NTR興国紀

たかした

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第一章 開戦

第3話 防衛戦

     二人乗りになり機動力の落ちた騎馬に、重装の騎士が迫った。帝国軍王都侵攻部隊司令官。

     凶暴で、巨大な軍馬を片手で御し、みるみる追い迫った騎士は、長いバスタードソードをレオの首に振り下ろした。当たる。刹那、ソラは咄嗟にその右腕に飛び移った。その勢いで僅かに軌道を変えた剣は、紙一重でレオの髪を掠めて空を斬った。
     騎士はソラを振り落とそうと剣を振った。飛び移った勢いで一瞬早く騎士の背後、馬上に降りたソラは、流れるように鎧の隙間、第二頸椎と第三頸椎の間に短剣を差し込んだ。

     四肢の力を失った騎士は、僅かな力で落下していった。

     馬を得たソラだったが、こんな巨大な軍馬に乗ったことは無い。ソラの腕力で、御せるとは思えなかった。
     だが、初めて乗る巨馬の背は、その重量と馬力に担保され、驚く程安定していた。ソラは手綱を手離すと、両手に剣を構えた。
    主を殺された気性の荒い漆黒の軍馬はしかし、その背に若い女を乗せて上機嫌だった。しかも、この新しい主は、あの絶対的な腕力で己を従わせた元の主を、あっさりと斬り落とした。背が軽い。羽が生えたようだ。
     彼が駆ける度、ソラの剣が閃き鮮血が舞った。殺戮に酔った軍馬は、その巨大なペニスを屹立させたまま戦場を駆けた。このあまりにも不釣合いな人馬は、一体となって敵兵を狩った。

    ソラは不思議な感覚を味わっていた。レオとは距離が離れている。でも二人は一定の距離を保ったまま庇いあい、助け合って戦場を誘導していた。レオと、一つの生き物になった気がした。
    やがて遂に、親衛騎団の横列陣が、彼らまで達した。二人は陣の後ろに引き、戦場を離れた。

    若い兵士は、ただ立ち尽くした。気付けば、王子が彼の前にいた。「無事か? 遅くなって済まなかった。」落ち着いた声だった。彼の周囲では、食料が配られ、負傷兵には治療が施されていた。かつて母親から教えられた王国への忠誠は、とうに失せていた。だが今、彼等の心には王子への畏怖と共に新たな忠誠が芽生えた。

    二万に及ぶ侵攻軍は崩壊した。
    敗走路にはすでに黒衣の伏兵が置かれていた。逃げ道を断たれた敵兵たちは、国に帰ることすらできずに散った。大勢は決し、戦況は掃討戦に移行した。レオは、ソラを伴って彼の為に用意された天幕に移った。


    天幕の中で、レオが乱暴に鎧を脱ぎ捨てる。裸の上半身が汗に濡れて光っている。羊毛で織られた薄い腰布から、汗が滴り落ちた。
     次にレオはソラの鎧を外すのを手伝った。薄い、羊毛で織られた袖のない下着が、汗を吸って肌に貼り付き、短い裾だけが下半身を隠していた。激しい戦いを終えた二人の体から、微かにアンモニア臭が香った。
「あはは!勝った!勝ったよ!」
レオのテンションのおかしさが、二人の駆けた戦場の過酷さを物語っていた。
     この戦場において、突貫が極めて有効なのは分かりきっていた。だが、突貫した者は大概死ぬのだ。

     ソラも同じだった。「はい!」戦場の高揚のまま、ソラはレオに抱きつき、抱きしめた。レオの髪に掌を埋め、その顔を己の唇に引き寄せる。出発前に拘った近衛兵の、側室候補としての務めなど、完全に頭から消えていた。ただ二人は衝動のまま抱き合い、熱いくちづけを交わした。
     戦闘に火照った体が触れ合い、その熱を感じ合う。生きている。そのままベッドに倒れ込んだ二人は、お互いの体温に安心し、抱き合ったまま疲れきった体を眠りに沈めた。

     朝まで泥のように眠った二人が目を覚ました時には、掃討は完了していた。帝国軍二万は壊滅。降伏することが出来た三千人程の兵士が、捕虜として集められていた。だが王国には、彼らを王都まで連行する余力も、放逐して敵兵を増やす余裕もない。現実的には、殺すしかないのだ。

     再び輝く鎧を纏ったレオは、もう一度ソラにくちづけをすると、彼らの前に立った。
「よく来てくれた勇者たちよ!正義の為に帝国に立ち向かおうとする諸君の心と、決断を歓迎する。特例だが君達を即時守備軍に編入する。一年間の試用期間の後、君たちは正規の王国軍兵士となる。すぐに氏名と給与の受け取り先を登録してくれ。共に帝国の侵略に立ち向かおう!以上だ!」
     無茶苦茶だ。捕虜ではなく、志願兵として処理しようと言うのだ。そうすれば、殺す必要が無くなる。だが、王国軍は壊滅状態。この数が裏切れば、防衛線は完全に崩壊する。常人ならば有り得ない選択だった。

     しかし、帝国に仕え、搾取される彼らには逆らえる筈はなくとも不満はあるのだ。
     彼等は今日、レオの戦を見た。戦いに敗れ、帝国に帰れば死が待つだけの彼等が、勝ち馬に乗れるという。「おおおォォォォォォ!!」と、捕虜達の間から歓声が上がった。彼等は地面を踏み鳴らし、王子を称えた。
     壊滅寸前だった王国中央軍は、士気に溢れる三千人の兵士を手に入れた。

     それは降伏兵を殺すことを躊躇ったレオの、暴挙とも言える紙一重の博打だった。しかしレオは、この博打に勝った。帝都からは、既に援軍が放たれていた。彼ら三千の志願兵がいなければ、前線は抜かれ、王国の命運は尽きていたのだ。この決断は、戦の勝敗を左右する重大な転機となる。

     侵攻部隊の壊滅を知らない帝国の援軍は、為す術なく王国軍に殲滅された。そして、あっさりと援軍を殲滅した志願兵達は勝利への確信を深めた。
     レオの予言通り王都から二万の大軍が到着し、彼らが正規兵として迎え入れられた時、彼らはレオへの忠誠を確かなものとした。

     数日をかけて、疲弊した兵士の治療と志願兵への教育、そして中央軍の再編が進められた。王都防衛の準備が整うまで、彼らに持ち堪えてもらわなければならない。
     帝国の援軍は何度か姿を見せたが、いずれも撃退された。さらに千人の志願兵が加わった中央軍は、散り散りになっていた敗残兵とも合流し、兵力は六千にまで回復した。

     帝国の援軍は、やがて姿を見せなくなった。次に現れるのは、帝国軍本隊だ。レオは親衛騎団の一部を前線に残し、次なる戦いに備えて王都へと帰還した。
     市民たちの大歓声が、凱旋した親衛騎団を迎えた。
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