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ムー大陸編
14首都ヒラニプラ到着
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陽が大分傾いて来た。
「このまま歩き続けて首都に入るか、取り敢えずこのあたりで一晩過ごすか、神谷はどっちがいい」
「首都に入っても中心部まで四時間くらいかかるんだろう、だったら、今晩は首都に入らずに、明日の朝、首都に入って、ゆっくりと中心部を目指した方が良いんじゃないか」
「こいつもその方が良いと言ってるね」
邪神の言うとおりにした方が良いとは限らない。アルハザードを黒色人と闘わせるだけのために、首都から徒歩二日という長距離にある辺境に上陸させられたぐらいなのだから。
「そうだね、こいつの基準を人間のそれと同じと考えてはいけないね。でも、今日のところはこいつの考えに従うことにしようか。あの果肉を食べると死ぬ、と教えてくれたことだしね」
そうだった。あのオレンジに似た実を見て、何の知識もなかったら、あるいは齧っていたかもしれない。
「もう少し歩いて、城壁から少し離れたところで今晩は眠るとしよう」
陽が完全に暮れるまで歩き、夕食となった。対価は神谷のギター演奏であることは言うまでもない。
そろそろ和食が恋しくなってきたと思っているところに、深川飯と漬け物味噌汁という涙が出るような献立だった。
これは明日からのギター演奏も頑張らないといけないな、と思いながら箸を進めた。目の前ではアルハザードが器用に箸を使いながら同じメニューを口に運んでいる。
「あと一時間もかからずに首都の城壁に辿り着く。明日は色々と面倒なことがありそうだ。今日はゆっくり休んでそれにそなえよう」
面倒なことって何? 訊ねようとしたが、どうせ邪神が教えて来るはずもないのだろうと思い、そのまま眠ることにした。
翌朝は快晴だった昨日までとは打って変って、雨でも振りそうなどんよりとした空模様だった。
「神谷はまたコーヒーだろ」
アルハザードの言葉が終わらないうちに、目の前にトレイに乗ったコーヒーとミルクが現れた。
マグカップで紅茶を飲んでいるアルハザードの服が黄色の体に合わせた形の物に変化している。クウトラを被っていない髪も瞳の色も同じく黄色だ。
「こいつに変えてもらったんだ。この島では僕たちが一番近いのが黄色人ということになるそうだから、この方が目立たないだろう。神谷も自分の服を見てごらん」
言われて自分の服を見ると、いつの間にかアルハザードと同じ物になっていた。ギターのケースも黄色い色だ。
邪神がアルハザードの肩から飛び降りて近づいて来た。間近でじっと神谷の顔を見つめている。その瞳を見て驚いた。邪神のサファイヤ色の瞳に映っている神谷の髪の色は黄色だった。確認はできなかったが、おそらく瞳の色も黄色なのだろう。
「何か変な気分だね。でも、この方が目立たないのならば仕方ないね」
「そう、目的のためには仕方がないね」
目的? そうだった、目の前の魔人の体を元に戻すという目標を忘れかけていた。
邪神がアルハザードの肩に飛び乗った。
「忘れてもらっては困るなぁ」
しかし、この魔人に普通の体など果たして必要なのだろうか?
「それは普通の体を持っている神谷の思うことさ。それがどれだけ幸せなことか、失わなければ分からないよ」
静かに語るアルハザードの言葉には深い悲しみが込められているように思われた。
一時間近く歩くと、初めて人家らしい建物を目にした。更に遠くに同じような家の並ぶ街が視界に入ってきた。
「これは人家だよね」
庭という概念がないのか、コンクリートのような固い素材で造られたと思われる、白い色をした円柱形建物がぽつんと建っている。日本式の表現をすれば、二LDKほどの平屋だが、どこにも窓はおろか入り口さえ見当たらない。果たして、これは人が住むための家なのだろうか。
「人が住む家らしいよ」
「でも、どこにも入り口らしい所がないよ」
「昨日の赤色人の話の中に出て来た、精神増幅装置のことを憶えているかい」
「うん、精神力を増幅するこの島独特の装置だよね」
「そうだね、それがこの家にも備わっていて、この家の住民が家の前に立って『ドアよ、開け』と念じると、入り口ができるそうだよ」
アラビアンナイトの「開けゴマ」みたいなものか。
「アラビアンナイトと違う所ところは、住民以外の者が念じても開かないということだね」
「それじゃあ、この家の住人以外の人は中に入れないってこと」
「住民と一緒か、中から開けてもらわない限り無理みたいだね」
「じゃあ、窓も同じ」
「そう、原理は同じだそうだ」
すごいセキュリティシステムだ。
「防犯システムが発達しているということは、それを必要としていることがあるということだ」
確かに完全な平穏な世界に防犯システムなどは必要ない。
「でも、白色人も、赤色人も、もの凄くいい人に思えたけどなぁ」
