仕事が出来れば、場所はどこでも

C t R

文字の大きさ
47 / 60

47 シフト

しおりを挟む



ディナータイム。
ルネが食卓に加わるや、アランが徐に切り出した。

「ルネ、貴女を正式に婚約者として城に迎えたいと思います」

ルネは瞬き、アマンディーヌにしてもそうだった。
食堂内に居合わせる給仕達はどうにか感嘆を堪えている。
一拍の後、アマンディーヌはカトラリーを放り出し、テーブルに身を乗り出してアランに言い放った。

「遅いわよ!」
「面目ありません」
「でもママ嬉しい!」
「キャラを維持してください」

アランはさらりと告げ、ルネに目を戻した。

「そう言う訳ですので近々、貴女をお披露目する夜会を城で開催したいと考えています。結婚式の日取り等は別途相談します」

ルネは生徒然と「はい」と片手をあげた。
アランが教師然と「はい」と片手で示し、質問を許可する。
ルネは言った。

「急にどうされたんですか、閣下。私、今置いてけぼりです」
「何も急ではありません。貴女が鈍いから私の変化に気付かなかっただけです」
「今のは少々心外です。人間観察は専門分野です。閣下の変化にはちゃんと気付いてましたとも。ちゃんと毒キノコの摂取を心配してました」
「ご心配どうも。専門でも自分の事は分からないのでしょう」
「一理あります。――何故ですか?」

何も疑念を解消出来ていない。
ルネの問いに、アランはまたさらり。

「貴女に愛が芽生えただけです」

ぶふ、と噴き出し、テーブルに伏せた額を打ち付けたのはアマンディーヌだった。
心配して駆け寄るメイドらを手で制した彼女は、額を赤くした顔をのそりと上げてアランを見た。

「ママの前で言ってくれるじゃないの、もう。――どうぞお幸せに!」

騒がしい食卓の中、ルネは依然として置いてけぼりだった。
ルネの足元では白と黄のドラゴン達が首と尾を左右に揺らして、大小のメトロノームになっている。
機嫌が良さそうなのは何よりだ。



モンブランは、大変上機嫌だった。
ルネへの良い感情がこの場に溢れている。

「モンブランのルネだよ」

誇らしい。
コンコンと小さいドラゴンがモンブランの額を鼻先で打った。

「ねえねえ愛って? 愛って?」
「分からないの。でも嬉しい事なの」
「教えて教えて。誰か誰か」

屋上のノワールが、最小のドラゴンに応えた。

「愛とは、君らがいつもルネから受け取っているものだ」
「ルネルネ?」

首を傾げる頭頂のドラゴンに、モンブランは納得と共に教えた。

「良いものだよ。ルネがくれるの、良いものだけなの」
「良いもの良いもの、ルネルネ」

楽しくなってきた白と黄の二体は、首と尾を左右に揺らした。
「何でも楽しめる。若いというのはいいね」とノワールがしみじみと呟いた。



食後。相変わらず置いてけぼりのルネに、アランが申し出た。

「部屋まで送ります」

「そうしなさい!」と喚くように言ってアマンディーヌはワインを呷った。もうかなり飲んでいる。白ワインは軽いので調子に乗って飲み過ぎる事がある。
アマンディーヌを心配しながら、ルネは席を立った。
ドラゴン達を伴ってアランに続く。因みに、エレーヌは公妃エリアが守備範囲となるから食堂にはほぼ顔を出さない。
人間二人とドラゴン二体とで公妃エリアまでの廊下を歩く。
アランがルネを横目にした。

「混乱していますね」
「しています」
「混乱の原因は私ですが今は謝りません。私の家族となるからには、失態も欠点も含めて全て受け入れてもらいます」
「えらい事になりそうで益々混乱します」
「はっきり言わねば貴女には伝わらないと学びました。とりあえず互いに当初の予定は消滅したと認識を改めてください」
「当初の予定?」
「マリアージュ・ブランです」
「心は一つだったんですね。擦り合わせた訳でもないのに……」
「忌々しい事にね。しかし今となっては過去の産物です。今後は未来志向で行きましょう」
「えらい事になりそうです……」
「塔には戻れないと心するように」
「折角の修復と設備投資が……」
「客室にでもすればいいです。子供の秘密基地にしてやってもいいですね」
「ツリーハウス的な? そういうの憧れてました」
「貴女はもう戻れませんよ」
「ワンチャン、別居用……」
「戻れませんよ」

言い切ったアランは、さっとルネの手を掴んだ。
く、と力を入れてすぐに離す。

「戻れませんよ。どこにも」

惚けたルネは、脅すような彼の口振りに妙に身が引き締まる思いがした。

「――なんとか、覚悟をシフトします」
「シフト? 何から何に?」
「ここを追い出される覚悟から、ここに骨を埋める覚悟です」

きょとんとしたアランは、実に麗しい笑みを浮かべた。

「それは感心です。早めのシフトチェンジをお願いしますよ」
「努力します」

彼に一礼して、ルネはドラゴン達と共に公妃の寝室に向かった。
部屋に入った途端、遅く心臓が鳴り始めた。

――いつにも増して色気凄かったな。

あの顔で「私を愛しなさい」などと迫られていたら「ははー!」と伏して従っていた、ような気がする。

「それ最早愛より忠誠……。間違いじゃないけど」

独り言たルネに、ドラゴン達は首を傾げた。
よく分からないと言っている。
大丈夫だ。ルネにもよく分からない。

隣室に接続する扉を抜けてエレーヌがやって来た。
「こちらをどうぞ」と笑顔と共に差し出されたのは花束だった。

「ディナー前、閣下よりお預かりしておりました」

白と黄の可憐な花の中には、カードが添えられている。
一言「おやすみ」。
摘まみ取ったカードを手にしたまま、ルネは暫し放心した。
既に美青年なのに、美青年然と行動しないで欲しい。心臓に悪い。





しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

婚約破棄イベントが壊れた!

秋月一花
恋愛
 学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。  ――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!  ……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない! 「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」  おかしい、おかしい。絶対におかしい!  国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん! 2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

【完結】勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい ~婚約者契約は円満に終了しました

九條葉月
恋愛
【ジャンル1位獲得!】 【HOTランキング1位獲得!】 とある公爵との契約(婚約者関係)を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。 順調に準備を進めていると、契約を終えたはずの公爵様や王太子殿下たちがなぜか次々とお店にやって来て――!?

処理中です...