私の英雄

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20 白魔獣




「――魔人脳がフルスロットルしてて人格も急成長している。肉体の変化も認められ、特に五感が鋭くなったのが分かる。世界を手狭に感じる。これは今は希な原始の目覚めで起こり得る変化だから心配は要らないよ、サディ」

四歳児の説明に、サディは目を白黒させた。

「……そう、なのか? よく分からんが……まあ、何が起こったにせよお前はお前なんだし叔父さんは気にしないぞ」
「有難う。問題はぼくより連れ去れらたシャロンだ。襲撃に際して、ぼくはモップを魔獣にしたんだ。それでモップが賊を追跡していったけれど、大通りを逸れたあたりで信号が途切れ途切れになってる」
「……色々わけが分からんが、お前は機械を使わず通信出来るのか。しかも文通相手は猫?」
「通信自体は魔法じゃない。今のモップはぼくの眷属に近い状態なのかも。ぼくの魔力をあげたからね。モップは元々魔獣で、帝都に来る前に一度覚醒している。どうやらドジをして大量の魔力を失ったようだ。それで今回ぼくが魔神コネクトに必要分をモップに補填した。再覚醒って事」
「……俺は結構アバンギャルドな自信があるんだが、ちょっと話について行けん」

レオンは短い手足を組んだまま窓辺に目をやった。
破られた窓ガラスの外は暗い。

侵入者は、裏庭から来た。裏のアパルトマンの一階住人は目と耳の悪い高齢女性だから突破は容易かった。
真っ先に不法侵入を察した猫が先回りし、窓をカリカリしてくれなければレオンは目を覚まさなかった。
二階の窓に張り付いた不審者の顔を見て、同衾のシャロンを揺さぶった。
彼女が「ううん?」と唸ったのと、丸く切り取られた窓ガラスからグローブの手が差し込まれたのは同時だった。
鍵が開かれ、侵入者が忍び込んできた。その足元をシャッと猫がすり抜け、レオンに飛び付いた。
フシャフシャと威嚇する猫と怯えて固まる幼児を、侵入者は嘲り笑ってスルーし、シャロンの口に白い布を当てた上で彼女を荷物みたく片腕に抱き上げた。
行ってしまう。レオンはあたふたとベッドを這い、賊を追いかけようとした。

「ま、ま、待て。シャロン、っを」
「フシャフシャ」

舌が絡んで上手く声が出せない。誘拐を阻止する術も無い。
煩い小物に、窓辺で見張りをしていた侵入者が銃口を向けた。

「騒ぐな。殺すぞ」

レオンは石になった。
殺意をもろに向けられて怯え、現状を嘆き、――そしていかった。
眠っていた魔力が目覚め、魔神が呼び出された。
それで爆発が起こった。賊に侵入されたバルコニーを壊す、というオーダーを魔神が叶えた結果だった。
爆心地であるレオン自身は無事だったが、部屋は壊れ、煙を噴いた。
肝心の仇である侵入者どもはというと、既に庭に逃れ、闇夜の中に消えていた。
魔人に目覚めたばかりのレオンは酷く混乱していた。
「みゃー」の声が叱咤し、前足でレオンの膝をぺちぺちと叩いた。
「追わなくちゃ」と訴えていた。
賢すぎる。レオンは察した。モップはただの猫じゃない。レオンの魔神コネクトはまだ続いていた。急速回転中の脳が閃いた。

「ぼくの魔力を、この魔獣にあげて」



レオンの魔神は、大変なハイグレードだった。
グレードが様々でも全魔神共通して、しょうもない願いを毛嫌いする。人間との価値観の相違から「金持ちになりたい」とか「かわいこちゃんにモテたい」とか意味不明なものも叶えない。通じない。
また何より、魔神は極上のエンターテインメントを求めている。魔人に手を貸す事で生じる面白い成果が、彼らの暇潰しとなり娯楽となるのだ。

皇族や王族が魔人の家系になったのは、新たに国を興し治めるほどの野心と強いスピリットを持つ者ゆえ、魔神に気に入られたからだと推察されている。

当人の魔力量に応じた魔神が現れ、面白い願いを叶えに来てあげる。
ボランティアじゃない。
魔神コネクト時、魔人は全魔力量の半分が使えない状態になる。
俗にデポジット(保証金)と名称されるもので、半分を魔神に掴まれた上で活動しなければならない。
つまり魔人の魔法とは全て、保有するパワーの半分未満で行われている事になる。
半分未満のパワーでパフォーマンスを行い、魔神を楽しませる。それがノルマだ。
成功すればペナルティなし。デポジットは丸々返金される。
失敗するとペナルティ。一部没収、最悪半分ごっそり取られる。

魔神コネクトによるハイリスクのからくりがここにある。
ユーザー側には理不尽な事に、ジャッジは完全に魔神の独善で下される。クレームもクーリングオフも認められない。

魔神に取られた魔力というのは、体力が回復しても戻って来ない。
仔猫時代にドジを踏んだモップは、今日まで乏しい魔力量しかなかった。寝ぼけていて水溜まりでうっかり溺れた。咄嗟に魔神コネクトして難を逃れたものの、あまりにも不注意でしょうもなかった為に、魔神から魔力をごっそり没収されてしまった。
動物への点が甘い魔神にしてはかなり珍しい。甘い証拠に、魔獣の個体数は魔人を凌駕している。
没収により、仔猫の魔力は最大量の半分に落ち込んだ。半分では魔神コネクトに足りず、モップは魔法を失った。ちょっと賢く頑丈な、単なる野良猫に戻った。
とはいえ普通の仔猫なら死んでいた可能性もあったのだから、魔法と引き換えに一命を取り留めたモップは幸運な猫と言えた。

猫であれ人であれ、魔神コネクトにはハイリスクを伴う。
使用シーンが戦場に偏る理由もその所為だ。文句なしにエキサイティングな舞台がある。
使用例が多いから、先人のネタを頂戴すれば魔神の没収を回避出来る。エラーによる不発も防げて一石二鳥という訳だ。因みにエラー時のペナルティはなし。何も起こらないので。
戦場は、確かにエキサイティングだ。既出のネタでも楽しめる。
しかし前代未聞の魔法を、魔神は求めている。

「ぼくの魔力を、この魔獣にあげて」

魔力のドネーションとは面白過ぎる! とハイグレードな魔神は考えた。
当然叶えた。
レオンの魔力量は尋常ではなかった。人類史上、上から何番目。ハイグレードを呼び出せたのもその証だし、莫大な埋蔵量があるからこそ他に分け与えるという発想にもなった。
猫に分け与えてもレオンの魔力量は人類史上、上から何番目、変わらずだ。



さて、本来のパワーを取り戻した白魔獣モップは自力で魔神を呼び出した。
初回の魔神との再会だ。没収の因縁はさておき要求を伝える。魔獣自身の脳と直にコネクトする為、魔神に猫語力は要らない。何より、人と違って獣は思考がごちゃごちゃとしていないので読み取りやすいのだ。

魔法を得たモップは「みゃー」と気を吐き、誘拐犯を追跡していった。





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