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この町では夏休み中にお祭りが開かれる。
地元の人だけが集まる小さなお祭りで、山の方にある神社で行われる。
ぼくは両親とともに、お祭りに参加することになった。
お父さんがお母さんの気分転換にもなるんじゃないかと言ったのが始まりで、お母さんも嫌だとは言わなかった。出産はまだ先のことなので、少しくらい歩いても平気だった。
ぼくは正直に言って、ちょっと困っていた。もしそこでクラスメイトと会ってしまったら、変な感じになったりしないのかな、とか思った。
両親には学校ではうまくやれているし、友達も結構いるからと伝えていた。
それが嘘だってばれてしまうんじゃないかと思った。
神社までに続く道にはいろんな屋台が並んでいた。顔の大きさくらいある綿雨とか、オモチャの銃で商品を打ち落とすやつとか、金魚すくいとか。
想像以上に賑やかなところで、町以外の人も多く混ざっているのかもしれないと思うくらいの人混みだった。
「夏休みだからな。帰省している人もいるんだよ」
帰省、という概念があったことをぼくは思い出した。ぼくの頭のなかにはこの町が絶海の孤島のように外とは隔絶された地域のような、そんなイメージがついていることに気づいた。
夏なので空にはまだ明るさが残っている。もう夜と言えるような時間帯ではあるけれど、遠くまで見渡すことができていた。
みんな楽しそうに屋台を眺めたり、家族と会話をしていたりする。いろんな人がこの世界にはいる。当然のことだ。
「直人、何か食べるか?射的とかやってもいいんだぞ」
「別にいいよ」
ご飯は家で食べてきたので、お腹は空いてはいなかったし、遊びたいものも特にはなかった。
お祭り自体が嫌というわけではなかった。この雰囲気は好きで、なにも遊ばなくても心が明るくなったような気がした。
同じ学年の子ともすれ違ったりはしたけれど、とくにぼくへの反応はなかった。
「おまえはどうする?金魚すくいとか懐かしくないか?」
お父さんがお母さんに話しかける。
お母さんは「そうね」と小声で答える。妊娠してからは全体的に元気はない。
子供が出来た、と病院で知ったときもお母さんは冷静だったらしい。激しく喜ぶ訳でもなく、淡々と受け止めていたとお父さんは言っていた。
ぼくが赤ちゃんができたの?と聞いたときもそんな感じだった。
お父さんはあまり深刻には受け止めてはいないようだった。マタニティブルーは誰にでも起こり得るんだ、と言っていた。妊娠すると女性の心は不安定になりやすいものなんだと。
ぼくを生んだときもそうだったの?と聞いたら、お父さんは覚えていないと笑った。
「やっぱり祭りっていうのはいいよな。前にいたところじゃ、こういう祭りはやってなかったからなおさらだよ」
「子供の頃はよく行ったの?」
ぼくがそう聞くと、お父さんはうなずいた。
「実際に参加したこともあるんだ。子供のときに山車に乗って観光客を見下ろしたときの光景はいまも鮮明に残っているな」
お父さんの思い出話はしばらく続いた。とても楽しそうにお父さんは話していて、そのときだけはお母さんの表情も和らいでいた。
歩いている間に辺りはどんどんと暗くなってきて、木と木の間に吊るされた電球が淡い光を放つようになった。
ぼくは屋台に挟まれた道を歩きながら、町の人たちを観察した。浴衣を着ている人がいれば、私服の人もいる。
町の人たちとはあまり交流がないけれど、ぼくにはなぜかこの日のみんなは遠い人のようには感じられなかった。
町の人というよりは、このお祭りを楽しんでいる人という印象だった。きっとそれは帰省している人が含まれていても同じことだったように思う。
このお祭りそのものが町となっている、そんな感じがしたから。
「ん?」
背中に妙な感触を感じて、ぼくは立ち止まった。
首を振り向かせてみると、そこにいたのは狐の仮面を被った誰かだった。
ぼくとそう変わらない背丈で、人差し指をこちらに向けている。その先端が背中に当たっていたらしかった。
「誰?」
そう聞くと、その子は仮面をはずした。その下から現れたのは久瀬さんだった。
「すぐにわたしだとわからないとは、佐伯くんも鈍感ね」
「顔が完全に隠れてたよ。それにもう暗くなってきたし」
「確かに暗いわね。本来であれば子供の外出が許されない時間よね」
