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47 子供達
スイーツのビュッフェは女性陣で大賑わいしていた。
新たなテーブルが追加されたのを見て、キアラは瞬く。まだ他のテーブルに十分な飲食物が残っている。
増えたテーブルのメニューは既にあるものとさして変わり映えしない。もっと不思議な事に、テーブルがやけに低い。
首を傾げた時、新たなゲストが庭園に加わってきた。ゲスト「達」だ。
大小様々な子供達がわらわらとやって来て「わあ凄ーい」、「大きなお庭だあー」、「お菓子食べる!」と口々にしている。明らかに貴族の子供達ではない。貴族の子供達なら最初からこの場にいる。物静かな彼らは「何だろう?」と言う目で、平民と思しき子供達を眺めている。
後から続いた妙齢の女性が「はい、騒がないのよ」と手を叩いて子供達に言い聞かせた。この場に居合わせるほとんどのゲストが彼女を知っている。
だから驚いた。キアラもその例に漏れない。
引率の先生然と、公爵令嬢クロディーヌが現れた。
「みんな、まずはご招待してくださった王妃殿下にお祝いとお礼を言ってね」
彼女の言葉に「はあーい!」と無邪気な声が束になって応える。
ゲスト達の反応はぽかんとしたり、苦笑したり、閉口したりと様々だった。
素晴らしい城の庭園を、ぜひ自領の子供達に見せてあげたい――。
というクロディーヌからの申し出を、王妃は快諾した。
「構いませんよ。元気な子供達は大歓迎です」
この申し出を知り、王太子を始めとした王侯貴族は顔を顰めた。
「図々しいのでは? なにも母上の誕生日である必要はないかと」
王太子の批判を、王妃は退けた。
「特別なパーティーを実際に見知るよい機会となりましょう」
「しかしクロディーヌ嬢が招待するのは、公爵領に住む一般家庭の子供です。孤児でも何でもない、普通の恵まれた子供なのです。特別待遇をしてやる理由がありません」
「可哀そうな理由がないといけませんか? どんな子にも開かれた城であって構わないと私は考えます」
「……母上は慈悲に溢れ、ご立派です。ですがこの招待が、他の子供らを差し置く行為となる事をお忘れなきよう」
釘を刺す王太子に、王妃は嘆息した。
「ではこうしましょう――」
子供達に囲まれて、クロディーヌは悦に入っていた。
――きっとまた女神みたい、だなんて言われてしまうわね。
自領の子供達は領内のミサやバザーなどで面識があり、ある程度躾がいい事も知っている。クロディーヌを煩わせる問題児はいない。
――さすがクレマンソー少尉。アイディアウーマンだわ。
周囲から、貴婦人を中心に尊敬の眼差しが送られているのが分かる。
「まあまあお優しいことねえ」と中年の夫人が感心している。隣の紳士は「これは優しさか? 分からん」と批判気味だけれど少数派だ。
引率中の子供達はテーブルから豪華な食事を皿に盛り、旺盛に食べている。「取ったお料理は絶対に残しちゃダメよ?」とクロディーヌが言い聞かせると、素直な返事が「はあーい!」と返された。
クロディーヌは笑みで頷いた。子供はこうでなくては。生意気なのはいけない。
貴族の子供が二人、テーブルに寄って来た。
一人が「僕、これが欲しいな」と手を出す。その手を、自領の子供が払い除けた。
「これはおれらのだからダメ」
「え……」
「お貴族様はあっちに行けば? いっぱいあるじゃん」
「大人用のテーブルは、高いから取り難くて……」
「召使いに取ってもらえば? お坊ちゃんだろ」
「自分で取りたいんだ。もう小さい子じゃないから」
「うわ、すげえ我が儘。さすがお坊ちゃんだ」
「…………」
お坊ちゃんは俯き、もう一人に手を引かれてとぼとぼと行ってしまった。
終始、子供の会話を聞いていたクロディーヌは「我が儘って何だったかしら?」と内心に首を傾げた。
傍らで口を汚してケーキを頬張っている幼女が、クロディーヌを仰いだ。
「来年も連れて来てね、クロディーヌ様!」
「ええ、勿論」
大きく頷いたクロディーヌの腕を、背後の誰かが掴んで引いた。
振り返った先で、王太子妃が睨んでいた。
腕力任せにクロディーヌを引っ張り、子供達のテーブルから距離を取る。
「貴女、相手が子供だからと身勝手な約束をしないように」
「え?」
「来年も連れて来ないでください」
「な、――」
クロディーヌは息を呑み、冷たい王太子妃に憤りを覚えた。
「お言葉ですが、王太子妃殿下――」
言いかけたクロディーヌに王太子妃は鋭い目線を向けた。
「お黙り」
「で、殿下」
「安請け合いの輩が、このわたくしに口答えをするのじゃないぞ」
「――、――」
クロディーヌは絶句した。
反論を許さない言動は酷過ぎた。さすが軍人の家系。王太子妃が陰で「野蛮人」と言われる所以だ。家格も侯爵家でクロディーヌの実家に劣る。
――こんな人が次の王妃だなんて。
世も末だ。
絶句のクロディーヌに、王太子妃は低く告げた。
「貴女の連れて来た子供が追い払ったのは、わたくしの甥です」
「え――え、さっきの?」
「意地悪をされてとても悲しいとしょ気ています。どうしてくれます?」
「ど、どうって、私には、どうにも……」
王太子妃の理不尽が炸裂した。
「お前が連れて来たクソガキであろうが。責任を持てんとぬかすか」
クロディーヌは「ひ」と悲鳴を呑んだ。
王太子妃の鋭い双眸が鼻先に迫った。
「よいか、無責任のお前。このわたくしが王妃となった暁には、お前とお前の関係者の登城を一切認めんからな。覚悟しておけ」
「――――」
クロディーヌは理不尽な言葉の暴力を前に、なす術もなかった。
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