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第1章「反魔王組織」
元勇者勧誘
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「べ、別に……前までは勇者と言われてただけであって、今はもう……。」
俺は気持ちが沈み込み、顔を俯かせる。
もう俺には勇者と堂々と名乗れる資格も立場もない。
勇者として魔王に立ち向かい、1つの判断ミスにより異世界を半壊させた張本人にそんな権利があるだろうか。
ましてや、ここにいるクレアはその事件の犠牲者であり、俺が元勇者だと知ってしまった事で恨みや軽蔑の念は計り知れない物であろう……。
世間では勇者の悪評は知れ渡っている。異世界を半壊させた重圧と責任を感じて、俺は戦いから逃げ出したのだから。
悪評の噂は時間を経て当初よりはマシな物になったのだが、人々は俺が勇者だと忘れたまま無意識的に軽蔑しているようだ。さっきのおばさんもその1人である。
店主のように親しく接してくる例外もいるが……少なくともこのファスト村の人々は、俺を嫌っている事は間違いないだろう。
いまさら言い訳をするつもりもないし、別に彼女と親しく接する気もなかったので、縁を切られようが何しようが知ったこっちゃないがな……。
俺はテーブルの上で、握り拳をプルプルと震わせる。
彼女にどのような罵倒を浴びせられるかと、心の中で身構えながら目をつぶった。
しかし……彼女からは予想とは違った言葉が発せられる。
クレアはそっと俺の震える手に覆いかぶさるように手を置いて握りしめた。
「勇者の悪評は知っているわ。でもね、私は貴方がやった事は少なくとも間違いじゃないと思ってるの。」
罵倒どころか慰めてくれるって言うのか……。
そのまま思いを込める様に彼女は理由を語った。
「だってそうでしょ?世間では勇者に期待して魔王討伐に希望を寄せながらも、大事件が起こった事で一斉に手の平を返したかのように勇者批判をするとか都合が良すぎるわよ。」
「だが……批判されてる理由は、俺が逃げ出した事だろ……。」
「それは、誰だって責任に押し潰されそうになった時に逃げ出したくなるわよ。確かに逃げ出した事はかっこ悪いけど、時には逃げる事も必要だと思うわ。」
クレアの強く抱擁力の高い言葉は、俺の心に強く響いて浸透していった。
ちょっと気持ちの整理が必要だな……。
俺は涙が出そうな瞳を、ぐっと堪えつつ彼女から目を背ける。
「ムゥ……。」
俺とクレアの会話を聞いて、ナナは頬が膨れあがった様な声を出していた。
コップに残っていたミルクを一気に流し込み、テーブルに叩きつけるように置いた。
「ナナの目の前でイチャついていいのは、アリシア様だけだよ!」
ジタバタとするナナのパンチが、俺に襲いかかった。
その反動でクレアに握ってもらっていた手は、名残惜しむように2つに裂かれる。
「ちょっ、痛いっ、痛いって……。」
「痛くしてるんじゃん!」
クレアは俺達のやり取りを微笑ましく眺めていた。
少しだけ落ち込んだ気分は、ナナとクレアのおかげで雲の間から光が差し込んだ様に晴れていった。
やっぱり……再三に言うようだが、本当にアリシアにしか思えなくなってしまう……。
違うのは嫌と言うほどわかっているのだが……。
考えないようにしようと思うたびに、アリシアを思い出してしまう。
あー、辛い……。
その後、ナナの追撃はしばらく続いたが、腕が疲れたのか最後の方は力なき攻撃だった。
ナナは渋い顔のまま攻撃をやめて、やっと痛さから解放される。
俺が眉間にしわを寄せながらナナを見つめていると、クレアは思い立ったようにある提案を持ち掛けてきた。
「ねぇ、元勇者って事なら私を助けてくれたその腕を見込んで、私達と一緒に反魔王組織に参加してみない?」
「そうだよ!トモキ兄ちゃんなら魔王を倒せるよ!」
クレアが言った事にかぶせる様にして、ナナは俺への威嚇をやめつつ期待の眼差しを送ってきた。
反魔王組織。
要するにこの世界を牛耳っている、俺が一度敗れた魔王を倒しにいく組織か……。
ジョーカーがクレアの事を副隊長と言っていた意味も今理解できた。
そりゃ、もう一度チャンスをくれるって言うなら興味がないわけではない……。
しかし、一度逃げ出した俺には荷が重くのしかかるのだよ。
期待を裏切るような事になるだろうが、既に最初っから答えは決まっていた。
「……ごめん……俺にその資格はないんだ……。」
明らかに場の空気がよどんだ事が、肌から伝わってくる。
クレアは仕方なさそうに両手をモジモジしながらゆっくりと喋りだす。
「そりゃ、断られる事は前提で言ったからね……。無理に頼んじゃってごめんね……。」
「俺も期待に添え無くて、すまん……。」
クレアの愛想笑いが、なんだか俺の心臓を締め付けた。
一方でナナの様子はと言うと、予想とは裏腹に静かに俯いている。
もっと俺を困らせるぐらい食いついて来てもおかしくないはずだ。
まてよ……これは嵐の前の静けさと言う奴じゃないのか?
