NTR興国紀

たかした

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第一章 開戦

第5話 宰相と将軍

     学者ソウジュは演習場で剣技を磨く弟子を目を細めて眺めた。
     シルヴヴァイン王国第二王子ティガ。後継者争いに巻き込まれ、その身を守るため継承権を捨て、野に逃れて隠れ、彼の元に身を寄せた隠者。だがその文武の才は圧倒的だった。
     彼は複雑な思いを持って匿い育てた教え子を見た。
     かつて帝国の参謀職にあった彼は、侵略による拡張政策に舵を切った帝国の異変を察知し、王国領に逃れた。それが王国からも追われる身となるとは。

    とはいえ、王国の命運はもはや尽きている。
     中央軍は壊滅。地方軍もほぼ全てが帝国に寝返った。王子は王都防衛を担う親衛騎団を動員し、王都を空にして援軍に向かったという。
     典型的な亡国の末期だ。もはや敗戦を待つまでもない。北方に広がる森林地帯には跨鬼衆とエタ衆が潜む。彼等はここ五年ほどで武装化を進め急速に勢力を伸ばし、今や王国との戦力は逆転している。いつ彼らが空の王都を占拠しても不思議は無い。
     彼らが王都に入った瞬間、王国は滅ぶのだ。

    だが、誰が王国を滅ぼすとしても。この才気に溢れる若者だけは守らねば。


     思いを巡らす彼の元に、防衛戦勝利の報が届いた。
     侵攻軍二万は壊滅、王子の率いる親衛騎団三千騎はほぼ無傷で凱旋したという。ありえなかった。彼の試算ではどんなに優れた指揮官が率いても、勝利には三倍の兵が必要なはずだった。それを、無傷で壊滅させた?
     とにかく、情報が必要だった。ソウジュはティガを伴い彼等の暮らす小屋に向かった。

     急ぎ戻った小屋の中には、信じられない人物がいた。
     ソウジュの顔は蒼白となり、ティガの顔は歓びに輝いた。

     第一王子レオが、木椅子に座って待っていた。
「失礼。留守のようだったので待たせてもらった。」
     硬直するソウジュにレオは静かに話しかけた。
「兄さん!」
ソウジュが止める間もなくティガはレオに駆け寄った。
     レオは子犬をじゃらすように弟の頭を撫でながら言った。
「久しぶりだな。すまん。あまり時間が無い。今日は頼みがあって来た。」
そして王子はソウジュに宰相への就任を依頼したのだった。

    「兵站と傭兵の手配。それだけを頼みたい。金はある。だが任せられる者がいない。頼む。」
     ソウジュはますます困惑した。王国には絶対の忠誠を誇る宰相がいたはずだ。「宰相殿は?」
    「斬った。」あまりにあっさりとした答えだった。
    「何故?」忠義で知られた宰相を。
    「有害だからだ。」続く質問にもレオはあっさりと答えた。
    「奴は僕の大切な人間を三人も殺そうとした。反逆罪は妥当なところだ。」
     一人目は、兄を差し置いて第一継承者に推されようとしていた才気溢れる弟を。
     そして今、恋仲になった近衛兵と騎士の二人を。王子への忠義の名のもとに。
    「ああ」ソウジュは小さく呟いた。様々な事が腑に落ちた。レオは弟を排除したのではない。庇って逃がしたのだ。


    もはや、彼の思考は宰相の命運から離れていた。

     王子は傭兵の手配と言った。金はある、と。忠誠厚い騎士に守られた王族の発想では無い。だが、優秀な傭兵を手配できたなら、確かに戦況は覆る。
     ただし、それは王国軍を遥かに上回る数の傭兵を雇うということ。王都の忠臣たちには到底できない。もし彼らが裏切れば、防衛戦を戦うまでもなく、雇った傭兵に蹂躙され王国は滅ぶ。大前提として、職業戦士としての信用と誇りを持つ傭兵団の情報と、その者達に依頼する”つて”を持つ者でなければならない。

    それで私か。
    それしかないだろうが、よくも綱渡りをするものだ。
     隠遁する学者の胸に、久しく眠っていた思いが芽生えた。だが無理だ。帝国の侵攻軍を返り討ちにすることはできるかもしれない。だが、それで戦いが終わることはない。待っているのは、ローム平原全域を巻き込んだ泥沼の騒乱だ。いずれにせよ、王国は滅ぶ。

 その時。「兄さん!僕も戦うよ!手伝いたいんだ!」ティガが申し出た。
     彼は理解していた。戦況の不利を。そして、自らの参戦が、どれほど兄の助けになるのかを。
「すまない。戦いは、ローム平原を平らげなければ終わらない。絶対に信頼できる将軍が要る。頼む。お前がいてくれれば、本当に助かる。」

     レオの言葉に、「ああ」ソウジュはもう一度呟いた。彼は悟った。仕えるべき王が現れたのだと。
     ここにレオは、絶対の信頼をおく、宰相と将軍を手に入れたのだった。
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