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第一章 生きる意味
命の冒涜者
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『よくもまあ、そこまで自分を殺せるよな』
それは俺がよく人に言われていた言葉だ。
勿論これは身体機能の停止ではな……くも無くはないのだが、そうではなく。
『ガルーダ』という俺を『スクリッド王国天翼の騎士団団長』という一つの駒として捉え、心身共に道具として利用し続けていた。
正直やり方がヤバすぎて、聖職者からは特に「生命の神秘を冒涜すること甚だしい」と憤慨されてもいたのだが、魔族の戦争に勝つためなのだから仕方が無いと割り切ってしまい、そういった罵詈雑言を浴びる事を良しとせざるを得ない事をし続けていた。
不眠不休で魔法で誤魔化して体を動かす事然り、寝袋も使わない空の下で浅い眠りのみで過ごしていたこと然り、飯は腹に掻き込み味を気にしないこと然り、とにかく人と言うか生物として有り得ない事をし続けていた俺は、自分ではなく人類の幸せを己の幸せと思い込んで戦いに明け暮れていたものだ。
そんな自分ですら『異常』としか思えない戦い方から付いた俺の二つ名の一つに『命の冒涜者』と言うものがある。
だがまあこれが必要であったことは確かなので、一切の後悔は無いのだが。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「そうだ、全身に魔力を循環させるように……ほら足んとこが淀んでるぞ」
「こうでしょうか?」
「そうそうって今度は頭で淀んでる。まあこればっかしは慣れ次第だな」
今俺はハリスとメリスと共に森へ向かいながら、メリスに身体強化の魔法を教えている。
メリスには後方から魔法による遠距離攻撃と支援が主であるが、近寄られた際に逃げるなり戦うなりにしてもこれくらいは出来ないと危ういためだ。
どうも彼女は足腰を強くすることはあれど全身を強くすることはこれまでしたことが無かったようで上手く制御しきれておらず、ハリスはほぼ感覚のみで使っているため教えるのが大変下手であったので俺が教えていた。
「ハリスの方はまあ上手く行きそうか」
「ええ。これでも昔は魔物狩りをよくしていたので」
そしてハリスはハリスで身にまとうようにして魔法を使うのを、自らを起点にして全方位に魔法をぶっ放す、正面に向かって放出する練習をしていた。
元々出来ない訳では無いらしいのだが殆どしてこなかったせいで苦手であり、数多い魔物を相手にするのだから少しだけでも慣れてもらわなければ多くを取り逃がす事になりかねない。
もし万が一訓練された魔物を取り逃せば大惨事を引き起こし兼ねず、自警団には「もしも魔物が来たら人を相手にすると考えて動け」と言ってあるが、死者を出さずに抑えられるのは恐らくゴブリン十匹程度なもので、どう足掻いても五十が限界、オークかオーガなら一匹で死者が出るだろう。
「あ、そういや残り数えるの忘れてたな」
俺はそう呟いて目の前に闇の珠を浮かべて中に腕を突っ込む。
そうして中にある錠剤を弄り残りの数を感覚で把握する。
「ニ……三百ってとこか。確か元が万だから九千七百程ってとこか」
「何を数えてるんですか?」
「このあと使う魔法薬の一つだが、見るか?」
「はい」
メリスが興味津々といった様子なので俺は一錠だけ取り出して見せてやる。
「不思議な、不思議な色合いのお薬ですね」
俺が取り出した錠剤は半透明で、白や赤など他の色が幾らか混ざっていた。
「まあ人間っつうか生き物は大抵水で体が出来てるってぐらい水が多いからな」
「どういうことですか?」
「これは人間と全く同じ成分で出来ていてな、これ一錠で手首から先一個分を質量を小さくする魔法で固めた……まあポーションとかと同じ魔法薬の一種だと思えばいい」
「それはどう使うものなのですか?」
「これは体の一部を失った時に胃に入れてだな、胃の中で砕いて元の質量に戻してから身体強化の応用で体に吸収、それと同時に再生魔法をすることで体を即時回復させるもんだ」
これは俺の切り札の一つで、これが無ければ決して魔族に勝てなかっただろう。
正直俺以外にこれを扱える者は居なかった、というか取り扱いを間違えば直に死に至るような物でもあり、扱える訓練をする者が居なかったと言うのが正しい。
まあこんな物に頼らざるを得なかったから、使う事を非難する者は現場をろくに知らぬ者、もしくは己の利のみを追求する愚か者しか居なかったが。
「それは、どうしてそう出来るのですか?」
メリスが仕組みを問う。
「それはだな、あー……食った物が体でどうなるかってのと、回復魔法への理解度はどんなもんだ?」
「食べた物は時間をかけて、その、排泄物はと変わり、回復魔法の一つは傷の治りを早くするもので、一つは魔力を体に変換して補う物です」
