イエローバードと恋心

C t R

文字の大きさ
36 / 48

36 当日

しおりを挟む



ボール当日。

宮殿の正門は、正午前から開かれていた。
というのも、夜のボールに先立って昼餐会が行われる為だ。
招待客数はボールの十分の一以下。一握りの家臣だけが王族の食卓に招かれた。

一握りの家臣の中に、コルネイユも含まれていた。
パートナーは無論クレールで、レミュザ伯爵家からの出席者はこの二人のみ。
因みに、カナリアもケージごと持ってきた。シャルルのリクエストでは断れない。幼い彼は夜会には参加しないものの昼餐会には出席する。

侍従に続き、コルネイユは昼餐会の場に向かう。
その左手は、デイ・ドレスを纏ったクレールと繋がっている。カナリア・イエローのドレスは膝下丈のフレアなスカートが軽やかで美しい。下から伸びるホワイトのヒールを履いた細い足首はとにかく可憐で、いつまででも見ていられた。

――いや見過ぎてはならない。

通報される、よりもクレールにドン引きされる。ダメだ。

大食卓の間では、ほとんどのゲスト席が埋まっていた。
クレールの着席を見届けてからコルネイユも座る。
二人の椅子の間にケージを置いた時、幼い声が「少将」と背に発した。
ててっと駆けてきた王子に振り返って、クレールが腰を浮かせようとした。
それを、王子の後ろで第二王子妃が「いいのよ」と片手で制した。

「それより、シャルルが無理を言ってごめんなさいね」
「とんでもありません、妃殿下」
「この子ったら、城でもカナリアを飼いましょうかって言っても、カナリー氏じゃなきゃイヤだって言うの。だからって貴女方からカナリー氏を取り上げるのはダメだって。もう我が儘なんだか気遣いなんだか我が子ながら判断に困るわ」

クレールは笑み、コルネイユは内心で「立派に我が儘でしょう」と告げた。
とはいえ四歳児。あまりに聞き分けが良くても将来が心配になる。程よい我が儘なら何の問題もない。
シャルルはケージごとカナリアを連れ出し、自分の席に引き返していく。
母親は背後から「揺らしちゃダメ。優しく運んでね」と注意していた。
クレールは母子を見送り、コルネイユを見た。

「いつも仲良しのお二人ですね。シャルル王子殿下は、この場にお父様のディディエ王子殿下がいらっしゃらないから寂しいのではないでしょうか」
「カナリアでは父親の代わりにはならないでしょうが、離れ離れも今冬までです。王子殿下と妃殿下は、間もなく東洋に向かわれます」
「ご家族が合流されるのですか。それは何よりですね」

ええ、と頷いたコルネイユは、すっと片手を伸ばしてクレールの耳を撫でた。

「私も、貴女と家族になる日が待ち遠しいです」

瞬いたクレールは、ふわりと頬を染めて笑みを浮かべた。

「私達はとっくに家族ですよ」

コルネイユは危うく、椅子の背凭れごと彼女を掻き抱くところだ。
「仰る通り」と大人の笑みを返しながらも「こんなイベントはとっとと終わればいい」と思っていた。



二時間半に及ぶ昼餐会が終了した。
王族達の退場を待って、招待客達も席を立つ。
人波がはけたのを見計らい、コルネイユはクレールの手を引いて場所を移動した。
これからクレールは宮殿の部屋と人員を借りて、ヘアメイクと着衣を夜会仕様に変える作業に取り掛かる。
一旦クレールと別れたコルネイユは隣室に向かい、ゆったりとコーヒーブレイクをしながら彼女を待つ時間を過ごした。
自分も多少は制服の仕様を大袈裟に変える必要があるが、秒で終わるので開始直前で良い。
開かれたバルコニー窓を仰ぎ、青空を眺める。
同じ室内にはカナリアを指先に載せたシャルルがいる。幼い顔が「僕が東洋に行っても忘れないでね、カナリー氏」などと殊勝な事を告げている。
カナリアは「いいでしょう」と言う風に首を上下させた。
それに対してシャルルは無邪気に笑い、はしゃぐ。いつもながら「この鳥、やけに人間くさいな」などと疑問は挟まない。

――気付いていながらスルーしているのか。

だとしたら、この幼い王子は大物に化けるかもしれない。

――尤も、化けるポテンシャルがある事は知っている。

ワーロックたるコルネイユもディディエもシャルルの魔力量は既に察している。
化ける切っ掛けを得られるか否かは、シャルルの運と度胸次第となる。

ノックが鳴った。
室内に目を戻したコルネイユは、クレールの着替えが完了したのかと一瞬勘違いした。
しかしノックされたドアが違う。廊下側だ。無表情の下でぬか喜びに嘆息しつつ、コルネイユはノックに「どうぞ」と応じた。
開いたドアの隙間に部下の顔が覗く。
小鳥と戯れるシャルルを一瞥したコルネイユは、テーブルセットから腰を上げた。壁際に控える王子付きの侍女に「少し外します」と告げ、部屋を後にする。
退室する背中を、カナリアの円らな瞳が見ていた。



夕方五時過ぎ。
暗い夕焼け空を背にした宮殿の前には、馬車の車列が形成されていた。
正門を潜った馬車から、次々と招待客達が下りてくる。
ボールの開始は午後六時だ。

正門前に並ぶ列の中に、シュヴルール伯爵家の馬車はあった。
車中、ロイヤルブルーのドレスを纏ったアンリエットは浮かれていた。

――いよいよデビューしちゃうのね、私。

ボールに降り立つ。注目間違いなしだ。
クレールもこの夜会に来ているに違いない。騎士爵の家の者ですら呼ばれていると言う話だから、海軍の将官であり未だ伯爵令息である婚約者が呼ばれていないとは思えない。
アンリエットは隣に座るタキシードのフィリップを見やる。
笑みが浮かんだ。

――でもお、私のパートナーは外国帰りの未来の伯爵様だしい。

アンリエット自身も女子爵の娘であり歴とした貴族だ。平民寸前のクレールとは違う。その上誰もが認める美少女で、今日のドレスは完璧過ぎる。
劣る要素が一つもない。

――なあんか私って、すっごくあの子に可哀そうな事してるう?

いい気分だ。





しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

白のグリモワールの後継者~婚約者と親友が恋仲になりましたので身を引きます。今さら復縁を望まれても困ります!

ユウ
恋愛
辺境地に住まう伯爵令嬢のメアリ。 婚約者は幼馴染で聖騎士、親友は魔術師で優れた能力を持つていた。 対するメアリは魔力が低く治癒師だったが二人が大好きだったが、戦場から帰還したある日婚約者に別れを告げられる。 相手は幼少期から慕っていた親友だった。 彼は優しくて誠実な人で親友も優しく思いやりのある人。 だから婚約解消を受け入れようと思ったが、学園内では愛する二人を苦しめる悪女のように噂を流され別れた後も悪役令嬢としての噂を流されてしまう 学園にも居場所がなくなった後、悲しみに暮れる中。 一人の少年に手を差し伸べられる。 その人物は光の魔力を持つ剣帝だった。 一方、学園で真実の愛を貫き何もかも捨てた二人だったが、綻びが生じ始める。 聖騎士のスキルを失う元婚約者と、魔力が渇望し始めた親友が窮地にたたされるのだが… タイトル変更しました。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

私の願いは貴方の幸せです

mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」 滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。 私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

処理中です...