バッドエンドのその先に

つよけん

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第1章「反魔王組織」

門左衛門戦

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 俺は音速の世界に存在している。
 門左衛門に狙いを定めると、シミターを頭の前へと突き出した。
 さっき斬られて負傷した右肩が、体感重力の衝撃で酷く痛みが増している。
 それを庇うようにして左手でシミターを構え、右手は衝撃に備えて裏刃に添えるだけの状態にした。
 でも……門左衛門に届いた瞬間に、衝撃で右肩がめっちゃくちゃ痛むんだろうな……。
 そんな事を考えてる暇も無いのに考えられる時間があるのもおかしな話だが、実はもう門左衛門の目の前まで到達している。
 自分の感覚が研ぎ澄まされているようで、音速以上の思考速度が一瞬だけ俺を支配していた。
 後から追いかけてくる轟音と共に、門左衛門の爪へとシミターで直接的に重ね合わせる。
 音速のミサイルと化した自分の衝撃で、門左衛門はナナに爪を振り下ろす前に体制を崩して仰け反った。
 爪に当たった衝撃で自分自身も体制を崩して、そのまま地面へと吸い込まれるように落下していく。
 その後に遅れながらも金属と金属が強く重なりあって鳴る高音域の嫌な音が、鼓膜を舐め回すようにして耳の中を侵食していった。
 勢いが殺されて音速から抜けた瞬間だと実感する。

「まあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぐはっ!!」

 仰け反った門左衛門の長い首が左右に揺れて小さかった頃と同じ鳴き方で、重低音がしっかりと乗った苦しそうな声を漏らし響かせていた。
 その声を聞きながら俺は地面に叩きつけられて、その場を数メートル縦に転がりまわっていた。
 そのままの勢いを保ちながら、木に背中から強打して強制的に勢いが止まる。

「ぐへぇ!!」

 口から一気に声と共に肺の空気が抜けた。
 息を吸い込もうとするが肺に空気が入らず、呼吸が一切できない状態に……。
 身体的ダメージは運良く打ち所が良かったのか、多少なりとも痛みはあるものの骨などには異常はきたしていないようだった。
 これで負傷してしまい戦えないとかになると、無茶な作戦に付き合ってもらったクレアに申し訳ないだろ……。
 一時的に呼吸ができないだけだから、焦らずに次の行動を考えよう。
 何も無かった訳じゃない事を、何も無かったように言い聞かせる……。
 右側に違和感がある事を言い訳するようにして……。
 俺は息が出来ない苦しさに耐えて、半目を必死に開いて前を確認した。
 音速の風速や衝撃で近くにいたナナが心配だったが……どうやら無事のようだ。
 その場に一点を見つめてずっと突っ立っている事が少しだけ気になったが、その事は後回しにして門左衛門の方向へと目線を変える。
 ふと何かが回転しながらゆっくりと飛んでくるのが見えた。
 それを見て反射的に首を動かし、顔を左にそらす。
 トスっと右の耳元で何かが木に刺さる音が聴こえると、それを横目で確認した。
 な、なんだ?この金属片は……。
 俺は少し考えて思い出したように左手のシミターを見る。
 刃の部分が根元から根こそぎ無くなっている事に気付いた。
 門左衛門を押し退けた事は確かな事だが、鋭い爪にシミターが耐える事が出来ず金属片となって四方八方に散らばってしまったらしい。その1つがこの金属片という訳か……。
 依然として息が出来ない状態で、今度こそ門左衛門のいる方向へと目を向ける。
 空で仰け反っていた門左衛門は体制を整え直していた。
 何が起こったか理解するべく辺りをキョロキョロとしながら見渡している。
 このまま俺に気付かない状態では、またナナの方向へ襲い掛かってしまうかもしれない。
 咄嗟の判断で左手に持っていたシミターの残骸を、力いっぱい門左衛門へと投げつける。
 筋力強化系魔法のおかげで聞き手じゃない左投げでも、鋭い軌道を描いて門左衛門の分厚い皮膚にコツンっとぶつかった。
 さすがの門左衛門もこちらに気が付いたのか、俺の方向へ鋭い目を向けてしばらく制止している。
 その間に何とか呼吸が出来る状態にまで回復する事が出来た。
 これで喋る事が出来る!
 俺は息が苦しい荒い呼吸の状態で、肺に空気を目一杯流し込んだ。

「ナナ!!その場から逃げろ!!」
「……」

 返事がない……ただの屍のようだ……。
 と言う冗談はさて置き……やはりナナの様子がおかし過ぎる。
 まさか何か魔法を使われて動けなくなっているのか?そんな魔法あったっけ?
 兎にも角にも最初はナナを門左衛門から遠ざけさせよう。
 そう思い立った頃に、ちょうど門左衛門が行動を始める。
 大きな翼を大胆に羽ばたかせながら、俺の方向へとゆっくりと近づいて来た。
 これはチャンスだ!
 思い立ったら行動あるのみ。俺は右手を使ってその場に立ち上がろうとする。
 って、あ、あれ?
 俺はその場に訳も分からず、顔面から派手にコケてしまった。
 確かに俺は地面を右手で突いてその場に飛び上がろうとした思考が頭に残っている。
 その行動とは裏腹に実際に起こった現象として、右手が地面をすり抜けて吸い込まれるように上半身がバランスを崩した。
 顔をすりむいてかなり痛い。
 状況が理解できない状態のまま、門左衛門は次の行動に移ろうとしていた。
 ドラゴン特有の口元から青光りする炎のような物体が、ゆらゆらと牙の間からチラチラと覗かせていた。
 あれはブレス攻撃の前兆か……。
 いくら俺の体が不死身とは言えど、そんな攻撃を真っ向から食らったら意識が吹っ飛ぶのは確実である。
 とりあえず落ち着いて、何故転倒してしまったのかを把握しなければ。
 今の状態では立つ事もままならないぞ!
 門左衛門の脅威に対しながらも、目を瞑り自分に落ち着けと言い聞かせる。
 爪に当たる……。
 シミターが壊れる……。
 地面を転がる……。
 背中を強打……。
 ……。
 シミターが壊れる?
 俺は気がついて目を開けた瞬間、門左衛門は大きく口を開いて青い炎を噴射させていた。
 直ぐに左手に魔力を溜めて魔法を放つ。

『詠唱省略!フレアボール!!』

 自分が倒れている地面に放たれた上級魔法は、その場で大爆発を起こした。
 俺は魔法の爆発を上手く利用して、その場から離脱するように門左衛門より高い上空へ舞い上がる。
 しばらく上昇し続けてた後に、重力に導かれるまま降下していった。

「な、なんだこれ……。」

 自分がコケた理由を忘れるぐらい、下の凄い光景に思わず声が漏れる。
 真上に飛び上がった俺の目の前には、爆発の衝撃ごと青い炎が全体を飲み込む様子が映し出されていた。
 別にそんな事を幾度と見てきた自分にとって、この光景を見て驚く事でもないのだろうが……。
 いつも見慣れた炎ではない事は、異常な惨状が物語っている。

「フレアボールの爆発ごと、凍ってる……。」

 簡単に説明すると……砂埃と爆発の茶色や赤色などの色と近くにあった木の緑色などが混ざり合い、爆発の衝撃を一時停止したような綺麗なスノードームが完成しているのだ。
 大体一般的に製氷をする際には不純物や空気などが混ざり合って白く濁り透明にならない事が多いのだが、どう考えても透き通った高品質の純度100パーセントの水で作られた氷のオブジェクト。
 その事に魅了された事も事実ではあるのだが、俺の驚いた点はもう一つ別にある。
 それは……。
 
 ……こんな設定の攻撃方法を作った覚えはない……。

 多少なりとも例外はあったのだが自分が見た事のない攻撃をする敵と出会ったのは、この異世界に来てから初めての経験である。
 確かにジョーカー戦での鎌を遠隔操作する攻撃方法として、ジョーカーが使う場合でのみ例外だったものの、まったく存在しない攻撃方法の設定ではなかった。他の敵がスキルとして使う為に作ったからな……。
 しかし、門左衛門が口から出した青い炎は、絶対零度の瞬間冷凍系。
 氷の聖霊『フラウ』の力を借りれば魔法として使う事も可能だが、敵がスキルとして使用するのはまったく無かった設定なのである。
 そう思うと門左衛門自体の成長も例外となり、次から次へと考えてもキリがない事なのかもしれないが……。
 もう、この異世界は俺が知っている異世界と異なった世界になっているのかもしれないな……。
 2年も経っていれば当然と言えば当然の事なのだろう。
 俺は少々考えがまとまらず、頭を悩ませていた。

「まあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 そんな事などお構いなしにと言わんばかりに、門左衛門は低音の鳴き声で威嚇してこちらを見上げて凝視している。
 先程と同じようにゆらゆらと口元に青い炎をチラつかせていた。
 くそ!だめだ!あれを食らったら永遠に動けなくなるぞ!
 と心の中で言った事を噛みしめながら、今は訳の分からない事に悩む暇などない!
 目の前で起こっている事象を、何とかする事が最優先だと気合を入れ直す。
 でも……いったいどうしたらこのピンチを切り抜けられるんだ?
 有無を言わせずに門左衛門を倒す事は、聖霊の具現化をすれば容易な事であろう……。
 だけど倒してしまっては、ナナの悲しむ顔が目に浮かんでくる。絶対に殺してしまう事はタブーだ。
 ナナが静止して動かない事や門左衛門の暴走から考えるに、誰か後ろで尾を引っ張っている存在がいるのかもしれない……。
 どうする……。
 もう考えている暇など与えてもらえず、青い炎は俺に襲い掛かって来た。

「やばい!!」

 空中では身動きが取れず、このままでは格好の餌食だ。
 まずは魔法を使って、この場から離脱しないと!
 そう思い俺は右手に魔力を溜めようとする。
 あ、あれ?溜められない……。 
 青い炎の脅威はすぐ近くまで襲い掛かってきていた。
 脳裏には先ほど忘れていたシミターが壊れた件を思い出す。
 まさか!と思い俺は恐る恐る右腕を確認すると……。

「うあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 確認をしてから肩と二の腕の間に意識が吹っ飛びそうになる激痛が走った。
 それもそのはずだ……。
 あるはずの俺の右腕は、血を吐き出しながら無かったのだから……。
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