そこで久瀬さんはかすかに微笑んだ。
「祭りを利用するとは考えたわね。棺桶少女を探すにはうってつけの時間だもの。友達と遊んでいるといいわけをすれば、親にも叱られない」
「ぼくは純粋にお祭りを楽しみに来たんだけど」
「お祭りのように人が一ヶ所に集まるときは狙い目なのよね。そのぶん住宅街の静けさは増すから。ああいう存在はうるさいところには現れないものでしょ」
「久瀬さんはひとりなの?」
その次の瞬間にはぼくはまずいことを聞いちゃったかな、と反省した。久瀬さんは虐待されているかもしれない、あの話を思い出したから。
「連れがいるわ」
「どこに?」
久瀬さんはぼくの手を取った。
「それじゃあ、行きましょうか」
「お、直人、友達か」
少し先を歩いていたお父さんが戻ってきて、ぼくの肩に手をかける。
「そうか。そうか。ならお父さんたちはあっちに行ってるからな。お祭りが終わる頃に合流することにしよう」
そう言ってお父さんたちは向こうの方へ行った。
「邪魔な大人も消えたみたいね。これでしばらくは調査の時間を取れるわね」
「久瀬さんもお祭りを楽しんだら?ぼくに会うのが目的だった訳じゃないんだよね」
「わたしはお祭りになんて興味がないわ」
「でもそれ」
ぼくは狐の仮面を指差した。
「ああ、これは拾ったのよ。顔を隠すのにちょうどいいでしょ」
「じゃあ、どうしてお祭りに?」
「少し休憩に来たの。暗いところで棺桶少女をずっと探し続けるのも疲れるのよ」
今日も久瀬さんは棺桶少女を探していたらしい。
ぼくがこの町に引っ越してすぐ遭遇した棺桶少女。でも、それ一回だけで、その後には全然会ってはいない。
ぼくはそろそろ諦めるような気持ちになっていたけれど、久瀬さんはそうではないようだった。
「……棺桶少女って本当にいるのかな」
「自分の記憶を信じられないの?」
信じられない。遠い記憶ほど、ぼんやりしている。これは当たり前のことなのかもしれないけれど、ぼくの場合、他の記憶も曖昧になっている部分がある。
棺桶少女とかだけじゃなく、ぼくという歴史そのものが消えているような、そんな気がする。
「あなたがこっちに来る前から棺桶少女は存在しているの。あなただけが会ったというわけじゃないのよ」
「そう、だよね」
「いまから探しに行くべきよね。あなたの疑惑を吹き飛ばすためにも」
そう言って久瀬さんがぼくの手を取ったとき、
「ねえ、佐伯くん」
ぼくを呼ぶ声がした。
声の方を見ると、恵太くんと里英ちゃんがこちらに近づいてくるところだった。
「ちょっといいかな。話を聞いてもらいたいんだけど」
「ぼくに?」
「うん」
何の用事だろう?
恵太くんと里英ちゃんから話しかけてくることなんて数ヵ月前、転校直後のことだった。ぼくは少し緊張した。
「その、最近とか、棺桶少女に会ったことはあるかな?」
「え、どうして?」
意外な質問だな、とぼくは思った。棺桶少女に対しては怖がっていて、その話題を口にするのも嫌そうだったのに。
「会おうと思ったら会えるのかな。佐伯くんは以前、棺桶少女に会ったことがあるんだよね。その後はどうなの?」
「会ったことはないけど、何が聞きたいの?」
「いや、だからさ」
恵太くんは口ごもっている。ぼくや久瀬さんに緊張しているわけではなくて、その内容がただ言いづらいからのようだった。
「もう、恵太くんいいよ。わたしから話すから」
隣の里英ちゃんが少し前に出て言った。
「実は恵太くんのお姉ちゃん、ここ数日、家に帰ってないの」
「家出ってこと?」
「たぶん。でも恵太くんはそう信じてない。棺桶少女に殺されたんじゃないかって思ってるの」
「棺桶少女に?どうして?」
「とくに理由はないの。わたしもそんなことないって言ったんだけど、恵太くんはきっとそうだって主張してるの」
「だってお姉ちゃんがこれまで家出なんてしたことないし」
恵太くんがうつむいて言う。
「親と喧嘩したんでしょ。それから帰ってないんでしょ。それが原因だよ」
「でも、そういうのは前にもあったし、今回はなんか違う気がするんだ」
「恵太くんのお姉ちゃん、もう高校生なんでしょ。きっと他の町にも友達がたくさんいるから、そういうところに泊まってるんだよ」
恵太くんはお姉さんのことが心配で仕方ないようだった。いま高校生なら結構年齢も離れているから、いろいろと面倒を見てくれたのかもしれない。
