追放夫婦とドラゴンと

C t R

文字の大きさ
100 / 104
ワールド・カップ編

100 幕




レース結果の速報はフィヨン侯爵領だけでなく、王国全土を沸かせた。

――クロヴィス・フィヨン、ワールド・カップ初出場で初優勝!

夏の王都に「フィヨン!」コールが響き渡っている。
城下の熱気に負けじと、王城内もイベントの準備でバタついていた。
国王が急遽「彼らが帰国次第、凱旋パレードと祝祭をする!」と命じたのだ。

「それとフィヨン男爵たってのオーダーについては、どうなっておる?」

国王の確認に、侍従が答えた。

「王室礼拝堂は諸々準備万端です」
「うむうむ。よいよい。全くあの男、出立前に思わぬ褒賞を要求しおってからに」

三日前、国王は激励と称し、出国を控えたクロヴィスを玉座に呼び出した。
その際「ワールド・カップを制した暁には何が欲しい?」と問うた国王に、クロヴィスはこう告げた。

「では王室礼拝堂をレンタル頂きたく存じます」
「ぬ? 礼拝堂とな?」
「このところ妻と、行く先々の教会で式を挙げているので」
「教会ジャックか? 珍妙な」
「ドレスはこちらで用意しますので、花だけお願いします」
「ぬ、うむ……そなたがそれでよいと申すのならば、望みを叶えよう」
「は。ではまずは勝って参ります」
「ぬ、うむ。頼むぞ。……何故かそなたが負ける姿が想像出来ん」

宣言通り、クロヴィスは勝って戻って来る。
約束を果たす為、国王は手下らにとくと言い渡した。

「よいか皆の者、完璧な宴を準備せいよ!」

手下らはやけくそ気味に「は!」と応えた。目が回るほど忙しい。



カリンの友人、伯爵夫人ロザリーもまた目が回るほど忙しくしていた。
レース結果がどう出ても、王都での祝勝会は開かれる予定だった為、カリンサイドの友人知人への招待状の郵送を任されていた。
急遽、本来のイベントに「王室礼拝堂での挙式」が加わり、開始時刻と場所に変更が生じた。その旨を報せなければならない。
先週、祝勝会の知らせを一斉配送した。その直後、某サロンで「ハブられ連中」に絡まれた事を想念する。
連中は「ちょっと聞いたんだけど、祝勝会をするんだって? そのタイトル、残念会の方が良いんじゃない?」と言ってロザリー達を笑った。

「だってワールド・カップだよ? 本拠地で本家を相手にするんだよ? 絶対負けるって」
「下手したら死んじゃうかも?」
「それ散々過ぎん? 負けた上に死ぬってさ」

連中はどっと噴き出した。一体何が楽しいのか、連中の下卑た笑いのツボはロザリー達には微塵も理解出来なかった。
「僕、私も招待してください!」と乞うならまだ可愛げもあったのに。いや、乞われたところで応じないけれども。
連中は根っこから腐っている。手の施しようがない。
結局、連中の腐った予想は大ハズレとなった。クロヴィスは優勝者で生還者として王都に華々しく凱旋する。
最速で封筒の宛名書きをしながら、ロザリーは内心に叫んだ。

――ざあああまああああ!

雑念の所為でスペルを間違えた。書き直しだ。時間ないのに。

――あいつらの所為でえええ封筒とインクが無駄にいいい。

ロザリーはちょっとキレ気味になっていた。
鬼気迫る勢いで机に向かうロザリーの姿を、家族達が見守っていた。



王室礼拝堂がレンタルされるという噂は、廷臣らも賑わせていた。
海軍大臣らが「フィヨンは私の一番弟子!」などと言って大盛り上がりするのを尻目に、その大臣は、若い補佐官の一人を横目にした。

「――で、君はなんで招待されてないの? フィヨン夫人と同い年なら在籍期間被ってるよね?」
「いや、彼女とは別に友達じゃなかったんで……」
「同じく、別に友達じゃなかったらしい女官が呼ばれてるのはなんで?」
「よく、分かりません……」

目線を床に這わせる補佐官に、訝しむ目を向けた。

――こいつ、人格に難ありなのか?