「回復魔法のそれぞれの良い点と悪い点は?」
「回復力を高める物は誰にでも比較的簡単に使えますが、患者の生命力を使うため患者の様子をよく確認する必要があります。魔力を変換する場合は高い魔力操作力と、身体に対する一定以上の理解が必要なので誰にもは使えませんが、その代わり患者の体力を気にする必要がありません」
「ま、なんとか合格点ってところか。一つ付け加えるとすれば、前者は体の働きを活発にする事から血が吹き出すような切り傷であれば、下手な魔法で更に酷い出血を起こす事になりかねないから大怪我は後者と同じくそれなりの知識と技術が必要と言うことだな」
魔法覚えたてのやつが致命傷一歩手前のやつを治そうとして殺してしまうなんてのは枚挙に暇がない程にありふれた話だ。
「そんでだ、食べたもんは胃で消化して小腸で栄養を吸収、最後には便として排出されるのが主な流れだな。んでここからが大事だが、小腸で吸収されたもんは血管を流れる赤い血に乗って体中に運び、手首とかでよく見える青い血液は体の要らんもんを持ってるだよな。その吸収して血で全身に運ぶ働きを早めて患部に薬の材料を運ばせて、生命力を極力消費する事なく体を再生させるのがこの薬の働きだな」
とまあとてつもなく簡単に話してはみたものの、あまり理解出来ていないのかメリスが首を傾げる。
本当はこれに神経だホルモンだ分泌部がどうのこうのと更に細かい理論がチマチマチマチマチマチマチマチマ続くんだが、これの扱い方をマスターするには俺は魔法式の構築から一年半掛かったが、それを教えた上で最低でも半年は掛かるから今から覚えるには到底時間が足りやしない。
「ま、もし興味があるんなら今日を生き延びてからだ。俺は吹き飛ばす予定の俺の右腕を治すのにコイツを使うってだけだしな」
「はい、では帰りましたら是非ご教授の程、よろしくお願いします」
「おうよ」
まあ本当のこの薬の真価はそんな物ではなく、やり方次第では『人造人間』の即時製造が可能であり、また俺の戦闘の記録と敵味方の選別方法と必要魔力さえ与えれば俺を何人にも増やす『生命の冒涜』と言う俺にしか扱えない魔法がある。
だがこれこそ聖職者から最も忌み嫌われ、戦場に立つ味方ですらあまり良い顔をしない物なので、今回最悪の事態に陥れば使うつもりではあるものの、できればこの世界では使わずに済むことを願おう。
それは俺がよく人に言われていた言葉だ。
勿論これは身体機能の停止ではな……くも無くはないのだが、そうではなく。
『ガルーダ』という俺を『スクリッド王国天翼の騎士団団長』という一つの駒として捉え、心身共に道具として利用し続けていた。
正直やり方がヤバすぎて、聖職者からは特に「生命の神秘を冒涜すること甚だしい」と憤慨されてもいたのだが、魔族の戦争に勝つためなのだから仕方が無いと割り切ってしまい、そういった罵詈雑言を浴びる事を良しとせざるを得ない事をし続けていた。
不眠不休で魔法で誤魔化して体を動かす事然り、寝袋も使わない空の下で浅い眠りのみで過ごしていたこと然り、飯は腹に掻き込み味を気にしないこと然り、とにかく人と言うか生物として有り得ない事をし続けていた俺は、自分ではなく人類の幸せを己の幸せと思い込んで戦いに明け暮れていたものだ。
そんな自分ですら『異常』としか思えない戦い方から付いた俺の二つ名の一つに『命の冒涜者』と言うものがある。
だがまあこれが必要であったことは確かなので、一切の後悔は無いのだが。
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「そうだ、全身に魔力を循環させるように……ほら足んとこが淀んでるぞ」
「こうでしょうか?」
「そうそうって今度は頭で淀んでる。まあこればっかしは慣れ次第だな」
今俺はハリスとメリスと共に森へ向かいながら、メリスに身体強化の魔法を教えている。
メリスには後方から魔法による遠距離攻撃と支援が主であるが、近寄られた際に逃げるなり戦うなりにしてもこれくらいは出来ないと危ういためだ。
どうも彼女は足腰を強くすることはあれど全身を強くすることはこれまでしたことが無かったようで上手く制御しきれておらず、ハリスはほぼ感覚のみで使っているため教えるのが大変下手であったので俺が教えていた。
「ハリスの方はまあ上手く行きそうか」
「ええ。これでも昔は魔物狩りをよくしていたので」
そしてハリスはハリスで身にまとうようにして魔法を使うのを、自らを起点にして全方位に魔法をぶっ放す、正面に向かって放出する練習をしていた。
元々出来ない訳では無いらしいのだが殆どしてこなかったせいで苦手であり、数多い魔物を相手にするのだから少しだけでも慣れてもらわなければ多くを取り逃がす事になりかねない。
もし万が一訓練された魔物を取り逃せば大惨事を引き起こし兼ねず、自警団には「もしも魔物が来たら人を相手にすると考えて動け」と言ってあるが、死者を出さずに抑えられるのは恐らくゴブリン十匹程度なもので、どう足掻いても五十が限界、オークかオーガなら一匹で死者が出るだろう。