「全然連絡とかないし」
「親は警察とかには相談してないんでしょ。じゃあ、こっそり親には電話してるんだと思う」
「喧嘩してるのにそんなことしないと思う」
「なら、友達のほうなんだよ。お姉さんにばれないように電話をして、うちで預かってるって伝えたんだと思う」
「もう三日も過ぎてるんだよ。こんなに長い間、外泊したことなんてないのに」
「そもそも棺桶少女に殺されたのなら、探すことなんてできないんだから、難しく考えても仕方がないんだよ」
「そうかもしれないけど」
「どうして棺桶少女のせいだと思ってるの?なんとなく?」
ぼくがそう聞いた。
「お姉ちゃんは以前、棺桶少女に会ったことがあるって言ってたんだ」
「え、本当に?」
「うん。ぼくにだけ教えてくれたんだ。だから今回もそうかもしれないって」
「そんなの嘘に決まってるよ。きっと恵太くんを驚かせて楽しんでいただけだと思う。だって恵太くんのお姉さん、死んでないんでしょ」
里英ちゃんの言うことが正しいようにも思う。たぶん高校生くらいだとこういう噂は軽い感じでできてしまうんだと思う。
「両親には聞いたの?」
「うん。でもなんかあまり深刻には考えてはないようだから」
「里英ちゃんの言うように、親は行き先を知ってるんじゃない?そこまで心配しなくても大丈夫だと思う」
「そうかな。ぼくも頭ではわかってるんだけど、なんだか胸がそわそわするんだ」
「なら、いまから探しに行く?」
久瀬さんが狐の仮面を被って言った。
恵太くんと里英ちゃんの二人は、そこにいるのが久瀬さんだとはわかっている。
でも、はっきりとした拒否反応は示していなかった。声をかけられたことに戸惑いつつも、その提案を真剣に考えている様子が伝わってきた。
恵太くんは一度、里英ちゃんの方を見た後、頷いた。
地元の人だけが集まる小さなお祭りで、山の方にある神社で行われる。
ぼくは両親とともに、お祭りに参加することになった。
お父さんがお母さんの気分転換にもなるんじゃないかと言ったのが始まりで、お母さんも嫌だとは言わなかった。出産はまだ先のことなので、少しくらい歩いても平気だった。
ぼくは正直に言って、ちょっと困っていた。もしそこでクラスメイトと会ってしまったら、変な感じになったりしないのかな、とか思った。
両親には学校ではうまくやれているし、友達も結構いるからと伝えていた。
それが嘘だってばれてしまうんじゃないかと思った。
神社までに続く道にはいろんな屋台が並んでいた。顔の大きさくらいある綿雨とか、オモチャの銃で商品を打ち落とすやつとか、金魚すくいとか。
想像以上に賑やかなところで、町以外の人も多く混ざっているのかもしれないと思うくらいの人混みだった。
「夏休みだからな。帰省している人もいるんだよ」
帰省、という概念があったことをぼくは思い出した。ぼくの頭のなかにはこの町が絶海の孤島のように外とは隔絶された地域のような、そんなイメージがついていることに気づいた。
夏なので空にはまだ明るさが残っている。もう夜と言えるような時間帯ではあるけれど、遠くまで見渡すことができていた。
みんな楽しそうに屋台を眺めたり、家族と会話をしていたりする。いろんな人がこの世界にはいる。当然のことだ。
「直人、何か食べるか?射的とかやってもいいんだぞ」
「別にいいよ」
ご飯は家で食べてきたので、お腹は空いてはいなかったし、遊びたいものも特にはなかった。
お祭り自体が嫌というわけではなかった。この雰囲気は好きで、なにも遊ばなくても心が明るくなったような気がした。
同じ学年の子ともすれ違ったりはしたけれど、とくにぼくへの反応はなかった。
「おまえはどうする?金魚すくいとか懐かしくないか?」
お父さんがお母さんに話しかける。
お母さんは「そうね」と小声で答える。妊娠してからは全体的に元気はない。
子供が出来た、と病院で知ったときもお母さんは冷静だったらしい。激しく喜ぶ訳でもなく、淡々と受け止めていたとお父さんは言っていた。
ぼくが赤ちゃんができたの?と聞いたときもそんな感じだった。
お父さんはあまり深刻には受け止めてはいないようだった。マタニティブルーは誰にでも起こり得るんだ、と言っていた。妊娠すると女性の心は不安定になりやすいものなんだと。
ぼくを生んだときもそうだったの?と聞いたら、お父さんは覚えていないと笑った。
