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エピローグ

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 あさになって、私は意識いしきがはっきりしないまま、めいはだかエプロンでおかゆはこんでくる姿すがたげんした。いや、まぼろしだったのだろうか? 私があさにおかゆべたのはたしかで、とりあえずめいにはあとで、あらためてはだかエプロンでの調理ちょうりをリクエストしようとおもう。

貴女あなたのおかあさんに、交際こうさい許可きょかもらわないとね……私、ころされないかしら?」

 私はめい交際こうさいもとめられて、いちもなく同意どういした。すっかり私の身体からだかんらくしてしまって、もう私はめいさからえないのではないか。なにもかも支配しはいされそうでこわくて、それとはべつに、姉からいかりをうのではないかという恐怖きょうふもあった。

大丈夫だいじょうぶですよ。心配しんぱいせずに、すべてを正直しょうじきはははなしてください」

 そう言ってめいは、ふたたび私がているベッドへもぐむ。本調子ほんちょうしではない私に、あらゆることを彼女はしてくれて、姉が出張しゅっちょうからかえってきたよるにはなんとか体調たいちょうもともどすことができた。



「それで、はなしって? むすめ部屋へやでしないといけない内容ないようなの? それに私の娘は、なん風邪かぜをひいているのよ」

「いや、最初さいしょに私が風邪かぜをひいてね。めいちゃんが看病かんびょうしてくれて、そのあとめいちゃんが風邪かぜをひいたの。おかげで私は回復かいふくしたんだけど」

「ううぅ……面目めんぼくないですぅ……」

 私たち三人さんにんは、めい部屋へやにいる。めいねつして寝込ねこんでいて、私は看病かんびょうをしながら彼女へのいとおしさがしていくのを実感じっかんしていた。そんな私は、めいからわれたとおり、すべてを正直しょうじきはなす。あねへの恋愛れんあい感情かんじょうめいへの悪戯いたずら、そしてめいとの交際こうさいゆるしてほしいというすべてだ。

「ああ……べつおこらないわよ。悪戯いたずらいてはむすめからいてるし。そもそも私に、おこ資格しかくなんかいもの」

「え? どういう意味いみ?」

「私もむかし貴女あなたおさなころ悪戯いたずらをしたのよ。貴女はおぼえてないみたいだけど」

 姉の言葉ことばに、私が絶句ぜっくする。さらに姉は言葉ことばつづけた。

「私もね、いもうとである貴女のことがきだったの。貴女の好意こういづいていたわ。でも健全けんぜん関係かんけいとはえないじゃない、そういうのって。私がはや結婚けっこんしたのも、貴女からはなれるべきだとおもったのが一因いちいんね」

ねえさん……」

結婚けっこんしたことは後悔こうかいしてないのよ、可愛かわいむすめにもめぐまれたし。だけどおっとくなって、それで両親が私にかりっきりになって。……そして貴女がさびしいおもいをしたことはわるいとおもってるわ。両親がくなってからも、貴女が同性どうせい恋人こいびとつくらないのは、私やむすめはじになるとおもったからかしら?」

「……どうかな。ただカミングアウトの勇気ゆうきがなくて、ねえさんのことをわすれられなかったからかも」

遠慮えんりょがちなのよ、貴女って。それで我慢がまんかさねてて、おまけに睡眠すいみん食事しょくじ不規則ふきそくでしょ? それじゃながきできないわよ。私もおっとはやくにくしたから心配しんぱいで、そしたらむすめが、貴女のことをきだって私にけてきて。悪戯いたずらのことも、そのときいたんだけど。ああ、ちょうどいいかなぁとおもったの。貴女とむすめって、娘が貴女をサポートすれば、生活せいかつ健康的ヘルシーになりそうじゃない?」

 そんなことがうら進行しんこうしてたの? 私は姉と、ベッドでているめいかお交互こうごる。さらさらに、姉は言葉ことばつづけた。

「そこでてるむすめがね。二十才はたちになって、貴女あなたへのこじらせまくった欲情よくじょうおさえきれなくなったんだってさ。それで先月せんげつ、どうやったら貴女と仲良なかよくできるか、私に相談そうだんしてきたのよ。それで私が、適当てきとう理由りゆうけて貴女をこのいえぼうとおもったってわけ。だから私がった、『はるさき気候きこうで、むすめ精神的せいしんてき不安定ふあんてい』っていうのはうそなのよ。貴女に電話でんわしたも、だったでしょ?」

「じゃあなに、エイプリルフール? 全部ぜんぶうそだったの?」

「ええ。本当ほんとうだったのは、私が出張しゅっちょう留守るすにすることくらい。ってる? むすめどもっぽいドレスをてたのは、その格好かっこうなら貴女から悪戯いたずらしてもらえるかもしれないって期待きたいしてたからなのよ。わらっちゃうでしょ?」

わないでよ、おかあさん……」

 姉がわらって、めいちゃんが毛布もうふかおかくす。私としては、どんなかおをしていいのかからない。

むすめ緊張きんちょうしちゃって、貴女が前日ぜんじつからねむれなくて、食事しょくじのどとおらなくてね。これは上手うまかないかなぁとおもってたけど、貴女がねつしてたおれて、やっとむすめせたみたいね。それで、どうする? 私のむすめせい犯罪はんざいうったえる?」

「まさか。そんなこと、しないわよ。第一だいいち自首じしゅするべきなのは私のほうだろうし」

むすめへの悪戯いたずらのこと? 当事者とうじしゃ同士どうし問題もんだいないなら、それでいいんじゃないの。私にはひとさば資格しかくなんかないしね、それよりも未来みらいのことをはなしましょうよ」

 姉は、こんなにドライにひとだったのか。私は姉を理想化りそうかして、実像じつぞうえてなかったのかもしれない。そうおもっていると、私は姉から両手りょうてにぎられた。その姉がう。

両親りょうしんからたら、私は優秀ゆうしゅう人間にんげんだったとおもうわ。おや期待きたいにはこたえてきたし、はや結婚けっこんも、むすめまれてよろこばれた。その両親りょうしんいまない……もう、いいんじゃないかしら。世間せけんにしつづけるのはウンザリよ。私とむすめ貴女あなたで、一緒いっしょらさない?」

「おねえさん……」

 生身なまみから、姉のなかあついものが私に伝播でんぱしてくる。めいがベッドから「おかあさん! 叔母おばさんを私かららないで!」と抗議こうぎしてきて、苦笑くしょうしながらも姉は私のはなさなかった。

「……実家じっかをどうするか、かんがえないとね。これからはないましょう」

 しんじられないくらいしあわせな感覚かんかくつつまれながら、そう私はつぶやいた。運命うんめい悪戯いたずら、とひとう。いまの私は、こうおもう。きっと私たちは、かみさまに悪戯いたずらをされたのだ。そうでなければ、こんなに私たちがしあわせなことへの説明せつめいかない。

 まだはるはじまったばかりで、きっと今年ことしさくらうつくしくみだれる。私たちはからい、たがいのねつって養分ようぶんにしながら、ねやなか夜桜よざくらのようにはなかせつづけるだろう。
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