チート主人公からヒロインを奪って、異世界で幸せに暮らしたい~放っておいたらヒロインは皆バッドエンド確定!? モブキャラからの成り上がり人生~

猫又ノ又助

文字の大きさ
29 / 36
1章

第27話 それぞれの考え

しおりを挟む
 入院してから3日が経ち、車椅子で移動できる様になった頃、俺は1人でジェイの病室へと向かっていた。

 ミヨコ姉やユフィからは、まだギプスも取れていない状態で1人で院内を出歩くことに難色を示されたが、それでもやっぱり真っ先に誠心誠意謝りに行きたかったから1人で行くことにした。
 
 ジェイが入院している病室の前、他の病室となんら変わらない扉がとても大きく開けがたい物の様な錯覚を覚える。

 入団して以後常に気にかけてくれて、兄の様に慕っていたジェイが、どんな言葉をかけてくるのかが想像できない。

 だが、一度深呼吸して覚悟を決めると、扉を軽くノックした。

「どうぞー」

 室内から帰って来たその声はいつもと変わらず、体調の悪さを感じさせないものだったため、その事に安心しながら扉を開けると、ジェイはベッドに横たわって雑誌を読んでいた。

「おっ、ボウズじぇねぇか!」

「……すいませんでしたっ!」

 全身全霊の気持ちを込めて、深く頭を下げる。

 ここに来るまでの間に色々な謝罪の言葉を考えて来ていたが、ジェイの手足についたギプスや、病衣から覗く至る所に巻かれた包帯の数々を見て、全ては吹き飛んでいた。

「おっ? 一体何事だ。てかオマエ、そんな状態で出歩いてんじゃねぇよ」

 俺の状態を確認して呆れた様に笑うジェイだったが、俺は頭を下げ続ける。

「オレのせいでそんな怪我をさせて、しかもオレの独断専行を団長や副団長に庇う様に説明してくれて……本当にすいませんでした!」

 オレの勝手な行動の連続だった今回の件について、副団長を始め色々な人から当然の糾弾を受けると思っていたが……ジェイは全ての責任は事前に話を聞いていた自分にあると説明をしてくれたそうだ。

 結果オレは復帰後の軽い罰訓練だけを言い渡され、ジェイは3カ月の減給と言う処分が下された。

 オレのせいで怪我をさせ、あまつさえ尻拭いまでさせてしまった人に、オレはどんな顔をすればいいのかが分からない。

 ただ何を言われようと、まずは誠心誠意頭だけは下げに来ようとそれだけを考えていた。

「ったく、頭上げろよ。別に大した話じゃねえよ。部下の面倒を見るのは上の仕事だ。何だかんだで団長は、貴族連中や天神教会からの突き上げからオマエやユフィ嬢ちゃん、シスターの事を庇うために奮闘してるしな」

 今回発生した天神教会による襲撃の件について、天神教会やそのシンパである貴族達から――拘留中に自殺した青い髪の神父について、騎士団やシスター達が釈明を求められている状況だ。

