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124 豆腐ハンバーグ
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「豆腐……入ってるのか?」
予想通りの言葉を放つ朝霧に、にんまり笑う。
「だろ、ちょっと緩くてボソつき感は出ちゃうけどさ、お前なら分かんないかと思って!」
「堂々と悪口を言うな」
「悪口じゃ……悪口だな」
大笑いする俺に、豆腐バーグを頬張った朝霧も笑う。
たくさん豆腐を入れたとはいえ、ちゃんとひき肉も入ってる。木綿豆腐だし、食べ応えはしっかりあるだろう。
豆腐味を誤魔化すために、濃い照り焼きタレをたっぷり合わせて、タレだけで十分ごはんの進む逸品だ。
目にも満足サイズの豆腐バーグ。ナイフとフォークを使うまでもなく、スッと箸が入った先から、ふわりと湯気が上がった。
つやめく照り焼きタレが、待ち構えていたように割った先へと垂れ落ちてくる。
その断面にも豆腐感がないことに満足して、口いっぱいに頬張った。
「あふっ、うま……」
「美味いな」
ハンバーグってのは、こう、思い切り頬張るのが美味いんだよ。
熱さに涙目になりながら、頬を膨らませて咀嚼する。追随するように応えた朝霧も、俺を見てでかいひとくちを頬張った。
「ははっ、朝霧その顔! こっち向け」
「……」
俺と同じ、ほんのり涙目になって頬を膨らませた朝霧。
ばっちり撮ったその顔を見て、ついにまにまする。
なんだよ、かわいいじゃねえか。
「……お前も撮りたい」
「嫌だね! シャッターチャンスを逃した朝霧くんが悪い!」
不貞腐れる朝霧をもう一度撮ってやって、また笑った。
いつも変な写真撮られるんだから、仕返しだ。
どう撮っても、イケメンはイケメンで腹が立つのだけども。
ちなみに、朝霧が頬張るサイズで口に入れたら、ハンバーグはもうない。
デカいの2個あったはずだけどな。
「まだ食うなら、フライパンに残ってるぞ。あ、マヨ忘れた。マヨかけても美味いし、それならレタスを添えて……あと目玉焼き載せてもいいし――わかったわかった!」
キッチンへ向かった朝霧が、俺の説明を聞いて無言で振り返った。
訴えかける視線に苦笑して、朝霧用のもうひと皿を作る。
「白飯、まだ食う?」
「食う」
ならばと飯を入れた皿にレタス、そしてハンバーグを載せる。目玉焼きを添え、たっぷりタレをかけて。さらにストライプ状にマヨネーズでめかし込み、黒コショウで完璧だ。
「ロコモコ風ってやつだ!」
「美味そう……ロコモコってなんだ? ハンバーグじゃないのか?」
「いや、ハンバーグなんだけどさ、なんかこういう……まあ、こんな感じなんだよ!」
語源にさしたる興味もなく、ふうんと流した朝霧が、ロコモコ風にはしっかり興味津々で目を輝かせている。
お前、ハンバーグ(大)二個と飯食ったよな? サラダとスープもあったよな?
