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第一章 開戦
第1話 王子レオ
王子の成人を祝う華やかな騎馬の隊列は歓声の中を進む。
先頭には、親衛騎団長。シルヴヴァイン王国中央軍は神聖カリタス帝国軍の侵攻を受け、王都を離れている。前線は崩壊しつつあった。だが、王都はまだ平和を享受していた。
これは王都の防衛に残る親衛騎団と近衛兵団による、戦意高揚のパレードだった。
親衛騎団長に続いて、異国の黒い鎧を纏った親衛騎団の二騎が進む。王子、レオが自ら発掘し、親衛騎団に抜擢した戦士だ。
その後ろにレオ。その左右には、近衛兵団の団長アカリと副団長リゼが並び、そのさらに後方に、華やかな近衛兵たちが従っていた。
リゼは王子、レオを見た。大観衆のど真ん中で、彼は本当になんの気負いもなく、ただ自然に手を振っている。リゼの視線に気をとめず、レオは振り返ってアカリと会話を交わした。ごく当たり前に、旧知の間柄のように。
ふと、リゼの心に疑問が浮かんだ。二人は、そういう間柄なのだろうか?無粋な詮索をするつもりはなかった。でも、嫌でもそれを連想させるほど、二人の雰囲気は気安かった。
何も不思議なことはない。近衛兵団は側室候補の集まりで、アカリは実力と美貌を兼ね備えた団長なのだ。寧ろ、彼女が寵愛を受けるのは当然と言えた。でも、あの若く美しい王子と、敬愛する団長がそういう関係だと想像したら、リゼは何故か恥ずかしくてたまらなかった。
ふいに、リゼは想像した。もしもレオに求められたら、私はそういう行為に至るのだろうか?決まっている。それは近衛兵の責務なのだ。リゼは首を振って恥ずかしい妄想を振り払った。色気のない私に声がかかるはずがない。飾り気のない知性の騎士はまだ、己の魅力を認識してはいなかった。
赤面するリゼの耳に二人の会話が聞こえてきて、そこでリゼの思考は断ち切られた。
「今日はソラはいないのか?」リゼは思わず息を呑んだ。なぜ王子が、ソラの名を?剣技を買われて近衛兵に抜擢されたソラは、夜伽の相手としては最も遠い存在と思われた。それを、ソラが望んでいない事も知っている。何よりも、入団してまだ数日しか経っていない。彼女が王子の目に触れる機会があったとは思えなかった。
アカリは涼しい顔で答えた。「確かに、あの子は私より強いですが、まだ見習いです。あの子は、あなたの剣となる騎士。今お手つきにされては困ります。」
「馬鹿なことを。そういうお前こそ、ラウリとはうまくいっているのか?」レオの、アカリへの反撃を聞いて、リゼは先程までの妄想を忘れて硬直した。近衛兵団は、王子の後宮の役割を兼ねている。彼女たちには、貞操義務が課せられているのだ。他の男との交際など、発覚すれば即死罪だ。リゼは血の気の引いた顔でアカリを見た。
「勘弁してください。そのようなこと、この場で言われては。私も彼も、首が飛びます」アカリは慌てて答えた。
「彼も」?アカリの言葉の意味を飲み込んだ瞬間、リゼは息を呑んだ。堂々と交際を認めた団長を横目に、リゼは呆然と二人のやり取りを見つめる。
「首が飛ぶ?まだそんなことを。」レオの表情が厳しくなる。「そんな事はさせない。そんな奸臣がいるのか?」いいえと、アカリが首を振ると、レオは笑顔を見せた。「どうだ、ラウリは。いい男だろう?」自慢するようにレオは胸を張った。アカリは頬を赤らめ、「はい」とだけ答えた。リゼも何故か赤面した。
リゼは改めて思う。本当にこの方は、王の器なのだ。
国の存続にも王権にもさほど興味のなかった知性の騎士に、この危うくも気高い主への確かな忠誠が芽生えた。
先頭には、親衛騎団長。シルヴヴァイン王国中央軍は神聖カリタス帝国軍の侵攻を受け、王都を離れている。前線は崩壊しつつあった。だが、王都はまだ平和を享受していた。
これは王都の防衛に残る親衛騎団と近衛兵団による、戦意高揚のパレードだった。
親衛騎団長に続いて、異国の黒い鎧を纏った親衛騎団の二騎が進む。王子、レオが自ら発掘し、親衛騎団に抜擢した戦士だ。
その後ろにレオ。その左右には、近衛兵団の団長アカリと副団長リゼが並び、そのさらに後方に、華やかな近衛兵たちが従っていた。
リゼは王子、レオを見た。大観衆のど真ん中で、彼は本当になんの気負いもなく、ただ自然に手を振っている。リゼの視線に気をとめず、レオは振り返ってアカリと会話を交わした。ごく当たり前に、旧知の間柄のように。
ふと、リゼの心に疑問が浮かんだ。二人は、そういう間柄なのだろうか?無粋な詮索をするつもりはなかった。でも、嫌でもそれを連想させるほど、二人の雰囲気は気安かった。
何も不思議なことはない。近衛兵団は側室候補の集まりで、アカリは実力と美貌を兼ね備えた団長なのだ。寧ろ、彼女が寵愛を受けるのは当然と言えた。でも、あの若く美しい王子と、敬愛する団長がそういう関係だと想像したら、リゼは何故か恥ずかしくてたまらなかった。
ふいに、リゼは想像した。もしもレオに求められたら、私はそういう行為に至るのだろうか?決まっている。それは近衛兵の責務なのだ。リゼは首を振って恥ずかしい妄想を振り払った。色気のない私に声がかかるはずがない。飾り気のない知性の騎士はまだ、己の魅力を認識してはいなかった。
赤面するリゼの耳に二人の会話が聞こえてきて、そこでリゼの思考は断ち切られた。
「今日はソラはいないのか?」リゼは思わず息を呑んだ。なぜ王子が、ソラの名を?剣技を買われて近衛兵に抜擢されたソラは、夜伽の相手としては最も遠い存在と思われた。それを、ソラが望んでいない事も知っている。何よりも、入団してまだ数日しか経っていない。彼女が王子の目に触れる機会があったとは思えなかった。
アカリは涼しい顔で答えた。「確かに、あの子は私より強いですが、まだ見習いです。あの子は、あなたの剣となる騎士。今お手つきにされては困ります。」
「馬鹿なことを。そういうお前こそ、ラウリとはうまくいっているのか?」レオの、アカリへの反撃を聞いて、リゼは先程までの妄想を忘れて硬直した。近衛兵団は、王子の後宮の役割を兼ねている。彼女たちには、貞操義務が課せられているのだ。他の男との交際など、発覚すれば即死罪だ。リゼは血の気の引いた顔でアカリを見た。
「勘弁してください。そのようなこと、この場で言われては。私も彼も、首が飛びます」アカリは慌てて答えた。
「彼も」?アカリの言葉の意味を飲み込んだ瞬間、リゼは息を呑んだ。堂々と交際を認めた団長を横目に、リゼは呆然と二人のやり取りを見つめる。
「首が飛ぶ?まだそんなことを。」レオの表情が厳しくなる。「そんな事はさせない。そんな奸臣がいるのか?」いいえと、アカリが首を振ると、レオは笑顔を見せた。「どうだ、ラウリは。いい男だろう?」自慢するようにレオは胸を張った。アカリは頬を赤らめ、「はい」とだけ答えた。リゼも何故か赤面した。
リゼは改めて思う。本当にこの方は、王の器なのだ。
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