復縁不可の筈ですが、

C t R

文字の大きさ
46 / 51

46 目論見




王族を前にしたキアラは、一度腕の中のスノードロップを芝生にリリースすると、静かに膝を落とした。未だぎこちない無様な礼を貴人らに披露する。
王太子と王太子妃と、第四王子エルマンが笑みで頷いた。僅かながら面識のある王族達なのでとても寛容だ。
キアラとしては早く国王夫妻にデビュタントボールのリベンジを果たしたい。今日は無理でも年末までには何とかしたい。
意気込みを察しているのか、エルマンが苦笑した。

「急く事はありません。貴女は素敵ですよ、キアラ」
「お心遣い恐れ入ります、エルマン殿下」
「私は未だ、人に気遣いが出来るほど出来ていません。だから口にする事は全て本心です」

伏せた顔をあげたキアラは、す、と横から割り込んだ肩に視界を阻害された。

「どうも、殿下方」

不愛想なアベルの挨拶に、王太子が呆れた。

「我らを雑に括りおったな、アベルよ」
「王室こそ、私と妻に別々の招待状を送り付けたでしょう」
「アドレスが違うのだ。当然だろう」
「それでも封書は連名にすべきだったのでは? ――なんとなく殿下の目論見は察しております」
「ああ。お前が察しておる事を私も察しておるよ。しかし決めるのは私でもお前でもない。こちらが何を目論もうが文句を言われる筋合いはない」

アベルの双眸が細められる。
エルマンが兄の肩を掴んだ。

「挑発はその辺で、兄上。有難いですが、キアラを放置してヴァルデック侯爵ばかりに構うのは頂けません」
「それもそうだな。今日はキアラを褒めて労うイベントでもあるからしてな」

キアラは視界半分の中、双方を見比べる。誰の会話も全然意味が分からない。
我関せずなようで、王太子妃は一人しゃがみ込んで仔豹に構っている。

「ママンですよー」
「みゃ?」
「ミルク飲みますかー」
「みゃ!」

キアラは内心冷や冷やした。うちの子、誘拐されかけてる……。

いいところに国王夫妻が登場した。
険悪な雰囲気を見て国王は「何を睨み合っておる」と目を丸め、王妃は「これだから男子は」と呆れる。
両手を腰に当てた彼女は、王太子とエルマンとアベルに目線をそよがせた。

「この母に免じて、今日は仲良くなさい」

何故か自分まで叱られた体になり、アベルが閉口していた。
キアラは、一体何に誰にリアクションをすべきかで大いに悩んだ。



王妃のスピーチ後に乾杯し、パーティーは華やかに幕を開けた。
開始以来、どういう訳かキアラは右腕を王妃に、左腕を王太子妃に取られている。
王妃は「間もなくウジェーヌも来ますからね」と語り掛け、笑む。
キアラが変な笑みで応じると、次に王太子妃が「スノードロップの事をもっとお教えくださいな」と話しかけて来る。
左右を挟まれて交互にするばかりのキアラは、身動きが取れない。まるで仲良し三人組の絵面だ。
スノードロップは、国王と幼い王子達に構ってもらっている。「お前、フリスビー出来る?」と王太子の王子から問われ、そっぽを向いた。誇り高きネコ科は犬用の玩具なんかで遊ばない。
王子達はきゃっきゃと喜んだ。「生意気で可愛い」そうだ。優しい。
アベルは軍服の群れの中心にいる。王太子らとはグループが異なる。知らなかったけれど、彼らは実は仲が悪いのだろうか。ちょっとハラハラする。

こちらの王妃・王太子妃の輪には、引っ切り無しに貴婦人らが足を運んでいた。
本日の主役である王妃の隣で、キアラは彼女達の口上と立ち振る舞いをじっくりと観察させてもらう。とても勉強になる。

――学習の為に王妃殿下は私をこの場に留め置いてくださっているのね。

感謝を籠めて王妃の横顔を見詰める。
王妃はキアラに笑み、貴婦人らに向き戻った。

「皆さんもご存知の通り、このキアラは城下で素晴らしい取り組みをなすっています。わたくし共は感銘を受けました」

貴婦人らは「ええ、ええ」と頷いている。「本当に立派になられてねえ」と、まるで親戚のような反応には好意しかない。
王妃は続けた。

「わたくしもキアラに倣い、王領の産業に民間の力を取り入れていきたいと思います。これまで王家が独占していた観光資源を解放し、未来ある子供達の学びの場として生まれ変わらせるつもりです」