侯爵家の次男だし、好青年だと思っていたのだが、実は違うのか。
フィヨン夫人の方がねじ曲がっている、などとは考えない。彼女がドラゴンを保有している事は有名だ。

――こいつの父親に頼まれて縁故採用した訳だが。

何か問題を起こされる前に、切った方が良いかもしれない。とばっちりで大臣たる自分の経歴に傷を付けられては堪らない。
他の補佐官らも、新参の彼を探る目で見ている。
何故か同級からハブられ中の彼は、背中に変な汗を掻いてそれらをやり過ごすより他なかった。



リストにある招待客への投函を終えたロザリーのもとに、テレグラフが届いた。
「王室礼拝堂の式だけでも招待して欲しい!」と乞う内容が、五通。
ロザリーはやり切って、疲れ切っていた。

「うん、無理……」

式に備えて今日は早く寝る。謝罪も何もなく、ただ要求だけを突き付ける無礼な紙切れに構ってやる義理も体力もない。



熱戦のサーキットで表彰式と閉会式が行われ、ワールド・カップが幕を下ろした。
晩餐会の後、グレートアイランド西岸から海外勢の船団が次々と離れていく。

王国の一行を乗せた豪華客船もまた深夜未明に出航した。最短距離の隣人につき、日の出前には王国西岸に着く。

レースは、クリア・ブルー・スカイが一位の座に輝いた。
二位、ダークナイト・ヘル。三位、ホワイトナイト・ヘブン。そして四位には、ローレル・リース777が飛び込んだ。
接戦を繰り広げたキャッスル・イン・ザ・スカイは、惜しくも五位だ。

ワールド・カップでは一位から順にポイントが与えられる。
一位20ポイント、二位19ポイント、三位18ポイント、四位17ポイント、五位16ポイント……。
つまり王国チームは一位でゴールしたものの総合ポイントでは地元チームの37ポイントに及ばず、国としては36ポイントで二位という結果に終わった。

「充分凄いって!」
「そうそう!」

エリザベートと実姉からの称賛に、ラザールは「まあね!」と笑った。
でも個室で一人になるやベッドに潜って大声で泣いた。自分が四位に入っていればトップと同点だった。その場合、パフォーマンスの加点で決着を付ける事になっていた。
ラザールの所為で国が負けた。

――次はぶっ倒す! 上の奴ら全部!

この悔しさを一生忘れない。





感想 109

あなたにおすすめの小説

妃が微笑んだまま去った日、夫はまだ気づいていなかった

柴田はつみ
恋愛
「セラフィーヌ、君は少し、細かすぎる」 三秒、黙る それから妃は微笑んで、こう言った。 「そうですね。私の目が曇っていたようです」 翌朝から、読書室に妃の姿はなかった。 夫への礼は完璧。公務も完璧。微笑みも完璧。 ただ妻の顔だけが、どこにもなかった。

白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。 けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。 それでも旦那様は優しかった。 冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。 だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。 そんなある日、彼女は知ってしまう。 旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。 彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。 都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る 静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。 すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。 感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末

コツメカワウソ
恋愛
ローウェン王国西方騎士団で治癒師として働くソフィアには、魔導騎士の恋人アルフォンスがいる。 平民のソフィアと子爵家三男のアルフォンスは身分差があり、周囲には交際を気に入らない人間もいるが、それでも二人は幸せな生活をしていた。 そんな中、先見の家門魔法により今年が23年ぶりの厄災の年であると告げられる。 厄災に備えて準備を進めるが、そんな中アルフォンスは魔獣の呪いを受けてソフィアの事を忘れ、魔力を奪われてしまう。 アルフォンスの魔力を取り戻すために禁術である魔力回路の治癒を行うが、その代償としてソフィア自身も恋人であるアルフォンスの記憶を奪われてしまった。 お互いを忘れながらも対外的には恋人同士として過ごす事になるが…。 番外編始めました。 世界観は緩めです。 ご都合主義な所があります。 誤字脱字は随時修正していきます。

王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。

しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。 相手は10歳年上の公爵ユーグンド。 昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。 しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。 それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。 実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。 国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。 無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。  

出生の秘密は墓場まで

しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。 だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。 ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。 3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。

侍女から第2夫人、そして……

しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。 翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。 ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。 一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。 正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。 セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。