「やっぱり祭りっていうのはいいよな。前にいたところじゃ、こういう祭りはやってなかったからなおさらだよ」
「子供の頃はよく行ったの?」
ぼくがそう聞くと、お父さんはうなずいた。
「実際に参加したこともあるんだ。子供のときに山車に乗って観光客を見下ろしたときの光景はいまも鮮明に残っているな」
お父さんの思い出話はしばらく続いた。とても楽しそうにお父さんは話していて、そのときだけはお母さんの表情も和らいでいた。
歩いている間に辺りはどんどんと暗くなってきて、木と木の間に吊るされた電球が淡い光を放つようになった。
ぼくは屋台に挟まれた道を歩きながら、町の人たちを観察した。浴衣を着ている人がいれば、私服の人もいる。
町の人たちとはあまり交流がないけれど、ぼくにはなぜかこの日のみんなは遠い人のようには感じられなかった。
町の人というよりは、このお祭りを楽しんでいる人という印象だった。きっとそれは帰省している人が含まれていても同じことだったように思う。
このお祭りそのものが町となっている、そんな感じがしたから。
「ん?」
背中に妙な感触を感じて、ぼくは立ち止まった。
首を振り向かせてみると、そこにいたのは狐の仮面を被った誰かだった。
ぼくとそう変わらない背丈で、人差し指をこちらに向けている。その先端が背中に当たっていたらしかった。
「誰?」
そう聞くと、その子は仮面をはずした。その下から現れたのは久瀬さんだった。
「すぐにわたしだとわからないとは、佐伯くんも鈍感ね」
「顔が完全に隠れてたよ。それにもう暗くなってきたし」
「確かに暗いわね。本来であれば子供の外出が許されない時間よね」
そこで久瀬さんはかすかに微笑んだ。
「祭りを利用するとは考えたわね。棺桶少女を探すにはうってつけの時間だもの。友達と遊んでいるといいわけをすれば、親にも叱られない」
「ぼくは純粋にお祭りを楽しみに来たんだけど」
「お祭りのように人が一ヶ所に集まるときは狙い目なのよね。そのぶん住宅街の静けさは増すから。ああいう存在はうるさいところには現れないものでしょ」
「久瀬さんはひとりなの?」
その次の瞬間にはぼくはまずいことを聞いちゃったかな、と反省した。久瀬さんは虐待されているかもしれない、あの話を思い出したから。
「連れがいるわ」
「どこに?」
久瀬さんはぼくの手を取った。
「それじゃあ、行きましょうか」
「お、直人、友達か」
少し先を歩いていたお父さんが戻ってきて、ぼくの肩に手をかける。
「そうか。そうか。ならお父さんたちはあっちに行ってるからな。お祭りが終わる頃に合流することにしよう」
そう言ってお父さんたちは向こうの方へ行った。
「邪魔な大人も消えたみたいね。これでしばらくは調査の時間を取れるわね」
「久瀬さんもお祭りを楽しんだら?ぼくに会うのが目的だった訳じゃないんだよね」
「わたしはお祭りになんて興味がないわ」
「でもそれ」
ぼくは狐の仮面を指差した。
「ああ、これは拾ったのよ。顔を隠すのにちょうどいいでしょ」
「じゃあ、どうしてお祭りに?」
「少し休憩に来たの。暗いところで棺桶少女をずっと探し続けるのも疲れるのよ」
今日も久瀬さんは棺桶少女を探していたらしい。
ぼくがこの町に引っ越してすぐ遭遇した棺桶少女。でも、それ一回だけで、その後には全然会ってはいない。
ぼくはそろそろ諦めるような気持ちになっていたけれど、久瀬さんはそうではないようだった。
「……棺桶少女って本当にいるのかな」
「自分の記憶を信じられないの?」
信じられない。遠い記憶ほど、ぼんやりしている。これは当たり前のことなのかもしれないけれど、ぼくの場合、他の記憶も曖昧になっている部分がある。
棺桶少女とかだけじゃなく、ぼくという歴史そのものが消えているような、そんな気がする。
「あなたがこっちに来る前から棺桶少女は存在しているの。あなただけが会ったというわけじゃないのよ」
「そう、だよね」
「いまから探しに行くべきよね。あなたの疑惑を吹き飛ばすためにも」
そう言って久瀬さんがぼくの手を取ったとき、
「ねえ、佐伯くん」
ぼくを呼ぶ声がした。
声の方を見ると、恵太くんと里英ちゃんがこちらに近づいてくるところだった。
「ちょっといいかな。話を聞いてもらいたいんだけど」
「ぼくに?」
「うん」
何の用事だろう?