案の定、ナナはその場に立ち上がり、俺に向かって激しく暴言を吐いた。
「トモキ兄ちゃんの、あほぉ!意気地なし!」
やっぱりこの子は、食い下がるよね……。
ナナの目にはうっすらと涙が見えた。
俺はその涙を見て、またもや心臓を締め付けられる。
本当に俺は最低な男だ……。
「もう!知らない!」
ナナは声を荒げながら、突拍子もなく動き出す。
そのまま店の入り口付近まで、すぐに到達する。
もしかして、このまま外に出ていくつもりなのか……。
「ま、待って!おねぇちゃん!」
クレアは心配そうにナナを呼び止めようとしたが、そのまま彼女は店の外へと出て行ってしまった……。
俺達の話を邪魔しないように、カウンターの隅で黙っていた店主が心配そうに声をかけてくる。
「おいおい、大丈夫なのか?もう日が沈むぞ?」
「ったく……仕方ないな……。」
俺はナナの後を追いかけようと、その場に立った。
それを意外にもクレアが制止する。
「ねぇさんなら、直ぐに戻ってきますよ。ああ見えて私なんかより数倍強いですから、モンスターなんかに襲われても返り討ちにすると思うし……。いつもお父様と喧嘩する時は、あんな風に外に出ていったりしていたので、心配はいらないかと。」
「そ、そうか……クレアがそう言うのであれば……。」
彼女は少しだけ心配そうな顔をしているが、何か意図があって止めた事なのだろう……。
俺はクレアの言う事を信じることにした。
―――しかし、この出来事が俺達を後々後悔させる羽目になるとは、今はだれも予想だにしていなかった……。
俺は気持ちが沈み込み、顔を俯かせる。
もう俺には勇者と堂々と名乗れる資格も立場もない。
勇者として魔王に立ち向かい、1つの判断ミスにより異世界を半壊させた張本人にそんな権利があるだろうか。
ましてや、ここにいるクレアはその事件の犠牲者であり、俺が元勇者だと知ってしまった事で恨みや軽蔑の念は計り知れない物であろう……。
世間では勇者の悪評は知れ渡っている。異世界を半壊させた重圧と責任を感じて、俺は戦いから逃げ出したのだから。
悪評の噂は時間を経て当初よりはマシな物になったのだが、人々は俺が勇者だと忘れたまま無意識的に軽蔑しているようだ。さっきのおばさんもその1人である。
店主のように親しく接してくる例外もいるが……少なくともこのファスト村の人々は、俺を嫌っている事は間違いないだろう。
いまさら言い訳をするつもりもないし、別に彼女と親しく接する気もなかったので、縁を切られようが何しようが知ったこっちゃないがな……。
俺はテーブルの上で、握り拳をプルプルと震わせる。
彼女にどのような罵倒を浴びせられるかと、心の中で身構えながら目をつぶった。
しかし……彼女からは予想とは違った言葉が発せられる。
クレアはそっと俺の震える手に覆いかぶさるように手を置いて握りしめた。
「勇者の悪評は知っているわ。でもね、私は貴方がやった事は少なくとも間違いじゃないと思ってるの。」
罵倒どころか慰めてくれるって言うのか……。
そのまま思いを込める様に彼女は理由を語った。
「だってそうでしょ?世間では勇者に期待して魔王討伐に希望を寄せながらも、大事件が起こった事で一斉に手の平を返したかのように勇者批判をするとか都合が良すぎるわよ。」
「だが……批判されてる理由は、俺が逃げ出した事だろ……。」
「それは、誰だって責任に押し潰されそうになった時に逃げ出したくなるわよ。確かに逃げ出した事はかっこ悪いけど、時には逃げる事も必要だと思うわ。」
クレアの強く抱擁力の高い言葉は、俺の心に強く響いて浸透していった。
ちょっと気持ちの整理が必要だな……。
俺は涙が出そうな瞳を、ぐっと堪えつつ彼女から目を背ける。
「ムゥ……。」
俺とクレアの会話を聞いて、ナナは頬が膨れあがった様な声を出していた。
コップに残っていたミルクを一気に流し込み、テーブルに叩きつけるように置いた。
「ナナの目の前でイチャついていいのは、アリシア様だけだよ!」