「あ、そういや残り数えるの忘れてたな」
俺はそう呟いて目の前に闇の珠を浮かべて中に腕を突っ込む。
そうして中にある錠剤を弄り残りの数を感覚で把握する。
「ニ……三百ってとこか。確か元が万だから九千七百程ってとこか」
「何を数えてるんですか?」
「このあと使う魔法薬の一つだが、見るか?」
「はい」
メリスが興味津々といった様子なので俺は一錠だけ取り出して見せてやる。
「不思議な、不思議な色合いのお薬ですね」
俺が取り出した錠剤は半透明で、白や赤など他の色が幾らか混ざっていた。
「まあ人間っつうか生き物は大抵水で体が出来てるってぐらい水が多いからな」
「どういうことですか?」
「これは人間と全く同じ成分で出来ていてな、これ一錠で手首から先一個分を質量を小さくする魔法で固めた……まあポーションとかと同じ魔法薬の一種だと思えばいい」
「それはどう使うものなのですか?」
「これは体の一部を失った時に胃に入れてだな、胃の中で砕いて元の質量に戻してから身体強化の応用で体に吸収、それと同時に再生魔法をすることで体を即時回復させるもんだ」
これは俺の切り札の一つで、これが無ければ決して魔族に勝てなかっただろう。
正直俺以外にこれを扱える者は居なかった、というか取り扱いを間違えば直に死に至るような物でもあり、扱える訓練をする者が居なかったと言うのが正しい。
まあこんな物に頼らざるを得なかったから、使う事を非難する者は現場をろくに知らぬ者、もしくは己の利のみを追求する愚か者しか居なかったが。
「それは、どうしてそう出来るのですか?」
メリスが仕組みを問う。
「それはだな、あー……食った物が体でどうなるかってのと、回復魔法への理解度はどんなもんだ?」
「食べた物は時間をかけて、その、排泄物はと変わり、回復魔法の一つは傷の治りを早くするもので、一つは魔力を体に変換して補う物です」
「回復魔法のそれぞれの良い点と悪い点は?」
「回復力を高める物は誰にでも比較的簡単に使えますが、患者の生命力を使うため患者の様子をよく確認する必要があります。魔力を変換する場合は高い魔力操作力と、身体に対する一定以上の理解が必要なので誰にもは使えませんが、その代わり患者の体力を気にする必要がありません」
「ま、なんとか合格点ってところか。一つ付け加えるとすれば、前者は体の働きを活発にする事から血が吹き出すような切り傷であれば、下手な魔法で更に酷い出血を起こす事になりかねないから大怪我は後者と同じくそれなりの知識と技術が必要と言うことだな」
魔法覚えたてのやつが致命傷一歩手前のやつを治そうとして殺してしまうなんてのは枚挙に暇がない程にありふれた話だ。
「そんでだ、食べたもんは胃で消化して小腸で栄養を吸収、最後には便として排出されるのが主な流れだな。んでここからが大事だが、小腸で吸収されたもんは血管を流れる赤い血に乗って体中に運び、手首とかでよく見える青い血液は体の要らんもんを持ってるだよな。その吸収して血で全身に運ぶ働きを早めて患部に薬の材料を運ばせて、生命力を極力消費する事なく体を再生させるのがこの薬の働きだな」
とまあとてつもなく簡単に話してはみたものの、あまり理解出来ていないのかメリスが首を傾げる。
本当はこれに神経だホルモンだ分泌部がどうのこうのと更に細かい理論がチマチマチマチマチマチマチマチマ続くんだが、これの扱い方をマスターするには俺は魔法式の構築から一年半掛かったが、それを教えた上で最低でも半年は掛かるから今から覚えるには到底時間が足りやしない。
「ま、もし興味があるんなら今日を生き延びてからだ。俺は吹き飛ばす予定の俺の右腕を治すのにコイツを使うってだけだしな」
「はい、では帰りましたら是非ご教授の程、よろしくお願いします」
「おうよ」
まあ本当のこの薬の真価はそんな物ではなく、やり方次第では『人造人間』の即時製造が可能であり、また俺の戦闘の記録と敵味方の選別方法と必要魔力さえ与えれば俺を何人にも増やす『生命の冒涜』と言う俺にしか扱えない魔法がある。
だがこれこそ聖職者から最も忌み嫌われ、戦場に立つ味方ですらあまり良い顔をしない物なので、今回最悪の事態に陥れば使うつもりではあるものの、できればこの世界では使わずに済むことを願おう。
応援ありがとうございます!
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とても面白いです。異世界転生物の中でも僕の中では上位に入る面白さでした^_^
次回の投稿も楽しみにしています
頑張ってください(^o^)/
ご感想ありがとうございます!
少々ダークな所もありますが、楽しんでいただけて大変嬉しいです!
他作品との兼ね合いもあり不定期とはなりますが、話数が10を超えるまでは週に1つは更新予定ですのでこれからもよろしくお願い致します!