拍手と賛同と称賛が沸いた。
キアラもそうしたかったけれど、両腕を塞がれているので無理だった。
その後も王妃がやたらとキアラを褒めるので、拍手も賛同も称賛も自然とキアラにも集まった。
状況が呑み込めないまま、キアラは変な笑みを浮かべ続けた。



アベルは、軍人どもの話に相槌を打ち、女性陣の輪を一瞥する。
王妃と王太子妃に挟まれたキアラが称賛されている。輝いているのは何よりだが、ちょっと困っているようでもある。

――王族どもめ。あまりキアラを疲れさせるなよ。

忌々しい王太子とエルマンは、貴族どもに囲まれ談笑している。エルマンを上流階級に復活させようという王太子の計らいだろう。
ハッキリ言って、どうでもいい。
王太子は、あわよくばエルマンにキアラを娶せようとしている。だから邪魔なアベルを午餐会に呼ばなかった。

――確かに決めるのはキアラだ。

だがキアラの夫はアベルであり、最早別れる気は微塵もない。
エルマンの入り込む余地は与えない。さっさと妃を娶るなりして、割り当てられた王領なり外地の戦場なりに引っ込むといい。





感想 59

あなたにおすすめの小説

婚約者が私の見舞いには来ず、他の女の茶会に行っていたので――気づいた時には、もう愛は完全に冷めていました

唯崎りいち
恋愛
見舞いにも来なかった婚約者が、他の令嬢の茶会には出席していた。 その事実に気づいた時、私の愛は完全に冷めていた。 静かな婚約破棄の先で明かされる王家との繋がりと、彼の後悔。

親友の恋を応援するたび、私は少しずつ失恋していた

ちょこまろ
恋愛
一番近いのに、恋人じゃない。 紗奈は、親友の颯太にずっと片想いしていた。 けれど颯太が好きになるのは、いつも紗奈ではない誰かだった。 彼女ができた日も。 恋愛相談をされた日も。 別れた夜に頼られた時も。 紗奈はずっと笑って、颯太の恋を応援してきた。 でも本当は、そのたびに少しずつ失恋していた。 文化祭前、颯太からまた恋愛相談をされた紗奈は、ついに親友でいることに限界を迎える。 これは、好きな人の一番近くにいた女の子が、親友のふりをやめて、自分の恋を始めるまでの物語。

私こそが結婚前から邪魔者だったのね?貧乏男爵家の再興が私の運命でしたー夫である伯爵に裏切られましたが、王家に輿入れすることになりました

西野歌夏
恋愛
裏切られた花嫁が、親友の体で人生を奪い返す物語。 伯爵夫人キャロラインは、夫イーサンを深く愛していた。 だがある日、馬車事故で命を落としたはずの彼女が目を覚ますと、そこは3年前ーーしかも身体は親友アーニャのものになっていた。 混乱の中で彼女が見たのは、親友として参列する、自分と夫の結婚式。 さらに知ってしまう。 夫と親友は結婚前から愛し合っていたことを。 そして3年後、自分は何者かに殺される運命だということを。 もう、誰にも人生を奪わせない。 没落男爵家ホーソーン家の娘として、港町で財を築き、未来を変えると決意したキャロライン。そんな彼女の前に現れたのは、素性を隠した青年グレイ。 彼だけが、傷だらけの彼女の本音を見抜いていたーー。 裏切りから始まる、再生と逆転の18世紀英国ロマンス。 数年前に書いた物語の改稿版です。 始まりは同じですが、全く別のストーリーになりました。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

さよなら、私の初恋の人

キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。 破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。 出会いは10歳。 世話係に任命されたのも10歳。 それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。 そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。 だけどいつまでも子供のままではいられない。 ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。 いつもながらの完全ご都合主義。 作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。 直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。 ※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』 誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。 小説家になろうさんでも時差投稿します。

私の存在

戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。 何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。 しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。 しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…

戦いの終わりに

トモ
恋愛
マーガレットは6人家族の長女13歳。長く続いた戦乱がもうすぐ終わる。そんなある日、複数のヒガサ人、敵兵士が家に押し入る。 父、兄は戦いに出ているが、もうすぐ帰還の連絡があったところなのに。 家には、母と幼い2人の妹達。 もうすぐ帰ってくるのに。なぜこのタイミングで… そしてマーガレットの心には深い傷が残る マーガレットは幸せになれるのか (国名は創作です)

出生の秘密は墓場まで

しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。 だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。 ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。 3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。