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26話
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朝、幻覚スキルで姿を変えた葵が【林檎亭】の食堂へ行こうと部屋を出ると、丸まった敷布がいくつかの部屋の前に置いてあった。
客がチェックアウトした部屋から、何時ものようにジェネが掃除をしているのだろう。
そこへ階段側の200号室から悲鳴混じりの声がした。
「何なの!この汚し方!」
200号室は3~5人が泊まれる大部屋で、そう言えば昨日の夜、5人の冒険者パーティーが食堂でだいぶ酔って騒いでいた。
酔っ払いが嫌いな葵はさっさと食事を済ませ、部屋に結界を張って休んでいたのだが、パーティーの連中は続きを部屋の中でもしていたようだ。
開け放したドアから部屋を見ると、誰かが吐いたのか、むあっと饐えた臭いが漂って来た。
持ち込んだ酒瓶が何本も転がり、床に染みを作っているし、壁に何か擦ったような跡、べッドも汚れている。
部屋につまみを持ち帰りしたらしく、ゴミがあちこちに散乱しているし、要するにぐちゃぐちゃな状態だった。
「……だから逃げるみたいにチェックアウトしてったのね」
酒瓶を拾い集めていたジェネは半泣きだ。
この惨状では本来ならば追加料金ものである。
この有り様では200号室だけで、掃除に時間がかかってしまうだろう。
【林檎亭】は宿代が安い為、人を雇う余裕がない。
客が多い時、近所のオバサンが小遣い稼ぎに手伝っているくらいで、普段の掃除や敷布の洗濯はジェネが1人でやっている。
それでも掃除は行き届いているし、敷布も清潔で良い宿なのだ。
「……あの~、良かったら手伝いましょうか?」
思わず声をかけていた。
「え?」
「クリーンが使えるんで、その、良かったら」
まじまじとジェネは少年を見つめた。
「確か、一昨日から210に泊まってる……?」
「ええ、お世話になってます」
210号室の客、このダークブラウンの髪でそばかすの少年は、礼儀正しく部屋を大変綺麗に使っているので、ジェネも好意を持っている。
ゴミは散らかさず、きちんとゴミ箱に入っているし、トイレやシャワールームも汚れていない。
ゴミがある事と、ベッドの敷布が皺になっているので泊まった事が分かるくらいだ。
10日ぐらい前から、そんな客が珍しく入れ代わるように泊まっているが、誰にしろ綺麗に部屋を使って貰える事は宿屋商売には有難い事なのである。
クリーン魔法を使えるなら、あの部屋の綺麗な事にも納得がいく。
「……でもお客様に」
悪いわ、というジェネに葵はにっこり笑った。
「そんなに手間がかかる訳じゃないんで、大丈夫」
ゴミと酒瓶を廊下に出すと、葵は部屋全体にクリーンをかけた。
効果は覿面、冒険者パーティーが汚した場所はおろか、元々あった壁や天井の変色、果ては窓ガラスまで綺麗になった上、臭いもサッパリ無くなった事にジェネは目を丸くする。
「……凄い」
「ついでにこれも綺麗にしときますね」
葵は大きくベットリと染みの付いた敷布にもクリーンをかけた。
あっという間にまっ白になった敷布を渡されたジェネは、何度も礼を言った。
「本当に助かりました。今日からこの部屋予約が入ってたから、どうしようかと……」
ヴィオークの料理を気に入っている常連の客の連泊の予定があったのに、あの惨状で途方に暮れているところだったと言った。
「お役に立てて良かったです」
それから食堂で朝食をとっていると、ヴィオークが厨房からのっそり出て来て、葵の前にコトッとフロランタンのような焼菓子が乗った皿を置いた。
注文していないので顔を見ると相変わらず無愛想のまま礼を言って来た。
「さっき、世話になったそうだな。ジェネから聞いた。良かったら食べてくれ」
「じゃあ、遠慮なく」
焼菓子は凄く美味しかった。やはりヴィオークは腕が良い。
更にチェックアウトした時、昼食にとサンドイッチの包みをくれたので、朝からちょっとお得な気分で葵は何時ものように図書館へ向かった。
図書館の閲覧室は大部屋とは別に小さな個室が6部屋用意されている。
早い者勝ちなので葵は朝早くから図書館に通って、個室の方を使っていた。
理由は川に捨てずに残して置いたノートに、勉強した内容をメモしているのだが、ノートと筆記用具を他人に見られたくないからだ。
特にシャーペン、ボールペン、ラインマーカー、消しゴムや油性ペンはこちらの世界には無いので普段は無限収納に収納してある。
筆記用具は古風なインク壺にペン先を浸けるタイプなので悪目立ちしてしまうのだ。
しかしこの前、強盗犯を捕まえた時に葵は油性ペンを使った。
さっさとその場を離れたかったので、人目のない路地裏に気絶した犯人を運ぶと油性ペンで、でかでかと目印を書いておく事にしたのである。
直ぐは消えないし、逃げられないようにもしておいたので、おそらく見つけた誰かが通報してくれただろう。
この10日間、生活ガイドブックを良く読んで、図書館でスキル、魔法やこの世界の歴史について勉強し、-応常識知らずと思われない程度の基礎知識は頭に入れたと思う。
聖女については、自分が何故召喚されたかを端的に知る為、最初子供向けに噛み砕いた話を読んだ。
それで何故聖女を召喚するのか、聖女の役目は何なのかは分かった。
瘴気が濃くなればこの世界が滅び、それを浄化できるのは異世界から召喚した聖女だけなのだと。
