リゾートで拾った恋

C t R

文字の大きさ
12 / 44

12 目から鱗

しおりを挟む



「そっかあ」とアデライドが深い嘆息ごと頷いて見せた。

「つまりアネットも、スランプ中なのね」

アネットは、危うくフレーバーティーを噴き出すところだった。

「違います違います。私の場合はスランプ以前の問題です。才能ありません。貴女とは違うんです」
「何言ってるの。こんなに可愛いヒット商品を世に出してるじゃないの」
「まぐれです。ビギナーズラック――ですらありません。才能ありません」
「……随分と固持するわね」

呆れたように言ったアデライドは、再び嘆息した。

「思うに、貴女にないのは才能じゃないわね」
「色々無いので分かりません」
「貴女が玩具メーカー勤務だって聞いて私、凄く驚いたのよ」
「分かっています。才能ありません」
「結論を急ぎなさんな。――貴女にないのはね、関心よ」
「かん、――え?」
「そもそも子供向けの玩具に関心がないのよ。人間ってのはね、関心外のものにアンテナを張り巡らせたりしないの。だからアイディアが出る筈もないの」
「そう、いうものですか……」
「そういうものよ。私から見ると、貴女が玩具メーカー勤務なんて意外過ぎる。貴女のイメージに合わない所為で、凄くちぐはぐな感じがする」
「ちぐはぐですか……」
「これは想像なんだけど、アネットって子供の頃にあんまり玩具で遊んでなかったんじゃないの?」
「仰る通りです」
「やっぱりね。自分に親しみのないものなんて余計に関心が湧かないわよ。だって分からないでしょ。どうしたってユーザー目線になれない、でしょ?」

アネットは見事に惚けて「仰る通りです」と繰り返した。
目から鱗とはこの事だ。
「でもね」とアデライドは続けた。

「ヒットを飛ばした実績は間違いないの。誇っていいわ」
「……まぐれでも?」
「構うもんですか。運も実力の内よ。でもちょっと気になったんだけど、このうさちゃんの商品を閃いた経緯は何だったの?」
「ああ。インターンの時期に、近所で小さい女の子を付け回す変な男が出没してたんですよ。それで何か撃退出来るアイテムはないかなって考えたんです」
「ほーらね。関連付けてちゃんと考えてる。貴女のヒットはまぐれじゃないわ」
「……その割にアイディアが続いてませんが」
「それは貴女が、ちびっこ女子達が喜びそうな可愛い楽しいアイテムを無理やり捻り出そうとしてるからよ。貴女自身の価値観と合致してないのに上手くいく訳ないじゃない。例えば貴女がちびっこ時代にお人形遊びをしていなかったなら、お人形の商品は生み出せない筈よ」

鋭い指摘に、アネットは息を呑んだ。やはり一流は目の付けどころが違う。

「お人形のシリーズを手掛けている先輩は、お人形そのものです」
「でしょうね。普通は手掛けた商品とかけ離れた創作者なんて有り得ないのよ。どの業界のどんな商品であってもね」
「マドモアゼルの素敵なジュエリーも、マドモアゼル全開ですもんね」
「有難う。スランプ中でごめんなさいね」
「世間は貴女を待てますよ」
「でもね、私が私を待てないの。早いとこ何とかしないとマジでヤクに手を出しそうで恐いわー」
「いけませんよ。ブザー押しますよ」
「それ鳴らないわよ」
「すみません、回収し損ねた不良品ですね」
「ううん、池に落としたの」
「すみません、デポジット(保証)の対象外です」
「あちゃー。うちのジュエリーとは違うのね」
「高級品ではありませんので、ええ」

アデライドのような大物が、壊れたうさぎの防犯ブザーを持ち歩いている。
アネットはむしろその事に妙な満足感を得てしまった。
スランプでも無能でもなかったとはいえ、アネットの窮地は変わらない。

「停職期間明けを待たず、辞めるべきなんでしょうね」

アデライドが切れ長の流し目を寄越した。

「結論が出ちゃったわね。そんな貴女に提案があるわ」
「何か良いアドヴァイスですか?」
「アドヴァイスじゃないけど――うちに来る?」

アネットは開いた口が塞がらなかった。
どうにか言った。

「ジュエラーさんで出来る仕事があるとは、到底……」
「そんなの入社後に見付けなさいよ。うちで一番大事なものは何だと思う?」
「……才能では?」
「信用よ」
「信用?」
「ハイジュエリーを扱うのよ。誘惑だらけよ。王宮勤めと同じかそれ以上にね」
「そっか……マドモアゼルのお店は王室御用達で、代々家族経営ですよね」
「そ。だから現時点で貴女はもう採用条件をクリアしてるの」
「そんな、私達、まだ付き合い始めたばかりじゃないですか」
「初々しい恋人みたいな言い方をしなさんな」
「知らないでしょう、私を」
「貴女は停職中にリゾートバイトをしてる新卒ちゃん」
「そうです。停職食らってるんです。信用出来ませんよ」
「でも貴女に停職食らわせたのは不良品で回収騒ぎ出したメーカーよ」
「それが何です。よく聞く話でしょう」
「一回でも火事を出せば信用は失墜するのよ。現に、看板商品のお人形シリーズはかなり売り上げが落ちたらしいじゃない」

アネットは今更、メーカーに対する世間の風当たりの強さを知った。
アデライドは冷めた目でティーカップの中を覗いた。

「前職なんて知らないわ。私はここで出会った貴女を気に入って、貴女の雰囲気はうちに合うと思った。だからスカウトしてるのよ」
「……マドモアゼル」
「今日も素敵なバッグとサンダルよね、貴女。アンクレットはうちの商品だわ」
「……貰い物です」
「貴女に似合うと判断された贈り物よ。つまりそういう事よ」
「…………」

急な事に、アネットは惚けるしかなかった。





しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

【完】隣国に売られるように渡った王女

まるねこ
恋愛
幼いころから王妃の命令で勉強ばかりしていたリヴィア。乳母に支えられながら成長し、ある日、父である国王陛下から呼び出しがあった。 「リヴィア、お前は長年王女として過ごしているが未だ婚約者がいなかったな。良い嫁ぎ先を選んでおいた」と。 リヴィアの不遇はいつまで続くのか。 Copyright©︎2024-まるねこ

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

軽薄公爵のお気に入り

宝月 蓮
恋愛
ゼーラント伯爵令嬢イリスは、社交界デビューしたばかり。姉のリンデに守られながら社交界に慣れていく中、軽薄公爵と噂され、未亡人や未婚の令嬢と浮き名を流すルーヴェン公爵家の若き当主、ヤンと知り合う。 軽薄だと噂されているヤンだが、イリスは彼がそのような人物だとは思えなかった。 イリスはヤンと交流していくうちに、彼に惹かれ、そして彼が過去に何かあったのだと気付き……? 過去作『返り咲きのヴィルヘルミナ』と繋がりがありますが、お読みでなくても楽しめるようになっています。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

処理中です...