恵太くんと里英ちゃんから話しかけてくることなんて数ヵ月前、転校直後のことだった。ぼくは少し緊張した。
「その、最近とか、棺桶少女に会ったことはあるかな?」
「え、どうして?」
意外な質問だな、とぼくは思った。棺桶少女に対しては怖がっていて、その話題を口にするのも嫌そうだったのに。
「会おうと思ったら会えるのかな。佐伯くんは以前、棺桶少女に会ったことがあるんだよね。その後はどうなの?」
「会ったことはないけど、何が聞きたいの?」
「いや、だからさ」
恵太くんは口ごもっている。ぼくや久瀬さんに緊張しているわけではなくて、その内容がただ言いづらいからのようだった。
「もう、恵太くんいいよ。わたしから話すから」
隣の里英ちゃんが少し前に出て言った。
「実は恵太くんのお姉ちゃん、ここ数日、家に帰ってないの」
「家出ってこと?」
「たぶん。でも恵太くんはそう信じてない。棺桶少女に殺されたんじゃないかって思ってるの」
「棺桶少女に?どうして?」
「とくに理由はないの。わたしもそんなことないって言ったんだけど、恵太くんはきっとそうだって主張してるの」
「だってお姉ちゃんがこれまで家出なんてしたことないし」
恵太くんがうつむいて言う。
「親と喧嘩したんでしょ。それから帰ってないんでしょ。それが原因だよ」
「でも、そういうのは前にもあったし、今回はなんか違う気がするんだ」
「恵太くんのお姉ちゃん、もう高校生なんでしょ。きっと他の町にも友達がたくさんいるから、そういうところに泊まってるんだよ」
恵太くんはお姉さんのことが心配で仕方ないようだった。いま高校生なら結構年齢も離れているから、いろいろと面倒を見てくれたのかもしれない。
「全然連絡とかないし」
「親は警察とかには相談してないんでしょ。じゃあ、こっそり親には電話してるんだと思う」
「喧嘩してるのにそんなことしないと思う」
「なら、友達のほうなんだよ。お姉さんにばれないように電話をして、うちで預かってるって伝えたんだと思う」
「もう三日も過ぎてるんだよ。こんなに長い間、外泊したことなんてないのに」
「そもそも棺桶少女に殺されたのなら、探すことなんてできないんだから、難しく考えても仕方がないんだよ」
「そうかもしれないけど」
「どうして棺桶少女のせいだと思ってるの?なんとなく?」
ぼくがそう聞いた。
「お姉ちゃんは以前、棺桶少女に会ったことがあるって言ってたんだ」
「え、本当に?」
「うん。ぼくにだけ教えてくれたんだ。だから今回もそうかもしれないって」
「そんなの嘘に決まってるよ。きっと恵太くんを驚かせて楽しんでいただけだと思う。だって恵太くんのお姉さん、死んでないんでしょ」
里英ちゃんの言うことが正しいようにも思う。たぶん高校生くらいだとこういう噂は軽い感じでできてしまうんだと思う。
「両親には聞いたの?」
「うん。でもなんかあまり深刻には考えてはないようだから」
「里英ちゃんの言うように、親は行き先を知ってるんじゃない?そこまで心配しなくても大丈夫だと思う」
「そうかな。ぼくも頭ではわかってるんだけど、なんだか胸がそわそわするんだ」
「なら、いまから探しに行く?」
久瀬さんが狐の仮面を被って言った。
恵太くんと里英ちゃんの二人は、そこにいるのが久瀬さんだとはわかっている。
でも、はっきりとした拒否反応は示していなかった。声をかけられたことに戸惑いつつも、その提案を真剣に考えている様子が伝わってきた。
恵太くんは一度、里英ちゃんの方を見た後、頷いた。
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