エンヤとか言う大昔の大魔道師のせいで、葵を含めた少女や女性達が無関係な異世界に引っ張られる事になったのだ。
他力本願もいいところで、コイツに文句を盛大
言ってやりたい。
いや、-発ブン殴りたいと思った。
客がチェックアウトした部屋から、何時ものようにジェネが掃除をしているのだろう。
そこへ階段側の200号室から悲鳴混じりの声がした。
「何なの!この汚し方!」
200号室は3~5人が泊まれる大部屋で、そう言えば昨日の夜、5人の冒険者パーティーが食堂でだいぶ酔って騒いでいた。
酔っ払いが嫌いな葵はさっさと食事を済ませ、部屋に結界を張って休んでいたのだが、パーティーの連中は続きを部屋の中でもしていたようだ。
開け放したドアから部屋を見ると、誰かが吐いたのか、むあっと饐えた臭いが漂って来た。
持ち込んだ酒瓶が何本も転がり、床に染みを作っているし、壁に何か擦ったような跡、べッドも汚れている。
部屋につまみを持ち帰りしたらしく、ゴミがあちこちに散乱しているし、要するにぐちゃぐちゃな状態だった。
「……だから逃げるみたいにチェックアウトしてったのね」
酒瓶を拾い集めていたジェネは半泣きだ。
この惨状では本来ならば追加料金ものである。
この有り様では200号室だけで、掃除に時間がかかってしまうだろう。
【林檎亭】は宿代が安い為、人を雇う余裕がない。
客が多い時、近所のオバサンが小遣い稼ぎに手伝っているくらいで、普段の掃除や敷布の洗濯はジェネが1人でやっている。
それでも掃除は行き届いているし、敷布も清潔で良い宿なのだ。
「……あの~、良かったら手伝いましょうか?」
思わず声をかけていた。
「え?」
「クリーンが使えるんで、その、良かったら」
まじまじとジェネは少年を見つめた。
「確か、一昨日から210に泊まってる……?」
「ええ、お世話になってます」
210号室の客、このダークブラウンの髪でそばかすの少年は、礼儀正しく部屋を大変綺麗に使っているので、ジェネも好意を持っている。
ゴミは散らかさず、きちんとゴミ箱に入っているし、トイレやシャワールームも汚れていない。
ゴミがある事と、ベッドの敷布が皺になっているので泊まった事が分かるくらいだ。
10日ぐらい前から、そんな客が珍しく入れ代わるように泊まっているが、誰にしろ綺麗に部屋を使って貰える事は宿屋商売には有難い事なのである。
クリーン魔法を使えるなら、あの部屋の綺麗な事にも納得がいく。
「……でもお客様に」
悪いわ、というジェネに葵はにっこり笑った。
「そんなに手間がかかる訳じゃないんで、大丈夫」
ゴミと酒瓶を廊下に出すと、葵は部屋全体にクリーンをかけた。
効果は覿面、冒険者パーティーが汚した場所はおろか、元々あった壁や天井の変色、果ては窓ガラスまで綺麗になった上、臭いもサッパリ無くなった事にジェネは目を丸くする。
「……凄い」
「ついでにこれも綺麗にしときますね」
葵は大きくベットリと染みの付いた敷布にもクリーンをかけた。
あっという間にまっ白になった敷布を渡されたジェネは、何度も礼を言った。
「本当に助かりました。今日からこの部屋予約が入ってたから、どうしようかと……」
ヴィオークの料理を気に入っている常連の客の連泊の予定があったのに、あの惨状で途方に暮れているところだったと言った。
「お役に立てて良かったです」
それから食堂で朝食をとっていると、ヴィオークが厨房からのっそり出て来て、葵の前にコトッとフロランタンのような焼菓子が乗った皿を置いた。
注文していないので顔を見ると相変わらず無愛想のまま礼を言って来た。
「さっき、世話になったそうだな。ジェネから聞いた。良かったら食べてくれ」
「じゃあ、遠慮なく」
焼菓子は凄く美味しかった。やはりヴィオークは腕が良い。
更にチェックアウトした時、昼食にとサンドイッチの包みをくれたので、朝からちょっとお得な気分で葵は何時ものように図書館へ向かった。
図書館の閲覧室は大部屋とは別に小さな個室が6部屋用意されている。
早い者勝ちなので葵は朝早くから図書館に通って、個室の方を使っていた。
理由は川に捨てずに残して置いたノートに、勉強した内容をメモしているのだが、ノートと筆記用具を他人に見られたくないからだ。
特にシャーペン、ボールペン、ラインマーカー、消しゴムや油性ペンはこちらの世界には無いので普段は無限収納に収納してある。
筆記用具は古風なインク壺にペン先を浸けるタイプなので悪目立ちしてしまうのだ。
しかしこの前、強盗犯を捕まえた時に葵は油性ペンを使った。
さっさとその場を離れたかったので、人目のない路地裏に気絶した犯人を運ぶと油性ペンで、でかでかと目印を書いておく事にしたのである。
直ぐは消えないし、逃げられないようにもしておいたので、おそらく見つけた誰かが通報してくれただろう。
この10日間、生活ガイドブックを良く読んで、図書館でスキル、魔法やこの世界の歴史について勉強し、-応常識知らずと思われない程度の基礎知識は頭に入れたと思う。
聖女については、自分が何故召喚されたかを端的に知る為、最初子供向けに噛み砕いた話を読んだ。
それで何故聖女を召喚するのか、聖女の役目は何なのかは分かった。
瘴気が濃くなればこの世界が滅び、それを浄化できるのは異世界から召喚した聖女だけなのだと。
エンヤとか言う大昔の大魔道師のせいで、葵を含めた少女や女性達が無関係な異世界に引っ張られる事になったのだ。
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