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28 誰?
六月下旬。
遂に国王夫妻が王国に帰国した。
王都の民らは無事に帰還した君主らの馬車列に歓声を送った。
城内もちょっとしたお祭り騒ぎで国王夫妻を出迎え、延びに延びた二人の長旅を労い、再会を喜び合う。
臣下らとの挨拶を終え、私室で一息吐いていた国王夫妻のもとに今度は家族が訪ねてきた。
王太子を中心とした子供達が顔を揃えている。
気の所為か、その面持ちは深刻そうに見える。
「あら?」と王妃が瞬いた。
「ウジェーヌ? わざわざ一時帰国してくれたのですか?」
母に呼ばれたウジェーヌは笑み、それからすっと隣に目を流した。
娘の目線を追って、国王夫妻は第四王子を見る。
国王が「意外な奴がこの場におるな」と首を傾げた。
「どういう風の吹き回しだ、エルマン。借金でもこさえたか?」
言いながら国王も王妃も「むしろ借金くらいであって欲しい」と想念し、最悪のシナリオを予想していた。
エルマンは静かに首を左右に振り、両親に頭を下げた。
「お戻りになられたばかりでお疲れのところ恐縮ながら、国王陛下に重大なご報告がありこのエルマン、参上致しました」
「……な、なんだ。おい誰だ、こいつは。本当にエルマンなのか?」
国王が狼狽えるのも無理はなかった。生まれた時からエルマンは手の付けられない問題児で、敬語などろくに使えなかった。ただ魔力に富み、身体能力とセンスが抜群に高かったので戦力としては使えた。
戦場で可笑しくなったのでは、と国王夫妻は不出来な四番目の息子を心配した。
不出来な四番目の息子は、さっと紙切れを両親に差し出した。
「離縁を願い出ます。御覧の通り妻ポリーヌの承諾は得ています。彼女は私の提案を心待ちにしていたようで、喜び勇んでサインしていました」
「……だろうな」
紙切れを受け取り、国王は嘆息した。
フレシネ公爵家は王妃の親戚筋に当たる。そこから令嬢を貰う事は、王子らが生まれる前から決まっていた。
エルマンは不真面目で根っからの遊び人で、婚約者を平気で蔑ろにする大馬鹿野郎だった。政略とは言え、ポリーヌには長らく辛い思いをさせてきた。
国王は、息子の離婚依頼をすんなりと認めた。
「神の代理者たる教皇に報せ、承認を得るとしよう」
国王が認めただけでは離婚は成立しない。国王から更に教会の総本山に届け出を送付し、認めてもらわねばならない。送付後、書類は総本山のお偉方が目を通すので時間も金もかかる。結婚と違い、離婚は複雑で大事なのだ。
「有難うございます」と一礼したエルマンに、国王は胡乱な目を向けた。
「さっきからお前は何なのだ。一体何を企んでおる」
「これ以上お願いする事は何もございません、陛下」
「嘘を吐くな」
埒が明かないと悟り、ウジェーヌが片手を挙げて双方の発言を制した。
「国王陛下、私からお話させて頂きます」
「帰って早々何なんだ……」
国王夫妻は疲れた顔で、隣国の大公妃となった娘を見る。
ウジェーヌの話が進むにつれて、その顔は驚愕へと変貌していった。
生まれた時からエルマンは「別の意思」に肉体を乗っ取られていたと言う。
しかもその例が国内で既に二件も発生していた。直近ではヴァルデック侯爵夫人ことキアラがエルマンと同種の症状を発症し、そして終えている。
国王の手元には既に、ヴァルデック侯爵ことアベルからの離縁の申請書がある。
ウジェーヌは「まだ受理されないでくださいまし」と父王を止めた。
「アベルは、キアラの事情を何も知らないのです」
国王は痛む頭を抱えると、王子達を流し見、最後に第四王子と目を合わせた。
「古代人の呪いなどと、俄かには信じられん。証明出来るのか?」
「現状、証明は出来ません。シャプレ女史と連絡は取っていますが、なにぶんすぐに帰国頂ける距離ではありませんので」
「その研究者は、何か発見したのか? 現地調査の収穫のほどは?」
「我らには一切話さないそうです。帰国後に直接依頼主であるキアラ嬢に報告するのだと言って聞きません」
「この私は国王であるぞ」
「国王でも誰でもキアラ嬢以外の人間は、皆等しく彼女からの信用がありません。権威に酷く裏切られたトラウマがあるそうです」
国王の首は一層項垂れた。
「いっそのこと、こちらから女史を迎えに行くべきでしょう」と王太子が提案し、王子達が頷き合う。
エルマンが「ならば私が」と名乗りを上げた。
「これは私の問題でもあるのです。国王陛下、どうか私にご命令ください」
「お前――ホントに誰?」
「エルマンです」
「うむ……」
感情のフル稼働は、国王をどっと疲れさせた。
キアラのもとに封書が二通、届いた。
一通はシャプレからで「間もなく軍艦で帰りまーす」と綴られていた。王国海軍直々のお迎えとは豪勢過ぎる。軍艦にはエルマンが乗り込むらしい。シャプレと一番話したいのは彼だろうから、当然の人選と言える。
もう一通は、城からだった。シャプレの帰国日に合わせ、召喚するとある。
「離縁の最終意思確認をする。よくよく考えた上で決断して欲しい――」
まるで「早まるな」と言っているかのような文面だった。
キアラは軽く息を吐き、窓を仰いだ。タウンハウスの方角を見る。
多分、アベルも城に来る。彼と顔を合わせる事になる。
そうなってもキアラは彼に泣き縋ったりしない。もう迷惑はかけない。
これ以上、彼の人生を邪魔しない。
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