「それは、これからあの街に行ってみれば分かるそうだよ」
アルハザードが目の前の街並を指差した。
「このまま歩き続けて首都に入るか、取り敢えずこのあたりで一晩過ごすか、神谷はどっちがいい」
「首都に入っても中心部まで四時間くらいかかるんだろう、だったら、今晩は首都に入らずに、明日の朝、首都に入って、ゆっくりと中心部を目指した方が良いんじゃないか」
「こいつもその方が良いと言ってるね」
邪神の言うとおりにした方が良いとは限らない。アルハザードを黒色人と闘わせるだけのために、首都から徒歩二日という長距離にある辺境に上陸させられたぐらいなのだから。
「そうだね、こいつの基準を人間のそれと同じと考えてはいけないね。でも、今日のところはこいつの考えに従うことにしようか。あの果肉を食べると死ぬ、と教えてくれたことだしね」
そうだった。あのオレンジに似た実を見て、何の知識もなかったら、あるいは齧っていたかもしれない。
「もう少し歩いて、城壁から少し離れたところで今晩は眠るとしよう」
陽が完全に暮れるまで歩き、夕食となった。対価は神谷のギター演奏であることは言うまでもない。
そろそろ和食が恋しくなってきたと思っているところに、深川飯と漬け物味噌汁という涙が出るような献立だった。
これは明日からのギター演奏も頑張らないといけないな、と思いながら箸を進めた。目の前ではアルハザードが器用に箸を使いながら同じメニューを口に運んでいる。
「あと一時間もかからずに首都の城壁に辿り着く。明日は色々と面倒なことがありそうだ。今日はゆっくり休んでそれにそなえよう」
面倒なことって何? 訊ねようとしたが、どうせ邪神が教えて来るはずもないのだろうと思い、そのまま眠ることにした。
翌朝は快晴だった昨日までとは打って変って、雨でも振りそうなどんよりとした空模様だった。
「神谷はまたコーヒーだろ」
アルハザードの言葉が終わらないうちに、目の前にトレイに乗ったコーヒーとミルクが現れた。
マグカップで紅茶を飲んでいるアルハザードの服が黄色の体に合わせた形の物に変化している。クウトラを被っていない髪も瞳の色も同じく黄色だ。
「こいつに変えてもらったんだ。この島では僕たちが一番近いのが黄色人ということになるそうだから、この方が目立たないだろう。神谷も自分の服を見てごらん」
言われて自分の服を見ると、いつの間にかアルハザードと同じ物になっていた。ギターのケースも黄色い色だ。
邪神がアルハザードの肩から飛び降りて近づいて来た。間近でじっと神谷の顔を見つめている。その瞳を見て驚いた。邪神のサファイヤ色の瞳に映っている神谷の髪の色は黄色だった。確認はできなかったが、おそらく瞳の色も黄色なのだろう。
「何か変な気分だね。でも、この方が目立たないのならば仕方ないね」
「そう、目的のためには仕方がないね」
目的? そうだった、目の前の魔人の体を元に戻すという目標を忘れかけていた。
邪神がアルハザードの肩に飛び乗った。
「忘れてもらっては困るなぁ」
しかし、この魔人に普通の体など果たして必要なのだろうか?
「それは普通の体を持っている神谷の思うことさ。それがどれだけ幸せなことか、失わなければ分からないよ」
静かに語るアルハザードの言葉には深い悲しみが込められているように思われた。
一時間近く歩くと、初めて人家らしい建物を目にした。更に遠くに同じような家の並ぶ街が視界に入ってきた。
「これは人家だよね」
庭という概念がないのか、コンクリートのような固い素材で造られたと思われる、白い色をした円柱形建物がぽつんと建っている。日本式の表現をすれば、二LDKほどの平屋だが、どこにも窓はおろか入り口さえ見当たらない。果たして、これは人が住むための家なのだろうか。
「人が住む家らしいよ」
「でも、どこにも入り口らしい所がないよ」
「昨日の赤色人の話の中に出て来た、精神増幅装置のことを憶えているかい」
「うん、精神力を増幅するこの島独特の装置だよね」
「そうだね、それがこの家にも備わっていて、この家の住民が家の前に立って『ドアよ、開け』と念じると、入り口ができるそうだよ」
アラビアンナイトの「開けゴマ」みたいなものか。
「アラビアンナイトと違う所ところは、住民以外の者が念じても開かないということだね」
「それじゃあ、この家の住人以外の人は中に入れないってこと」
「住民と一緒か、中から開けてもらわない限り無理みたいだね」
「じゃあ、窓も同じ」
「そう、原理は同じだそうだ」
すごいセキュリティシステムだ。
「防犯システムが発達しているということは、それを必要としていることがあるということだ」
確かに完全な平穏な世界に防犯システムなどは必要ない。
「でも、白色人も、赤色人も、もの凄くいい人に思えたけどなぁ」
「それは、これからあの街に行ってみれば分かるそうだよ」
アルハザードが目の前の街並を指差した。
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