6 / 6
エピローグ
しおりを挟む
朝になって、私は意識がはっきりしないまま、姪が裸エプロンでお粥を運んでくる姿を幻視した。いや、幻だったのだろうか? 私が朝にお粥を食べたのは確かで、とりあえず姪には後で、改めて裸エプロンでの調理をリクエストしようと思う。
「貴女のお母さんに、交際の許可を貰わないとね……私、殺されないかしら?」
私は姪に交際を求められて、一も二もなく同意した。すっかり私の身体は陥落してしまって、もう私は姪に逆らえないのではないか。何もかも支配されそうで怖くて、それとは別に、姉から怒りを買うのではないかという恐怖もあった。
「大丈夫ですよ。心配せずに、全てを正直に母へ話してください」
そう言って姪は、再び私が寝ているベッドへ潜り込む。本調子ではない私に、あらゆることを彼女はしてくれて、姉が出張から帰ってきた夜には何とか体調も元に戻すことができた。
「それで、話って? 娘の部屋でしないといけない内容なの? それに私の娘は、何で風邪をひいているのよ」
「いや、最初に私が風邪をひいてね。姪ちゃんが看病してくれて、その後で姪ちゃんが風邪をひいたの。おかげで私は回復したんだけど」
「ううぅ……面目ないですぅ……」
私たち三人は、姪の部屋にいる。姪は熱を出して寝込んでいて、私は看病をしながら彼女への愛おしさが増していくのを実感していた。そんな私は、姪から言われた通り、全てを正直に話す。姉への恋愛感情、姪への悪戯、そして姪との交際を許してほしいという全てだ。
「ああ……別に怒らないわよ。悪戯に付いては娘から聞いてるし。そもそも私に、怒る資格なんか無いもの」
「え? どういう意味?」
「私も昔、貴女が幼い頃に悪戯をしたのよ。貴女は覚えてないみたいだけど」
姉の言葉に、私が絶句する。更に姉は言葉を続けた。
「私もね、妹である貴女のことが好きだったの。貴女の好意も気づいていたわ。でも健全な関係とは言えないじゃない、そういうのって。私が早く結婚したのも、貴女から離れるべきだと思ったのが一因ね」
「姉さん……」
「結婚したことは後悔してないのよ、可愛い娘にも恵まれたし。だけど夫が亡くなって、それで両親が私に掛かりっきりになって。……そして貴女が寂しい想いをしたことは悪いと思ってるわ。両親が亡くなってからも、貴女が同性の恋人を作らないのは、私や娘の恥になると思ったからかしら?」
「……どうかな。ただカミングアウトの勇気がなくて、姉さんのことを忘れられなかったからかも」
「遠慮がちなのよ、貴女って。それで我慢を重ねてて、おまけに睡眠や食事が不規則でしょ? それじゃ長生きできないわよ。私も夫を早くに亡くしたから心配で、そしたら娘が、貴女のことを好きだって私に打ち明けてきて。悪戯のことも、その時に聞いたんだけど。ああ、ちょうどいいかなぁと思ったの。貴女と娘が付き合って、娘が貴女をサポートすれば、生活も健康的になりそうじゃない?」
そんなことが裏で進行してたの? 私は姉と、ベッドで寝ている姪の顔を交互に見る。更に更に、姉は言葉を続けた。
「そこで寝てる娘がね。二十才になって、貴女への拗らせまくった欲情を抑えきれなくなったんだってさ。それで先月、どうやったら貴女と仲良くできるか、私に相談してきたのよ。それで私が、適当な理由を付けて貴女をこの家に呼ぼうと思ったって訳。だから私が言った、『春先の気候で、娘が精神的に不安定』っていうのは嘘なのよ。貴女に電話した日も、四月一日だったでしょ?」
「じゃあ何、エイプリルフール? 全部、嘘だったの?」
「ええ。本当だったのは、私が出張で留守にすることくらい。知ってる? 娘が子どもっぽいドレスを着てたのは、その格好なら貴女から悪戯してもらえるかもしれないって期待してたからなのよ。笑っちゃうでしょ?」
「言わないでよ、お母さん……」
姉が笑って、姪ちゃんが毛布で顔を隠す。私としては、どんな顔をしていいのか分からない。
「娘は緊張しちゃって、貴女が来る前日から眠れなくて、食事も喉を通らなくてね。これは上手く行かないかなぁと思ってたけど、貴女が熱を出して倒れて、やっと娘も手を出せたみたいね。それで、どうする? 私の娘を性犯罪で訴える?」
「まさか。そんなこと、しないわよ。第一、自首するべきなのは私の方だろうし」
「娘への悪戯のこと? 当事者同士で問題ないなら、それでいいんじゃないの。私には人を裁く資格なんかないしね、それよりも未来のことを話しましょうよ」
姉は、こんなにドライに割り切る人だったのか。私は姉を理想化して、実像が見えてなかったのかもしれない。そう思っていると、私は姉から両手を握られた。その姉が言う。
「両親から見たら、私は優秀な人間だったと思うわ。親の期待には応えてきたし、早い結婚も、娘が生まれて喜ばれた。その両親も今は居ない……もう、いいんじゃないかしら。世間を気にし続けるのはウンザリよ。私と娘と貴女で、一緒に暮らさない?」
「お姉さん……」
生身の手から、姉の中の熱いものが私に伝播してくる。姪がベッドから「お母さん! 叔母さんを私から取らないで!」と抗議してきて、苦笑しながらも姉は私の手を放さなかった。
「……実家をどうするか、考えないとね。これから話し合いましょう」
信じられないくらい幸せな感覚に包まれながら、そう私は呟いた。運命の悪戯、と人は言う。今の私は、こう思う。きっと私たちは、神さまに悪戯をされたのだ。そうでなければ、こんなに私たちが幸せなことへの説明が付かない。
まだ春は始まったばかりで、きっと今年も桜は美しく咲き乱れる。私たちは絡み合い、互いの熱を吸って養分にしながら、閨の中で夜桜のように花を咲かせ続けるだろう。
「貴女のお母さんに、交際の許可を貰わないとね……私、殺されないかしら?」
私は姪に交際を求められて、一も二もなく同意した。すっかり私の身体は陥落してしまって、もう私は姪に逆らえないのではないか。何もかも支配されそうで怖くて、それとは別に、姉から怒りを買うのではないかという恐怖もあった。
「大丈夫ですよ。心配せずに、全てを正直に母へ話してください」
そう言って姪は、再び私が寝ているベッドへ潜り込む。本調子ではない私に、あらゆることを彼女はしてくれて、姉が出張から帰ってきた夜には何とか体調も元に戻すことができた。
「それで、話って? 娘の部屋でしないといけない内容なの? それに私の娘は、何で風邪をひいているのよ」
「いや、最初に私が風邪をひいてね。姪ちゃんが看病してくれて、その後で姪ちゃんが風邪をひいたの。おかげで私は回復したんだけど」
「ううぅ……面目ないですぅ……」
私たち三人は、姪の部屋にいる。姪は熱を出して寝込んでいて、私は看病をしながら彼女への愛おしさが増していくのを実感していた。そんな私は、姪から言われた通り、全てを正直に話す。姉への恋愛感情、姪への悪戯、そして姪との交際を許してほしいという全てだ。
「ああ……別に怒らないわよ。悪戯に付いては娘から聞いてるし。そもそも私に、怒る資格なんか無いもの」
「え? どういう意味?」
「私も昔、貴女が幼い頃に悪戯をしたのよ。貴女は覚えてないみたいだけど」
姉の言葉に、私が絶句する。更に姉は言葉を続けた。
「私もね、妹である貴女のことが好きだったの。貴女の好意も気づいていたわ。でも健全な関係とは言えないじゃない、そういうのって。私が早く結婚したのも、貴女から離れるべきだと思ったのが一因ね」
「姉さん……」
「結婚したことは後悔してないのよ、可愛い娘にも恵まれたし。だけど夫が亡くなって、それで両親が私に掛かりっきりになって。……そして貴女が寂しい想いをしたことは悪いと思ってるわ。両親が亡くなってからも、貴女が同性の恋人を作らないのは、私や娘の恥になると思ったからかしら?」
「……どうかな。ただカミングアウトの勇気がなくて、姉さんのことを忘れられなかったからかも」
「遠慮がちなのよ、貴女って。それで我慢を重ねてて、おまけに睡眠や食事が不規則でしょ? それじゃ長生きできないわよ。私も夫を早くに亡くしたから心配で、そしたら娘が、貴女のことを好きだって私に打ち明けてきて。悪戯のことも、その時に聞いたんだけど。ああ、ちょうどいいかなぁと思ったの。貴女と娘が付き合って、娘が貴女をサポートすれば、生活も健康的になりそうじゃない?」
そんなことが裏で進行してたの? 私は姉と、ベッドで寝ている姪の顔を交互に見る。更に更に、姉は言葉を続けた。
「そこで寝てる娘がね。二十才になって、貴女への拗らせまくった欲情を抑えきれなくなったんだってさ。それで先月、どうやったら貴女と仲良くできるか、私に相談してきたのよ。それで私が、適当な理由を付けて貴女をこの家に呼ぼうと思ったって訳。だから私が言った、『春先の気候で、娘が精神的に不安定』っていうのは嘘なのよ。貴女に電話した日も、四月一日だったでしょ?」
「じゃあ何、エイプリルフール? 全部、嘘だったの?」
「ええ。本当だったのは、私が出張で留守にすることくらい。知ってる? 娘が子どもっぽいドレスを着てたのは、その格好なら貴女から悪戯してもらえるかもしれないって期待してたからなのよ。笑っちゃうでしょ?」
「言わないでよ、お母さん……」
姉が笑って、姪ちゃんが毛布で顔を隠す。私としては、どんな顔をしていいのか分からない。
「娘は緊張しちゃって、貴女が来る前日から眠れなくて、食事も喉を通らなくてね。これは上手く行かないかなぁと思ってたけど、貴女が熱を出して倒れて、やっと娘も手を出せたみたいね。それで、どうする? 私の娘を性犯罪で訴える?」
「まさか。そんなこと、しないわよ。第一、自首するべきなのは私の方だろうし」
「娘への悪戯のこと? 当事者同士で問題ないなら、それでいいんじゃないの。私には人を裁く資格なんかないしね、それよりも未来のことを話しましょうよ」
姉は、こんなにドライに割り切る人だったのか。私は姉を理想化して、実像が見えてなかったのかもしれない。そう思っていると、私は姉から両手を握られた。その姉が言う。
「両親から見たら、私は優秀な人間だったと思うわ。親の期待には応えてきたし、早い結婚も、娘が生まれて喜ばれた。その両親も今は居ない……もう、いいんじゃないかしら。世間を気にし続けるのはウンザリよ。私と娘と貴女で、一緒に暮らさない?」
「お姉さん……」
生身の手から、姉の中の熱いものが私に伝播してくる。姪がベッドから「お母さん! 叔母さんを私から取らないで!」と抗議してきて、苦笑しながらも姉は私の手を放さなかった。
「……実家をどうするか、考えないとね。これから話し合いましょう」
信じられないくらい幸せな感覚に包まれながら、そう私は呟いた。運命の悪戯、と人は言う。今の私は、こう思う。きっと私たちは、神さまに悪戯をされたのだ。そうでなければ、こんなに私たちが幸せなことへの説明が付かない。
まだ春は始まったばかりで、きっと今年も桜は美しく咲き乱れる。私たちは絡み合い、互いの熱を吸って養分にしながら、閨の中で夜桜のように花を咲かせ続けるだろう。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
十月の蝶(ちょう)
転生新語
恋愛
私を見出(みいだ)し、開花させてくれた女性(ひと)がいた。秋も深まってきた今の時期、蝶(ちょう)が飛ぶ姿を見るたび、私はあの頃に想いを馳(は)せるのだった……
カクヨム、小説家になろうに投稿しています。
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16818093087588363365
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n9004jr/
放課後の生徒会室
志月さら
恋愛
春日知佳はある日の放課後、生徒会室で必死におしっこを我慢していた。幼馴染の三好司が書類の存在を忘れていて、生徒会長の楠木旭は殺気立っている。そんな状況でトイレに行きたいと言い出すことができない知佳は、ついに彼らの前でおもらしをしてしまい――。
※この作品はpixiv、カクヨムにも掲載しています。
Share a quarter
null
恋愛
四人姉妹の末っ子として生まれた私――御剣和歌は、中学生の頃から、六歳下の姪である一葉の世話をしていた。
片親であった一葉が、孤独を覚えながら育たないようにと接してきた和歌。
二人は仲睦まじく共に過ごしてきたのだが、一葉が中学生になり思春期真っ盛りになると、その関係は少しずつ綻びを示し始める。
自分の妹同然――それ以上の存在として世話をしてきた姪が、自分を必要としていないと考えた私は、一葉と距離を取ることに決めたのだが…。
百合カップルを眺めるモブになりたかっただけなのに。
蒼風
恋愛
□あらすじ□
百合カップルを眺めるだけのモブになりたい。
そう願った佐々木小太郎改め笹木華は、無事に転生し、女学院に通う女子高校生となった。
ところが、モブとして眺めるどころか、いつの間にかハーレムの中心地みたいになっていってしまうのだった。
おかしい、こんなはずじゃなかったのに。
□作品について□
・基本的に0時更新です。
・カクヨム、小説家になろう、ノベルアップ+、noteにも掲載しております。
・こちら(URL:https://amzn.to/3Jq4J7N)のURLからAmazonに飛んで買い物をしていただけると、微量ながら蒼風に還元されます。やることは普通に買い物をするのと変わらないので、気が向いたら利用していただけると更新頻度が上がったりするかもしれません。
・細かなことはnote記事(URL:https://note.com/soufu3414/n/nbca26a816378?magazine_key=m327aa185ccfc)をご覧ください。
(最終更新日:2022/04/09)
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる