今来物語集

春花とおく

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人類滅亡

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今は未来。

時は30XX年。
地球はかつてないほどに栄えていた。
1000年前に先進国と呼ばれた国々は言わずもがな、かつての貧困国ですら大量生産、大量消費の富裕国へと発展したのだ。
医療も発展した。故に死亡率は大幅に下がり、人口は増えに増えた。
当然それに伴って消費はさらに加速する。それ即ちゴミが増えるということ。

あらゆる進歩には代償を払わねばならない。何千年も前の偉人は質量保存という法則を唱えたが、その適用は物質に留まらない。繁栄の代償としての荒廃、それは蓄積し繁栄を危うくする。そうして歴史は巡る。物質と同様に。

地球はかつてないほどのゴミに埋もれていた。

巨大なゴミ山を前に数人が話し合っている。皆悲痛な面持ちだ。仮にA氏、B氏、C氏…とにかく、各国を代表するような人者達だ。

「どうしたものだろうか…」

ゴミ山を見上げて呟くA氏は憂鬱そうな面持ちだ。

「どうしたもこうしたも…」

B氏も投げやりだ。

「捨てるに捨てる場所もない」

とC氏。

「焼くにも量がありすぎる」

「社会の仕組みを変えるにも」

「時すでに遅し」

どうしようもなく数人が顔を上げた。
狭苦しい景色から目を背けたくて顔を上げた者もいる。
いくらかはそれにつられて空を見た。

そこには青い空が広がっていた。鬱屈な地上とは正反対に爽快で、広大な空。

誰かが言った。

「そうだ。宇宙に捨てればいい」

皆顔を下ろして発言者を見た。

「そうする他なさそうだ」

かくして巨大な宇宙船が作られた。
現代の技術を結集されたが、それでも時に失敗した。
またゴミは増える。気にすることは無い。宇宙に捨ててしまえばいいのだから。

ついに、それは完成した。

それは、人々の大きな期待と大量のゴミを抱え宇宙へ飛び出した。

「行ってらっしゃい」

そういう人がいた。

しかし、それが「ただいま」ということは無い。なぜならそれは宇宙のどこかで力尽き、今は希望の船であるが、憎むべきゴミとなるのだから。帰ってきたあかつきには人はこの時を忘れ、罵詈雑言を投げかけることだろう。

宇宙に捨てられたゴミの分広くなった土地を眺めて人々が話し合っている。A氏、B氏、C氏…とにかく皆先日のような悲痛な表情は見られない。

「良かった良かった」

「できた土地に工場を作ろう」

「そうとも。これで人口増加に対応出来る」

このようにして、幾度か宇宙にゴミが捨てられた。

おかげで、地球は破滅の道から救われたかのように見える。



時は3YYY年。

人々が巨大なモニターの前で集まって何か話している。皆悲痛な面持ちだ。
仮にA氏、B氏、C氏…ピコンピコンと移り変わるグラフとは正反対に彼らの顔は皆一様に暗く、変化がない。

「どうしたものだろうか…」

A氏が言った。モニターに移るグラフをにらみつけている。

そのグラフは世界の二酸化炭素量だったり、気温だったり、海水面の高さだったり、いわゆる地球温暖化というものに関係するものだ。

今地球はかつてないほどの地球温暖化に悩まされていた。

氷河が溶けだし、海水は上昇。環境難民の数は増えに増え、さらに気温上昇のために疫病が流行り、死人が沢山でた。

皆が集まる部屋には空調設備もついていたが、この状況、節電とやらでつけるにつけられない。部屋はサウナのように蒸し暑く、皆汗をかいている。

「どうしたもこうしたも…」

とB氏。

「暑くて何も浮かばない」

とC氏。

「節電しようにも」

「それでは世界がまわらない」

「時すでに遅し」

どうしようもなく数人が顔を上げた。
「あついあつい」と音を上げた者もいる。
いくらかはつられて顔を上げた。

そこには天井が広がっている。暑苦しい地上とは正反対に涼し気な紺色の天井。

誰かが言った。

「そうだ、ほかの星に移住すればいいのではないだろうか」

皆が顔を下ろし、発言者を見た。その拍子に汗がたらりと落ちる。

「そうだそうだ。今の技術をもってすれば第2の地球を作ることだって可能だろう」

「それがいい。さっそく調査に行かせよう」

かくして宇宙船が作られた。これは前に作っているから簡単だ。問題は人間が住めるように酸素やらなんやらを作る装置だ。これには苦労した。たくさん失敗もして、ゴミも増えた。これは問題ない。宇宙に捨てれば良い。工場を総動員したから、二酸化炭素濃度も増えた。問題ない。地球はもう用済みだ。使い捨ててやろうではないか。これまでの数多くの製品のように。

そうして皆の大きな期待と大量の機材を携え、宇宙船は虚空へと飛び出した。

「行ってらっしゃい」という者がいた。
しかしそれが「ただいま」ということは無い。なぜなら、彼らの場所に人間が行くのだから。
「お邪魔します」人間がそう言うのだ。そのあかつきには、この思いを胸に皆感動にうち震えることだろう。

しかし、待てども待てども宇宙船からも、船員からも連絡は来なかった。

どこかで通信が途絶えたのだろうか。
まさか自分たちだけ生き残ろうとしているのではないか。
いや、不測の事態に陥ったに違いない…

急いで宇宙船をこしらえ、2号が宇宙へ向かった。

「行ってらっしゃい」

きっと彼らが「ただいま」という時は、人類が救われる時に違いない…

しかし、2号も帰っては来なかった。
地球を出て、すぐに通信が途絶えたのだ。

「どうしたものだろうか…」

誰かが言った。

その時だった。地球に隕石が衝突した。

隕石と言っても、小さなものであり被害は少なかった。よくよく調べてみると、それはかつて宇宙へ放った地球のゴミの一部だと判明する。

それに気付いた誰かがハッとして言った。

「1号と2号は宇宙に浮遊するゴミにぶつかったのではないか」

その説を肯定するように次々とゴミが地球に落ちてきた。ある学者が言うに、地球の引力に引き寄せられたのだそうだ。つまり、今地球のすぐ外の宇宙には多くのゴミが浮遊しているのだろう…

地球では大きな争いが起こった。

数少ない食糧、土地、空気、数々のものを求め人が人を殺した。裕福な暮らしを知った全ての人間は貧しい暮らしに耐えられなかったのだ。

狭い土地がさらに狭くなるほど死体が出来た。

もう人類は終わりだ!

誰かがそう叫んでいた。

実際にその通りだった。
ゴミで土地はない。
空気も減っているし、資源もない、食糧も作れない。
地球から逃げるすべもない…これは誰のせいか、全て人間自身のしたことだ。繁栄を求めるあまり自分の首が絞められているのに気が付かなかった人類。いや、対策はしたのだが…それすらも裏目に出た。もうどうしようもなかったのだ。動き出した歯車は止まらない。
いったいどこから動き始めたのか…それは彼らには分からない。もう千年も昔の話だから。



時は3YXX年。

地球はかつてないほどの人口減少の道を辿っていた。

殺しなどは日常茶飯事。暑さのせいで皆イライラし、悪臭で気分も悪い。争いは三度の飯より多く見るし、病気も流行っている。食料も足りない。心なしか空気も薄い。

大きな山を前に数人が話し合っている。
仮にA氏、B氏、C氏…国という概念が存続の危機にある中、各地のリーダー達だ。

「どうしたものだろうか…」

高く積まれた死体の山を見上げて言ったA氏は、その声の質とは違って無表情だ。

「どうしたもこうしたも…」

B氏も無表情だ。

「どこから手をつければいいのやら…」

とC氏。

「人命救助が第一だ」

「救うべき命などあるだろうか?」

「そうだ。これはそもそも人間が起こしたことだ」

「しかし、それは私達が悪いのか?」

「いいや」

「私は何もしていない」

「私たちもだ」

「じゃあ誰が」

「そんなことを考えても仕方あるまい」

「時すでに遅し」

「人類は滅亡する運命だったのだ」

どうしようもなく数人が顔を上げた。
呼吸が苦しくて顔を上げた者もいる。
神を探したものもいた。

そこには青い空が広がっていた。死の香り立ち篭める地上とは正反対の澄んだ、冷たい色の空。

誰かが言った。

『そして誰もいなくなった』
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