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七話
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昔……心中を図った若侍を、何と愚かな事をと思ったものだが……
今なら、その切羽詰まった気持ちが理解できる……。
自分の物にならない恋しい女が他の男に抱かれているのだ。
チリチリと灼けつくようなこの想い……。
初めは吉原―の太夫、高嶺の花なのだ、僅かでも垣間見る事さえ出来ればと……そう思っていた筈なのに……
右京は自嘲の笑みを浮かべた。
……人は欲深いものよ。
その花の顔を側で飽くことなく眺め、たおやかな身体に触れてみたいと……鈴を転がしたような声で、右京と名前を呼んで欲しいと願う己がいる……。
だが、もし、そうなったらなったで、更に想いは募るのだろう……。
初めはただ再会できたのが嬉しくて……あの方が、同じお江戸の空の下にいるだけで、幸せだと思っていたのに……。
それが、僅かな刻であったとしても、度々姿を垣間見る事が出来ると、もうそれだけでは、満足できなくなってしまった……。
ますます募る想い……。
あの方と共に過ごせたら……いえ、そうなったら二度と離れる事など、きっと耐えられまい……。
何てあさましい……。
太夫は己の顔を覆う……。
鏡にどんな女が映っているか、怖ろしくて……。
……人とは何と欲深い物なのか……。
どうして現状で満足する事ができないのだろう...…。
ああ...……あさましい……。
それでも....………恋しい....…。
……右京様。
白雪太夫の様子が最近おかしいと、遣り手のお梅から聞かされ、首を傾げた見世の主、鈴代屋籐兵衛。
「太夫がか?どんな風に?座敷では、変わらずに客あしらいが上手いがな……」
「お座敷ではね。ですが一人になると、部屋の中で啜り泣きが聞こえて来るんですよ……」辺りを見回し、声を潜めてお梅は答えた。
「……ふーむ。身体の具合でも悪いのか?」
「いえ、違うと思いますよ。……あれは、あたしの見たところ……そう、アレですよ……色にいでけり……恋ですね」
籐兵衛は目を丸くした。「恋だって!?」
今なら、その切羽詰まった気持ちが理解できる……。
自分の物にならない恋しい女が他の男に抱かれているのだ。
チリチリと灼けつくようなこの想い……。
初めは吉原―の太夫、高嶺の花なのだ、僅かでも垣間見る事さえ出来ればと……そう思っていた筈なのに……
右京は自嘲の笑みを浮かべた。
……人は欲深いものよ。
その花の顔を側で飽くことなく眺め、たおやかな身体に触れてみたいと……鈴を転がしたような声で、右京と名前を呼んで欲しいと願う己がいる……。
だが、もし、そうなったらなったで、更に想いは募るのだろう……。
初めはただ再会できたのが嬉しくて……あの方が、同じお江戸の空の下にいるだけで、幸せだと思っていたのに……。
それが、僅かな刻であったとしても、度々姿を垣間見る事が出来ると、もうそれだけでは、満足できなくなってしまった……。
ますます募る想い……。
あの方と共に過ごせたら……いえ、そうなったら二度と離れる事など、きっと耐えられまい……。
何てあさましい……。
太夫は己の顔を覆う……。
鏡にどんな女が映っているか、怖ろしくて……。
……人とは何と欲深い物なのか……。
どうして現状で満足する事ができないのだろう...…。
ああ...……あさましい……。
それでも....………恋しい....…。
……右京様。
白雪太夫の様子が最近おかしいと、遣り手のお梅から聞かされ、首を傾げた見世の主、鈴代屋籐兵衛。
「太夫がか?どんな風に?座敷では、変わらずに客あしらいが上手いがな……」
「お座敷ではね。ですが一人になると、部屋の中で啜り泣きが聞こえて来るんですよ……」辺りを見回し、声を潜めてお梅は答えた。
「……ふーむ。身体の具合でも悪いのか?」
「いえ、違うと思いますよ。……あれは、あたしの見たところ……そう、アレですよ……色にいでけり……恋ですね」
籐兵衛は目を丸くした。「恋だって!?」
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