男の妊娠。

ユンボイナ

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第二章 人生色々、妊娠色々

ゲイカップルの妊娠⑴

 L彦とM次は男性同士で同い年のカップルだった。24世紀の日本ではLGBTの権利が広く認められて、当然に同性同士の結婚も認められており、もちろんL彦とM次も結婚しようと思えば可能だ。しかし、このカップルは常にどちらか一方がケガや失職、家族の病気・死亡などトラブル続きの状況で、なかなか結婚しようという話にならないのだった。二人は大学生のころから同棲していたが、気がつけばもう三十歳を過ぎていた。

 ある日、M次が不思議なことを言い出した。
「わたし、妊娠しちゃったかもしれない。吐き気がひどいの。」
L彦は焦った。
「ちょっと待って、まさかお前、女とやったのかよ?」
M次は首をブンブン横に振った。
「そんなわけないじゃない! 女とそんなことするなんて、気持ち悪くて無理よ、無理!!」
「じゃあ何で妊娠するんだよ、勝手に体外受精の手術でもしたのか?」
またM次は首を振った。
 ちなみに、男性が妊娠できる以上、受精卵を男性の体内に入れて男性が人工的に妊娠するということも可能で、人工受精は子どもを持ちたいゲイカップルにニーズのある手術である。もっとも、誰か女性の卵子提供者が必要ではあるが。
「してないわよ。そんな手術をする費用がどこにあるっていうの?」
「だよな。けど、お前、ずっと子どもが欲しい、子どもが欲しいって言ってたから、先走ってそういうことをしたのかと思ったよ。」
「ない、ないわよ。わたしはL彦ひとすじだもの。」
L彦はしばらく俯いて考えていたが、急にハッとして言った。
「想像妊娠じゃないか?」

 男性が当たり前に妊娠するようになって以降、男性の想像妊娠が増加していた。想像妊娠は、妊娠を強く恐れるか、逆に強く願う場合に、身体に妊娠したかのような現象・症状が発生することである。
 男性の場合には、特に妊娠への強い恐れから想像妊娠となるケースが多かった。しかし、M次は逆に妊娠を強く願っていた。彼の口ぐせは、「L彦の子どもが欲しい」だった。
「想像妊娠じゃない! わたし、絶対妊娠してるもん。」
「困ったなあ、いずれにせよ、一度病院に行ってみようか。」
二日後、二人はお互いの職場を休んで、産婦人科へ行くことにした。

 ところが、一軒目のクリニックはゲイカップルと聞いた瞬間に「想像妊娠でしょ?」と冷たくあしらわれ、二軒目のクリニックは門前払いされた。
「この時代に、何でわたしたちはこういう目に遭わなきゃいけないのよ! 訴えてやる!!」
憤るM次をL彦は宥めた。
「まあ、確かに俺たちの間に子どもができると考えにくいのは事実だ。もう一軒産婦人科へ行ってみよう?」
 三軒目は四十代の女医が経営している小さなクリニックだった。受付でゲイカップルであることを申告すると、窓口に座っていた若い女性は一旦奥に引っ込んだが、数分後に笑顔で「どうぞこちらで問診票をご記入になってお待ちください!」と言った。
「ここは期待できそうね。」
M次は上目遣いでL彦を見た。L彦はM次の白い手を握った。
 やがてM次の番になり、L彦とM次は診察室に入った。女医であるN野は二人を交互に見た後、こう言った。
「『男性』同士で子どもができないとは100パーセント言いきれないんです。」
L彦は「うそっ!」と叫んだ。
「卵子さえどちらかが作れれば、理論的には自然妊娠が可能なんです。」
「いや、俺たちは男なんだから、卵子なんか作れないでしょ、先生?」
L彦はN野医師に問うた。
「その、『男』の定義が問題になってきます。例えば、『元女性の男性』が妊娠するケースは稀に発生しています。性別適合手術の際に卵巣を切除しなかった場合ですね。」
二人は顔を見合わせたが、M次がまず否定した。
「やだ、わたし、生まれてから今までずっと男よ。」
「俺もそうだよ。先生、他の可能性はないんですか?」
N野医師は言った。
「他には、性分化疾患の場合ですね。一般的には半陰陽とか両性具有とか呼んでますけど。」
「え、悪いけど、わたしにはメスのマ〇コなんてついてないわよ! チ〇コだけよ?」
M次が少々お下品な言い方をしたので、L彦は「こら!」と叱った。しかし、N野は真顔で言った。
「そういう単純な問題ではないんですよね。外見上男性器しか見えなくても、実は卵巣しかなかったり、片方が精巣で片方が卵巣だったり、色んなパターンがあるんです。」
L彦は「ほう。」と言った。
「とりあえず、妊娠検査薬で本当にM次さんが妊娠しているかを確認して、その後、DNA鑑定で胎児がM次さんとL彦さんの子どもかどうかを調べます。DNA鑑定は外注しているので、結果が出るまでに一週間ほどいただきますが。それで、お二人の子どもだと判明したら、今度は何故そのようなことが起きたのか、お二人の身体を調べてみてはどうでしょう? うちでできるのはDNA鑑定までなので、身体を診てもらうのは大学病院に紹介状を書きますが……それでよろしいですか?」
M次は両手を胸の前で合わせて「お願いします!」と言った。L彦も「お願いします!」と頭を下げた。N野医師はニコリと笑うと立ち上がり、棚にあった紙コップをM次に手渡した。
「じゃあ、妊娠検査は尿検査になるから、向こうのトイレでこれにオシッコしてきてください。」
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