きらきらした瞳のまま、遠慮なくデカい口でかっこむ豪快な食いっぷり。
今日初めて飯を食います! みたいな顔に驚愕を禁じ得ない。
……そして、俺が嬉しくないはずもない。
そっか、美味かったか。
浮かぶ笑みを誤魔化して、視線を逸らした。
たまたまその視界に入った、宮城さんから借りたゲームソフト。
「あ……そういやお前、宮城さんに何か言った?」
何気なくそう言うと、朝霧が少しだけ目を細めた。
「別に。なんでだ?」
探るような、警戒するような視線の意味をはかりかねて、首を傾げる。
「なんでってことはねえんだけどさ――」
七瀬さんとは違った温度感で聞かれた、真剣みを帯びた『クリスマス、大丈夫だった?』のセリフ。大丈夫ってなんだ? と思ったんだけど。
ひとまずルームウェアのお礼やらゲームのお礼を伝えると、大丈夫ならいいって言われたんだっけ。
「朝霧とゲームしてるって知ってたから、お前と何かしゃべったんだろうと思って。あっ! まさかお前、余計なこと言ってねえだろうな?!」
「……余計なことって何だ」
「い、いや、その……まあ、お前は言わないだろ!」
無口不愛想な朝霧くんが、わざわざそんな私生活のことまでぺらぺらしゃべったりしないだろう。大体、どういう会話でそんな内容になるのか。
大丈夫だと判断して、息を吐く。
目の前の朝霧が、にやっと笑みを浮かべた。
うわ、嫌な予感。
「俺がお前を抱いてゲームしてること、言ったらダメなのか」
「ば――っ、い、言い方!! 違う! お前を背もたれにしてるだけ!! ちょうどいいから!」
「じゃあ、言ってもいいか」
「ダメに決まってんだろ! 馬鹿!」
「分かった、次から気を付ける」
にやつく朝霧を睨み上げ、冷静になった頭でしまったと思う。
乗せられた……こいつは言わないってさっき判断したとこなのに。
さらっと『お前、言う機会ないだろ』みたいに流せばよかったのに……!
腹を立てながら、俺の身体は思い出してしまう。
温かい背中、身体を覆うわずかな圧迫感。
感じる吐息と、朝霧の髪と、顎。
意識して、深呼吸した。
「……じゃあさ、今日もするか?」
「ああ」
何も、不自然じゃない。
俺は、ゲームをしたいだけだ。
「いつやる? 風呂の前? 後?」
「後。そのまま寝られるだろ」
「寝るか!」
反射的に返したら、朝霧がにやついていた。
「俺の腕の中で、とは言ってないけどな」
「っ! ちが、だって、お前はいつも――!」
「寝てもいいぞ」
「だから寝な――あ! うるせー!」
地団太踏んだ俺は、そそくさと風呂場へ退散したのだった。
……そして、その後いつものゲームスタイルを朝霧に撮られて、またひと悶着あったのだった。
予想通りの言葉を放つ朝霧に、にんまり笑う。
「だろ、ちょっと緩くてボソつき感は出ちゃうけどさ、お前なら分かんないかと思って!」
「堂々と悪口を言うな」
「悪口じゃ……悪口だな」
大笑いする俺に、豆腐バーグを頬張った朝霧も笑う。
たくさん豆腐を入れたとはいえ、ちゃんとひき肉も入ってる。木綿豆腐だし、食べ応えはしっかりあるだろう。
豆腐味を誤魔化すために、濃い照り焼きタレをたっぷり合わせて、タレだけで十分ごはんの進む逸品だ。
目にも満足サイズの豆腐バーグ。ナイフとフォークを使うまでもなく、スッと箸が入った先から、ふわりと湯気が上がった。
つやめく照り焼きタレが、待ち構えていたように割った先へと垂れ落ちてくる。
その断面にも豆腐感がないことに満足して、口いっぱいに頬張った。
「あふっ、うま……」
「美味いな」
ハンバーグってのは、こう、思い切り頬張るのが美味いんだよ。
熱さに涙目になりながら、頬を膨らませて咀嚼する。追随するように応えた朝霧も、俺を見てでかいひとくちを頬張った。
「ははっ、朝霧その顔! こっち向け」
「……」
俺と同じ、ほんのり涙目になって頬を膨らませた朝霧。
ばっちり撮ったその顔を見て、ついにまにまする。
なんだよ、かわいいじゃねえか。
「……お前も撮りたい」
「嫌だね! シャッターチャンスを逃した朝霧くんが悪い!」
不貞腐れる朝霧をもう一度撮ってやって、また笑った。
いつも変な写真撮られるんだから、仕返しだ。
どう撮っても、イケメンはイケメンで腹が立つのだけども。
ちなみに、朝霧が頬張るサイズで口に入れたら、ハンバーグはもうない。
デカいの2個あったはずだけどな。
「まだ食うなら、フライパンに残ってるぞ。あ、マヨ忘れた。マヨかけても美味いし、それならレタスを添えて……あと目玉焼き載せてもいいし――わかったわかった!」
キッチンへ向かった朝霧が、俺の説明を聞いて無言で振り返った。
訴えかける視線に苦笑して、朝霧用のもうひと皿を作る。
「白飯、まだ食う?」
「食う」
ならばと飯を入れた皿にレタス、そしてハンバーグを載せる。目玉焼きを添え、たっぷりタレをかけて。さらにストライプ状にマヨネーズでめかし込み、黒コショウで完璧だ。
「ロコモコ風ってやつだ!」
「美味そう……ロコモコってなんだ? ハンバーグじゃないのか?」
「いや、ハンバーグなんだけどさ、なんかこういう……まあ、こんな感じなんだよ!」
語源にさしたる興味もなく、ふうんと流した朝霧が、ロコモコ風にはしっかり興味津々で目を輝かせている。
お前、ハンバーグ(大)二個と飯食ったよな? サラダとスープもあったよな?
