クチナシ〜転バエ外伝〜

ポンニート

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『転バエ外伝〜忍者〜』

「郷を離れて」

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同じ夢を何度も何度も繰り返しみる。まるで何かを急かすかのように何度も何度も。アレはもしかしたら、俺の正体なのか?そう思ってしまったら疑問は尽きない。何故?何で?何が?どうして?考えて疑問が解決する事はない。行動して納得しなければ解決とは呼べない。考えだけで解決するのは諦めである。父なら呆れてそう言うだろう。なら、俺が取る行動は、此処に居座る事ではなく、自分の正体を探す旅に出ること、そう確信した。最後に、父の墓に名も無き花を添えて、クチナシは太陽が沈む西へ目指した。


各地では戦争が続いていた。小国、大国、全国、終わる事の無い権力者の争いは弱者を踏みにじり、国を取れば満足、飽きれば次の国を乗っ取る。全てが性根から腐っていた。人を殺め、陥れ、世界に秩序は無く、混沌としていた。そんな中、クチナシは悠然と歩く。ひたすらに。急ぐ必要は無い。目標はあれど、目的の目星は無いのだから。途中から、厄介者は出てくるが、相手にすらならず、1年近く歩き、クチナシも16歳になろうとしていた。その頃には、流石にも噂は立つもので、忍者の郷を壊滅させた『クチナシ』が森から解放されたのではないか?との事である。死人に口なし。されど痕跡は残る。考え無しに、絡むやつらを殺して歩けば、その道の集団からすれば分かりやすい足跡であった。

「間違いない。クチナシは西の国に向かっている」
「目的は?」
「分からん。でも身長が170以上。体重は70前後。普通だな。ハズレか?」
「いや、身体強化系かもしれん」
「忍術?忍法?そんな技あったか?」
「知らん。専門外だ」
「では、我々も西の国へ向かおう。そこで情報収集と身長170前後と体重70前後の足跡を見つける」
「骨が折れるな」
「いや、存外近い存在かもな」

もう1つの殺し屋集団の読みと勘は当たっていた。彼らの目的はクチナシを見つけて暗殺する事。それは大名の命令であり、自分達の誇りの為でもあった。1組2人で行動する暗殺の専門で、忍者とは違い、様々な多様性を取り入れた殺し屋である。大名の命令は絶対で、1人が死んでも、1人が生きていれば情報を持って帰り、すぐさま違う編成を行い、昼夜問わず、勝てるまで目標に襲いかかる「蛇」と言われる大名お抱えの謎の暗殺集団である。ただ、相手は最強と謳われる忍者である。命が惜しいわけでは無く、どのような者なのか検討もつかない。何故なら誰も見たことがないからだ。姿を隠して相手を殺す暗殺のプロをどのような形で全滅させたのか。それは本人しか知り得ない情報。もしかしたら2人とも生きて情報を持って帰れないのではないか。大名様の役に立たないのではないか。焦燥は否めない。考えが計り知れないのはただただ恐怖の対象でしかないのだ。死神が相手ではどんな人間も勝てっこない。それは大名様も知っているはず。「蛇」は今日もコマに過ぎないのだ。回れるコマか、回れないコマか。その答えがもう少しで出ようとしていた。

それから3日後、クチナシは小さな村にいた。蛇はそれを確認する。クチナシとの距離は近からず、でも、遠からず。家以外に障害物はない。

「身長170前後、体重70前後。村の平均身長は160前後。10は目立つな」
「あぁ、間違いない。裸足で小石を踏んでるのに無表情。裸足なのに ————??」

人は、少なからず殺気を出せる。例えば、誰かに怒られてイライラしてる時、相手が背中を向けてから、腹立つ死ね!なんて思いながら睨むと、対象者が急に振り向いて、気まずくなったりする事がある。それは、相手が近い時にはその殺気が届いていて、相手が離れると殺気の濃度が薄れるのだが、熟練の殺し屋は、一直線に放ち、捉えることが出来る。だが、蛇達は殺気は出していなかった。当たり前だ、情報が足りないからそんなヘマはしない、筈であった。

六徳・・・・・虚空の10倍の時間。離れていた距離は分からないが、一般人であれば、気がつきようの無い距離。一般人であれば・・・・。蛇は、クチナシを知らなすぎた。だが、それでも刹那の10分の1の時間も無い。対応は十分に取れた、、、筈である。しかし、監視していた蛇には癖があった。人は、1分間で20回、1時間で1,200回、1日16時間起きているとしたら約1万9,200回もまばたきをするという。長く監視するため、直前に2回まばたきをする。それが蛇の致命的欠陥であった。2回の瞬きは、クチナシにとって距離を詰める十分な時間であった。

(?思考がまとまらない?無味無臭、無色透明?なんだ?何を感じているんだ?目の前から風景が消えていく、、、感覚が無くなる?)

胴体と離れ、飛んで行く頭が地面に着地する時には絶命していた。

もう1匹の蛇は単純に捉える。

「なるほど。勝てっこない」

そう言う時間はあった。意味の無い事だが。

人が頼る情報は「聞く」と「見る」の、2つが基本的なのだが、そこに「感じる」が加わり、更には「感じ取る」ようになれば一流である。コレは父の教えの基本であった。

「常にさらされている。休む暇なんてないんだ。分かるか?クチナシよ。メシ、お風呂、厠、睡眠、スキを見せる度に俺はお前を殺す。極限の時間は短い。だから脳で考えるな。頭以外の全ての細胞で覚えろ。でなければお前は青年になる前に俺が殺す。」

コレは修行なのだろうか?普通に考えればそうだ。納得できない。1つでもスキがあれば死ぬのだから。だが、クチナシは生きている。それが何を意味するのか、、、

~~~~~~~~

「失敗だな。情報すら持ち帰れないほどか」
「大名様に報告は?」
「恥を晒すことは無い。最初からだが、次こそは」
「分かった。次はもう無いな。4人1組だ」
「あい。分かった」

~~~~~~~~



(いいか。お前の目的は辿り着く事。分からなくていい。知らなくていい。覚えてなくてもいい。だが、私の所まで来るんだ。コレは使命。お前の為に用意した。倒せ。そして辿り着け。でなければこの世界を消す)


・・・・・・・ハッ!!

いつのまにか寝てしまっていた。どうしたと言うのだ、、、1度もそんな事は無かった。無防備にも道の側で寝てしまうとは。忍び失格。最大の不覚にクチナシは呆れていた。夢の中でみた風景に火山がある。それをふと思い出し、歩くのを止め、クチナシは全速力でそこを目指すことにした。走りながら考える。夢の中の火山に見覚えを感じていたが、、、1度も郷から出てない筈なのにどうしてだろうか。すこし、懐かしさすら感じていた。






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