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大学
しおりを挟む大学のキャンパスに足を踏み入れると、広々とした中庭に朝の光が降り注いでいた。緑の芝生の上ではサークル勧誘のポスターが並び、学生たちが思い思いに声を上げている。
「わあ、にぎやかだね、お姉ちゃん」
「ええ、でも私たちは講義に向かわないとね」
純明は人混みをすり抜けるようにして歩きながら、麗華の手を軽く引いた。その仕草に麗華は小さく笑みを浮かべる。
最初の講義は文学史だった。広い教室に学生たちが次々と入ってくる中、麗華はいつもの席に腰を下ろした。純明も隣に座り、ペンを走らせる準備をしている。
「お姉ちゃん、今日の先生はちょっと厳しいんじゃない?」
「そうかしら。でも純明ちゃんが一緒なら心強いわ」
「僕、メモをしっかり取るから、後で一緒に復習しようね」
「頼りにしてるわ」
教授が入ってくると、教室は静まり返った。板書が始まり、チョークの音がカツカツと響く。麗華はノートを開きながら、ときどき純明と視線を交わし合う。その笑みが、どんな難解な話も柔らかく解きほぐしてくれるようだった。
午前の講義を終えると、学食はすでに多くの学生で賑わっていた。トレーを手にした麗華は、純明と並んでカウンターを巡る。
「今日はカレーにしようかな。純明ちゃんは?」
「僕はハンバーグ。お姉ちゃんと半分こして食べようよ」
「いいわね、それ」
二人は窓際の席に腰を下ろし、食事を前にして手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます、お姉ちゃん」
一口食べた純明が、目を輝かせる。
「このハンバーグ、すごくジューシーだよ」
「ほんと? じゃあちょっと味見させて」
麗華はスプーンを差し出し、純明から一口もらう。その自然なやりとりは、周囲の喧騒とは無縁の小さな幸福の空間を作り出していた。
食後、ふと声をかけてきたのは熊田雅子だった。トレーを持ったまま立ち止まり、少し微笑む。
「麗華、隣、いい?」
「もちろん。ねえ、純明ちゃん、ここ空けてあげましょう」
「うん」
雅子は腰を下ろし、落ち着いた口調で言った。
「今日は午前からずっと講義で、正直疲れたわ。麗華は平気そうね」
「ええ。純明ちゃんが一緒だから」
「……そっか」
雅子は一瞬、不思議そうな目をしたが、すぐに柔らかく笑って話題を変えた。
「午後のゼミ、また発表があるんでしょう? 準備、大丈夫?」
「大丈夫よ。純明ちゃんが手伝ってくれたから」
「ふふ、あなたは本当に頼もしいわね」
真面目な雅子の口調に、麗華は安心を覚えた。彼女は昔からそうやって、何気ない一言で支えてくれる存在だった。
午後の講義も終わり、外に出ると空は少し赤みを帯び始めていた。
「お姉ちゃん、帰りに本屋さん寄ろうよ」
「そうね。純明ちゃんが欲しがっていた雑誌、探してみましょう」
「うん、ありがとう」
並んで歩く二人の足取りは軽く、キャンパスの喧騒の中でも確かな絆を感じさせた。
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