きらきらした瞳のまま、遠慮なくデカい口でかっこむ豪快な食いっぷり。
今日初めて飯を食います! みたいな顔に驚愕を禁じ得ない。
……そして、俺が嬉しくないはずもない。
そっか、美味かったか。
浮かぶ笑みを誤魔化して、視線を逸らした。
たまたまその視界に入った、宮城さんから借りたゲームソフト。
「あ……そういやお前、宮城さんに何か言った?」
何気なくそう言うと、朝霧が少しだけ目を細めた。
「別に。なんでだ?」
探るような、警戒するような視線の意味をはかりかねて、首を傾げる。
「なんでってことはねえんだけどさ――」
七瀬さんとは違った温度感で聞かれた、真剣みを帯びた『クリスマス、大丈夫だった?』のセリフ。大丈夫ってなんだ? と思ったんだけど。
ひとまずルームウェアのお礼やらゲームのお礼を伝えると、大丈夫ならいいって言われたんだっけ。
「朝霧とゲームしてるって知ってたから、お前と何かしゃべったんだろうと思って。あっ! まさかお前、余計なこと言ってねえだろうな?!」
「……余計なことって何だ」
「い、いや、その……まあ、お前は言わないだろ!」
無口不愛想な朝霧くんが、わざわざそんな私生活のことまでぺらぺらしゃべったりしないだろう。大体、どういう会話でそんな内容になるのか。
大丈夫だと判断して、息を吐く。
目の前の朝霧が、にやっと笑みを浮かべた。
うわ、嫌な予感。
「俺がお前を抱いてゲームしてること、言ったらダメなのか」
「ば――っ、い、言い方!! 違う! お前を背もたれにしてるだけ!! ちょうどいいから!」
「じゃあ、言ってもいいか」
「ダメに決まってんだろ! 馬鹿!」
「分かった、次から気を付ける」
にやつく朝霧を睨み上げ、冷静になった頭でしまったと思う。
乗せられた……こいつは言わないってさっき判断したとこなのに。
さらっと『お前、言う機会ないだろ』みたいに流せばよかったのに……!
腹を立てながら、俺の身体は思い出してしまう。
温かい背中、身体を覆うわずかな圧迫感。
感じる吐息と、朝霧の髪と、顎。
意識して、深呼吸した。
「……じゃあさ、今日もするか?」
「ああ」
何も、不自然じゃない。
俺は、ゲームをしたいだけだ。
「いつやる? 風呂の前? 後?」
「後。そのまま寝られるだろ」
「寝るか!」
反射的に返したら、朝霧がにやついていた。
「俺の腕の中で、とは言ってないけどな」
「っ! ちが、だって、お前はいつも――!」
「寝てもいいぞ」
「だから寝な――あ! うるせー!」
地団太踏んだ俺は、そそくさと風呂場へ退散したのだった。
……そして、その後いつものゲームスタイルを朝霧に撮られて、またひと悶着あったのだった。
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