23 / 32
第三章 春愁
コンテスト、再び
しおりを挟む
年が明けてからはや1ヶ月。
二月に入ったカフェくすのきには暗雲が立ち込めていた。
俺はまたもや一人で万策の限りを尽くし、キッチンにて試行錯誤していた。
「もうチョコレート食いたくねえぇ…」
ことの発端は一月の下旬。店長がまたもや怪しいことを言い出したからである。
「第一回!バレンタインデザートコンテストを開催しま~~~す!!!」
「ええええ!?」
一同驚愕。クリスマスにもやったじゃないか店長よ。
「チッチッチ。君たちわかってないねぇ…。今回のデザートコンテストは一味違うぞ~!」
「何が違うんですか」
「中野くん…君は前回最下位だったよね?」
「それが何か」
「そんな君でも~、デザートをお客様に食べてもらえるチャンスがある!と言うわけで、今回はお客様にジャッジを乞う予定です。」
なんとこれは驚きだ。
あの店長がしっかりしたルールを定めている。
普段は従業員の投票、もしくは店長の独断で決めていたデザートコンテストだが、
今回はなんと実際に来客に食べてもらい、投票式で決めるという。
一位をゲットしたデザートはというと、
「レギュラーメニューに昇格です」
なんとも大胆な決断…。バレンタインをテーマにしたものだよな???
と言うわけである。
俺自身デジャヴしか感じなかった今回のコンテスト、しかし正直言うと前回の再開は屈辱の結果と言える。
と言うわけで今回は本気を出して開発中ということだ。
他の参加者2名もさぞ気合を入れているのだろうか…
俺だけが張り切っていたなんていうことがないといいのだが。
バレンタインもあと1週間に迫る二月七日。翌日からお店に並ぶデザートの発表会が行われた。
今回は本気を出して参加したので、自分でもかなりの自信がある。
丸いスポンジケーキ2枚でホイップクリームを挟み、その上からチョコレートソースを満遍なくかけて冷やす。
冷めたチョコレートがスポンジケーキを覆う形になったところで、上にホイップクリームを数箇所絞る。
アーモンドスライスを散らし、最後に板チョコの一欠片を乗せる。
名付けて、『クリーミーチョコレートケーキ』だ。
あえてチョコソースを冷やし、固形の薄いチョコの膜を作ることにより、フォークで半分に割ると、チョコレートと白いスポンジケーキのコントラストが綺麗に見える。
「うわあ中野くん…前回とは大違いだね…」
「もちろん。今年は気持ち入れ替えてきたので。」
「じゃあ鈴音さんも。」
「はいはーい」
といい、鈴音は箱の中から三角型をしたショートケーキを出した。
「ただのいちごショートケーキじゃんか。」
誰もがそう思った。しかしその瞬間、小さなコップを箱の中から取り出し、蓋を外すと、中身をケーキにたっぷりとかけた。
茶色のソースは湯気をたてており、甘い匂いを周囲に撒き散らかしていた。
「ホットココアショートケーキです。」
小さなコップの中身を全部かけると、チョコまみれになったケーキの上にハート型の板チョコを乗せる。
これは驚きだ。アイデアが半端ない…。周りからは歓声が起こる。
「すごいねこれ…、、SNSでバズるんじゃない?」
「いやあ~、なんかアイデア浮かばなくて…普通にショートケーキ作って食べようとしたらそこにあったかいソースがあったので…。もちろん味も抜群ですよ!」
俺が客ならこっちの方を注文していただろう。しかもこれは既存のショートケーキに溶かしたチョコをかけるだけ。コストも低い…
これは負けたか…
「じゃあ最後にりょうやくん」
「は、はい…」
といい、りょうやが取り出したのは、四角いスポンジケーキの上に、板チョコを数枚、そしてホイップクリームがかかった簡単なものだった。
りょうやの作品というだけあってかなり期待していたが、思わず拍子抜けしてしまった。
「えっと…チョコケーキです…。」
「…」
空気が一変したような感覚がする。りょうやよ、どうしたんだ。
「その…アイデアが…思い浮かばなくって…あはは」
愛想笑いを浮かべると、周りもそれに合わせて少しだけ空気が軽くなる。
まありょうやもそういうことがあるだろう。期待のしすぎも本人には悪い。
というわけで、りょうやの作品だけ辞退ということになり、俺のケーキと鈴音のケーキが、優勝をかけて争うことになった。
期間はバレンタイン当日までの1週間。より多く票が集まった方の勝利だ。
期間中はセットの販売も開始。600円で二つのケーキが同時に味わえる。
もちろん投票してもらうためのセットだ。
果たして優勝はどちらになるのか。非常に見ものだ。
続く
二月に入ったカフェくすのきには暗雲が立ち込めていた。
俺はまたもや一人で万策の限りを尽くし、キッチンにて試行錯誤していた。
「もうチョコレート食いたくねえぇ…」
ことの発端は一月の下旬。店長がまたもや怪しいことを言い出したからである。
「第一回!バレンタインデザートコンテストを開催しま~~~す!!!」
「ええええ!?」
一同驚愕。クリスマスにもやったじゃないか店長よ。
「チッチッチ。君たちわかってないねぇ…。今回のデザートコンテストは一味違うぞ~!」
「何が違うんですか」
「中野くん…君は前回最下位だったよね?」
「それが何か」
「そんな君でも~、デザートをお客様に食べてもらえるチャンスがある!と言うわけで、今回はお客様にジャッジを乞う予定です。」
なんとこれは驚きだ。
あの店長がしっかりしたルールを定めている。
普段は従業員の投票、もしくは店長の独断で決めていたデザートコンテストだが、
今回はなんと実際に来客に食べてもらい、投票式で決めるという。
一位をゲットしたデザートはというと、
「レギュラーメニューに昇格です」
なんとも大胆な決断…。バレンタインをテーマにしたものだよな???
