小舟でいきなり乗り付けて来た。
まだ幼い面影が残るその姿に不似合いな刀を腰に携え、鳥や動物を連れている。
小舟には”鬼退治”の旗が掲げられていた。
上陸した彼にイアンがまず最初にその腰の長刀を鞘ごと置くように説いたが聞き入られなかった。
異様に緊張し着飾ったその子は落ち着きの無い様子で何かを叫びながらいきなりイアンを斬りつけた。
握手を求めるイアンの右手が宙に舞った。
彼が連れていた動物達がイアンの子ども達に襲いかかり、止めに入った私も彼の太刀に切りつけられてしまった。
「なんて事なんだ…」薄れ行く記憶の中で半身に斬られた我が子が引きつけながら絶命する姿をただ見ていた。
薄明かりのけもの道をとにかく走った。
後方に追っ手が迫る気配がしたが一心不乱に全速力で森を駆け抜けた。
月明かりに照らされた浜辺に出た。
波打ち際に誰かが忘れた小舟が置いてある。
ルギは小舟に乗り中にあった筏を漕いだ。
数里ほど離れた所で追っ手の松明が見えた。
数本の矢を放ったようであったがここまでは届かなかった。
力の限り筏を漕ぎ、辺りが白み始めた頃に沖に島影が見えた。
だがここにも追っ手が迫っているのかもしれない…
ルギは用心しながらなるべく目に付きにくそうな木陰に小舟を着けた。
誰も居ないのだろうか?
辺りは夜も明けたようだが人の気配がしない。
でも人が幾度も通ったような道が森に続いている。
しばらく歩くと何かを煮ているような匂いがした。
小屋があった。
匂いはここから漂っているようだ。
人の声のようなものが聞こえる。
だが聞き慣れたこの地の言語ではなかった。
小屋の周りに子どもが数人走り回っていた。
一人はこの地の子どもような姿だがもう一人は彼の地で見た教会の壁画で見たような透き通った肌に黄金色の髪の天使だった。
ルギを見つけると子どもたちは驚き小屋に駆け込んで行った。
そして小屋から自分と同じくらい大柄な透き通った肌で黄金色の髪の男が棍棒のようなものを持って出て来た。
カタコトで何かを言っている。
正確な意味は分からなかったが自分を警戒していることだけはルギには理解出来た。
拳を広げ両手を上げて危害を加えない事をアピールした。
「オレは何もしない。あんた達に危害は加えない。」そうアピールし続けると男は棍棒のようなものを下げ「こっちに来い」と手招いた。
小屋の中には数人の子ども達とこの地の女性(たぶん母親)が煮物をよそおっていた。
この地の女性の言葉が何となく分かった。
自分が白い肌の者達に囚われて船の中で身動きも出来ずに糞尿まみれになって何日にも経ち「もうこ死んでしまったんじゃないか?」と何度も思ったある時に見たこともない異国の地に着き、足枷を付けられ起きている間ずっと働かされたことを話した。
女性はそれを先の白人(多分彼女の夫)に耳打ちした。
彼は頷き右手を差し出した。
「オレはイアンだ。」
それはこの地に着いて何となく分かる言葉だった。
「ア…ワタシ…はルギ…デ…ス。」
ここまで話すのが精一杯だった。
イアン一家の朝食を分けて貰った。
温かな魚介のスープだった。
こんな温かで美味いスープは久しぶりだった。
朝食を終えるとイアンは「ついて来い」と手招きし森へ案内した。
森の奥の先に多少開けた大地が見えた。
彼はここで作物を育ているらしい。
まだ畑にしていない荒地の岩石や張り広がった根の除去(つまりは開墾)を手伝って欲しいとの事だった。
大柄な大人の二人掛かりでの作業は目覚ましくあっと言う間にそれまでの3倍相当の面積を開墾した。
イアンはそこに稗と蕎麦を植えた。
この島を訪れた頃はまだ肌寒かったが夏が過ぎ秋が訪れる頃には沢山の稗やそばが実った。
収穫を終えて冬に備える為に魚の干物も欠かせなかった。
イアンはいろんな事を教えてくれた。
彼は露西亞という国で生まれ兄弟と共に漁に出ていたが時化でボートが転覆し、氣が付いたら一つ上の兄のスミロフとこの島に辿り着いていた。
その後スミロフはその時のケガが元で亡くなってしまったらしい。
この島には流刑囚として侍一家が住んでいたらしいのだが、ある嵐の翌日に家屋が倒壊し娘一人残して全員亡くなってしまったとのこと。
最初は鬼と恐れられていたものの、独りぼっちのその娘”トメ”と心を通わせるようになり乳飲児も合わせて5人の子どもを授かったようだ。
その後この島に罪人と呼ばれる者たちが役人と共にやって来た。
彼らは私とイアンを見ると「鬼じゃ!鬼じゃー!」と喚き小舟で去って行った。
島に取り残された罪人の一人に”ぎん”がいた。
彼女は身売りに出された先で何度もされた無理強いに我慢出来ず主人を刺してしまったらしい。
心閉ざしていた”ぎん”だったがその美しさに魅了された満面の微笑みのルギに絆されて彼の子を宿すようになってしまった。
子が産まれる時、トメが助産婦を引き受けてくれた。
生まれて来た子は”トキ”と名付けた。
イアン一家と我が家3人、毎日狩をして稗や蕎麦の状態を診て子ども達と遊ぶ。
決して充分な糧ではないにしても充実した日々だった。
彼の子が訪れる前までは…
ある時、この島に鬼が住むとの噂が立ったらしいと定期的に訪れる船頭が教えてくれた。
「どこに鬼がいるんだ?」イアンも私もそう言って笑い飛ばしていた。
ある時、その子は役人もいない小舟でいきなり乗り付けて来た。
まだ幼い面影が残るその姿に不似合いな刀を腰に携え、鳥や動物を連れている。
小舟には”鬼退治”の旗が掲げられていた。
上陸した彼にイアンがまず最初にその腰の長刀を鞘ごと置くように説いたが聞き入られなかった。
異様に緊張し着飾ったその子は落ち着きの無い様子で何かを叫びながらいきなりイアンを斬りつけた。
握手を求めるイアンの右手が宙に舞った。
彼が連れていた動物達がイアンの子ども達に襲いかかり、止めに入った私も彼の太刀に切りつけられてしまった。
「なんて事なんだ…」薄れ行く記憶の中で半身に斬られた我が子が引きつけながら絶命する姿をただ見ていた。
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