 本来ならユフィやシスターから天輪教会の本部を通して、天神教会へ抗議する様な話であるが、二つの教会の力関係が隔絶しており、抗議の声を上げられずにいるらしい。

「そもそもだ、天神教会が管理してたお前らの居た施設を襲撃した時点で、既に俺達は連中から目つけられてたんだ、オマエが気にすることじゃねぇよ」

 そう言って笑いかけて来るジェイだったが、それは未だ大っぴらには攻撃出来ていなかった天神教会に、攻撃する機会を与えてしまった事に他ならない。

 その事について考えて、俯いているとジェイがため息を吐いた。

「ったく、オマエも大概面倒くせえ性格してんな。もうアレだ、退院したらうまいメシでも食いに行こうぜ、それで今回の件はチャラだ。文句は受付ねえ」

「いや、流石にそれは……」

「あー、良く聞こえねー。ともかく、これ以上この件について俺から話すつもりはねえ」

 耳を塞ぐジェスチャーをしながら布団へもぐり込んだジェイに思わず苦笑いしながら、俺は再度頭を下げた。

「ありがとう、ジェイ」

 小さくそう呟いて病室を出ようとすると、「おう」とだけ返事が返って来た。

◇◇◇

 事件が起こってから1週間程経つと、オレの体はスッカリ歩けるまでに回復していた。

 体にあった傷跡は粗方消え、各所骨折していた箇所の骨は繋がった頃、オレは団長から呼び出しを受けて病室から団長室へ移動していていると、途中の廊下でユフィと出会った。

「あれ? なんでユフィがここに居るんだ?」

 教会が焼失して以後、ユフィとシスターが騎士団の寮を一時的に利用しているのは知っていたが、この建物には医務室と騎士団の事務所くらいしか存在していない。

「センこそ、どうしてここに?」

「いや、オレは団長に呼ばれて……」

「そうなの? なら、私と一緒ね」

「ユフィも?」

 そう尋ねると、ユフィは頷き返してくる。

 団長がどういった意図でオレとユフィを呼び出したのか今一つ分からなかったが、既に団長室の前に来ていたので中へ入って確認する事にした。

 木製の扉をノックすると、中から返事が返って来る。

「待っていたよ、中へ入ってくれ」

「失礼します」

 オレとユフィの2人が部屋へと入ると、木を主体とした落ち着いた雰囲気の部屋の中で、団長が山積みの資料と向かい合っていた。

「もう少しで終わるから、先にソファで座っていて」

 そう促されて、オレとユフィは見るからに柔らかそうな濃紺のソファに座る。

 すると、ユフィのハーブに似た匂いが鼻孔をくすぐり、思わず抱き留められた先日の事を思い出して、顔が熱くなってきた。

「どうかした? セン」

「いや、なんでもない!」

 首を傾げながら尋ねて来るユフィに、声を上ずらせながら応えるとまだ不思議そうに俺の方を向いていたが、団長が話かけて来たので事なきを得る。

「こっちが呼び出しておいて待たせてすまないね。最近外回りが多くて、書類仕事が溜まっていたから」

「いえ、こちらこそ今回の件でご迷惑をおかけしてすいません」

 改めてオレが頭を下げると、団長は笑った。

「以前謝罪も受けたし、人として間違った事をしたわけじゃないからね。今後は事前に報告してくれさえすればいいさ」

「ありがとうございます。……とすると、今日呼び出されたのは別件ですか?」

 てっきり改めて先日の件について説明などを求められるのかと思っていただけに疑問に思っていると、団長は少しうなった。

「別件、というわけでもないんだけど……まぁ単刀直入にいうと、ユフィさん達の身の安全のためにも騎士団へ入団してもらいたいって話なんだ」

「私を騎士団に、ですか?」

 戸惑った様に眉を顰めながらユフィが尋ねると、団長は静かに頷いた。

「正直現在のユフィさんやシスターの状況は芳しくない。天神教は君たちの身柄の引き渡しを求めているし、天輪教の本部はその事について関与しない姿勢を決め込んでいる」

 それを聞いてオレは思わず、立ち上がった。

「天輪教の本部は、仲間であるユフィたちを庇う気がないって事ですか!?」

「そう怒るものじゃないよセン。今の彼らと天神教の力関係は火を見るより明かだ。確かに非道な決断だとは思うけれど、組織としては一個人のために組織全体を危険に晒すわけにはいかないんだろう」

 団長はそう嗜めてきたが、それじゃあユフィやシスターは今まで何のために……。

 そう考えていると、ユフィの手が軽くオレの手に触れたので、とっさに顔を見合わせると――彼女は微笑んでいた。

「私もお婆さまも、本部の意向がどの様なものであったとしても、胸の内にある信奉心には何も変わりありません。私たちが信じているのは、中央都市にいる司祭達ではないのですから」

 そう言い切ったユフィの顔は、ブレることのない信念を宿している様に見えて――思わずその顔に見入ってしまう。

「団長さま、この件に関してはお婆さまは既にご存知なんですか?」

「ああ、彼女には既に説明しているよ。ただ、入団するか否かはユフィさん、君に一任すると言っていた」

 団長がユフィの事をジッと見ながら返事をすると、ユフィはしばらく黙考した後、ハッキリとした口調で返事を返した。

「私を、騎士団へ入団させてください」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...