と言うわけである。
俺自身デジャヴしか感じなかった今回のコンテスト、しかし正直言うと前回の再開は屈辱の結果と言える。
と言うわけで今回は本気を出して開発中ということだ。
他の参加者2名もさぞ気合を入れているのだろうか…
俺だけが張り切っていたなんていうことがないといいのだが。
バレンタインもあと1週間に迫る二月七日。翌日からお店に並ぶデザートの発表会が行われた。
今回は本気を出して参加したので、自分でもかなりの自信がある。
丸いスポンジケーキ2枚でホイップクリームを挟み、その上からチョコレートソースを満遍なくかけて冷やす。
冷めたチョコレートがスポンジケーキを覆う形になったところで、上にホイップクリームを数箇所絞る。
アーモンドスライスを散らし、最後に板チョコの一欠片を乗せる。
名付けて、『クリーミーチョコレートケーキ』だ。
あえてチョコソースを冷やし、固形の薄いチョコの膜を作ることにより、フォークで半分に割ると、チョコレートと白いスポンジケーキのコントラストが綺麗に見える。
「うわあ中野くん…前回とは大違いだね…」
「もちろん。今年は気持ち入れ替えてきたので。」
「じゃあ鈴音さんも。」
「はいはーい」
といい、鈴音は箱の中から三角型をしたショートケーキを出した。
「ただのいちごショートケーキじゃんか。」
誰もがそう思った。しかしその瞬間、小さなコップを箱の中から取り出し、蓋を外すと、中身をケーキにたっぷりとかけた。
茶色のソースは湯気をたてており、甘い匂いを周囲に撒き散らかしていた。
「ホットココアショートケーキです。」
小さなコップの中身を全部かけると、チョコまみれになったケーキの上にハート型の板チョコを乗せる。
これは驚きだ。アイデアが半端ない…。周りからは歓声が起こる。
「すごいねこれ…、、SNSでバズるんじゃない?」
「いやあ~、なんかアイデア浮かばなくて…普通にショートケーキ作って食べようとしたらそこにあったかいソースがあったので…。もちろん味も抜群ですよ!」
俺が客ならこっちの方を注文していただろう。しかもこれは既存のショートケーキに溶かしたチョコをかけるだけ。コストも低い…
これは負けたか…
「じゃあ最後にりょうやくん」
「は、はい…」
といい、りょうやが取り出したのは、四角いスポンジケーキの上に、板チョコを数枚、そしてホイップクリームがかかった簡単なものだった。
りょうやの作品というだけあってかなり期待していたが、思わず拍子抜けしてしまった。
「えっと…チョコケーキです…。」
「…」
空気が一変したような感覚がする。りょうやよ、どうしたんだ。
「その…アイデアが…思い浮かばなくって…あはは」
愛想笑いを浮かべると、周りもそれに合わせて少しだけ空気が軽くなる。
まありょうやもそういうことがあるだろう。期待のしすぎも本人には悪い。
というわけで、りょうやの作品だけ辞退ということになり、俺のケーキと鈴音のケーキが、優勝をかけて争うことになった。
期間はバレンタイン当日までの1週間。より多く票が集まった方の勝利だ。
期間中はセットの販売も開始。600円で二つのケーキが同時に味わえる。
もちろん投票してもらうためのセットだ。
果たして優勝はどちらになるのか。非常に見ものだ。
続く
15
あなたにおすすめの小説
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる