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47 シフト
しおりを挟むディナータイム。
ルネが食卓に加わるや、アランが徐に切り出した。
「ルネ、貴女を正式に婚約者として城に迎えたいと思います」
ルネは瞬き、アマンディーヌにしてもそうだった。
食堂内に居合わせる給仕達はどうにか感嘆を堪えている。
一拍の後、アマンディーヌはカトラリーを放り出し、テーブルに身を乗り出してアランに言い放った。
「遅いわよ!」
「面目ありません」
「でもママ嬉しい!」
「キャラを維持してください」
アランはさらりと告げ、ルネに目を戻した。
「そう言う訳ですので近々、貴女をお披露目する夜会を城で開催したいと考えています。結婚式の日取り等は別途相談します」
ルネは生徒然と「はい」と片手をあげた。
アランが教師然と「はい」と片手で示し、質問を許可する。
ルネは言った。
「急にどうされたんですか、閣下。私、今置いてけぼりです」
「何も急ではありません。貴女が鈍いから私の変化に気付かなかっただけです」
「今のは少々心外です。人間観察は専門分野です。閣下の変化にはちゃんと気付いてましたとも。ちゃんと毒キノコの摂取を心配してました」
「ご心配どうも。専門でも自分の事は分からないのでしょう」
「一理あります。――何故ですか?」
何も疑念を解消出来ていない。
ルネの問いに、アランはまたさらり。
「貴女に愛が芽生えただけです」
ぶふ、と噴き出し、テーブルに伏せた額を打ち付けたのはアマンディーヌだった。
心配して駆け寄るメイドらを手で制した彼女は、額を赤くした顔をのそりと上げてアランを見た。
「ママの前で言ってくれるじゃないの、もう。――どうぞお幸せに!」
騒がしい食卓の中、ルネは依然として置いてけぼりだった。
ルネの足元では白と黄のドラゴン達が首と尾を左右に揺らして、大小のメトロノームになっている。
機嫌が良さそうなのは何よりだ。
モンブランは、大変上機嫌だった。
ルネへの良い感情がこの場に溢れている。
「モンブランのルネだよ」
誇らしい。
コンコンと小さいドラゴンがモンブランの額を鼻先で打った。
「ねえねえ愛って? 愛って?」
「分からないの。でも嬉しい事なの」
「教えて教えて。誰か誰か」
屋上のノワールが、最小のドラゴンに応えた。
「愛とは、君らがいつもルネから受け取っているものだ」
「ルネルネ?」
首を傾げる頭頂のドラゴンに、モンブランは納得と共に教えた。
「良いものだよ。ルネがくれるの、良いものだけなの」
「良いもの良いもの、ルネルネ」
楽しくなってきた白と黄の二体は、首と尾を左右に揺らした。
「何でも楽しめる。若いというのはいいね」とノワールがしみじみと呟いた。
食後。相変わらず置いてけぼりのルネに、アランが申し出た。
「部屋まで送ります」
「そうしなさい!」と喚くように言ってアマンディーヌはワインを呷った。もうかなり飲んでいる。白ワインは軽いので調子に乗って飲み過ぎる事がある。
アマンディーヌを心配しながら、ルネは席を立った。
ドラゴン達を伴ってアランに続く。因みに、エレーヌは公妃エリアが守備範囲となるから食堂にはほぼ顔を出さない。
人間二人とドラゴン二体とで公妃エリアまでの廊下を歩く。
アランがルネを横目にした。
「混乱していますね」
「しています」
「混乱の原因は私ですが今は謝りません。私の家族となるからには、失態も欠点も含めて全て受け入れてもらいます」
「えらい事になりそうで益々混乱します」
「はっきり言わねば貴女には伝わらないと学びました。とりあえず互いに当初の予定は消滅したと認識を改めてください」
「当初の予定?」
「マリアージュ・ブランです」
「心は一つだったんですね。擦り合わせた訳でもないのに……」
「忌々しい事にね。しかし今となっては過去の産物です。今後は未来志向で行きましょう」
「えらい事になりそうです……」
「塔には戻れないと心するように」
「折角の修復と設備投資が……」
「客室にでもすればいいです。子供の秘密基地にしてやってもいいですね」
「ツリーハウス的な? そういうの憧れてました」
「貴女はもう戻れませんよ」
「ワンチャン、別居用……」
「戻れませんよ」
言い切ったアランは、さっとルネの手を掴んだ。
く、と力を入れてすぐに離す。
「戻れませんよ。どこにも」
惚けたルネは、脅すような彼の口振りに妙に身が引き締まる思いがした。
「――なんとか、覚悟をシフトします」
「シフト? 何から何に?」
「ここを追い出される覚悟から、ここに骨を埋める覚悟です」
きょとんとしたアランは、実に麗しい笑みを浮かべた。
「それは感心です。早めのシフトチェンジをお願いしますよ」
「努力します」
彼に一礼して、ルネはドラゴン達と共に公妃の寝室に向かった。
部屋に入った途端、遅く心臓が鳴り始めた。
――いつにも増して色気凄かったな。
あの顔で「私を愛しなさい」などと迫られていたら「ははー!」と伏して従っていた、ような気がする。
「それ最早愛より忠誠……。間違いじゃないけど」
独り言たルネに、ドラゴン達は首を傾げた。
よく分からないと言っている。
大丈夫だ。ルネにもよく分からない。
隣室に接続する扉を抜けてエレーヌがやって来た。
「こちらをどうぞ」と笑顔と共に差し出されたのは花束だった。
「ディナー前、閣下よりお預かりしておりました」
白と黄の可憐な花の中には、カードが添えられている。
一言「おやすみ」。
摘まみ取ったカードを手にしたまま、ルネは暫し放心した。
既に美青年なのに、美青年然と行動しないで欲しい。心臓に悪い。
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