ジタバタとするナナのパンチが、俺に襲いかかった。
その反動でクレアに握ってもらっていた手は、名残惜しむように2つに裂かれる。
「ちょっ、痛いっ、痛いって……。」
「痛くしてるんじゃん!」
クレアは俺達のやり取りを微笑ましく眺めていた。
少しだけ落ち込んだ気分は、ナナとクレアのおかげで雲の間から光が差し込んだ様に晴れていった。
やっぱり……再三に言うようだが、本当にアリシアにしか思えなくなってしまう……。
違うのは嫌と言うほどわかっているのだが……。
考えないようにしようと思うたびに、アリシアを思い出してしまう。
あー、辛い……。
その後、ナナの追撃はしばらく続いたが、腕が疲れたのか最後の方は力なき攻撃だった。
ナナは渋い顔のまま攻撃をやめて、やっと痛さから解放される。
俺が眉間にしわを寄せながらナナを見つめていると、クレアは思い立ったようにある提案を持ち掛けてきた。
「ねぇ、元勇者って事なら私を助けてくれたその腕を見込んで、私達と一緒に反魔王組織に参加してみない?」
「そうだよ!トモキ兄ちゃんなら魔王を倒せるよ!」
クレアが言った事にかぶせる様にして、ナナは俺への威嚇をやめつつ期待の眼差しを送ってきた。
反魔王組織。
要するにこの世界を牛耳っている、俺が一度敗れた魔王を倒しにいく組織か……。
ジョーカーがクレアの事を副隊長と言っていた意味も今理解できた。
そりゃ、もう一度チャンスをくれるって言うなら興味がないわけではない……。
しかし、一度逃げ出した俺には荷が重くのしかかるのだよ。
期待を裏切るような事になるだろうが、既に最初っから答えは決まっていた。
「……ごめん……俺にその資格はないんだ……。」
明らかに場の空気がよどんだ事が、肌から伝わってくる。
クレアは仕方なさそうに両手をモジモジしながらゆっくりと喋りだす。
「そりゃ、断られる事は前提で言ったからね……。無理に頼んじゃってごめんね……。」
「俺も期待に添え無くて、すまん……。」
クレアの愛想笑いが、なんだか俺の心臓を締め付けた。
一方でナナの様子はと言うと、予想とは裏腹に静かに俯いている。
もっと俺を困らせるぐらい食いついて来てもおかしくないはずだ。
まてよ……これは嵐の前の静けさと言う奴じゃないのか?
案の定、ナナはその場に立ち上がり、俺に向かって激しく暴言を吐いた。
「トモキ兄ちゃんの、あほぉ!意気地なし!」
やっぱりこの子は、食い下がるよね……。
ナナの目にはうっすらと涙が見えた。
俺はその涙を見て、またもや心臓を締め付けられる。
本当に俺は最低な男だ……。
「もう!知らない!」
ナナは声を荒げながら、突拍子もなく動き出す。
そのまま店の入り口付近まで、すぐに到達する。
もしかして、このまま外に出ていくつもりなのか……。
「ま、待って!おねぇちゃん!」
クレアは心配そうにナナを呼び止めようとしたが、そのまま彼女は店の外へと出て行ってしまった……。
俺達の話を邪魔しないように、カウンターの隅で黙っていた店主が心配そうに声をかけてくる。
「おいおい、大丈夫なのか?もう日が沈むぞ?」
「ったく……仕方ないな……。」
俺はナナの後を追いかけようと、その場に立った。
それを意外にもクレアが制止する。
「ねぇさんなら、直ぐに戻ってきますよ。ああ見えて私なんかより数倍強いですから、モンスターなんかに襲われても返り討ちにすると思うし……。いつもお父様と喧嘩する時は、あんな風に外に出ていったりしていたので、心配はいらないかと。」
「そ、そうか……クレアがそう言うのであれば……。」
彼女は少しだけ心配そうな顔をしているが、何か意図があって止めた事なのだろう……。
俺はクレアの言う事を信じることにした。
―――しかし、この出来事が俺達を後々後悔させる羽目になるとは、今はだれも予想だにしていなかった……。
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